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本編-0061 禁忌にして峻厳たる山岳森②

【第102日目】


【人界】の森――正式名がわかるまでは便宜上「原生森」と呼称するが、原生森の生態系には少し面白い点がある。

『反り角鹿』というヘラジカに近い大型生物と、『青彩駝獣(だじゅう)』というダチョウみたいな後ろ足ばかりが発達した体型の哺乳類(・・・)が最も広く分布している。ル・ベリによれば、これらの草食獣には毛の生え換わりの痕跡が確認でき、深い森とはいえ空気がしんと冷える冬の時期に適応した"冬毛"をまとっている。

穴を掘って冬眠なんかする習性は無いようで、木の皮や枝の新芽などを主食としている……どちらも気性が荒く手懐けるにはもう少し時間がかかるとのことだ。


だが『青彩駝獣』のオスの首から胸元にかけて生えそろった"碧色"の毛並みのなんと美しいことか。光沢と煌きがあり、まぁこの手の生物にありがちな求愛のために発達した箇所だろう。だが、仮にこいつが珍しい生物だとすれば、毛皮は高値で取引されるかもしれない。


良いね、実に良い。

"価値がありそうな"ものに関する知識を持つことは、異文化コミュニケーションの基礎だ。

宝石や金銀を嫌う人種は存在しない。光るものや鮮やかなもの、滅多に手に入らない珍しいものなど――例えば"魔石"なんかな。仮に言葉が通じなくとも、友好の印として価値ある物を渡して便宜を図ってもらう……ということも選択肢にできる。

先立つ物は必要というわけだ――俺の"構想"のためにも、な。


『最果て島』の"牧場"に連れていく生物の候補を確認しつつ、次の情報へ。


こうした草食獣達をエサとして捕食する肉食生物も存在するわけだが――ここで、ちょっと面白いことが起きているのである。


「牙と爪では『森林縞虎(フォレストタイガー)』が勝ってます。が、隠密性と麻痺毒、それに巣の罠(・・・)によって『痺れ大まだら蜘蛛』が地の利を得てますな」


なんと、この森の最上位の捕食者は2種類いたのである。しかも――ル・ベリが分析したように、激しく相争っているとのこと。

両雄並び立たずとは言うが、それは実は生物の世界でも同じだ。端的に言ってこの2種は獲物が被っており、つまり生態系での役割が被っており……極め付けにこいつら、お互いをも獲物としている。


つまり、早晩のうちに序列が決まるだろうという意味では、俺達はまさにこの森の生態系が変遷する過程に居合わせているのである――が、裏を返せば、どちらかは他所(・・)から侵入してきた外来種であることがうかがえる。


「クモの方でしょうな……最初から虎が優勢で盤石ならば、そもそも侵入されなどしなかったはず」


「まぁ、そうだろうな――そうすると気になるのは、クモ達がどうして(・・・・)侵入してきたかだが」


さらに広い次元での「生態系変化」の影響か。例えば、災害か何かが起きて元の住処を追われたとか? 逆に豊かになりすぎて数が増えすぎて、相対的に弱い個体が追い出されてきたとか?

興味は尽きないが、実害(・・)はないので調査優先度は今は高くないかな。まぁ、クモ達の元々住んでいたかもしれない地域で何かあった、という場合それがどんな性質のもので俺にどんな影響を及ぼしうるかの吟味は必要だろうが。


で、だ。

そんな生態系の中に、猿的な立場で組み込まれている"半知性種"。

ル・ベリによってひっ捕らえられてきて、縄で縛られ転がされた数体の『人界ゴブリン』と、そいつらを担いでくる労働力として活用した『魔界ゴブリン』。


両者を見比べてから――俺はル・ベリを向いて片眉だけひょいと上げてみせる。【眷属心話】を使うまでもなく、俺の言いたいことを察したように、苦虫顔にさらに眉間をしわ寄せて応えるル・ベリ。


「やはり、違い(・・)ますな……」


「だろう?」


「野獣らしく群れを成し、獣の毛皮をまとい、太い木の枝を棍棒代わりにしていたのも同じですが――」


まだ元気が残っているのか、人界ゴブリン達がギィギィガァガァ喚いている。とても汚くて意味のわからない(・・・・・・・・)"鳴き声"で。


何が言いたいかって?

――いやぁ、おっかしいよなぁ?


俺はル・ベリと初めて出会った時のことを思い出していた。

あの時、俺は"言語の違い"という可能性なんて頭に浮かびすらしなかった。当たり前のように話しかけたわけだが――それは迷宮核(ダンジョンコア)に『そういう翻訳機能』があると、完全に思い込んでいたからだ。

実際それでル・ベリとは会話が成立していたし、魔界ゴブリンどもの鳴き声もちゃんと言語としては認識できていた。ル・ベリがゴブリン達と会話できるのも、その中で育ったからだったろうし――文化の異なるであろう竜人ソルファイドとも言葉は普通に通じたからな。


しかし、おかしいよなぁ?

仮に迷宮核に翻訳機能があるはずならば――どうして人界ゴブリン達の鳴き声が、全っ然"翻訳"されないんだ?

……ル・ベリはおろか魔界ゴブリン達にも通じていないようであることは、別に良い。だが、翻訳機能があるはずのこの俺の耳にまで、獣と蛮族の中間的吠え声が聞こえるばかり。


この事実を、どう受け止めれば良いだろうか。

それとも、あれか? 俺がル・ベリと会話できたのは単にお互いに『魔人語』を操っていたからに過ぎず。俺は俺で、迷宮核さんによって【魔人】にさせられた時に単に魔人語を学んだに過ぎず。


――まさか【魔界】ゴブリンどもまでもが、魔人語(・・・)をしゃべっていた、ということは無いよな?


……。


人界では【情報閲覧】すら不安定だが、MP消費も気にせず、さっきから繰り返し人界ゴブリンと魔界ゴブリンどものステータス等を見比べている。

しかし、やはり両ゴブリンに特段の差は――"言語"以外には見受けられないのだ。

何かが、何かが「違う」。


そして改めて繰り返すが、俺もル・ベリも【人界】産のゴブリンには一切の嫌悪感を感じないのである。本能レベルでの"憎悪"じみたゴブリンへの嗜虐心が【人界】ゴブリンには湧いてこない。

単に、他の動植物等と同じく有効活用すべき資源の一種類程度でしかない。


どうやら【魔人】が"ゴブリン"に対して持っている、この本能的な憎悪には――俺の想像以上の何か込み入った事情があるように思えてならない。

うーむ……てっきり、何事かを"やらかした"ために【黒き神】から種族レベルで憎まれるようになった、とかが濃厚かと思っていたんだがな。例えば――【諸神(イ=セーナ)】との敗戦の戦犯、だとかな?


まぁいいや、さすがに神それ自体に繋がりかねない話題では、今の俺では情報を得る手段に乏しい。単純な正攻法としても、最低限『爵位』をもっと上げていかなければならないだろうから、な。


「人界ゴブリンは……交配実験も含めて、研究を進めとけ。それよりも、なるほど、そいつら(・・・・)が『培養』したゴブリンってわけだ」


「その通りです、御方様。ただ……少々問題(・・)がありまして」


「あぁ、わかってる。大体はウーヌス達から聞いている。ははは、仮にこれも魔界ゴブリン限定だとしたら、いよいよ"神の憎しみ"説も確定かもしれないな?」


ル・ベリが魔界から連れてきた奴隷ゴブリン達は、借りてきた猫というか、置き物の人形かと思うほど、不気味なまでに静かで無感動なのだ。指示を下さねば、ぼうっとしたままうめき声の一つすら上げず――しかし、鞭の一つもくれてやれば「恐怖」と「生存本能」ばかりは野獣のように旺盛になる。

それを職業【奴隷監督】の強制労働効果で働かせている。

補助兵力としては難があるが、単純作業をさせる重労働力としての使い勝手はそこそこ。


――こいつらは【培養臓】によって、わずか十数日で「成体」となった"培養ゴブリン"達である。


そして、ル・ベリが言い淀んだこと。

どうも【培養臓】による成長促成は生物学的にかなり無茶をさせているのか、7割以上の確率で肢体や臓器、骨格などの健全な形成に失敗した「なり損ない」になってしまうのである。

いや、マジでおぞましいぞ。あの能天気な副脳蟲(ぷるきゅぴ)達が、


『うえええ……「できそこない」は気持ち悪いきゅぴぃ……』


とか言って匙を投げるぐらい、冒涜的で削れる有様だ。

そりゃエイリアンも確かにグロいが――進化という名の洗練によって、ある種の統一感が与えられているのも確かだ。


だが、「なり損ない」達は違う。

真面目な話、描写することすら憚られる。

本来のあるべき(・・・・)身体の成長を強引に促進した結果、なんというか――材料となる肉と骨をゴブリンの『型』に無理矢理押し込んだかのような、生物の粘土細工みたいにぐちゃぐちゃな……そうだな、バロットとキノコとビビンバを足して3で割ったような状態のゴブリンもどきとでも言えば、この戦慄が少しは伝わるかな?

見続けてれば、絶対に【強靭なる精神】に自動点振りされてしまう確信があったので、見ないようにしているんだが。


そんな「なり損ない」の大半は、成長が完了したと見なされて【培養臓】から吐き出された途端、9割は即死してしまうんだがな。生命維持に不可欠な部位が、当たり前のように潰れたり捻れたり欠けたりしているわけで。

……それでも生き残っている奴らについては、正直どうしようかとも思う。囲っておいて、侵入者への精神攻撃材料にでも取っておくかな?


とまぁ、そんなハプニングもあり、当初予定からは大幅なスケジュール修正を余儀なくされた『ゴブリン工場』の品種改良計画ではあるが、朗報もある。


――新たな『迷宮経済』の強化要素を手に入れることができたのだ。


前にル・ベリが【人界】へ連れてきて、それを【魔界】に戻らせていた"魔法適性持ち"のゴブリンを見ていて、ふと気付いたのさね。

魔法が、魔法への適性を持つ生物の「内なる魔素」を元にしているのだとすれば、魔法適性ゴブリン達の「内なる魔素」もまた「魔素」である。

つまり、資源として"採取"できるんじゃないか――そんな実験心が湧いて、試して(・・・)みたんだよ。


その通り。

【魔素結晶花】を地面でも岩肌でもなく、直接ゴブリンに植えて(・・・)みたってわけだ。

結論から言えば、このやり方でも【魔素結晶花】は問題なく魔石を生成できることが判明したのである。


……まぁ【魔界】側では、そもそも周囲の大気から滲み出す天然の魔素があるから、この行為は完全に無駄となるんだが――そもそも大気に魔素や命素が絶無な【人界】ならば、話は変わってくる。この"発明"によって、人界で独立した迷宮経済の構築が一気に前に進むんだからな。

魔素結晶花の維持命素はゴブリンの生命で補うことができるため、少なくとも『魔石』は自給可能――命石についても、食料によって代替できるというルールを利用すれば、本拠地たる【魔界】側の迷宮経済に与える影響は今後どんどん低減していくことができるというわけである。


名付けて"ゴブリンの魔素絞り"。


『――称号【狂科学者見習い】が【狂科学者助手】に進化――』


ちょっと待て。

なんだ今のは。

……『固有技能』に【感電耐性】とかいうのが生えている……いや、今はいいや。


気を取り直そう。

なぜ、【人界】での"迷宮経済"の独立にこだわっているのかだが――さっき言及した"命素"代わりの「食料」だが、これは別に自分で作物を育成するとかいう意味ではない。


買えば(・・・)いいのである。

――もっと具体的に言おうか?


食い詰め者達の一発逆転手段になる程度には『魔石』が【人界】で高級かつ需要のあるものならば、こうすれば良い。

魔石を売った金で『ゴブリンの魔素絞り』を生かすための食料を買う。

それによって永らえた『ゴブリンの魔素絞り』が更なる魔石を生産する。

それを売った金で……以下ループ。


つまり【人界】側での財産的な意味での経済力を、そのまま「魔石」に転換できるのである。

軍事的な影響とかを一切無視すれば、極端な話、エサを買った金がそのまま魔石に替わり、それを更に莫大な金に替えるという錬金術も可能となってしまうのである。

ただ、注目を集めすぎるし、魔石を大量流通させてどんな影響が現れるかをきちんと予測できるだけの知識と情報を得るのが先決ではあるがな。


【魔界】から這い出してきた、どこの馬の骨とも知れない浮浪者予備軍からスタートとなるこの俺が、人界で成り上がるだけでなく『巨大組織』をも創設しようというならば――金はいくらでも入り用だ。

しかし、その種とすべき"魔石"の生産を【魔界】側に頼ってしまっては、いざという時に共倒れになってしまうリスクがある。

それを避けるために、可能な限り【人界】での迷宮経済は【人界】で手に入る資源を使って行うのが吉、ということである。


あぁ。

夢が広がるね。


――緊急の【眷属心話】がソルファイドから伝えられたのは、その時だった。


『きゅぴぴ!? 「あ・を・む・じぇ」ってどういう意味!? ソルファイドさん、変なキノコ食べちゃったんだきゅぴね……南無きゅぴ陀仏』


『説明が面倒くさいから覗け(・・)、今のは緊急用の短文暗号……もう忘れたんかい』


『きゅ。創造主様の言いつけなら、ありがたく覗いちゃうけど――創造主様? もう、あの"白肌黒眼オバケ"は見せないでね?』


ん? なんだそれは――あぁ。

思い出した。

確か、隙あらば俺の知識や「記憶」をエイリアン的同調能力によって勝手に覗き見しようとするウーヌス達にお仕置き(・・・・)をしたのである。

で、いろいろな物を見せたり「味あわせ」たりしたわけだが――あれだよ、あれ。前いた世界では異星人の典型的表現であった『グレイ』の造形に、ぷるきゅぴどもは異常な嫌悪感を示したのであった。

……お前らだって「エイリアン」だろ、と突っ込むのは俺が間違っているのだろうか、とか小一時間悩んだな、あの日は。懐かしいぜ。


ごほん、気を取り直そう。

【人界】で【眷属心話】の消費MPが爆増しているのになんとか対応しようと、暗号表みたいなものを作成して共有したというわけである。


ちなみに、今の連絡の意味は【侵入者、手練れ、多数】である。

ん? 最後の『じぇ』は何かって?


あっはっは。

――【魔法】だよ。


即座に、俺はMPに糸目をつけずに【眷属心話】を起動、いくつかの指示を下す。

ソルファイドとル・ベリに侵入者達への遊撃命令を。

『エイリアンネットワーク』を通して、【報いを揺藍する異星窟】全体に"対人界側"の侵入者迎撃体制への切り替えを。

そしてアルファとガンマに全速で駆けつけるように――な。


さて、鬼が出るか蛇が出るか。


   ***


『長女国』の貧乏役人の子であるアムーゼには秘密があった。

彼自身知らぬ事実であったが……その身は王国最高位の支配者達である【魔導侯】――の従兄弟の息子の落とし子(バスタード)であったのだ。

その証拠として、彼は『父』が身を置く【冬嵐】のデューエラン家の特技である【氷】属性の魔法に高い適性があった。その縁で【冬嵐】家の私兵隊のうち汚れ仕事専門の部隊に取り立てられたのである。


アムーゼは現在、数名の部下を率いて別働隊として"禁忌の森"を駆けていた。

彼を含んだ『超党派部隊』こそが――2ヶ月半前の「襲撃」でも近衛兵に扮してリュグルソゥム家の侯邸を襲った者達である。

部隊は解散されず、その後も襲撃の指揮者であった"仮面"の人物より、【空間】魔法による転移術式で逃げおおせたと思しき、生き残りの兄妹を捕殺せよとの指令を受けている。


(俺はなんて面白い時代に生まれたんだ!)


苦手な探知系魔法は部下に行わせつつも、アムーゼは猟犬のような勘の鋭さで兄妹の痕跡を追っていく。

【肉体】属性の身体強化系補助魔法によって森を踏破しつつも――遭遇したゴブリンの群れを衝動的に「氷漬け」にするなど、"昂ぶり"を抑えるのに難儀していた。


それもそのはず。

例え第十三位という末席(・・)とはいえ、絶対的権力であると思われた【魔導侯】家が一つ、滅んだのである。

『長女国』の法では【魔導侯】は十三家までと定められているが、王国最高の意思決定機関である【魔導会議】が「入れ替わり」を宣言した最も最近の事例でも数十年前のこと。

それだって、流行り病による不運で断絶を覚悟した当時の【魔導侯】の一人が自ら訴え出たものであり、乱世到来の号砲と言えるようなものではない。


だが、実際にアムーゼが関わった今回の「襲撃」は全く性質が違う。

力も勢いも有していた現役の【魔導侯】家が一つ、ほとんど暴挙に近い形で叩き潰されたのである。

それは『長女国』という国の秩序が土台から揺るがされる事態であり――それを決定したのは、当の"秩序"の維持者達自身であったのだから。


(三派閥の談合! 陰謀前から内定していた「次」の魔導侯! 乱世だ、乱世がくる! 成り上がる好機だってわけだ)


アムーゼは、たまたま【氷】属性への高い適性を有したに過ぎない。

しょせんは直系ですらない傍流の、オマケに法的な相続権など一切保証されない「私生児(バスタード)」である。いくら【冬嵐】のデューエラン家に連なるといえども……実のところは、そこらの貧乏平民出身の『王国魔導軍』の一般兵士に毛が生えたような価値しか持たない。言い換えれば『五十歩百歩』だ。


それに、彼のような境遇の持ち主はさほど珍しいというわけでもない。

同じ【冬嵐】家の"汚れ仕事"部隊の中でさえ掃いて捨てるほど……「平穏」な時代ならば、彼のような者が成り上がるチャンスなど、夢のまた夢なのである。


("功績"になってもらうぜ! 綺麗な顔の坊っちゃん嬢ちゃんよぉ……)


取り立てられて10年。

齢も30代の半ばを越えて、ようやく巡ってきた好機。

"転移先"を調べるために奔走したこの2ヶ月半では『超党派部隊』の隊長――【紋章】家の走狗に手柄を掻っ攫われた。また、そうして見つけた"転移先"が【禁域(アジール)】の中だったことから、内部へ進入するためには【騙し絵】家の行き遅れ女の【空間】魔法に頼らざるを得なかった。

好機を喜びつつも、これまで全く見せ場を作ることができず、アムーゼは昂ぶりつつも、内心では相当に焦っていた。


だが、それもここまでだ。

見るが良い、この音も無く敵対者を氷漬けにしてしまう【氷】属性魔法の恐怖を。

どんな強力な魔物も武芸者も、手足のどれかを凍らせればそれだけで動きが鈍り、鈍ったところをさらに凍らせて動けなくさせてしまえば、殺し方はどんなものでも選べる。


口から鼻まで氷で覆って窒息させるも良し。

氷の刃で突き殺すも良し。

内蔵を徐々に凍えさせて凍死させるのも良し。


リュグルソゥム家の血族は大人から子供に至るまで高い戦闘能力を持っていると言うが――所詮は自分の半分ほどしか生きていない青二才が二人残ったのみ。

初撃から容赦の無い大魔法をぶち込み、抵抗の猶予すら与えずに"凍らせ"て捕らえれば、己が名は『長女国』の"夜"の界隈全てにだって轟くだろう。そうすれば……引く手数多となること間違いない。


「……班長! 左の崖の先に二人いるぞ!」


「ガキどもか!?」


「いや、待て……数が急に増え――なんだ? "人間"ではない、だと?」


愚図が、だからお前は年下の俺に「班長」の座を奪われるのだ、とアムーゼは駆けながら舌打ちする。

獲物と間違えるなど、笑い話にもならない。

今がどれほど急がなければならない局面か、分かっているのだろうか?


(俺が「隊長」になったら、一番危険な仕事をくれてやるぜ)


実力で蹴落とした"元上司"に対して、そんな残酷な腹いせを誓うのである。

……次に、彼の身に何が起こるのかも知ること無く。

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