本編-0073 『母船』への試行錯誤②
【盟約暦519年・鳴き鹿の月(2月)・第2の日】
さて、さて、さて、さて。
『さてが多いきゅぴぃ』
黙れ、お前もきゅぴきゅぴしているだろうが、俺だってさてさてして何が悪い!
……いかんいかん。
気を取り直して、俺は『母船建造場』を改めて訪れた。
【魔法因子】を手に入れたことを受けて、いくつか試したいことがあった。
そのための準備として数日間かけて――その"試験"結果を確認する段取りだ。
ル・ベリとソルファイドを従え、ルクとミシェールは、うん、いろんな意味で"お愉しみ"中だ。『拷問室』から悲鳴と嬌声が聞こえてくるのがエイリアンネットワークで確認できるんだが……ちょっと、ルク青年流されすぎですねぇ。
ごほん。
今度こそ気を取り直そう。
◆船体部
⇒ 改良:【触肉ブロック】+『葉緑』亜種化
因子枠が既に2つ埋まってしまっているため【触肢花】の方はダメだが――それらの土台となる【肉塊花】の方は、因子を一つ突っ込むことができるため【葉緑】因子で亜種化させた。
ブロック単位で内臓機能を融合させたり役割分担で効率化が進んだ結果、肉塊花自身の維持コストが多少なりとも下がることによって、全体では馬鹿にできない削減効果である。単純に維持魔素・命素が10減っただけでも、『母船』全体では万単位のコストカットになるわけだからな。
「曇りの日はどうするのだ? 主殿。所詮は陽の光が必要なのではないか?」
「トカゲ頭め、蓄えられた魔石と命石で補えば良いだろうが」
「それはそうだが、今のままでは夜の活動が制限される。嵐の時期も、だ。俺がかつて住んでいたのは、火山が噴火して灰が雲に混じり、陽の光が届かぬ季節もあった荒野だ――そういう場所へ、逆に行きづらくなるのは、主殿の大望にとって良いことか?」
「むぅ……! トカゲ頭の分際で、意外に考えているな? おのれ、そんなにボアファントの糞掃除が嫌なようだな、貴様」
ふむ。二人の"競争"はともかく――ソルファイドの指摘は重要ではある。
ソーラーパネルに頼りすぎるってことは、それだけ気象条件や大自然の変化に対する耐性が弱くなるわけで、可能な限り安定を目指すべきではある。
【変換花】を過剰に設置しておいて、多少の間「曇り」「夜」であっても耐えられる魔石・命石のストックを確保しておくことは有効ではあるが、それだって根本的な解決じゃあないからな。フローがゼロのままでは、ストックはいつか尽きる。
……だが、根治とはいかないまでも、新たなエイリアンでその辺り期待できる奴がいるじゃあないか。
"陽の光"に関連した特性を持ったエイリアンが、な。
◆動力炉
⇒ 追加:【蓄光フクロウ】
最初は【光属性砲撃花】の光魔法を試してみたのだ。
だが、それは植物が育つのに必要な"陽光"とは別物であるようで、【変換花】達を夜でも稼働させるには至らず。
しかし、人界だろうが魔界だろうが、とにかく"太陽光"自体を「蓄える」性質を持った蓄光フクロウ達であれば話は変わってくる。
昼間は【変換花】達と一緒に日光浴させておいて結晶体に十分に"太陽光"を蓄えさせておき、夜になればそれを【光魔法】として【変換花】達に照射させる。
これにより、昼間ほどの効率ではないにせよ……【変換花】が夜でも魔素と命素を生産し、それを吸収して【結晶花】達が魔石と命石を生産したのである!
『でも、フクロウさん達の維持コストが高すぎて、赤字さんだきゅぴよ?』
『今は、な。だが、そのための"亜種化"だろう? 最適な組み合わせが見つかれば、そこもひっくり返る可能性が高いさ。それに――』
蓄光フクロウはファンガル種では、ない。
"飛翔系"のエイリアンである。
これが重要だ。
つまり――昼間の"日光浴"は、別に『母船』から離していても良いのである。
部隊単位でまとまって雲の上まで飛行させて「蓄光」させる、という運用ならば、もはや天気を気にする必要は限りなくゼロに近づくではないか。
さすがに嵐の雷雲だとかを越えさせるには、工夫が必要になるだろうが。
というわけで、頑張って計算しておいてくれウーヌス君や。
『ぎゅびいいいいい、仕事がふえたよおおお』
『ウーヌスさま、ぼくたちが手伝うよ』
『きゅぴぴぴぴ』
おう、中間管理職としての意地を見せてくれたまえ。
◆揚力発生機構&推力発生機構
⇒ 追加:【光属性砲撃花】
【重力】因子でも手に入らなければダメなんじゃないか、と思っていた"浮遊"能力を、思わぬ形で実現することができてしまった。
まぁ、この点だけは――あの【転霊童子】のおかげ、と言ってやっても良かろう。
ほれ、思い出してくれたまえ、あいつが一体【光】をどんな風に使っていたか。
「あぁ、あれか……確かに、あれは並の魔法使いの体力では無理だろうな、主殿」
狂気! 空飛ぶ人間兵器型殺人レーザー乱舞独楽!
とかいうビックリ人間ショーにでも出られるような、故グストルフ君の"曲芸"であったわけだが――あの使用法の本質は、収束させた【光】魔法が、面白いことに一定の推力を生み出すことを利用したものである。
兄妹曰く、基本的に【人界】では【光】は回復効果か、さもなくば死霊系魔物のような特定の存在に対する特攻のための魔法と認識されていて、推力を生み出すなんていう性質はあまり知られていなかったらしい。
そこで、俺は【風属性砲撃花】と一緒に【光属性砲撃花】を実験用の軽量化した【触肉ブロック】の下部に備え付け、そこから地面に向けて暴風と収束光を放つようにしてやって――。
「おー、ようやく"飛んだ"なぁ!」
最新サンプルの一つ。
5本の触手を伸ばして微妙なバランスを取りながら、下部の二属性の砲撃花によって生み出された推力を鶴翼花で受け止めながら、比較的安定的に宙に浮かぶ【触肉ブロック】の勇姿があった。
ちょうどチーターが尻尾を揺らせることで走る時のバランスを取るが如く、植え付けた【触肢花】と【鶴翼花】達の角度を、長さを、向きを微妙に変えながら、暴風と収束光の上で吹っ飛ばずに「浮遊」することに成功しているのだった。
……そして、ただ"飛ばす"ためだけに、こんな複雑な機構を組み合わせておきながらも、触肉ブロックを構成するファンガル同士が絶妙に連携できている秘密は。
『きゅぴぴぴぴっ、ぴぴぴぴ? ぴっぴっぴっぴー!』
「なんだ、また脳みそか? 少しうるさいぞ、御方様がお慶びあそばされてるのだ、黙れ黙れ」
『きゅぴ! 僕じゃないよ!』
その通り。
この実験用のサンプルには――ブロック専用の【副脳蟲】を埋め込んでいるのだ。
……軽く数十体分ものエイリアンネットワークを維持できる"演算能力"を、贅沢にもこの【触肉ブロック】1つのみに集中させることで、暴風と収束光に上手く乗って浮遊するという芸当の制御を安定させることができているのである。
まぁ、欠点として凄まじく五月蝿いわけだがな。
まだまだコストが厳しいから効率化が必要ではあるが――もしこれを数千個も積み重ねた『母船』にしようと思ったら、冗談じゃなく「エイリアンネットワーク」が機能不全を起こすかもしれない。
なので、早急に「きゅぴぴぴ」音をフィルターする機能を搭載するようウーヌス達には指示を出したところだ。
『きゅぴ! 僕までフィルターされたら、チーフの僕の声が届かないきゅぴ! だから、機能さんの開発さんに時間がかかるから! 待っててね、創造主様!』
……そうですかい、
まぁ、任せておくか。
ちなみにこの触肉ブロック専属の副脳蟲達だが――予想した通り、ドゥオとトレース以上に没個性化が進んでいるとも言える。というか、この俺に対しても「きゅぴ」以外話せないし。
まぁ、やはりこれが本来の副脳蟲の在り方なのかもしれないな。
……正直、これ以上面倒な性格の小学生レベル脳みそが増えたら発狂するところだったから、良かったっちゃ良かったんだがな。
――話を戻そうか。
最終的に似たような現象は起こせても、「ただ飛ぶ」ためだけに、ここまで複雑なシステムを組んでいるのは【魔界】広しと言えどもさすがに俺だけだろうよ。
【エイリアン使い】の本質がどういうところにあるのか、俺の理解も深化していっているわけだ。
「お慶び申し上げます、御方様。ここまで、なかなか苦労しましたな」
「なぁに、わずか一週間でここまで改善できれば上出来だ」
ふふ、声が興奮で震えているのを隠せていないぞ、ル・ベリよ。
分かっているとも、覚えているとも。
――お前の望みの一つが、半ゴブリンであった時からの野望の原動力に、「船」を作って大陸へ渡るのだということがあるのだ、とな。
その意味では、俺以上に彼は心待ちにしているのだろうと言えるわけだ。
◆防衛兵装
⇒ 追加:【触肉ブロック】+『各魔法属性』亜種化
⇒ 追加:【触肉ブロック】+『硬殻』亜種化など
これは実際に建造を始める段階にならなければ、最適のバランスや、どこをどれだけ、という比率が分からないだろうから先の話だが――耐久テストを兼ねて、いろいろ亜種化で試しているところである。
因子枠の制限を考えれば、既に【肉塊花】である時点で残り1枠しかないため、【葉緑】因子による維持コスト削減とトレードオフである。だから、例えば最外周は【硬殻】因子を突っ込むとか、そのあたりの最適なバランスなんかを発見していかなければならないだろうな。
だが、うーん、これで最初から"硬殻"因子で硬くできるなら、わざわざ城壁獣の「鎧」を、アルファとデルタで強引に引剥さなくても良かったなぁ。
すまぬ……ガンマ。
だが、科学と技術の進歩のために犠牲は付き物なのだ。というわけで、新しい「鎧」が生えたら、また新エイリアン達の攻撃力測定役よろしく。
***
『母船』プロジェクトの進捗確認はこんなところにしておいて――。
俺は今度は『環状迷路』から水路で繋げた、言わば水棲系エイリアン達にとっての"詰め所"とも言える『生け簀』まで来ていた。
ここから水路が環状迷路を巡り、侵入者達を襲うこともできるようになっているが……そのさらに先は「魔界の赤き海」に通じている。あぁ、もちろんヒュドラが入ってきたらまずいから、現在は封鎖しているんだがな。
何をしようとしているのかというと、"第一次"海中探索決死隊達の見送りである。
死ぬのがわかっていて、というか死ぬの前提で送り出しているため、上位世代を含んでいるにも関わらず『水棲系』エイリアンにはまだ"名付き"がいないが、こればかりは仕方がない。ヒュドラの存在が厄介すぎるのだからな。
構成は――『母船』プロジェクトにリソースが割かれている中、なんとか以下のエイリアン達を確保している。
・潜水蟲 …… 15体
水中探索で魚だとか海藻だとか、とにかくヒュドラのせいで全然進んでいない"因子"探しをまずは優先させている。その後、ヒュドラの行動パターンを掴んで、こいつらだけでも上手くすり抜けられるようになれば、海中や水中での"工事"も任せていきたいところではある。
・突牙メダカ …… 30体
メインの哨戒役兼囮担当だ。ぶっちゃけ死兵だ。
ヒュドラが襲ってきたら身を挺して他のエイリアンが生き延びるようにサポートし、また直接ヒュドラと戦うことで、埋め込んでおいたパラサイトと協力して、少しでも多くの"情報"を回収してくることが任務である。
・槍牙イッカク …… 5体
戦力の中核であり、この"決死隊"を率いる役割。
そして、もしもこちらがヒュドラを先に発見した場合は――スイマー以外の水棲エイリアン達を指揮して、攻撃を仕掛ける任務も帯びている。理由はまぁ、上で突牙メダカで話した通りだがな。
ヒュドラを刺激して最果て島の海岸が危険になるリスクはあるが、さらに逆上して陸に登ってきてくれでもしたら、少なくとも海よりは殺しやすいだろうし……まぁ、テルミト伯に対する"盾"でもあるから、いきなりそういう展開にはならないようにするつもりではある。
・千腕サメ …… 11体
とりあえず、現在のヒュドラの"首の数"にそろえてみた。
その高い拘束力で、めちゃめちゃに暴れまわって連携するヒュドラの首を片っ端から押さえ込んでもらうことで、仲間のエイリアン達の生き延びる時間が増える――つまりそれだけ情報も多く得られるってわけだ。
・水流カメ …… 5体
盾役である。だが、この手の盾役にありがちな"遅さ"という点について言えば、こいつにはそれが無いのである。【水】魔法で水流を操作できるため、水中での機動力は想像以上に高く、ヒュドラの攻撃から仲間を大いに守ってくれるだろう。
・幻惑クリオネ …… 3体
果たしてヒュドラに【精神】魔法なんぞが通用するのかは疑問だが、とりあえず試してみるか的なノリで混ぜた。
以上だ。
つい先ほど、水流カメにまたグウィースが乗ろうとしてル・ベリにしょっぴかれていったという珍事も起きたところだが――存分に逝ってこい、我が眷属達よ。




