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ツンデレ男と月の光  作者: 原 恵
2/26

光 1

ー光 1ー


午前2時まで営業している、レンタルビデオ店のバイトが、2時45分に終わる。


レンタルビデオ屋のバイトは、月曜日と木曜日。3月までここでバイトしていた友達から引き継いだ。

友達は卒業したけど、俺は留年だから後1年間、バイトを続けるつもりだ。


バイトの初日、帰り道にあるラーメン屋に寄った。


「いらっしゃいませ。」


女の子の声。

店内に目をやると、高校くらいの子が働いている。

いいのかよ、高校生をこんな時間まで働かせて。


子供の頃から、ラーメンは味噌チャーシューメンに決まっている。

塩が美味しいと評判な店でも、つけ麺で有名になった店でも、ラーメンは、味噌チャーシューメンだ。


もちろん、初めて入ったこの店でも、味噌チャーシューメンを注文する。


注文する時に、ちらっと見たけど、やっぱり、高校生くらいだ。

店も店だけど、この子もこの子だ。

労働基準法、知らないのかよ。



ラーメンは、予想していた以上に美味かった。

濃厚なスープも麺の太さも俺好みだ。

この味なら、週2日は通えそうだ。



さすがにこの時間に満腹になると、眠気が襲ってくる。椅子から立ち上がるのも億劫になる。

20分だけ、寝よう。

携帯のアラームを3時30分にセットする。もちろん、音は出ないように、バイブだけ。


胸のポケットの中で、携帯が震えている。

これ以上いると余計に帰るのが面倒になるから、重い腰をあげる。



それから、毎週、月曜日と木曜日はラーメンを食べる習慣がついた。


店内には、必ず、あの高校生に見える女の子がいた。



自慢じゃないけど、道でも店でも、周りの女の子たちの視線を結構、集めている。

何気なく見たら、目が合った、なんていうのはしょっ中だ。


でも、この子は、俺の事を一切見ない。それどころか、無理に視線を合わせないようにしているようだ。


まぁ、タイプじゃないのだろうけど、ここまであからさまにされると、変に気になる。


何か気に触るような事した覚えもない。

何なんだあの子。変な奴。


店内に俺以外の客がいないとき、厨房の方から、声が聞こえてきた。


「大学、ちゃんと行けてるの?」

「私、すごい真面目なんですよ。」

「深夜は、暇だけど、体力的には辛いから無理しちゃダメだよ。」

「大丈夫ですよ。まだ若いから。」


大学生なんだ。1年?2年?

しなくてもいい心配してしまったな。


だけど、職場の人や他のお客には、笑顔を見せたり、気さくに話したりする。

それなのに、なんで俺だけにあんな態度なんだろうか。



通い出して1ヶ月位は、食べた後の20分間は真剣に寝ていたけど、この頃は、下を向いているけど、なんとなくあの子が気になって、寝れていなかった。


「今日も頑張ってるね。」

「ありがとうございます。夜遅くまで、大変ですね。」

夜勤の警備員。常連か?仲よさそうだ。


「これ、おいしい?」

「おすすめですよ。私も好きです。」

男の4人組。あんなチャラチャラした奴らが好みなのか?


「バイト、何時まで?送って行ってあげるよ。」

「ありがとうございます。でも、いつ帰れるか、わかんないんです。帰りは自転車なんで大丈夫です。」

ちょっとオタクっぽい奴。嫌なら嫌とはっきり言えよ。


あんなにニコニコと笑顔で、何喋ってんだよ。男はみんな狼なんだぞ。

ちょっとは、危機感持てよ。



その日は、たまたま昼のバイトが朝の10時から8時まで入ってしまった。

そのまま家にも帰らず、夜の9時からレンタルビデオ屋のバイトだった。


ラーメン屋に行った時にはもうグロッキー状態だった。

ラーメンを食べ終わった後、そのまま熟睡してしまった。

ふと、気づいた時には、外が明るくなっていた。

ああ、コーヒー飲みたいな、と思いながらラーメン屋を出て、家へと歩いていたら、後ろから女の子に声をかけられた。


よっぽど急いで追いかけて来たようだ。

俺のファンか?


息が切れて、何を言ってるのか、最初、わからなかった。

「携帯。」

携帯?確か、シャツのポケットに入れてたはずと、ポケットを探ったけどなかった。

差し出された携帯は俺のだった。


「店に忘れてて。」

女の子の顔を見る。ラーメン屋の子だ。

制服着てないから、わからなかった。

私服に着替えてるってことは、バイト終わったんだ。


コーヒーでも飲まない?普通に言うつもりだったのに、コーヒー飲みたいんだけど、と訳のわからない言葉が口から出た。


なんでこう言う言い方しかできないのか。

疲れてるのもあるけど、本来、喋るのが得意ではない。


初対面の人とは、共通の話題がないと、何を話していいのかわからない。

特に、同世代の女性には、話しかけてくれても、ぶっきらぼうな口調になり、怒っているように思われてしまう。

まぁ、それがクールでいいという女の子もたくさんいるけど。


「失礼します。」と戻ろうとするから、とっさに手首を掴んでしまった。


お礼に、コーヒーおごるから、と手首を掴んだ言い訳にしたけど、本当は、この子と、話しがしたかった。



佐野 華絵。大学4年で、21歳と聞いた時には、びっくりした。

華奢な少女のような体型。化粧もほとんどしていない顔は、カエルとあだ名をつけてしまったけど、大きな目であどけなさの残るバンビのようだ。


化粧でバンビのような顔になっている女の子はたくさん知っているけど、みんな、心まで化粧している。

でも、この子は、違う。

体も顔も心も、生まれたてのバンビのようだった。


自分の気持ちが、傾いていくのが、はっきりとわかった。

初めて会ったわけじゃないけど、これってほぼ、一目惚れじゃん。

なぜがかわからないけど、かなり焦った。

こんな気持ち、すぐに伝えることなんて絶対できない。恥ずかしすぎる。


気持ちとは裏腹に、かなりそっけない態度を取ってしまった。

気持ちを悟られないように。


カエルの態度がよそよそしい。

嫌われたかな?俺、本当にダメな男だ。


でも、カエルとは、ラーメン屋に行けば、必ず会える。


今は、それがうれしかった。



木曜日は、2つのバイトを掛け持ちしているから、カエルをバイト終わりまで待つのはきつかった。

でも、月曜日は、レンタルビデオ屋のバイトだけだから、カエルのバイトが終わるのを待つことにした。


声をかけられて驚いていたけど、また、コーヒーに付き合ってくれた。

まぁ、喜んでいるようには見えなかったけど。


名前を呼んで欲しくて教えたけど、恥ずかしいみたいで、なかなか言ってはくれなかった。

けど、光、と言ってくれた時はうれしくてつい頭を撫でてしまった。


まさか、あんなに動揺するとは思わなかった。ただ、頭を撫でただけなのに。

ドギマギしている姿を見て、胸が痛くなった。

そして、もっと、触れたくなった。


でも、これを機に、2人の間が少し近づいたような気がした。


そして、多分、今まで生きてきて一番びっくりしたことがある。


住んでいるところが、隣だったのだ。

この町には、たくさんの学生向けの建物がある。その中で、隣に建っているハイツ、それもほんのわずかな空間を挟んだだけの、まさしく隣。


この偶然に、飛び上がりたいほど、喜んだのは、俺だけだったようだ。

カエルは、かなり戸惑っていた。


そっけない態度で喜びを隠し、ハイツの前で別れた。



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