本編-0053 竜人の忠誠
因子と新種エイリアン、それから迷宮構成といった施設周りの次は、俺自身と配下達……数で押す眷属とは一線を画し個人としての戦闘力を重視する者達の確認である。この流れが定番化しているわけだが、現在絶賛改造中のル・ベリは後回しにしておこう。
魔人樹のグウィースもさっき確認したから、竜人ソルファイドの強化状況を説明したら、俺自身のことについてだな。
【基本情報】
名称:ソルファイド=ギルクォース
種族:竜人(火竜統)
職業:牙の守護戦士
位階:31〈技能点:残り44点〉
HP:630/630
MP:290/290
位階は3上昇。それとHP増加とMP増加は10と5で確定……ん?
それだと初期HPとMPがかなり高いことになってしまわないか? ……んん?
『おいぷるきゅぴ、ちょっと思考能力貸せ』
あれこれ条件設定して計算すること数分。
一応の仮説が出た。
それは初期HP、MPと位階ごとの増分の他に――言わば増加値の「半減期」とでも言うべきものがあるのではないか、というところだ。
例えば「竜人」としてのHPMP増加が本来は20と10だとした場合、初期値90と20かつ半減する位階が25だとすれば……計算が合う。【魔人】にせよル・ベリの【半魔人】なんかと比べて【竜人】が頭2つも3つも抜きん出るような圧倒的な種族であるとは考えにくいことから、多分この辺りが妥当な線かな?
ならばこの件はもういいや、興味が失せた。多少の計算ミスがあろうと大勢は変わらんし、今目の前の数値のほうが重要だから、話を戻そう。
位階3上昇というわけだが、前面に出させて片端から狩らせたわけでもなし、リッケルを『茹で殺す』ために特殊な動きをさせた関係から、得られた経験値が突出したわけでもない――あるいは、偽獣それ自体から得られる経験点がさほどでもないというところか。
別に強さに依存しているわけでもなかろうしなぁ。
それから実はソルファイドについては、俺から積極的に点振りをすることは控えていた。
本人の戦闘力が非常に高かったのでビルドをどうしたものか考えあぐねていたのもあるが、他にも実験的な理由がある。ル・ベリで変に気張って与えられた技能点全振りしてしまった後で気づいたことなのだが、こうした迷宮領主による干渉の無い場合には、実際のところはどんな風に点振りされるのか、その実態を見ておくべきだと考えたことだ。
であっても、奴を【竜の憤怒】から解放するために【竜血鎮め】だけは先にMAXにさせておいたわけだが。
――果たして、その結果はいくつかの技能が1点ずつ合計6点分増えたのみ。
まぁ、それでも、ル・ベリにせよソルファイドにせよ、俺が点振りするまでかなりの量の「振り残し」があったことを考えるだに、6点というのは今回の戦いではソルファイドはかなり「振った」方であると見て良いだろう。
後は、点をあえて残しておくメリットとしては、職業やら種族やらが変わってスキルテーブルが一新された時などに振れるようにしておく、といったところか。
まぁ、下位の技能とて極めればそれなりに役立つし、上位の技能とて点振りされずとも所持しているだけで効果があるから、致命的というわけではないが……「視」えている以上は、有効活用しないのは気持ち悪い。だがそう考えると、位階1ごとに3技能点というのは絶妙なのか、はたまたそうでないのか。
おおよそ1歳ごとに位階1が「普通」であると仮定して(人間かそれに近い種族の寿命でな。長命種族とかがもしいるとして、仕組みが違うかもしれない)、60~70年程度生きると見れば、生涯で得る技能点は300~400弱。
大体にして【種族技能】と【職業技能】がスキルテーブルあたり20~30程度の技能で構成されていることを考えると、なるほど、一生かけて"極める"ことができるかどうか、といったところか。
……ふむ。
その過程をすっ飛ばしてしまうことができる【迷宮領主】という仕組みは、なかなかにえげつないな、我が事ながら。
そして、この"技"について、すくなくともリッケル『子爵』にはできなかった可能性が高い、か。防衛戦の折、【情報閲覧】をル・ベリにかけた様子はあったが、スキルテーブルはおろか"種族名"の時点で、少なくとも俺とは違う――曖昧な風に見えていた可能性が高い。
捨て駒として見ていたとはいえ、テルミト伯がソルファイドに"点振り"をしていないことと合わせて考えれば、やはり……いや、これはまぁ、今はいいや。
話をソルファイドに戻せば、【竜人】の種族因子が解明されるのはまだ先のことだろうし、職業技能【牙の守護戦士】なんてのも強力な上位技能と見て良いだろう。
こいつに関しては、溜まった技能点はここで振ってしまおう。リッケル子爵との戦いの中で、ビルドの方向性は見えたからな。
では下記をご覧いただこう。
主に「火」に関連した属性攻撃力周りを強化する陣容となっている。
というのも、ソルファイド自身の過去の練達による賜物か、現時点で彼の『剣術』を促成する必要性を感じないからだ。ただし【剣術経験点】なるもの――俺の予想では後で考察する【武技】に関係している――を増大させる技能にはいくらか振っておいたが。
決め手となったのは、やはり【障壁花】を通した実験で【息吹】が魔法的な効果とは異なることが示されたからである。
【障壁花】が対応する属性の「魔法」を「魔法」的な力によって打ち消しているならば、この世界における「魔法」への対抗手段が似たようなものである可能性はそこそこある。それが不可能な場合に自然現象、たとえば山火事を降雨で消すことを考えるわけだろうが、そうすると同じ"現象"であっても、それが魔法によって引き起こされたものであるのか、そうでないかを見分けるのは戦闘においては生死を分かつポイントとなりうる。
俺を含めた迷宮領主達は【魔素操作】によってその辺りをある程度感知できてしまうわけだが……本人曰く"先祖返り"レベルの【火竜】としての力を持つらしいから、活かしてやれば良い。
確か前の考察では、範囲火力としては噴酸ウジ達を当てにすれば良いとして、これの優先順位は下げていたのだが――リッケル子爵戦を通して俺は考えを改めた。
こいつの一番の種族的特徴を、工夫によってだが戦況をひっくり返すほどの有効性を示した特徴を、あえて選ばないビルドってなんだろうね、というわけだ。【剣術】系を強くさせるか? 数で攻めて疲れさせれば討ち取られ、そこで終わりだ。鉄砲玉ならそれでも良いが、俺はテルミト伯とは違う。
ベータにすら出せない"火力"を生かさない手は無く、使う者がその特性を正確に理解できているのであれば、鋏はおろか馬鹿ですら使いようなのである。
だから、こいつの特徴である【火竜】絡みに絞っていくビルドとする。
……この点【息吹強化】も取っておきたかったのが本音ではあるが、前提技能である【竜の憤怒】への警戒からやめておいた。
現在3点で前提点が5点だから、ちょっとぐらい……と侮るなかれ。
火と水に弱いという俺の眷属達の弱点が判明している中、炎舞ホタルのベータの運用にだってかなり神経をとがらせている状況だ。【竜血鎮め】による【竜の憤怒】を抑える効果が、1対1である根拠だって無いわけで、ソルファイドを制御不能にしてしまうリスクを今犯す必要は全く無い。
後は、後々の対ヒュドラ戦を想定して【息吹耐性】を増したり、【耐性系】の上位技能である【火属性親和】を取らせたりしている。
この【親和】だが、実質的な無効化に加えて対応する属性攻撃力を増すという技能であり、物理と属性のハイブリッドアタッカー型を志向することにしたソルファイドには必須なんじゃないかな。それと火属性限定ではあるが、属性盾にもできるだろうし。
「……で、ソルファイドよ。ボアファントの糞掃除の感想はどうだ?」
「主殿、なんで知っているのだ」
「そりゃあ俺には忠実……というよりは便利な"地獄耳"達がいるからな」
いや、耳どころか脳みそだけど。
まぁ耳を通した情報は最終的に脳で処理されるし間違ってはいないだろ。
俺の知らないところでル・ベリと、どちらが因縁ある相手を先に屠るか賭けていたらしい。
「主殿に与えられた"力"のおかげか、大した手間ではないな……だが、ル・ベリは"今の姿"になる前は、ああした作業をゴブリン達から押し付けられていた、と。重労働ではあるだろう」
「お前の【息吹】を強化してやったのは、ボアファントの糞を焼却処理しやすくさせてやるためじゃないんだけどな」
『きゅぴ! 「燃料」が手に入った、って創造主様喜んでたよ?』
「黙らっしゃい、余計なことは言わなくていいんだよ」
いかん、思考じゃなくて口に出してしまった。
まぁ俺の脳みそを勝手に覗いているウーヌス達にはどちらでも変わらないわけだが、ソルファイドをいじるための発言の効果が半減させられるのは、なんか癪だ。
……ボアファントの糞を『乾燥』させるために、古の火竜の血を引く者の【息吹】を使うだなんて、贅沢じゃあないか、おほん。
「だが――主殿。やはり、何度思い返してみても、テルミト伯には"そのような力"があったようには思えない。無論、俺が見ていないだけである可能性は低くないが」
最も気になっていたこと、ソルファイドへ技能点を振った段階で聞くべきだと思っていたことの答えはそんなものだった。
これについては……早計は禁物だな。
以前の考察通り、爵位が条件なのか――あるいはその迷宮領主自身の「世界」や「情報」の認識の仕方に大きく左右されるのかは、まだ判然としない。その辺り、リッケルを上手く捕らえることができれていれば、聞くのも手だったろうが。
まぁ、仮にテルミト伯に「できる」として、ソルファイドをあんな風に使い捨ててにしていたあたり、テルミト伯にせよソルファイドにせよ心から互いを信頼したわけではなかったろう。
だから、点振りされなかったし、あえて教えられるまでもなかった、というのが可能性の高そうな話ではあるか。
――あるいは、全ての迷宮領主達に使える能力ではあるが……厳しい条件が本来ある、とかいうことも考え方としては有り得るか。考えてもみれば、「点振り」は何らかの、少なくとも迷宮領主としての【職業技能】に根ざしている根拠が無い。それっぽい技能名だって無いしな。
従って、使えるようになるには俺の思い至らない厳しい条件があって、それを知る一部の迷宮領主達に秘匿されている……というところか。
ふむ。
もし、もしもだが"大穴"だった場合は、【魔界】の社会システムが俺の予想通りであるという前提でだが――「革命」を起こしてやることもできるな。
だが、まだ先の話だ。
今は俺の野心の一つとして秘めておこう。
「ソルファイド、リッケル子爵戦でのお前の働きは、見事だった。ル・ベリ……【農務卿】もそこはちゃんと認めているだろうよ。だから、まずは俺からの報酬だ。お前を俺の【近衛隊長】に任命する」
すっと目つきの変わるソルファイド。
全盲になってなお、眼の筋肉はそこそこ動くようで、感情の表現の一つとなっている。今は【心眼】をランクMAXまで上げた影響もあり――本人曰く、ごくごく大まかにならば"明るさ"すらも感じ取れるようになっているとのこと。
ル・ベリに習ったのであろうか、魔人貴族に対する礼――片膝をつき、片腕を腰の後ろに回すソルファイド。
「……主殿には、大望があるのだろう?」
「おうとも。それが、どうした?」
「己を捨てることすら主殿に禁じられ、では、と己を振り返った。旨い肉を喰い、敵と闘い、糞を掃除し、枯れたと思った俺の中に……湧いてくるものがあった」
俺はソルファイドに続きを促す。
「徒に里の同胞達を死なせた罪をどう償うか、だが……賢くはないのでな。思いつかなかった」
こいつがここまで多弁になるのも珍しい。
それだけ、様々なことを考えた結果だろう。俺の目論見は当たったわけだ。
「だから、その方法を考えるために、俺は他の同胞達を探して――【竜帝国】が潰えた理由を探ろうと思う……ル・ベリを見て思ったのだ。竜人は、どこから来たのか、と」
ふうん。で?
「繰り返すが、主殿には"大望"があるのだろう? その供をしていれば、俺の"願い"の近道にもなる……ということだ。我が剣を、謹んで主殿へ捧げよう」
「そうきたか」
別に嘘は言ってなかろう。
テルミト伯と【人界】の"帝国"への復讐心が薄れているあたり【竜の憤怒】の負の影響が後を引きずっていることが観察されるが、新しく「やりたいこと」が生まれることまでは、阻害されないわけか。
まぁ、俺の配下になりたいという理由付けとしては、60点てところかな。
理由もなく、ただそうすべきであるから、と思考停止してしまうことを阻止できただけでも上々ではあると見るべきだろう。
「それじゃ、【近衛隊長】としての最初の命令だ。ソルファイド、俺にちょっと戦稽古をつけてくれないかな?」
「ふむ? ……なるほど、それも良いだろう。承知した、主殿」
【転職】と【武技】に関して俺自ら確認したいことがあるのもそうだが、場合によっては【人界】へ長期潜行する可能性もあり得る。
さっき、第一陣としてとりあえずネズミ的な生物に【寄生小虫】を送って【人界】へ数匹送り込んだわけだが――ひとまずはウーヌス達による分析待ちだ。ともあれ、それの結果がよほど俺の想定と異ならない限りは、さしあたり竜人と半魔人を伴って【人界】での活動拠点の構築が次の目標となる。
リッケル子爵を退け、テルミト伯も伸ばした食指を引っ込めたこの機を逃すわけにはいかない。
次は俺の手番だ。




