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囚人教室  作者: 真先
第四章 不信
22/52

不信(二)


【出席番号19番: 海老原友恵の証言】


「……って、なんであたしからなんですかぁっ!!」


 呼び出された海老原友恵は、悲鳴を上げた。

 一番手に選ばれたのが不服だったらしく、涙目で抗議する。


「これって、あたしが一番怪しいってことなんですか? 第一発見者だから? いい加減にしてくださいよ、もう! あっちこっちで、犯人扱いされて本当に迷惑しているんですから!!」

「いや、そういうわけではないんだ。とりあえず、落ち着いて話を聞いてくれないか」


 元合唱部部長の大音声に、林田は眉をしかめる。


「特に順番に意味は無いんだ。最終的に全員に話を聞くことになるんだから、とりあえず事件の詳細を、第一発見者である君の意見を聞こうと……」

「今更話す事なんてありませんよ」


 海老原は口を尖らせ、拗ねたように顔を背けた。


「私の知っている事は、すべて警察に話しました。現場の状況とか、なんであの場所に行ったのかとか……何度も何度も同じ事ばかり。もう、うんざりです!」

「確かに君にとっては迷惑な話かもしれないが、聞き取り調査を始めるにあたって、我々の方でもいくつか確認しておきたい事があるんだ。面倒だとは思うが、我慢して答えて欲しい――まず、遺体発見時の状況について訊かせてもらいたい」


 反論の余地を与えないように、林田は質問を始めた。


「遺体発見時の状況とか、どうだったのかな?」

「どうもこうも。そんなの、何度も言ったじゃないですか。本校舎と実習棟の間に倒れていたんです」

「しかし校長の話によると、校舎裏は立ち入り禁止になっていたそうじゃないか。君は何故、事件現場に居たのかね?」

「近道なんですよ。校舎裏を通ると、体育館から校門まで一直線ですから。立ち入り禁止なのは知っていましたけど、塾に遅れそうだったんで、それで……」

「発見した時刻は?」

「七時、ちょっと前ぐらいです」

「その時刻だと、日没は過ぎている。校舎裏には街灯なども無い。周囲は暗くてよく見えなかったはずのに、なぜ遺体に気が付いたのかね?」

「そりゃあ、本校舎と実習棟の間のど真ん中に倒れていましたから。それに、辺りは暗くありませんでしたよ?」

「何故?」

「本校舎側の一階廊下に明かりがついていましたから。窓から差し込む灯りで、死体の周囲は明るかったです」

「そこで、死体を見つけた君は悲鳴を上げた、と?」

「はい、そうです」

「何故君は直ぐに死体だと気が付いたのかね?」

「そりゃあ、あれだけ血が流れていれば、誰だって死んでいると思いますよ。死体の周りには血だまりが出来て真っ赤でしたから。……何なんですか、一体?」


 矢継ぎ早に質問を浴びせかける林田弁護士に、海老原は不信を抱く。


「さっきから揚げ足とるような事ばかり言って、まるっきり犯人扱いじゃないですか」

「いや、決して犯人扱いしているわけではないんだ。ただ『第一発見者を疑え』というのは犯罪捜査の鉄則で……」

「やっぱり、犯人扱いなんじゃないですか!? やだもーっ!」


【出席番号24番: 近藤愛華の証言】


 近藤愛華は三年A組の保健委員を務めている。

 海老原友恵が遺体の第一発見者ならば、愛華は生前の加納瑞樹を見た最後の目撃者である。


「保健室で加納さんを見かけたそうだね」

「はい」

「その時の状況を、詳しく訊かせてもらいたいんだ。まず、なぜ貴方は保健室に居たのかな?」

「保健委員の仕事があったからです」


 海老原とは違い、近藤は落ち着いた様子であった。

 林田弁護士の質問にも、しっかりした受け答えもしている。


「毎月、保健室には月初めになると業者から大量に薬品が届くんです。その薬品の仕分け作業をするのが、保健委員の仕事なんです。でも、よさこい踊りの練習が急に入ってしまって、作業に出られなくなってしまったので、そのことを佐久間先生に伝える為に保健室に向かいました。それと、ついでに加納さんの様子を見るために。彼女は体調不良を理由に、朝からずっと保健室にいたので」

「保健室に行ったのは、何時ごろかな?」

HRホームルームが終ってすぐですから、四時ごろだと思います」

「その時、加納さんはどうしていたのかな?」

「ベッドで寝ていました」

「生きていたかね?」

「勿論ですよ。当り前じゃないですか」


 笑いながら、近藤は答える。


「多分、薬が効いていたんだと思います。ベッドの横にあるテーブルに、薬瓶が置いてありましたから。ぐっすりと眠っていたようですが、ちゃんと息はしていました」

「保健室には、他に誰かいたのかな?」

「誰もいませんでした」

「誰も? 養護教諭の佐久間先生もいなかったのかね?」

「はい。養護教諭の仕事は忙しいですから。怪我をした生徒の治療をするため、よく保健室を留守にするんです。保健室の隅には薬品類がつまった段ボール箱が積まれていました。仕分け作業をする暇も無い程に忙しかったんでしょう。段ボール箱はカートに乗ったまま、開封されてもいませんでした。先生はいないし、加納さんは寝ているし、しょうがないので置手紙をして出て行きました」

「置手紙には、何と書いたのかね?」

「佐久間先生に、仕分け作業を手伝うことができない事を書いて、机の上に置きました。それと加納さんに委員長に頼まれた伝言を書きました。これからよさこい祭りの練習がある事、場所は実習棟の屋上だということを書いたメモを、薬瓶の横に置いておいたんです。その後、私は保健室を出て行きました」

「出て行ったって、病人を一人きりにしておいたのかね?」

「だってしょうがないじゃないですか、よさこい踊りの訓練があったので急いでいたんですから。それに、病人と言っても、仮病ですから」


 責めるような口調の林田に、

 慌てて近藤は釈明する。


「彼女はいつも体調不良を理由に授業をサボっていたんです。以前は体育の授業だけでしたが、推薦入学が決まってからは一日中保健室で寝ているんです。いわゆる保健室登校ってやつです。佐久間先生も仮病だと解っていましたから、彼女の事はいつもほったらかしだったんです」


【出席番号4番: 江口恭平の証言】


「仮病っすよ、仮病」


 そう言ったのは、エロス恭平こと江口恭平であった。

 クラス一の女好きを自任する彼は、こと女の話には目が無い。

 加納瑞樹の事を訊ねると、自分から積極的に話し出した。


「加納はいつも、二日目を口実に体育の授業をサボるんすよ。事件当日も、よさこい踊りの練習をサボるために仮病を使ったんですよ」

「しかし、それが仮病かどうかなんて確かめようがないだろう? 本当に、生理だったのかもしれないじゃないか?」

「わかりますよ」


自身たっぷりにうなずくと、江口はスマートフォンを取り出した。 


「俺の調べによると、加納瑞樹の次の生理は来週の水曜日となっています。ここの所、生理周期に乱れがあるようですが、予定から半月以上も早まるなんて事はあり得ないでしょう。仮病ですよ、仮病。賭けてもいい」

「ちょっと待ちたまえ。……何かね、それは」

「生理周期予測アプリです。加納の生理周期のデータが入っています」

「……うわ」

「いや、引かないでくださいよ」


 得意げにスマートフォンを掲げて見せる江口に、林田弁護士はドン引きした。


「一体どうやって調べたのかね。その、生理周期なんて?」

「それは、地道な調査ですよ。体育の授業を休んだ日をチェックしたりとか、トイレに行くとき後をつけたりとか、保健室に出入りしている所を張りこんだりとか、あと、使用済みナプキンを確認するためにゴミ箱漁ったりとか……」

「……うわぁぁぁぁ」

「いや、だから引かないでくださいよ」


 再びドン引きする林田弁護士。

 完全に性犯罪者予備軍を見るような目つきで、林田は言った。


「一応、弁護士として忠告しておくが、君のやっている事は完全にストーカー行為だからな。完全に違法行為だからな。訴えられたら捕まるからな」

「失礼な! ストーカーだなんて!」

「違うというのかね?」

「俺は違いますよ! だって、ストーカーというのは、一人の女性に偏執的な愛情を向ける奴の事を言うんでしょう? 俺は、全ての女性に、等しく愛情を注いでいますから――その証拠に、ホラ! このスマホには、クラスの女子、全員分のデータが記録されています」

「……うわぁぁ。もう、なんだか、……うわぁぁぁぁぁっ!」


 三度ドン引きする林田弁護士は、とうとう頭を抱える。


「これもう、手におえないぞ。警察か、その前に医師のカウンセリングを……」

「ちょっと待ってください、林田さん」


 然るべき機関に通報しようとする林田を、あわてて智也が止めに入る。


「そこまで深刻に考えないでください。基本的に害のない良質な変態ですから。いわゆる思春期特有の、有り余った性衝動の発露ってやつでして……」

「そうそう。俺たち思春期だから」

「思春期を振りかざせば、何をやっても許されると思ったら大間違いだぞ。青少年!」


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