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本編-0067 ダンジョン防衛戦~魔法vsエイリアン④

今回の防衛戦は奇貨であるから、もうこの際、こちらの手の内を全部見せる勢いでエイリアン達を投入することにした。ギャンブルではあるがどうせ全員殺すつもりだし、魔法という技術は何ができて、何ができないのかを可能な限り暴くつもりでもある。


走狗蟲(ランナー)の部隊が接敵したこともあり、彼らの感覚器官を通して、得られる情報が爆発的に増えたことも功を奏している。その上で、倍プッシュというわけじゃないが、一部のランナー達には寄生小虫(パラサイト)を一時的に共生させることで、得られる情報をさらに底上げしているのだ。

まぁ、おかげでエイリアンネットワークにもさすがに負荷が高すぎたのか、ウーヌス達が悲鳴を上げている。この戦いが終わったら、さらに副脳蟲(ブレイン)を拡充するかな。


『"翻訳"はいらん。エイリアン語のままで良いから、とにかく量を伝えてくれ』


『きゅぴ!』


だから、俺も【高速思考】【並列思考】といった自身の技能を使い、久々の「エイリアン語」という信号の塊へ翻訳作業に参加する。

そして俺の眷属達の波状攻撃に侵入者の魔法使い達がどう耐えて、どう捌いているのかをつぶさに観察し続ける。


走狗蟲(ランナー)達が集結するまでの間に侵入者達がせっかく整えた迎撃の構えに対し、投槍鹿(アトラトルディーア)のイオータによる剛槍豪投の一撃は痛烈な先制攻撃となった。

だが、やはり最速で対応したのは例の光魔法使いだ。"粉塵爆発"を防がれた時と同様、レーザーのような光魔法の斬撃でカウンタースナイプをしてきやがったが――まわりのランナー達の被せるような【おぞましき咆哮】が効いたのか、狙い外れて隣の戦線獣(ブレイブビースト)の肩を浅く切り裂くに終わる。


『きゅぴ。"探知魔法"も大したことないね!』


『潜入か、単独任務向けだな。性質がわかれば、対抗方法なんていくらでもある』


サーモグラフィのようにあくまで「壁を透過」して「潜む者の輪郭を暴く」だけならば、簡単な話、さらに多くの囮や護衛で周囲を固めてしまえば、重要な標的や危険な魔物の"輪郭"を悟らせなくさせることができる。山羊を隠すには羊の中が良いということだな。

まぁ、単に大雑把に待ち伏せを把握する程度ならまだしも、少数戦闘では隠れている相手が何者であるかを把握することは、今のような初撃の応酬では致命的になり得るわけだ。


『殲滅開始だ、一人も逃がすな』


【おぞましき咆哮】によって生まれた隙から立ち直る時間など与えない。都合30体のランナーと5体のブレイブビーストが天井から、壁から、地下からあらゆる裏道から這い出して魔法使い達に躍りかかる。


さて、ここでダメ押しだな。

イオータの"投槍"は――爆酸マイマイと同様に"収穫"で蓄えており、随行の奴隷蟲(スレイブ)達に「装填」させることで、後十数発はぶん投げられるわけだが――第二射!


だが、次の瞬間、俺の期待は裏切られる。


『きゅ?』


ウーヌスの疑問符付きの反応から半瞬遅れ、情報が伝わってくる。

群がるランナー達を、まるで残像でも残すかのような不可思議なステップでかき分け、一人の女が投槍の射線上に飛び出したのだ。

が、自殺志願などではない。直後、女が両手を正面にかざすや、魔素が渦巻く魔力の気配と共に、不可思議な力により投槍の軌道が捻じ曲げられ(・・・・・・)たのである。


『なんだと?』


ど真ん中ストレートで投げたはずが、強制的にカーブさせられる。これは一体どんな魔法を使われたのかと驚いたのもそうだが……真に俺を困惑させたのは、その直後である。


『――未認可者の転移術式発動を検知。対応を検索――』


『――眷属への敵対行為を確認。転移術式への対抗制限を実行――』


『――爵位不足。制限効率60%――』


何だ、今のシステム音は。

この瞬間、俺はいつの間にか上がっていた位階分の技能点を迷うことなく【高速思考】と【並列思考】に振り込む。

俺は今何が起こったのか(・・・・・・・・・)の解読に全力を注ぎ込んでいた。


『転移術式』とは何か。

女が発動した、あの投槍の軌道を歪ませた魔法のことか? 違う、そいつは天井を崩落させた時に、落石から身を守るために既に一度使われている。

それでは、正面へ躍り出た時の不可思議な歩法だろうか。「転移」というからには、何かテレポート的な空間を歪める魔法ということか――なるほど、それならば例の、投槍の軌道を歪ませて逸らした"技"も同系統つまり「空間」的な魔法として説明できるわけだが、そうすると、次が問題だ。


『未認可者』であるらしい女の発動した、その『転移術式』とやらに対して、侵入者達が俺の眷属に敵対しているという理由で――『爵位に基づく何らかの制限』をかけた、という意味の下り。


なんだこれは、どういう意味だこら。


で。

ここで、俺ははたと連想した。

迷宮領主(ダンジョンマスター)の職業技能にあったじゃあないか。

【領域転移】とかいうのが。


【領域】系の最後の方にある技能だから、有用そうだが取得できるのはまだ先かな、と深くは意識していなかった技能だが――なるほど。それ(・・)が使える相手との迷宮抗争(ダンジョンバトル)を、例えば考えてみれば良いわけだ。

もし、所有者関係なしにそこが「迷宮」でありさえすれば、どこでだって【転移】できるというならば、戦国時代の長く続いた【魔界】はとっくにそういう(・・・・)能力を持った奴が支配していることだろう。


自分が治める以外の【領域】での「転移」能力なんてのは、確かに制限されてしかるべきなのだろう。そしてこの考察は、迷宮核の知識とも合致していた。

まぁ、考えてみれば自然なことだろうよ。だから、迷宮抗争(ダンジョンバトル)においては【領域戦】という段階が存在するわけで……いや、待てよ、そうするとあの「転移術式」を使う女は……?

嫌な、というよりは妙な予感がした。


『"名付き"衆に伝達。テストは終わりだ――鏖殺しろ!!』


まだ足りない、直接【情報閲覧】で確かめなければならない。

可能ならばあの女が半殺し状態のところで駆けつけ、死ぬ前にいろいろ【情報閲覧】することだ。


さぁ、善は急げ。

ル・ベリもソルファイドも【人界】側から急いで呼び戻している最中だ。


『出るぞ。ル・ベリ、ソルファイド、供を』


   ***


運動補助系の【空間】魔法である【(まぼろ)す舞踏】による細かな短距離転移と、『長女国』よりも古い歴史を持つ護身術流派における足捌きを組み合わせた、【騙し絵】のイセンネッシャ家独特の歩法『ネーヴェ』。

一歩の歩みで数倍もの距離を滑り動く技によって飛び出し、攻城弩(バリスタ)の第二射を阻止したツェリマだったが、直後に不気味な怖気を感じた。

――根拠の無い直感ではあったが……次にネーヴェを使えば、何か悪いことが起きる、そんな強烈な警鐘が頭の中でかき鳴らされたのである。それは【騙し絵】家においても指折りの使い手と自負するツェリマ自身、全く初めての感覚であった。


(なんだ……!?)


しかし逡巡する間も無く、バリスタの第三射が豪と空気を引き裂き迫り来る。

【歪みの盾】によって再度それを逸らすツェリマだったが――。


(馬鹿な、なぜこんなに"重い"のだ?)


迷宮に入ってから既に2回同じ魔法を使っているが、まるで泥沼の中で腕を振るような鈍重さであった。まだ魔力切れには遥かに早いというのに。幸いにして「第三射」がツェリマを貫くことはなかったが、歪みが足りず、斜め後ろで束縛系の魔法を詠唱していた部下の眼前を掠めて彼の鼻を切り裂く。

痛みと衝撃に詠唱を中断させられた彼は、堪らず後ろに下がってしまい――迎撃陣形に穴が開く。

それを見て取って、ツェリマは舌打ちと共に語気を荒げる。


「グストルフ! さっさとあの攻城弩(バリスタ)を黙らせろ!」


周囲では、見たこともないおぞましい異形の魔物達が他の者達に襲いかかり、迎撃魔法で撃ち漏らした数匹が陣形の懐に潜り込み、二人が腕と膝を切り裂かれて怯んだところであった。

乱戦の中では味方を巻き込むような範囲魔法は迂闊には使えない。敵のみを狙うような高い技量の魔法制御を行える者もおらず、遠くから破壊的な投槍を撃ち放ってくる魔物を狙撃できるのは、グストルフしかいない。だが、彼もまた乱戦に巻き込まれており、無軌道に両手のひらと両足の裏(・・・・)から白光を噴出し、まるで人間円刃(チャクラム)とでもいうかのような不規則で無茶苦茶な軌道で飛び回っていた。

おぞましき異形の魔獣達に誰もが慄く中、一人だけ哄笑を響かせながら、四肢から手当たり次第に【光刃】を振りかざし、まるで刃物の仕込まれた殺人独楽のように、くるくると高速回転して飛び回りながら、壁に天井に跳びはねる魔獣達と切り結んでいる。


およそ、ツェリマの魔法を修める者としての常識を凌駕した、奇抜を通り越して奇怪とすら言える【光】魔法の斬新過ぎる使い方である。

だが、このような危機的状況下で哄笑してのける姿に、得も言われぬ狂気と恐怖を感じたために、ツェリマは「第四射」への反応が遅れた。


空を穿つ豪音と共に剛槍がツェリマの胴に迫るが――。


背後からの衝撃と共に横に突き飛ばされ、一呼吸遅れて受け身を取るツェリマ。

咄嗟に元いた箇所を見れば、部下が一人剛槍に貫かれて大地に縫い付けられて即死しており、すぐ側を冷たい目で飛び去るグストルフの姿と、去り際の一言。


「気をつけてくれよ、ツェリマさん。死なれたら困るんだからさぁ……ハハハ!」


表情は哄笑したままだったが、その声は瞳と同じように底冷えするような冷たさ――自分を助けるために、部下を突き飛ばして身代わりにした、という事実がツェリマに更なる困惑を与える。

だが、すぐ目の前を死が通り過ぎた危機感が彼女生来の冷静さを取り戻させ、グストルフを問い質すことは後回しだと判断させる。そして続けざまの「第五射」を歪ませる、と同時に後方の部下に襲いかかろうとしていた異生物の一体を剛槍が貫くような軌道に逸らす。


「怯むな馬鹿者ども! 血が出るなら殺せるぞ!」


――ただし、血と思しき体液は"黄色"く濁っていたが。

その異様さと臭気もまた、超党派部隊の者達の士気を殺いでゆく。

あえて言うならば【フロストリザード】や【サラマンダー】といった爬虫類系の魔物に近い(おもむき)はあるが、筋肉の盛り上がり方の異様にして醜悪……いや、単に異様であるだけならば"瘴気"の影響で生み出される魔物にそのようなものも無いわけではない。

だが、見ているだけで本能的な嫌悪感と吐き気を催す、ただそれだけのためにこのような悪夢的な造形がなされたのではないかと思わせるほど、それらはおぞましい異生物であった。


ツェリマが全力で「剛槍」をいなし、その周辺で四肢から光刃を噴射して独楽のように飛び回りながら、恐るべき連携を見せる異生物達と互角に切り結ぶグストルフ、そして周囲で補助魔法や単体攻撃魔法によって二人を援護しつつ、異生物達の波状攻撃に必死に堪える【騙し絵】家の部隊。

一方で部屋の反対側では、モーズテスと彼の部下達と【彫像】家の者とアムーゼ隊の連絡役の生き残り一人が抵抗を繰り広げる。

ド派手にグストルフが立ち回るせいで、引き寄せられるのか、取り囲む異生物達の数ではそちらが多いが――その分、異生物達の中でも一際巨体な、特に両腕が丸太のように異常に太く発達したオーガのような魔獣が突っ込んでくる。


「今だ! 粉砕しろ!」


モーズテスの号令と共に、合同詠唱による【土】魔法【屹立する槍】が発動し、巨体を揺らしながら両腕を振りかぶり牙の間に涎を垂らす巨獣が突っ込む――その眼前に岩の槍を生み出す。だが、魔法の発動する直前に巨獣が不快そうに唸ったかと思うや、筋肉の盛り上がった鈍重そうな図体からは想像もつかない強引な動きで岩の槍を交わしたのである。


「怯むな! 第二撃、突き殺せ!」


すかさず第二撃を部下達に詠唱させつつ、自らは移動阻害系の妨害魔法の込められた紋章石を発動させ、再度回避させることを防がんとする。

しかし、図ったように小型の異生物が数体、凶爪を振りかざして絶妙な位置取りで威嚇と撤退を繰り返し、詠唱を集中させない。巨獣を討つには、この部隊の所属者達の実力では、高威力の魔法を合同詠唱によって発動させなければならないが、すぐ目の前に異生物の牙が迫れば、迎撃のために詠唱を中断し別の魔法を唱えるなり、持ち場を離れて避けるなりしなければならない。

そうして「第二撃」は阻止され、モーズテス自身も【火】魔法【火蛇の舌】によって、襲いかかった二匹を追い払いつつ、大きく後退する。彼のすぐ頭上を別の巨獣の豪腕が力任せに振り抜かれ、冷や汗が頬を伝った。


(クソ、せっかく組み上げた迎撃陣が……このままではジリ貧か!)


始めこそ異生物達は【おぞましき咆哮】によって怯んだモーズテス達に果敢に襲いかかってきていたが、魔法による反撃、特に火魔法が有効であることから徐々に体勢を持ち直して迎撃の陣形を組むに至った。

……その過程で重傷者が数人出ているが、この魔獣達の恐ろしく悪辣なところは、そうした戦闘不能に近い怪我人達を捨て置くか、喉を裂いて詠唱できなくさせた上で、生き残った者への包囲を狭めてきているところである。

妨害魔法に拘束魔法、補助魔法に状態異常惹起の魔法など、【紋章】家の面目躍如とも言えるほど様々な「手数」と「速攻性」を組み合わせて、何度か異生物達の連携を乱し、先程のように合同詠唱による高威力魔法で巨獣一体と小型異生物数体を屠ることには成功したのだが――モーズテス隊が見せた魔法とその組み合わせに、まるで他の死した仲間達の記憶を受け継いだかのように、残った異生物達は驚異的な適応と学習を見せていた。


端的に、同じ手段が通用しないのである。


(こんな魔物は見たことが無い! 迷宮(ダンジョン)とはこれほどのものなのか? いや、そんなわけがあるか……!)


直に迷宮へ潜った経験こそ乏しいとはいえ、迷宮から這い出した魔物の討伐をするような傭兵くずれ達などへの人脈も持つモーズテスであり、自らも魔物を任務で始末したり、捕獲して他家の村近くなどで解き放ったこともあるわけだが、そんな彼の常識が完全に通用しなかった。

まるで、見た目こそ個々におぞましい異常なる異生物達であるが、一個の生き物のように包囲を狭め、連携し、時に味方を犠牲にするような切り込みで迎撃陣を崩さんとしてきていたのだ。


「おのれ……!」


「隊長! ま、また"酸"が来ます!」


部下の警告に咄嗟に【風】魔法の紋章石による暴風の盾を生み出し、空気を焼きながらまるで噴水のように噴き付けられてきた濃緑色の"酸"を弾き返す。

群がる異生物達と巨獣に守られるように、いつの間にかいくつかの天井の「小道」などから、ぶくぶくに肥え太った芋虫のような異生物が現れており、こうして時折り、この部屋に入った時に浴びせられたのと同じ"酸"を噴き付けてきている。そしてそのタイミングでこちらが防御のために魔法を使うや、的確に連携した小型異生物が牙の並んだ口を涎を垂らして突っ込んでくるのである。


もはや、打開する術は無いに等しい。

もう少し異生物達の数が少なければ、あるいは魔物との戦いに慣れた者が何人かいれば、話もまた違っただろう。モーズテスは今更ながら、自分もツェリマのように、迷宮の再活性化を報告するために一時撤退するべきだったのではないかと後悔し始めていた。

そしてその後悔が油断を産み、ビュオゥと鞭がしなるような裂音と共に――よく伸びる投げ縄のような"触手"じみた肉の鞭が飛来し、すぐ隣の部下の首を絡め取って、まるで魚が釣られるかのように中へ、異生物達の群れの中心に引きずり込まれてしまった。


「な……!」


もうダメだ、とそこでモーズテスの心が折れた。


「おのれ、おのれ……全員撤退だ! 【転移】の紋章石の使用を許可する! 任務は失敗だ!」


ベルトに大量にぶら下げた「紋章石入りの袋」に手をかけるモーズテス。

そして、ツェリマの部隊の数名を含むほとんど全員が、それぞれにベルトやら懐やらに仕込んでいた紋章石入れの袋に手を伸ばし、彼に続こうとする。


「あれ? あれれぇ? ハハハ! 本当に"それ"、使っちゃうのかい? ……やめといた方がいいと思うんだけどねぇ」


侮蔑の声色でグストルフが煽ってきていた。

いつの間にか側まで飛来し、モーズテス達を取り囲む異生物達を強烈な閃光で怯ませている。


(ふん。自分の分の紋章石は使ってしまったから、慌てて奪いに来た、というところか……残念だな、香水臭い小僧め、お前はここで食われ果てろ!)


そう心の中で冷笑し、グストルフには一瞥もくれず、彼が語るわけの分からない発言は全て聞き流しながら、袋から命綱とも頼むツェリマお手製の【転移】の空間魔法の込められた紋章石を取り出して、発動のための魔力を込めて――。


視界が飴細工のようにぐにゃりとねじ曲がる感覚。


   ***


数分後、鏖殺場へ急行したオーマが目にしたのは地獄絵図だった。

不敵なる彼をして、思わずその顔をしかめさせるような有様が、そこには広がっていた。

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