本編-0071 魔法適応の因子達
【盟約暦519年・眠り猫の月(1月)・第28の日】
俺がこの世界に転移してから106日目。
ルクとミシェールを配下として得てから四日。
早速だが、お勉強の時間だ。
【人界】における暦は1年360日、1ヶ月30日で構成されている。
だが、1月から12月は数字ではなく、下記のとおり。
1月から――、
『眠り猫』『鳴き鹿』『睨み獅子』
『跳び狐』『飛天馬』『歌い鷲』
『飢え熊』『屠竜』『丸呑み蛇』
『怪魚』『伏狼』『駆け犀』
――12月、という感じだ。由来は二度の【大戦】よりもさらに以前のお伽噺のようだが(ミシェール談)、さしたる興味は無い。まぁ、話を合わせなきゃならない場面では合わせつつ、自分の中では適当に1~12月で言い換えておくかな。
で、だ。
ルクとミシェールの一件の顛末から、得られた成果を確認しておこう。
まずは【エイリアン使い】として一番の楽しみである【因子】からだ。
魔法使いの死体が20弱、生きた魔法使いが兄妹も含めると4人だから(一人はちょっと特殊な状態だが……)、期待できるだろう。
――え? ルクとミシェールもきっちり【抽出臓】で"絞る"のかって?
当然じゃないか。
大丈夫、ル・ベリもソルファイドも通った道だ。俺の配下となったことを示す最後の通過儀礼みたいなもので、なぁに、ちょっとマッサージされると思えば良い。
他ならぬこの俺自身だって経験したわけだからな!
さて。
それではいよいよ、得られた"魔法"の因子を紹介していこう。
【水属性適応】 ← New!!!
【氷属性適応】 ← New!!!
リュグルソゥム兄妹と捕虜アムーゼから。
迷宮への侵入すら許さず【人界】でル・ベリとソルファイドのコンビで壊滅させたアムーゼの部隊だが、ルク曰く王国魔導侯のうち【冬嵐】の号を持つ一族は【氷】の魔法に秀でているわけだが……実際に魔法学的に【氷】という属性があるわけではない。これは迷宮核の知識とも合致しており、元素系魔法は『水・火・土・風・雷・光・闇』の7種である。
そして、あくまで【火】と【水】の複合魔法として『氷』という現象が引き起こされるのみに留まり、その意味では【氷】魔法は後天的に会得可能な技術ではあるとのこと。
……じゃあどうして【氷属性適応】因子なんてのが得られてるかって話だが、これも、まぁ『因子=現象』説で説明できる範疇ではあるな。俺の"認識"において、どういう【結果】を引き起こしたいかが重要であるわけで。
まぁ、そのあたりは以前ソルファイドを配下にした時に考察済みである。
因子としては――普通に【氷属性砲撃花】と【氷属性障壁花】が作れそうなのは便利なことである。
『かき氷……じゅるきゅぴり!』
いや待て、だから、その擬音語はおかしい。
ごほん。
――話を【冬嵐】家への寄り道に戻そう。
【冬嵐】家ではとりわけ【火】と【水】の魔法適正が共に高い子供が産まれやすく、そうした者達を選抜して侯軍を結成しているため――対外的にも【氷】魔法のエキスパートとして印象づけることに成功できているとのこと。
ちなみにアムーゼもまた、そう"印象"づけさせられた哀れな一人であるようだがな。
自分が【氷】属性のエキスパートであると思い込んでいるそうな。
「苦労したようですよ……かつて先祖が【氷】属性を彼らから盗むのは」
こともなげに言うが、君の先祖達も大概だと思うがね、ルク君。
ちょっとリュグルソゥム家の"闇"を見た気がした。まぁ貴族なんだから当然かも知れないが、別に清廉潔白だから滅ぼされたというわけでもないだろう。
そうしてリュグルソゥム家が他家から「学んだ」技術については、王国の支配層でもある【魔導侯】家の権威をいたずらに落とさないために、大っぴらに公開されたりはしない。事実、水面下で互いの技術や秘密や力の源を狙った暗闘は【魔導侯】家間の常なる争いではあるため、別にリュグルソゥム家だけが非難されるものではないだろう。
ちなみに、ルクが"最終試験"で螺旋獣のデルタを手こずらせた「とっておき」は、水と火の複合魔法としての【氷】だった。
【土属性適応】 ← New!!!
主にミシェールと、魔導侯のうち【彫像】家から派遣されたと思しき数名の死体から。
土属性はいいぞ。
後述するが、なんと奴隷蟲の『進化先』が増えたのだ――『胞化』じゃなくて『進化』だぞ?
いやはや、スレイブはファンガル種への『胞化』しかできないものと思い込んでいたわけだから、これは意外な収穫ではある。ま、どんなことが得意になりそうかも非常に想像しやすくてGOODだ。
後は――スレイブ以外に、隠身蛇にも【土属性適応】による進化先が拓かれていたんだが、これはちょっとテクニカルな形式になっている……また後で紹介しよう。
【光属性適応】 ← New!!!
主にルクの方から。あと、グストルフの死体を走狗蟲に食わせる間接解析でもいくらか%を稼いだがな。
この属性の使い手は、産まれる割合は少ないが、他の元素系属性への適応が高ければ稀に産まれることがあるという。
ところで追っ手の一人でもあったグストルフの奇抜過ぎる【光】魔法の使い方。
俺は初見が「あれ」だったもんだから、【光】魔法へのイメージが若干固定されてしまってるわけだが……兄妹によると「あれ」は普通ではないらしい。
「通常は、治癒系の術だとか閃光による補助、死霊系の魔物への攻撃が主なんですけどね……」
「でも、非常に参考になると思ったんだがな、あれ」
「――鳥かコウモリじゃあるまいし、あんな非常識な機動は人間にはできませんよ」
「あのグストルフとかいう男はやっていたではないか、人間。トカゲにもできると思うぞ、あの程度の体捌きであれば」
「無茶言わないでください、ル・ベリさん……」
んむ。
意外と頭が固いのか、とも思ったが、今までの常識がぶち破られるというのは確かにすぐに受け入れられるものでもないのだろう。だが、リュグルソゥム家200年の歴史とやらでも無かった「発想」であるわけで、それだけグストルフの異質さが際立っているのだが――さて、肝心の【転霊童子】様について、兄妹はどれだけ知っているかな?
「【転霊】……ですか。そのような存在については、正直言ってまったく分かりません。ですが、オーマ様の予想が正しいのであれば――【騙し絵】家の女を逃したグストルフの行動には、意味があるはずです」
「へぇ、そりゃどういうことだ?」
思案気味のルクと、ぞっとするほどの冷たい光を瞳の底に秘めるミシェール。
「止まり木」での議論が終わったのか、なかなか面白い予想を聞かせてくれた。
「……死んでも生まれ変わる、あるいは別の肉体に魂を宿らせる――本当にそんなことが可能ならば、彼にとっては"死"は危機ではなくて手段だということです」
なるほど。
普通なら"死"は生物にとって絶対的な恐怖であるから、無茶な行動は取れないし、その意味では選択肢を制限されているようなもの。
だが、それを乗り越えることができるということは――。
「グストルフにとって、【騙し絵】家のあの女を生かすことが、【光】魔法に習熟したイェリトール家の肉体を保持しておくことよりも得だと考えた。だから喜んで、情報を得て死んでいった」
ミシェールの言。
目が怖いよ――あんなに兄のルク君と仲睦まじく過ごす時間を与えてやったじゃないか。
と思ったら、ルクが若干やつれたような気がしないでもない、ちょっと疲れたジト目で見てきた。
……何も妙なコト考えてないっすよ?
戯言はさておき、イェリトール家は【光】魔法に適正のある子孫がぽこじゃか産まれやすい「ことになっている」中流貴族である。そして、兄妹にとっては一族滅亡時に唯一他の魔導侯家以外で参加していた貴族家であり、復讐対象であるそうな。
ふうむ。
「突飛な考えかもしれませんが、オーマ様。例えば取り逃がした【騙し絵】家の女が、グストルフの次の"肉体"の母親か、祖先にでもなるというのは、どうでしょう」
「! それだ!」
グストルフほどの色んな意味でキレてる奴が、結構便利そうに使いこなしていた【光】魔法使いとしての肉体と経験を捨ててまで、ツェリマを生かした。
もし兄妹の仮説が正しいとすれば、それは【騙し絵】家に次は産まれてくることを奴自身狙っているから、ではないだろうか。そう考えれば、死に際の意味深な台詞にせよ、見た目の年齢に不相応な実力にせよ、合点がいってしまうんだよねぇ。
「あの『非常識』だっていう光魔法の独特な使い方も、多分、見た目通りの人生経験に基づいたわけじゃないだろうな――そこんところは、むしろお前達に近いんじゃないかい? 200年の叡智とやらがあるリュグルソゥム家の、な」
「それは……」
「その通りかもしれません。ですから彼は――【転霊童子】は、必ず私と兄様の子供が、子孫達が狩ります」
愛情と憎悪は表裏一体ということだろうか。
ミシェールの重すぎる『家族愛』は、ともすれば敵対者に対する強烈な報復心の裏返しなのかもしれんな、これは。
――これには訳がある。
モーズテスが吐いたんだよね、グストルフが『仮面』の男なる存在と距離が近い発言をしていた、と。で、どうやらその『仮面サマ』とやらが、兄妹にとっては最も重要な怨敵のようで、侯邸の襲撃を主導した何者かであるらしい。
だから、グストルフを……いや、あの【転霊童子】を押さえることができれば、と思うところがあるのだろう。呪いをかけた張本人である可能性が高いというしなぁ。
それに、だ。
もし"魂"を他の肉体に移す技なんてのがあるとしたら……兄妹の肉体を蝕む「呪詛」も、どうにかなるかもしれない、そんな期待が二人の心の中に生まれているかもしれない。何の保証も無いのに、な。
まぁ、焦って暴発だけはしないように、上手く使いこなしてやるしかないか。
頼りにしてるぞルク……だからどうしてジト目で見てくるんだ、別にウーヌス達が告げ口している様子は無いってのに。
まぁ、いいや。
注意点としては、グストルフが新たな赤子の肉体を得る形で"転霊"するのか、それとも別の肉体の意識を奪って憑依するタイプの"転霊"をするのか、どちらかは現時点ではまだ分からないから、念のため【騙し絵】家だけでなく【光】魔法のイェリトール家も優先的に監視対象にはしておくべきだろう。
だが、前者であれば――赤子のうちに抹殺してしまうのも手だろうか?
いや……待て、それは違うな。
もし奴の「転霊」に回数限界なんて無いのだとしたら、次はどこに現れるのか分からなくなってしまう。
そのあたりの難しさを分かっているのであろう、兄妹も、自分達が生きている間にグストルフと再会して、陰謀の真実を尋問する機会を得ることは困難な可能性もあることを悟っているようだ。
――少なくとも、グストルフ本人を狙うというよりは【騙し絵】家に狙いを定めるのが、良いのだろう。
【肉体魔法適正】 ← New!!!
主に生物の身体能力を活性化するという、内的な作用がメインの現象を起こす魔法群である。
地味だが非常に重要なもので、これを得意とする魔法使いは実質戦士としての能力も高まる傾向にあるし、そうでなくとも自衛するだけの身体能力を得ることから、魔法使いという職業を意外と打たれ強くしている属性である。
死体のうち2割ほどから解析することができ、当然ルクとミシェールからも搾り取ることができた。
……でもさ、それだけメジャーな魔法だとしたら、例えば【肉体属性障壁花】による初見殺し性能がかなり上がるんじゃないかな?
ツェリマを取り逃がす直前、モーズテス達が「転移事故」を引き起こしたのも、身の安全に繋がる「切り札」が、まさか働かないとは思わずにやってしまったからだろう。
それと同様に、【肉体属性】に頼った魔法戦士達を絶望させることができるというわけだ。
――なんだ。
俺はふと安堵した。
油断したわけではないが、【情報】を持ち帰られたことへの警戒度をまた一段階下げた。
エイリアンだけじゃあない。俺の迷宮もまた、凄まじい勢いで「進化」し続けているのだ。
"古い"情報に頼るやつらにこそ、新たな初見殺しをぶつけていくことができる。そう考えると【属性障壁花】達を見せなかったのは、不幸中の幸いであったか。
そうだ、その辺り、後で兄妹にも「性能評価」させておくかね。
今後の実戦投入に備えて、な。
【精神魔法適正】 ← New!!!
さて。
リュグルソゥム家の兄妹の真骨頂である【精神】属性だが、これはルクの宣言を信じるならば、彼ら以外にまともに使える者は少なくとも【王国】にはいないことになる。
だがまぁ、無から有は生じないわけで、彼らの"開祖"とやらが【精神】魔法への適性を持っていた以上は、油断はするべきではないだろう。例えば他国にそういう適性を持った者が生まれてたりするかもしれないのだから――という疑問をぶつけてみたが、答えはこんな感じ。
「おっしゃることは理解できます。ですが、初代様が【精神】魔法を開花させたのは、いろいろと特殊な事情が重なったからでして……ご心配であれば、子々孫々そのような者が現れることが無いよう、監視いたします」
「そうかい。まぁそこまで言うなら任せようか」
話としては面白いが、紹介はまた今度としよう。
男女の結合双生児でありながら、一族の開祖となった兄妹の数奇な運命の話は――な。
さて。
でまぁ、【精神魔法適正】も、ひとまずは『胞化』可能なファンガル種と『進化』可能なエイリアン種があったので、後で紹介したいと思う。
【混沌魔法適正】 ← New!!!
ルクから。
こいつはものすごく乱暴に言うと、【肉体】と【活性】の2属性の対極の性質を併せ持ったような属性で、傷の治りを遅らせたり、病気を発生させたりといった、少し分かりにくい効果を持っている。
んんむ、まぁ、試験すれば良いかな。
エイリアン達との相性は良いのかとも勝手なイメージを持っていたが、現時点では胞化先が一つ拓かれた――これは後で紹介しよう。
――さて。
ここまでが『因子』に足ると解釈された【魔法属性】達である。
リュグルソゥム兄妹が適性を持っていなかった【雷】【闇】属性を除いた全ての元素系統と、同じく【死】【均衡】【崩壊】を除く一部の変質系統が手に入ったわけだが……。
まぁ、論より証拠でまずはこれを見てくれ。
【再生】(解析率:0.3%) ← New!!!
ルクとミシェール、あと数名の魔法使いから絞り取れたのだから、魔法に関連したものであることは間違いない。だが、気になることが2点ある。
第一になぜ【活性属性適応】因子として定義されなかったのか(効果的にはほぼこれで間違い無さそうなんだが、状況証拠的にも)、そして第二に数日かけてもわずか0.3%とはどういうことかいな、というところだ。
だが、兄妹の魔法講義を聞きながら、俺はなんとなくその原因を理解した。
【活性】属性は、生物に対しては、あくまで自然的な治癒力や成長力を促進するものに過ぎないのだ。もちろん【人界】で多くの治癒の技がこれに属し、また力ある【活性】魔法使いは治癒師としても偉大であるらしいが――"現象"としてのこいつの本質は何か? というところに答えがある。
例えばエイリアン達の種族技能には【代謝活性】系統の技能があるが――これだって、失われた部位を再創造するような効果ではない。しかし、自然的な治癒力や回復力に関係した技能であることは明白だ。
……つまり、元からエイリアンには『活性』的な能力は備わっているわけで、わざわざ"新定義"するほどのものではなく、【エイリアン使い】の権能としては価値が無いと判断されたというわけである。
因子【爪】や因子【鱗】が、定義するまでもないのと近いかもしれない。
ただし、それでもあえて抽出することができるものがあるとしたら――より「上位互換」となりうる特質の"芽"ぐらいなものか。
「確かに、極めた【活性】魔術師は切り落とされた腕をも蘇らせる、と聞いたことはあります。今世の『長女国』にはそのような者は十年に一人、現れるかどうか」
「70年前に途絶えた【祓病】家には、その技が継がれていたと聞いたことはありますね」
「――だとしたら【聖戦】家に、多少の知識は残っているかもしれないな」
「盗まないのか? 得意なのだろう、人間……【御霊】家よ」
「【聖戦】家とは……少し、相性が悪かったですからね」
なるほど、『失われた四肢を再生する』だとか『病で腐敗した臓器を蘇らせる』などという領域にまで至れば【活性】属性が引き起こすのは、もはや"再生能力"としての現象である。ならば、解釈される因子としては【再生】になった――というところだろうか。
予想を裏付けるかのように、抽出臓を以てしても兄妹からは、これ以上の【再生】因子は絞れなかった。やはりちゃんとした"再生"能力を持った存在からでなければ、拡大解釈には無理があるということだろう。
因子の解析をパズルみたいな作業だとするならば、つまりピースが合わないのだ。
んで、同じようなことが【付与】属性や【樹】属性(水土複合属性)にも言えた。
……考えてもみてくれ。俺の「エイリアンへの魔法属性因子注入」自体が、既に魔法を"付与"しているようなもんじゃないか。ファンガル種の生態や【葉緑】因子が既にあることを考えれば"樹木"に求めうる「現象」って他になんかあったっけ? というわけである。
――だが、既に「そういう認識で最適化」されてしまった俺はともかく。
例えば、他の迷宮領主達には当然別の解釈もあるだろうよ。リッケルは【樹木使い】だったわけだしな。
まぁ、考察はこんなところで良いか。
ひとまず大漁で、"魔法"は一通り揃えられたと言って良いだろう。これで、今後さらに得られそうな魔法適応関連の因子は【雷】と、後は複合属性では【空間】と【重力】かな。前者は【騙し絵】家が鍵になりそうだし、後者は――『母船』の飛行能力のためにはなんとしても手に入れたい。
それじゃ、次は"性能評価"しつつ、新エイリアン達のお披露目といくか。




