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ツンデレ男と月の光  作者: 原 恵
9/26

華絵 5

ー華絵 5ー


土曜日、光のライブの日。


光は先にライブハウスに入るから、6時に来て欲しいと言われている。


ライブハウスなんて行ったことないから、どんなとこかもわからない。

だけど今日は、光の彼女として招待してもらっているんだ。

いつもは滅多に着ない、オフホワイトのノースリーブのワンピースにベージュのピンヒールのサンダル。

ワンピースの丈が短いような気するけど、他の服はライブハウスに行くっていう感じじゃない。今日はこれで我慢する。

高校生に見えないように、髪型もお化粧も念入りにしてみた。

ピンクのルージュに、肩までのセミロングの髪にゆるいウエーブにしただけで、雰囲気がガラリと変わる。


何度も鏡でチェックして、部屋を出た。

光はどう思うのかな、いいって言ってくれるかな、それが心配だった。



ライブハウスは、超満員だった。テーブル席は前の方だけで、後は立見のお客さんで溢れている。


どうしたらいいのかわからず、キョロキョロしていると、「カエルちゃん。」と声をかけられた。振り返ると、タケルくんが手招きしている。


タケルくんに連れられて、ステージの裏の方に案内された。

ここに来るまでの間に、女の子たちが、キャーキャーと叫び、タケル、と声を掛けてくる。


こんなに人気のあるバンドなんだって、初めて知った。

そのバンドのボーカルの彼女だなんて、この女の子たちには、口が裂けても言えない。

一瞬、光が遠くに行ってしまうような気がした。


タケルくんが、こっちだよ、とドアを開けてくれた。


控え室のような部屋。大きな鏡の前の椅子に、光がいた。

私を見て、びっくりしている。

他のメンバーも、えっ?と声をあげる。


「そんなに、変?」

「カエルちゃん、すごいかわいいよ。」とダイくんが言う。

「お前、俺より先に言うなよ。」と光が怒っている。

「でも、前と全然違うから。」

「カエルは、いつもかわいいんだよ。でも、見違えたよ。」

「お化粧、濃かった?」

「全然。このライブハウスの中では、一番薄いと思うよ。」

「やっぱり、タケルに行かせてよかったよ。俺なら絶対、カエルちゃんを見つけられなかったよ。」とケンくん。

「だろ?俺、女の子を見る目だけは人一倍優れてるからな。」

「タケル、カエルに手、出すなよ。」

「まさか。でも、光と知り合う前に出会いたかったよ。」


光が横に来て、肩を抱く。

ノースリーブのワンピースだから、直接肌に触れる光の手に少しドキドキする。


「ちゃんと見てろよ。」

「うん。」

「いい演奏するから。」

「楽しみにしてる。」

「タケル、もう一回、お願い。」

「いいけど、席に着くまでにカエルちゃんが俺のこと好きになっても文句言うなよ。」

3人から、ばーか、と言われたタケルくんが1番前の席に案内してくれた。


「また、迎えに来るから待ってて。」

「タケルくん、頑張ってね。」

「おう。俺だけ見てて。」


タケルくんが、ビールを持って来てくれ、控え室に帰って行った。



7時。

ライブが始まった。

最初は、美里さんのバンドだ。


体にフィットしたタンクトップに黒の皮のショートパンツ。

モデルのようなスタイルで、長い髪をかきあげながら歌う姿に、同じ女でも見惚れる。

ハスキーな声が激しいリズムと融合している。


光を振った人。

だけど、私は、曲が終わるたびに大きな拍手をしていた。

曲の良し悪しはあまりわからないけど、美里さんに圧倒された。

女王様かもしれないけど、それも許される存在感。

光が好きになったことが、なんとなく理解できた。

この人は、特別な人だ。そんな気がした。


約1時間半のステージが終わった。

会場中が大きな拍手に包まれる。



楽器のセッティングなどが終わり、光たちがステージに出て来た。

会場から拍手とキャーと言う黄色い声。

4人が揃う。

ドラムでリズムを取り、演奏が始まる。


光の声が、会場中に響く。

やっぱりすごい。光の声は聴く人を虜にする。言葉が、ひとつひとつ体の中に染み込んでいく。


激しい曲ではみんなが身体中でリズムを取る。バラードではゆっくり揺れながら音と歌を感じている。


曲の間には、4人がそれぞれ曲のコメントやたわいもない話やジョークなどを織り交ぜ、会場を盛り上げている。



あっと言う間に時間は過ぎ、ラストの曲になった。

光が、話し出す。


「最後は、できたばかりの曲です。この曲は悩んだり苦しんだりして生まれたものではなく、心から溢れる言葉を素直に紡いだ苦労知らずの曲です。だからこそ、いつまでも歌い続けたい、特別な歌です。愛を言葉にできない男が大切な人に贈るラブソング。月の君、聞いてください。」


目を閉じる。

頭で、身体で、心で、光の声を感じる。

光が寄り添ってくるようだ。

だけど、なんだか怖くて、訳がわからない涙が、溢れた。


大きな大きな拍手が鳴り止まない。

もっと、聞いていたい。この会場の人たち全員の願いだ。


光たちがステージに戻って来た。


「ありがとうございます。こんなに大きな拍手でアンコールしてもらえて、メンバーみんなで感動してます。明日から、ここにいる人みんなが幸せになれることを願って、元気でハッピーな曲にしたいと思います。聞いてください、朝のリリック。」


アンコールの曲は、踊り出したくなるようなアップテンポの明るい曲だった。

ウキウキするような気分にさせてくれる、こんな曲も作れることに感心してしまった。

後ろを振り向くと、みんなが笑顔になっている。


メロディーも歌詞も歌も素晴らしいけど、みんなが一生懸命考えてたセトリも最高だと思う。

また、聞きに来たい、そう思えるバンドだった。


光に早く、この気持ちを伝えたくてしょうがなかった。



ライブが終わった後、タケルくんに待ってるように言われたけど、椅子に座って待っているのがもどかしくなって、控え室の方に向かった。


staff onlyの扉の前で、男の人に声を掛けられた。

顔に見覚えがあった。美里さんのバンドのギターの人だ。


「どこに行くの?」

「知り合いが、いて。」

「ダメだよ、ここには入らないよ。」

「じゃ、ここで待ってます。」

「追っかけ?」

「はぁ?」

「光でしょう。」

「まぁ。」

「俺と、行こうよ。」

「いえ、待ってますから。」

「いいじゃん。打ち上げあるから、そこに光も来るし。」


強引に腕を引っ張られた。

声を上げそうになった時、扉が開いて、光が出て来た。


「ジュン、何してんだよ。」


掴まれている腕を見て、光が低い声で言った。


「光の追っかけでしょ。先に打ち上げ会場に連れて行ってあげようと思っただけだよ。」

「俺の彼女だ。」

「えっ?光の?」

「そうだよ。勝手なことやめろよ。」

「ごめん。彼女って知らなかったから。悪かったよ。」


ジュンが扉の中に入って行った。


「カエル、何やってんだよ。」

「早く光に会いたかったから。」

「タケルから待ってろって言われただろ。」

「ごめんなさい。」

「あんな男がうじゃうじゃいるんだから、ここには。」

「気をつける。」

「腕、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。」

「行こ。」


突然の出来事にあまりにびっくりしてしまい、呆然となっていた。

光が来てくれなかったら、どうなっていたか、考えるだけで恐ろしい。


控え室に入ると、3人が揃ってどうだった?と聞いてきた。


すごくよかった。みんなが素敵で、曲も良くて、絶対また聞きたいと思った。本当に、最高のステージだった。


思ったことを精一杯の言葉で伝えると、みんながとても喜んでくれた。


「カエル、俺たちプロになるよ。」と光。

「本当に?」

「うん。ほぼ決まってる。」

「カエルちゃん、俺たち、頑張るからずっと応援してよ。」

「タケル、カエルちゃんは光の彼女何だから言われなくても応援してくれるよ。」

「でも、ケンも応援してもらいたいだろ。」

「そりゃそうだけど。まぁ、俺たちも個人的に応援してくれる彼女見つけろってことだよな。ダイなんて、このライブ前に彼女に振られるなんて最低だよな。」

「おい、人の話にすり替えるな。」

「今日のライブ見たら、惚れ直してくれたかも。なぁ、光。」

「そうだよ。無理矢理でも引っ張ってくればよかったのに。」

「いやいや、その話はやめようって。」

「でも、振られた分パワーが出てたよ。」

「そうそう。今日のダイ、いつもよりパワフルだったよな。」

「ダイくん、振られたの?かわいそう。」

「違うよ。ダイはかわいそうなんかじゃないから。」

「何で?」

「ダイが浮気するからだよ。」とケンくん。

「そうなの?ダイくん、浮気したの?」

「お前ら、いい加減にしろよ。カエルちゃんにバラさなくてもいいだろ。なんでプロの話が浮気の話になるんだよ。」


みんなが大笑いする。


「さあ、もう打ち上げに行く時間だ。用事して、出るぞ。」


ダイくんの言葉で、みんなが帰る用意を始める。


「光、私、どうしたらいい?」

「何言ってんだよ。一緒に行くに決まってんだろ。」

「行ってもいいの?」

「当たり前だろ。」


今でも、光が彼氏だなんて信じられない。

横にいるのは、本当にあのステージで歌っていた光なんだろうか。


でも、光は誰の前でも、私と手を繋いでくれる。

この手の温もりの分だけは、光を信じることができそうだ。



裏口から外に出ると、20人ほどの女の子たちが、キャーと叫びながら光たちに寄って来た。


「ごめん。今から打ち上げだし、他の人の迷惑になっちゃうから、今日は解散してくれるかな。」とケンくんが声をかける。

「私も連れて行って。」「場所どこ?」などという声に対してもケンくんは、

「本当、ごめんね。またライブ見に来てよ。今日は大切な日だから。」ととても丁寧に対応する。


光に、ケンくんってすごいね、すごく優しいんだ、と言うと少しむすっとした顔で、どうせ俺にはできないよ、と言う。

「光、もしかして、すねた?」

「ばか。すねるかよ。」

初めて見る光のすねた顔が可愛くて、ひとりでクスクス笑ってしまった。


「カエルちゃん、ラブラブなのはいいけど、あの女の子たちの顔見てよ。すごい嫉妬してるよ。」

タケルくんに言われて、思わず後ろを振り返った。

「まぁ、どこのバンドでも1番人気のあるのはフロントマンだからね。」


女の子たちが、ずっとこっちを見ていた。

光と繋いでいる手を解こうとしたけど、光が離してくれなかった。


「気にするな。」

「だって。」

「堂々としてればいいんだ。俺の彼女何だから。」



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