本編-0076 ビルド考察~人間&魔法戦士
次は兄妹についてだ、ついでにやっちまえ。
そうだな。
とりあえず兄妹が我が迷宮の所属となってから、彼ら……というよりは主に妹のステータスを【情報閲覧】するのが日課になっていたわけだが。
まぁ、とりあえずこれを見てくれ。
それで俺の言いたいこともわかるというものよ。
【基本情報】
名称:ミシェール=リュグルソゥム
種族:人間
年齢:17歳
性別:女性
職業:魔法戦士
身分:迷宮の眷属 ← New!!!
位階:20〈技能点:残り14点〉
HP:315/315
MP:242/242
【称号】
『禁断の恋人』『復讐誓う者』『憎悪引き継ぐ者』『一族を愛する者』
能力は、まぁこんなもんなんだろうなというところ。
MPにはどうも「補正」がかかっているようだが、スキルテーブルに【MP強化】系が存在していたので、それの影響のようである。
あと【称号】だが、なんとまぁ、現時点でのそのインパクトはソルファイドを上回っている。
それだけの「人生経験」を経てきたのか、あるいは――「世界における存在位置」的なものが大きいということだろうが……。
『禁断の恋人』による固有技能が、ちょっとねぇ。
で。
【状態】
・呪詛(疾時)――残り寿命:642日
・懐妊(父ルク)――出産まで:283日
はい。
配下になって一週間経たずに仕込んでましたよ、こいつら。
……どうしよっかなぁ、伝えようかなぁ、やめようかなぁ、と内心ニヤニヤしながら二人の睦まじい様子を観察していたのがこの数日間のこと。
まぁ、多忙につき後回しにしていたってのもあるが。兄妹にもほら、因子絞りとか拷問とか情勢説明とか拷問とか、いろいろやってもらう必要があり、意図的に彼らの「時間」を浪費させたわけではない。
そして、身体の変化だとか懐妊状態になったことに気づける、便利な魔法があるわけでもないようだったので(【生命感知】はサーモグラフィーなだけだし)モーズテスの『桃割り』を以って【人界】のお勉強は一段落。
それと「止まり木」と同じく『呪詛』に関連した"因子"は一切手に入らなかった。
二人があくまで呪詛を「かけられた」側であることからダメなだけかもしれないし、あるいは……「世界の法則」的にまた制限がかかっているのかもしれないが、何でもそれのせいに求めるのはなぁ。
まぁ、迷宮領主制が【魔界】のシステムであり、『呪詛』のかけられた二人は【人界】のシステム下にあろう存在。元は同じ【諸神】であったというし、我が【魔界】の【黒き神】様も……な。
この後は、【揺籃臓】へ入ってもらうことになる。彼らの「一族再興」という願いを、【エイリアン使い】たるこの俺が主として保証するには、現状それしか手立てがない。
魔界ゴブリンと同列に扱うことに、むしろ俺の方がわずかばかりの申し訳無さを感じてしまうところだが、残り寿命の半分を悠長に妊婦として過ごさせるのは、俺にとっても二人にとっても、それこそ時間の浪費だろう……。
――若者が死ぬのは忍びないことである。
だが、「死」というものは面倒くさいもので、本人達が向き合い時に受け入れ覚悟ができているものでありながら、周囲の者達が受け入れられず、本人達以上に取り乱すことが往々にしてあるものだ。
――面倒くさいことを思い出してしまったな。
で、今の俺はどうかな?
心は平静、気分は快調。
『きゅ、創造主様、愉悦ってなぁに?』
『深淵を覗くつもりか、それもよかろうぷるきゅぴどもよ……』
ごほん。
主として、手立てがあるなら彼らを延命させたいところではあるが、できないからといってそれに全力を注ぐような優先順位を間違えることはしない。
二人に保証してやったのだ、「一族再興」をな。
そして、命短いからこそ、二人は早々にも新しい命を育んだのだ。
んむ。
ついでで兄のも載せとくか。
【基本情報】
名称:ルク=リュグルソゥム
種族:人間
年齢:18歳
性別:男性
職業:魔法戦士
身分:迷宮の眷属 ← New!!!
位階:23〈技能点:残り21点〉
HP:338/338
MP:259/259
【称号】
『復讐誓う者』『苦労人』
【状態】
・呪詛(疾時)――残り寿命:502日
……うん。
まぁ、頑張れ。このままでは【称号】『苦労人』が称号進化してしまう気がするが、俺は君を心から応援しているぞ!
さて。
それじゃ、【魔界】の【魔人】と対を成すであろう【人界】の【人間】のスキルテーブルがどんなものなのか、ちょっと見てみましょうか。
二人分を載せるのもあれなので、空のスキルテーブルだけちょっと見てみるか。
ふーむ。
元は同じ人間だったとはいえ、【魔人】と【オゼニク人】は随分と違う。
"魔人が【異形】とか【魔眼】とか、どっちかというと「肉体」の強化で直接的な戦闘力を獲得するのに対し、「オゼニク人」は"運命"というちょっとあやふやだが、当たった時の効果が高そうな種族技能が中心的であるようだ。
あと、面白いところでは【利己心】【利他心】系統の派生である各種の【効率強化】系技能だろうか。種族としての素の能力は低い反面、練り上げ鍛え上げる上での伸び代は相当なものなのかもしれない。
後気になるのは、ソルファイドが【竜人~火竜統】となっていたのと同じ感じで、【人間~オゼニク人】という風に、他にも様々な人種がいることが予測される。
後は【荒野】への環境適応能力みたいな技能があるな――500年前の大戦で英雄王に率いられ、生き残った人々の子孫であることが、ミューゼの『浄化譚』などからも間接的に窺えるのは、それはそれで歴史的であり感慨的ではあるな。
んで。
【守護神】か。
まぁ、ようするに【人界】を生み出した【諸神】のこととしか思えないだが、ちょうど【魔界】の眷属神達が【後援神】として、魔人族に加護を与えることがあるのと同じってわけだ。
――かつては【全き黒と静寂の神】と彼の一派も、同じ【諸神】の一員であったというらしいがな。【守護神】達は、このうち【亜々白々たる輝きの御子】という主神に付き従う者達らしいが……現状、兄妹に唾を付けている者は無し、と。
観察対象としては相当面白い運命を巡っているとも思うのだが、そんなもんなのだろうか。いや、だとするとミシェールの【称号】がこんなに多いことの理由がわからなくなる……んーむ。
それと細かいところだが、微妙に【後援神】のと技能名が異なる箇所があるのが、ちと気になるな。具体的には【後援神の歓心】vs【守護神の眼差し】と、【後援神の分霊】vs【守護神の依代】だが――諸神達と黒き神の後援神達の、世界に対する干渉法の違いっぽい感じがするな……。
まぁ、さすがは二つの世界のそれぞれを代表する知的種族といったところか。
存在自体が【人界】と【魔界】の相容れなさを表現しているんじゃないかとさえ思えるが――。
『神の似姿』。
それは単語だけ、迷宮核さんの知識から拾うことができた概念だ。
【人界】と【魔界】が、英雄王アイケルと【魔王】の軍勢との戦いより遥かな昔、神話とさえ言える時代に勃発したとされる、神々の争いによって分かたれたことと大きく関係している、そんなことを伺わせる言葉の組み合わせ、と。
かつて世界が分かたれる前は、【魔人】もまた【人間】だったのだ、と。
今後、ル・ベリが【嘲笑と調教の女王オフィリーゼ】に見初められているように、【人界】で"神の使徒"的な連中と出会うこともあるかもしれない。少なくとも、英雄王アイケルやその息子娘達、あと『長女国』の王家の祖となったブロイシュライト家は、ほぼそれで確定だろうし。
今世では……やっぱり宗教国家である『末子国』に多かったりするんだろうかいな。要注意ではある。そうした連中に俺が遭遇した時に、"神"レベルでどのような反応が起きるのか、起きないのか。
干渉手段と干渉スタンス的には、直接相対することになる可能性は低いとは思うが、さてはて。
ところて「アイケルの子供達」についてだが、悲愴と生命への慈愛に溢れたミューゼ『浄化譚』では「長女」と「末子」はとても仲睦まじかったが――現在の【輝水晶王国】と【聖墳墓守護領】は非常に険悪であるという。
建国の姉妹が、もし今の情勢を見ていたらどう思うかというところだが、"天災"を防ぐために属性バランスを取る必要のある『長女国』にとっては、【晶脈】を管理する上では、活性化していようが不活性化していようが、迷宮は良かれ悪しかれ重要な要素である。それを一方的に「査察」し、頼まれもしないのに勝手に「封印」してしまう権限のある『末子国』は、非常に煙たい存在となっているとのこと――それに加えて、腐敗が進んでいる現在、どちらかというと各国に対する"タカリ"手段に堕している嫌いがあるらしい、とルクが忌々しげに吐いていた。
リュグルソゥム家は親末子国ではあるが、盲目的に追従しているわけでもなく、一国家の大貴族としてその恥部暗部を冷静に見つめてはいたようだな。
さて、話は逸れたが次は【職業技能】の方を見てみるかね。
【魔法戦士】では、各種の魔法それ自体を強化する手段は少ないようである。
一応MPや魔力を強化するパッシブスキルはあるようだが、効果は控えめ――つまり純粋な魔法アタッカーとしてよりは、やはり如何に「肉弾戦闘もしながら」魔法を織り交ぜていくか、に焦点を当てていると言えるように思われる。
それを象徴しているのが【魔人】の種族技能にも存在していた【魔闘術】系統であり、格闘術的なものというよりは汎用的に様々な武器を使用した戦闘にも多少のボーナスが乗ることが、派生技能の説明などから分かった。
これは……器用貧乏、とは思わないな。
なんでもできるということは、その分様々な事態へ対応できるということなんだよ……あぁ、もちろんそれを「使いこなせる」だけの判断力があることが大前提だろうがな。純粋な『魔法使い』や『戦士』と比べるとそれぞれの分野では劣るだろうが――この点、リュグルソゥム家には「止まり木」があるからな。
「力が足りなければ知恵を駆使すれば良く、知恵が足りなければ時間をかければ良い」というのは、ルク曰く【火】と【氷】だったか【水】だったかに長けていたという過去の偉大な魔法使いの言葉らしい。
少なくとも戦闘という局面において、リュグルソゥムの兄妹は事前に十分な"時間"をかけて綿密な打ち合わせを行い、己が持つ様々な手数を組み合わせることができるのである。
それを"詰み手"と呼んでいるようだが、実にその通りだろう。行動により予期される反応をあらかじめ片っ端から想定し、戦闘の流れがどう転ぶかの操作を試み、予測し、捉え、先の先の先への伏線を張りながら、最後の最後で"詰み"とする。
まさに、二人に対する追っ手達や俺のエイリアン達は、それによって手こずらされ、それが兄妹の生き足掻きに繋がった。で、仮に最適解を出せずとも、しっかり「傾向と対策」を行うことで、少なくとも"ベター"な選択を取り続けることができれば、敵を優位には立たせないことができるのである。
これが「思考時間」という点で圧倒的なアドバンテージを持つリュグルソゥム家の力の源だとするならば――単に魔法をぶっ放すのではなくて、そこに物理的な戦闘術という選択肢も組み合わせた【魔法戦士】は、非常に相性が良いというわけだ。
事実、聞けばリュグルソゥム家のほとんどの構成員は【魔法戦士】だったという。
さて……嫌な予感しかしないが、ついでに二人の『称号』からの固有技能も見ておこうか。
<ルク>
<ミシェール>
んむ。
あまり深く突っ込まず、見なかったことにしてやる優しさが必要だな、うん。
そんで、ルクとミシェールのビルド方針。
技能だけ見れば同じに見えるんだが、実際には魔法適正、習得魔法、習得武技、習得呪術なんかとの組み合わせも考える必要があるんだよね。
でまぁ、「止まり木」と『魔法戦士』の相性を最大限に生かしてやるならば――【戦闘詠唱術】の系統と【MP強化:弱】を中心に振ってやるのがベターかな。
継戦能力を増してやる方向で、が良いかね。
<ルク>
<ミシェール>
まぁ、こんなものか。
【種族技能】と【職業技能】の両方でMP強化があったわけだが、効果は累積するようであり、ちょっとお得である。
多分、ソルファイドの【牙の守護戦士】然り、俺のサブ職業の選択肢にあった【火刑槍戦士】然り、【魔法戦士】にもまたより上位の職業がある可能性は高いだろう。そちらに期待して点を残すのも手ではあるが、寿命という制約がある以上は、目の前の戦力強化を優先していくべきだろうかな。
最高速度がどれだけ素晴らしくとも、加速力が無ければ振り落とされてあっさり死んでしまう、そんな世界であり時代なのだから。それは【早熟にして晩成】であったはずのリュグルソゥム家がどうなったかを見れば、わかることだろうよ。
ん? 固有技能? あぁ……。
ル・ベリといい、ルクといい、ミシェールといい、人がせっかく悩んで点振り先を決めてやったというのに、どうしてだかそのタイミングで技能点を変な固有技能に振ってしまうんだい……まったく。
***
ところで。
ルクとまだ軽~くしか話をしていないのだが……。
どうやら【人界】でも「技能点」とか位階とか、職業といった概念が明確に認識されてはいないようなんだよね。【魔界】でもル・ベリは当然のごとくそれを知らなかったし、ソルファイドはまぁ――脳筋だし。
で、案の定「人間」であるルクとミシェールもそうである、と。
たまに、話していて混ざりそうになったのだが、彼らが言う【魔法適性】やらは、別に俺が「スキル」として理解しているものと同じ概念として喋っているわけではなくて、経験的に知られた分類や、考え方を、単に自分達の常識的な考え方として語っているにすぎないのだ。
で、だ。
俺がルクに、少なくとも俺が知るところの、俺が見れるところの、この世界の根底の仕組みだとかシステムやルールに属する話をしたら――どうなると思う?
――変に「考察」させて寿命縮めさせても笑えないだろうな、多分。
例えばだが、もし仮に俺が「前いた世界」で、実は人間には"スキル"とか"職業"とか"経験点"だなんてシステムが存在していて、それが世界権力的存在によって隠されていたのである……みたいな超展開があったとして、だ。
もしもそれを世間に公表したら、何が起きると思う?
とりあえず、デザインドベイビーよりももっと性質の悪い倫理問題等が噴出するだろうよ。
時間をかけて思考することができる兄妹は、そこに辿り着いてしまう可能性があるだろうし、場合によってはさらにその先の想像に至ってしまうことも考えうる――どうにも、なまじ時間をかけて「考える」ことができる分、斜めの方向に"深読み"してしまう危うさがあるからな。
それは「止まり木」自体の問題というよりは、多少なりとも二人が歪んでいて、それを止めるべき"家族"を欠いてしまったからなのかもしれないが。
詮無きことではある。
と、どうやらルクとミシェールが、短くて長い議論を終えたようであった。
多少青ざめた顔でミシェールが、そして苦虫を噛み潰したような顔でルクが額に手を当てていた。
どうしたどうした。




