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囚人教室  作者: 真先
第六章 真相
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真相(六)

『僕は委員長として、この事件に深く関わってきました。聞き取り調査に立ち会い、クラス全員の証言を聞いて、僕はいくつか疑問が浮かんできました――その一つが、これです』


 そう言うと、智也は懐から携帯電話を取り出した。

 すかさず、林田が訊ねる。


「それは?」

『加納瑞樹の携帯電話です』


 パープルカラーに悪趣味なデコレーション、

 先日、竹内遙かから預かったスマートフォンである。


『これは最新機種のスマートフォンです。幼馴染の和久井さんの話によると、加納瑞樹は親から碌に小遣いを貰っていなかったそうです。その一方で、彼女は非常に羽振りが良かった。加納さんと親しかった竹内さんの証言によると、加納さんは非常に気前が良く、遊びに行くときはよく奢って貰ったと言っていました。また放送部の桑原さんの証言では、よさこい踊りの練習用にラジカセを寄付してくれたこともありました。どうしてこのような矛盾した証言が出て来たのか――その答えは、このスマートフォンの中にありました』


 スマートフォンを起動すると、画面にウェブサイトが表示される


『履歴を調べたところ、加納瑞樹は神待ち掲示板にアクセスしていることがわかりました。御存知の方も多いでしょうが、神待ち掲示板とは家出少女を対象に、寝る場所と金銭を与えることを引き換えに肉体を提供する――要するに売春を斡旋する、非合法な掲示板です』

「……つまり、加納瑞樹は援助交際をしていたというわけかね?」


 うめくようにたずねる林田に、智也はうなずいた。


『加納家の近所に住む和久井さんの証言によると、加納さんは頻繁に家出を繰り返していました。加納さんは、寝泊りする場所と遊ぶ金を確保するため、ホテルで売春を行っていたのです』


 衝撃的な事実に、聴衆たちの中からざわめきが巻き起こる。


『家出と売春を繰り返すすさんだ生活を送っていた加納さんに、ある日、転機が訪れます。七月七日――永島和也と森加代子の二人を不純異性交遊の現場を目撃します。まさしく彼女にとって“運命の導き”であったに違いありません。この時から、彼女の計画が動き出したのです』

「計画?」

『教和大付属に推薦入学する計画です。彼女は特別進学クラスに在籍していましたが、成績の方はお世辞にも良いとは言えませんでした。普通に受験したのでは、教和大付属に入学することは不可能です。しかし、学校から推薦を貰うことができれば、進学は可能です』


 そして、智也は高校受験についての説明を始めた。


『推薦入学の第一条件は、受験生の中で最優秀の生徒のみと言うことになっています。永島君と森さんは、二人とも教和大付属が志望校でした。成績優秀な二人がいる限り、推薦入学は不可能です。そこで、加納さんは二人を告発して、学校から追い出します。推薦入学のもう一つの条件は、武蔵野模試で偏差値60点以上の成績を二回取る事です。そこで加納さんは服部さんを脅迫して替え玉受験を行い、成績を上げます。さらに、内申書を上げる為によさこい踊りにも参加します。ラジカセでクラスの皆を買収し、加納さんはセンターの座を獲得しました』


 狡猾な手際に、体育館にいる人々は一様に呆れた表情を浮かべる。


『クラスメイトを罠にかけ、買収し、利用して――あらゆる手段を講じて、加納さんは教和大付属の推薦入学を勝ち取ります。順当に行くかに見えた計画でしたが、彼女にとって想定外の事態が起きました――彼女は妊娠したんです』

「妊娠?」

『貞操観念の無い彼女は、避妊の知識なんて持ち合わせて無かったんでしょう。援助交際を繰り返していれば、妊娠するのも当然です』


 衝撃の事実に、再び会場は騒然となる。

 林田も又、驚きの表情で智也に訊ねる。


「証拠はあるのかね、……その、妊娠していたという証拠が?」

『加納瑞樹はここ最近、全ての体育の授業を休んでいました。生理が無い事を周囲に知られないために、仮病を使って休んでいたんです――ウチのクラスには、女子の生理周期を逐一、記録している変態がいます。体育の授業をサボれば、生理不順が一発でバレてしまいます。だから、全部の体育の授業をサボったんです』


 さらに、智也の供述は続く。


『他にも、妊娠を示す兆候はありました。斉木さんは、加納さんがトイレで吐いている所を目撃しています。恐らく、悪阻だったのでしょう。文化祭では、平松が用意したマフィンを全部食べてしまいました。また、最近になって太って来たという証言もあります。異常な食欲に、急激な肥満――その全ての証言が、彼女が妊娠していることを示しています』

「……成程」


 次々と列挙される根拠に、

 林田は沈黙する。


『念願かなって、合格が決まった矢先に妊娠が発覚。彼女は当然のように、中絶しようとします』


 林田が納得した所で、智也は説明を続けた。


『しかし、そう簡単にはいかない。産婦人科で中絶手術を行えば、妊娠したことが外部に露見してしまう。それに中絶手術には保護者の同意が必要だ。厳格な父親だった大悟社長が、中絶なんて許可するはずがない。ましてや吝嗇家の大悟社長が、中絶費用なんて出すはずがない。残された手段は一つ。自分で中絶するしかない』

「自分で?」

『図書委員の室井さんによると、『家庭の医学』を借りたと証言しています。おそらく中絶する方法を調べていたんでしょう。そして、薬による中絶方法を調べ上げたのです。御存知でしょうが、日本では医師の処方箋なしに中絶薬を購入することはできません。そこで、彼女は海外通販を利用することを思いつきます。帰国子女の白井から英語を学んだ加納さんは、ネットを通じて中絶薬を注文します』


 そこで、区切ると、智也は体育館を見渡した。

 最早、智也の証言に疑問を抱く者はいなかった。

 その場にいる誰もが、壇上の中学生に注目していた。


『問題は受け取り先だ。自宅を受け取り先にすれば、間違いなく父親に知られてしまうでしょう。そこで、加納さんが目に着けたのが、学校の保健室です。保健室には毎月、月初めに大量の薬品が到着します。その中で一つだけ、海外からの荷物を紛れ込ませたとしても誰も疑問は持たないでしょう。おそらく、先生に内緒で受け取り先を保健室に指定したのでしょう――そして、その受取日というのが、あの事件が起きた日だったという訳です』


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