本編-0050 対リッケル子爵戦~報酬確認
【70日目】
リッケル子爵軍を撃退し、初の迷宮抗争に勝利を収めてから一週間。
俺が最も恐れていたのは、リッケルを鉄砲玉とした後に、テルミト伯が本格的な介入をしてくることだった。その場合の対処シナリオもあるにはあったが――はっきり言って戦力を消耗しきっていたこともあるため、一か八かで【人界】へ逃げることになった可能性が高いだろう。
そこではたと思ったわけだが、【人界】でにっちもさっちもいかなくなった奴が、なにもかも捨てて【魔界】へ落ち延びてくるように、その「逆」は無かったのか?
俺以外に思いついた魔人がいない、とも考えにくいわけであるが……果たして、迷宮核さんの偏れる知識を再確認して、思い出した。
俺みたいな、かなり自由に行き来できる【融合型】の迷宮領主はほぼ皆無なのだ。
別に他の【分離型】の迷宮領主達が、迷宮に縛られて自由に何処かへ行き来できないという話でもないが――元主にして政敵であったテルミト伯に迷宮核を奪われたであろう(正確には取り戻された、かな?)リッケルがあっさり枯死した事実を思い出せば良い。
【人界】へ逃げるというのは、基本的に迷宮抗争においては、敗死のバリエーションの一つでしかないのである。
っとと、話が逸れたが、そうして復興よりは戦力の補充を再優先にしてきた。
そして森に残った【宿木トレント】の生き残りを狩り出し、各所の被害状況を確認し、緊張すること数日間。
無論、リッケルが強襲に使った手口に対して二度目はさせない意味で海も監視して――ヒュドラが今日も元気に海で泳いでいる(暴れている)のを確認し、ようやく警戒態勢を解いて、後回しにしていた復興作業を本格化させたわけである。
……いくら格下とはいえ、一週間も時間を与えてはそれなりに戦力を回復させてしまうことなど、テルミト伯だって百も承知だろう。それに、ル・ベリが見届けたというリッケルの最期の状況と、発言などから分析すれば、テルミト伯は和解したはずのリッケルの迷宮を攻める方を選んだということだろう。
リッケル同様、何か"奇策"でも無い限りは、奴とてヒュドラを抜けなかろうよ。
逆説的だが、大陸へ勢力を拡張するための障害であるヒュドラはいずれ斃さねばならない敵だが、同時に頼もしい盾でもあるということだ。
少なくとも、テルミト伯だけ相手にしていれば良かったリッケルと違って……【魔人貴族】は爵位が上がるごとに「敵」が増える仕組みのようだから、な。
ソルファイドがかつてテルミト伯の傭兵として戦った相手は、リッケル子爵軍以外にもいたというしな。
だから、警戒レベルはそろそろ引き下げて良いだろうよ。
それでは、今回の戦いを通して得たもの――リッケル風に言えば"試練後の報酬"の再確認といこう。
ぷるきゅぴどもも今は馬車馬のように働かせているので、珍しく邪魔が入らない。そうだよ、男にはたまには独りっきりになる静寂の時間が必要なのさ……。
というわけで【因子】から。
まずは、リッケルの「植物軍団」から得られた因子だ。
【寄生】 ← New!!!
【宿木トレント】から解析した因子である。ただでさえ【抽出臓】と相性の悪い"植物"であり、さらに素が大きかったため、走狗蟲達にも喰わせる解析を行わせたわけだが、味はどうやら不評だった様子……俺? 俺は技能の発動分だけで十分だよ、誰が樹なんて食えるか。
で、この【寄生】因子だが、我がエイリアン軍団と組み合わせたらどうなってしまうのかだが――生み出すことのできた【胞化】先については、後で紹介しよう。
……意外ではあるが、エイリアン基本種に新たな進化先は出ていない。単に、他に組み合わせるべき因子があるのか、他に要因があるのか。
まぁ、当面の危機を脱し、テルミト伯もすぐには介入をしてこない様子であることから、ここは本格的に【人界】への進出をしようと思っているのだが……この新ファンガル種は大いに役立ってくれることだろうよ。
ところで解析元となった【宿木トレント】だが、イメージとしては他種の木々の体内に直接根を張るとかいう生態を持つ魔物だ。
迷宮領主が死んだら眷属は魔素と命素の供給を絶たれて緩慢な死に向かうはずなのだが――こいつら、しぶといんだよ。多分植物だからなのだろうか、宿主として乗っ取った「普通の木」から地中の水分や養分を横取りして生きながらえているのだ。しまいには操って通常のトレントのように動き出すこともできるようだが、普段は獲物が近づくまでは宿主の木の振りして擬態しているわけだ。
そう考えると、守りと浸透作戦にはかなり役に立ちそうだが――借り物の木を自らの身体としているため、藪みたいな小さな本体は驚くほど脆い上に、弱点となるため、単純な戦闘能力で言うと本来のトレントには遥かに劣るらしい。
ちなみに、これはソルファイドから聞いた話だ。
かつて【人界】で"里"の戦士をしていた時に、狩りなどで危険な土地へ行くことも多く、それなりに魔物の知識は持っているらしかった。
それで、リッケル子爵戦の最序盤、入江での戦いの際も初見殺しに近かった【宿木トレント】の襲撃へ、あんなにも早く対応できていたというわけだな。
【葉緑】 ← New!!!
リッケルの遺した【偽獣】達の残骸からあっさり解析できた因子その1。
「あっさり」とはいえ……【因子の解析】一回あたり数%しか増加せず、木材そのものはさすがに硬すぎてランナー達による間接的な解析も通らず。まぁ、迷宮抗争を通して三桁はぶっ殺したから、残骸はいくらでもあったからボーナスみたいなもんだがな。
こいつの胞化先も後で紹介する――迷宮経済に"革命"が起きたんでな。
【擬装】 ← New!!!
リッケルの遺した【偽獣】達の残骸からあっさり解析できた因子その2。
「あっさり」とはいえ(以下略。
これは……非常に面白い【因子】である。隠れる系ならば他に【隠形】もあるのだが、あれはどちらかというと気配を消すことで、そもそも認識されないようにするものだ。そうした姿勢を「消極的」な隠れ方と見なすならば――こいつは「積極的」なものだろう。
ちょうど【たわみし偽獣】どもが、本当は植物であるくせに、まるで動物のように振舞っていたのと同じような効果が期待できるわけである。「擬装」という言葉の意味にも合ってるしな。
でまぁこいつにも【胞化】先があったのだが、ちょっとね。
他に面白い使い方を思いついたんだよ。
今後の【人界】探索を見据えて――半異系統魔人の因子を入れ替える、とかな。
んじゃ、次は新エイリアンどもの登場だ。
『きゅぴ!』
……。
『きゅぴ? 創造主様、「闘技場」の準備は万全だよ! 早く早く!』
おのれ……こいつは、逃れられないカルマというわけか。
***
<エイリアン種>
まずはエイリアンの「第2世代」の新顔から。
【水棲】と【飛翔】が解析完了したことにより、新たな兵隊エイリアン達の系統祖となる「第2世代」が増えた。
それぞれ紹介しよう。
【突牙メダカ】 ◆因子:水棲 ◆進化元:走狗蟲
念願の水中遊泳を実現したエイリアンである。
『このために「環状迷路」を水浸しにしたの? きゅぴ』
『いや、それは違う。ただまぁ、ヒュドラ対策で「水中」エイリアンを訓練する場は、いずれ作ろうと思ってたんだよ』
海底から迷宮内に海水を引き込むトンネルを掘って『水場』自体は作ろうとしていたわけで、それがリッケルが仕掛けてきた【領域戦】へのカウンターパンチにもなったわけだ。
で、こいつは"メダカ"と言う割には小型のイルカぐらいのデカさはある。
……いや、進化前の走狗蟲より大きさがむしろ縮んでいるな。海中に適応したってことは――今後こいつから進化する連中はかなり大型化する可能性がある。なるほど、だから"メダカ"サイズってか?
で、名前の通り口の中から斜め上に突き上げるように、短い角みたいな牙が生えている。ちょうど前いた世界のイッカクと同じような原理というわけだ。
現在は試しに『闘技場』を生け簀状態にして泳がせてみているが、そこそこ距離を稼げると泳ぐ速度が結構上昇して、その勢いで突進すれば牙でまぁまぁなダメージは与えられそうである。
というか、集団で襲わせたら、水場に引き込んだら大型の敵も滅多打ちにできるんじゃないか?
『みんな水が苦手みたいきゅぴ……知らなかったきゅぴ』
ウーヌスが人の脳内でぼやいた通り、数秒のうちに穴ぼこになったゴブリンはともかく、機敏なランナーやクロークスネークらにしても水中行動が苦手なのは、意外な弱点である。これまで水中戦闘を試す機会が無かったし、最果て島ではヒュドラ以外で確かに必要な場面も無かったから、これは盲点だったな。
それにしても、火にも弱い水にも弱い……あれ、これ意外と運用が難しかったりするのかな、俺の"エイリアン"達は。
リッケルが脳筋タイプで運が良かったのかもしれん。
だが、そうするとなおさら「魔法」対策をしっかり考える必要があるか。
【誘拐小鳥】 ◆因子:飛翔 ◆進化元:走狗蟲
"誘拐"と書いて「エンジョイ」ねぇ……まぁ、それは後述。
こいつらも、単体では進化元のランナーより体格が小さく、個々の戦闘力は弱い。
だが、貴重な「空を飛ぶ」能力を持っている。それもベータみたいな強引な跳び方ではなく、ちゃあんと鳥のような黒い羽毛を両腕から生やしたまともな"翼"があり、羽ばたいて風に乗ることが可能である。まぁ、実際「鳥」であるな、うん。
それ以外は……ランナーを小型化させ、幼児化させたような見た目である。
あれだよ、大きさ自体は縮小させてはいるが、頭の比率がでかく頭部と手足がずんぐりむっくりになった感じ。顔が牙ぐしゃあ十字割れのエイリアン的口吻だから、全く可愛くはないが。
で、こいつらの名前の由来と思われる"性質"。
無数の羽音と共に、ぐぎゃあだかぎぃええええだか、ゴブリンが汚い叫び声で喚き散らしている。
計5羽ほどのエンジョイバードに四肢と頭をそれぞれ掴まれ、俺の目の前の高さまで運ばれている。『観戦席』まで数十メートルはあるんだがなぁ……ジージーと楽しそうな鳴き声でゴブリンを持ち上げていくバード達。
そう、これがこいつらの「誘拐」である。
『あ、落としたきゅぴ』
うむ。
数秒後、ぐちゃっと嫌な音がした。
身を乗り出して様子を見ると、哀れゴブリンは墜死体となったわけである。
死体の周りで勝利の踊りみたいな宙返りだとかして楽しんでいるバード達。遊び好き……同種同士でつるむ……ぴーちくぱーちくうるさい……う、頭が。
『きゅぴ!』
ええい、黙れ!
まぁ、気を取り直そう。
ゴブリン一体を殺すために5体がこれだけ時間をかけるというのは、戦闘能力にはあまり期待できないなこりゃ。無論、空を飛ぶということはそれだけで価値が大きいから、偵察役とかで存分に活用させてもらいますかね……いや、後は『空の運搬役』としても使えるか? 誘拐も運ぶのも本質は一緒だろ。
『創造主様、運んでるものを落としまくるような気がするきゅぴぃ』
『お前らがなんとかするんだろ、何のための"副脳"だよ』
突牙メダカもそうだが、あくまで「第2世代」としての、新しい環境に適応した"進化先"に大いに期待というところだ。
……というか我慢できずに、バードの進化先を一つ試してみた。
【風斬りツバメ】 ◆因子:風属性適応 ◆進化元:誘拐小鳥
貴重な魔法属性を使って進化できるようだったので、試した。
誘拐小鳥の時はまだランナーぽさが残っていたわけだが――こいつは、さらに姿や造形が鳥に近づいている。首が少し長くなり、口先も少し伸びたのだが、別に嘴が生えているわけではないので、羽の生えたエイリアン感はゼロにはならないが。
あれか、進化における"収斂"現象ってやつか。
で、バードの時に比べて前肢が退化してプラプラした突起物みたいになっている代わりに、黒と白のグラデーションが鮮やかな翼は大型化しており、絶えずその周囲で「風魔法」が沸き起こっている。
体の大きさも走狗蟲より一回り大きく、ツバメとは言うが、翼の圧迫感も相まってそれなりに威圧感がある。
こいつは「風」に乗せて硬い羽を矢の様に飛ばすことで、遠隔攻撃ができる。
もちろん一本一本は少し硬いだけのただの羽でしかないので、表皮が硬い相手には大したダメージは与えられないだろうが……秒間で何枚もの"羽"が鋭く顔面めがけて飛ばされてきたら、かなり集中力を乱されてうっとうしいだろう。ゴブリンの目鼻を潰すぐらいの威力はあり、なにより風魔法によって自らを浮かせている面も大きいため、飛行による移動と同時に"羽"による嫌がらせができるのが特技といったところか。
無論、バード達よりは大柄になった分、肉弾戦闘でもマシな能力となった。
ランナーと模擬戦させてみたところ、爪で翼を傷つけられたり、噛みつかれて組み付かれないかぎりは、空からのヒットアンドアウェイでかなり優位に立てている。さらにMP消費を気にしないのであれば、風魔法によって自身の飛行速度を加速減速することができ、非常に予測のしづらい機動を取るのである。
脆いところは要注意だが、奇襲要員としても使えることだろう。
ふむ。
こいつは「シータ」と命名しよう。
新しい"名付き"エイリアンとしてアルファ達の列に加わり、今後は【飛翔】系統のエイリアン達の指揮官にさせていきたいところだ。
合わせて、本格的に、バード系統のエイリアン達のための『発着陸場』の建設指示を出しておく。空が飛べれば――高く高くヒュドラの首すら届かない所まで飛べれば、大陸側まで飛ばして偵察することだってできるかもしれないしな。
それか、いっそリッケルのやり方を参考に――ん?
待てよ?
『きゅぴ! 良いこと思いついたよ?』
奇遇だな。
俺も「良いこと」を思いついて考えていたわけだが、なにかね? ぷるきゅぴ君。
『テルミト伯の「目玉」さん達は、バードちゃん達に狩らせれば良いきゅぴ!』
『む!』
……俺の"思いつき"とは異なるが、そうだ、それもあったな。
眼から鱗が落ちたが、あの目玉どもは戦闘力皆無だろうし、バード達が良い意味で小柄だから潰さずに捕獲できるかもしれない――そうすれば、【探知】の因子が解析完了できるかもしれないのだ。
となると、まだテルミト伯にはバード達は見せない方が良いということになってしまう。
ふむ。
俺の目的からすれば【探知】の因子さえ手に入れば、後は「目玉」どもは寄り付かない方が良いわけだから――ここは、一計を案じてみるか。
【投槍鹿】 ◆因子:硬骨 ◆進化元:韋駄天鹿
お次は「第3世代」以降の新エイリアン達だ。
まずは、解析完了した【因子:硬骨】によって、八本足のスレイプニル鹿である韋駄天鹿から進化した、その名も【投槍鹿】。
全体的にガッシリと肉付きが良くなり、移動速度は落ちたものの"踏ん張り"を重視した体格――そこまでして安定性を確保した上で、雄鹿の角よろしくの、ちょっと独特な形状の角が2本、異常発達している。
どんな風にかって? そうだな――頭に「2連装小型攻城弩」を乗せた危険な鹿さんだとでも言えば、イメージができるだろうか?
まず、"上角"と"下角"に分かれた独特な形状をしている。
それが『ニ』の文字みたいに、お箸を水平に横倒ししたかのごとく、後頭部の耳の少し斜め上辺りから2セット伸びている。
ただし、"上角"と"下角"の形はかなり違う。
まず、下角だが、こいつは言わば「土台」である。フランベルジュみたいに火影のような独特の湾曲をしており、地面に対して水平に頑丈に伸びているんだが――こいつ可動式なんだよ。
さながら「発車前の投石機」のような。
……なんで「カタパルト」に喩えたかって? そりゃ当然、発射すべき弾があるからだ――その通り、なんと土台たる下角と鹿自身の頭の上に2連装「攻城弩」の如く装填された「上角」は、1メートルほどの"槍"みたいな形状。
ここまで説明すれば、何が起きるか想像できるだろうか?
移動力ではなく「踏ん張り」のために頑丈化した8本足をグッと踏ん張って"発射体勢"になった投槍鹿が、首全体を後ろにグググと仰け反らせる。ちょうどクロスボウの矢を引き絞っている状態だ。
そして、力みのあまり首やこめかみに青筋を立てるほど「溜め」て一呼吸。
「ぶおん」とかいう擬音がしそうなぐらい激しい勢いで首を前に振るや、二本の「上角」が、まるで水平にした杭打ち機を人に向けたかのようにドシュゥという音を立てて射出されたのである。
……その勢いたるや、オリンピックの投槍の競技選手も真っ青なほどの破壊力であり、100メートル先のゴブリンでさえ根本まで貫通。それだけにとどまらず、【城壁獣】ガンマの鎧のように頑丈な硬殻ですら凹ませるほどの、文句がつけようもない威力であった。
そんな破壊力を生み出した手品の種だが――。
「なるほど、確かに投槍器ってわけだな」
「こんな簡単な原理で、これだけの破壊力を増せるのか」
「あぁ、ソルファイド。安定性じゃ弓には劣るだろうけどな」
先ほど呼びつけたソルファイドにも確認させる。
戦士たる彼の目から見ても、その威力は眼を見張るものがあったようだ。
少なくともボアファントや根喰い熊ならば、多少毛皮と脂肪が厚い程度では、この「槍」は防げず、致命傷を与えることができる。
"上角"が消耗品みたいに、千切れやすくなっていることもそうだが、この破壊力を生み出すカラクリは、可動式の"下角"にこそある。
このフランベルジュ型の"下角"は、先端がバールみたいなL字型になっており、その反り返った「ひっかかり」部分に上角の石突が支えられ――投槍鹿が首ごと仰け反って踏ん張った後に、一気に頭を突き出すと同時に「下角」も直角90度にぐわんと回転。
「首の長さ」+「下角の長さ」によって遠心力が増幅され、ぶん投げられた「上角」の破壊力が増したのである。
まさに人類の黎明期、投槍器の発明によってマンモス狩りが効率的に行われるようになった、単純なれど強烈な破壊力を生む機構。
アトラトル自体はそれこそバールのようなシンプルな形状でしかないが、言わば「腕の長さ」を稼ぐことで遠心力が増大することになる。「前いた世界」の実験では、なんと素人が200メートル先まで槍を飛ばせたという話もあるぐらいだ。
このバリスタ鹿さんは、それを再現しているのである。
「腕+投槍器」の代わりに「首+下角」を活用しているわけだが――だからこいつ、首が太いのか。そりゃあんな豪力で"槍"をぶん投げてんだから、反動で首が折れないようにしないとダメだろうな。8本足全部使って踏ん張っているのも、そのためってわけだ。
よし、お前にも名前を付けてやろう。
シータの次だから「イオータ」か……噴酸ウジとはまた異なった、純粋な破壊力だけ求めるならばずっとこっちのが使いやすい「固定砲台」だわ、こりゃ。
「ぶるるる!」
と、まるで発情期の馬みたいな獰猛な声を発し、ものすごい勢いで「お弁当」として奴隷蟲達に届けさせた命石をドカ消費するイオータ。
ちなみに、弾であり消耗品の投槍である「上角」が2本再生するのは、1時間ほどかかった。
やや燃費が悪いな。
面制圧だとかで継続的に圧迫を加えるんじゃなくて、ここぞで突破するための瞬間火力の爆上げ用かな……その意味じゃ爆酸マイマイと似た"工夫"が必要かもな。
【塵喰いウジ】 ◆因子:粉塵 ◆進化元:噴酸ウジ
因子【粉塵】もまた解析完了している。
これにより"名付き"の中ではまだ第2世代のままだったイプシロンを進化させてやった。
……で、塵喰いウジなんだが、見た目は毛虫型巨大ツチノコといったところか。
噴酸ウジ時代には、まだ、かろうじて申し訳程度の肢があったかと思うんだが、それすら退化して、まさに芋虫みたいに身体をもぞもぞさせながら非常にゆっくり歩く。
お前実はファンガル種だろ、と思うほどの動けなさ・動かなさであり、尖った毛をびっしり生やした毛虫を人間の1.5倍はデカく太らせた見た目だと思ってくれ。
あぁ、もちろん顔はエイリアンな、噴酸ウジの面影が残っている……リバウンドでぶくりと太ったような顔だけどさ。
そんなわけで機動戦には絶対に向かないメタボな毛虫になってしまったイプシロンだが、【粉塵】因子から得られた能力は、凶悪を通り越して鬼畜外道の類に達しているとも言える。
その名の通り、こいつは「粉塵」を吐くのである。
多分、砂やホコリなんかよりもずっと細かい、それでいてイガイガして、あとどうやら自身の針みたいな"毛"の欠片も粉塵には含まれているようであり、生物の粘膜や内臓を傷つけることに特化したような、エッグい「粉塵」である。
少なくとも肺呼吸をする生物には絶大な被害を与えることが可能であり、いつものゴブリンでは、粉塵を浴びせた後しばらくもがいた後に吐血して死んでいた。
俺自身が吸わないように注意は無論必要ではあるが、イオータの阿呆みたいな威力の"槍"と異なり、こちらは迷宮みたいな閉所での防衛では、かなり役に立つことが予想される。
そうだな、【風属性砲撃花】辺りと組み合わせてみても面白いだろうよ……イプシロンの背中に【風属性砲撃花】とかを「装備」させたら、どうなると思う?




