本編-0040 模擬戦~魔人vs竜人
【57日目】
別に売るわけではなくとも、自社製品に関する詳しい知識が開発陣にも営業陣にも求められる――「この世界」風に言えば職人と商人かな? まぁ、俺はどっちも兼ねてるようなもんだが……製品の「性能試験」は、量としての規格化に必要なことである。
すなわち、俺の迷宮においてもそうした「試験」は必要だな?
なぜって、たかだか一男爵如きが、下級の魔物だけでも数百~約1,000体も運用できるのだ。迷宮抗争における"量対量"の視点は不可欠ならば、俺の"量重視"という方向性は間違ってはいない。
主力商品達の能力や特性をデータ化して把握することで、連携や相性なども見極めやすくしていくことができる。
この点、本当にゴブリンという名のモルモットが確保できて良かった良かった。
やや小型の人間モドキであり、【因子:強筋】が絞れる程度には頑丈。個体によっては稀ながら「魔法」への僅かな適性を得ることもあり、繁殖を促進する『ゴブリン牧場』の建設も順調に進んでいる。
……対応すべきは【魔界】だけじゃないからな。【人界】をも見据えた時、やはり人型の生物相手に『性能評価』しておくのが長い目で見て有益だ。
『きゅ……ゴブリンさんがいなかったら?』
『はっはっは、その時はもう少し刺激的な生物を実験材料にしなくちゃならなくなってたな?』
そうならなくて何よりである。
……別に俺自身の『人間性』に恋々としているわけでもないが、進んで捨てる必要性を今感じてるわけでもなし。どこかの銃剣使いのように、一握りの炸薬でありたいわけでもなし。
あぁ、そうだ。
ル・ベリへの対応で、そしてソルファイドへの対応から、俺自身の変わったけれども変わっていない部分がよくわかる。
俺はむしろ『人間性』を好んでいるのだ。
悲喜こもごも、喜怒哀楽、愛憎怨恨。
正気だとか狂気だとかはあまり関係なくて――"人間"の感情を眺めるのが、単に愉しくて仕方がないのだ。
……さて。
話を『性能評価』に戻せば、「耐久テスト」の材料としてゴブリンほど適した存在もあるまい、というわけだ。
『きゅぴぃいい! ゼータさんの回転斬りがサクレツしたよ! ゴブリンさんがツキジになっちゃった!』
『チーフ、ツキジってなぁに?』
『えっとね、創造主様の知識にあった言葉で、意味はね~』
……プライバシーなど無いということか。
どうも「言葉」を学ぶ際に、ウーヌスは俺から結構な量の「知識」を――少なくとも「この世界」で生きていく上では関係ないようなものまで吸い取っていたらしく、時折妙な言葉遣いを平気でしてくるから困りものである。
わらわらと「観客席」に集まりつつある副脳蟲どもは放っておいて――ええい、ちょろちょろと這い回るな、どつき回したろか! なぜ執拗に俺の腰にまとわりつく、そのピンクの脳みそ肉ぷるを擦り付けるのをやめろ! 犬かお前らは!
『きゃっきゃっ』
『創造主様が怒ったー!』
『逃げるんだきゅぴよぉぉ!』
ウーヌスが叫ぶなり、控えていたかのように走狗蟲達がわらわらと壁を走ってきて、ぷるきゅぴギャングどもを一体ずつ回収し、俺から距離を取るのであった。
なんだこいつら、エイリアン的連携能力をそんなことに活用してやがるのかよ……。
まぁいいや、付き合いきれん。飽きたらまた戻ってくるだろ、どうせ。
そんで。
見下ろす先の円形の『闘技場』は、ここ『性能評価室』のメイン設備だ。
そこでは現在、ゼータこと第三世代エイリアン【切裂き蛇】の"鎌鉤爪"の切れ味のテストを行っていた。
その一つ前では、ガンマこと【城壁獣】の耐久テストを行ったところである。
とりあえず、数百キロ単位の岩に潰された程度では大して傷つかなかったのと、一度アンカーみたいな脚で硬い地面に踏ん張れれば――雄の成体ボアファント3頭がかりで引っ張って、ようやくじりじり引きずられ始める、というところだ。
「ヒュドラの首の一撃でも受け止められるだろうな」
と驚嘆したのはソルファイドの言。
うむ、まさしく【硬殻】の因子を持つエイリアンだ。
そして――そのような「現象」あるいは「機能」を特化させているのが、やはり【因子】という俺独自のシステムであることの証左なわけだが。
「次、丸太持って来い」
『きゅぴ! みんな持ったなー?』
「いや、お前らは無理だろ……」
ゼータの"鎌"のテストは続く。
ゴブリンの織る粗布程度ならば下の皮膚と肉と内臓と骨ごと切り裂いてしまえるが、その形状が「鎌」である以上、支点力点作用点的に、密度の高い硬く厚い物を切るのにはあまり向いていない――丸太の表層数センチに"鎌"を食い込ませたゼータを見て、俺はそう結論付ける。
これでは、例えば金属鎧を着込んだ重装備の兵士なんかと殴り合うには不利か。
鈍器、メイスだかモーニングスターだかはその意味では非常に優秀な武器であったというわけだ。内破的な意味でな。
まぁ、そういうものまでぶった切れるようなファンタジー世界の「カタナ」じみた切れ味はさすがに到達しない、か……いや、あと何か、何かの【因子】を掛けあわせれば「第4世代」の進化系ならいけそうな気もするが。
まぁ、現状のリッパースネークの戦闘力は大体把握することができただけ、良しとしよう。
「次、ル・ベリ。お前の出番だ」
本命のテストはこっからだ。
「……は」
「どうした魔人、緊張しているのか?」
「黙れトカゲ頭め……御方様の期待に沿うことは絶対なのだ。失敗など恐れてはいないわ」
はいはい、仲が良い仲が良い。
ウーヌス達が二人の火花散る視殺戦に興奮し出さないうちに、ル・ベリの肩を叩いて先に行くよう促す――と、いきなり助走をつけて飛び降りやがった。
観客席からキヨミズダイブをかました我が【農務卿】だったが――器用に【異形:四肢触手】を使いこなし、かつての「半ゴブリン」時代からは信じられないような身のこなしを見せて、冒涜的かつ優雅なる所作で闘技場へ着地した。
そして、待っていたようにそこへ運び込まれてきたのは、奴隷蟲に第3世代ファンガルの【触肢花】が全部で4株。
まぁ、こいつは本来自力でも這い回れるんだが、やはりスレイブに運ばせる方が若干は移動がスムーズになるしな。
さて。
……こいつを今から、どうすると思う?
緊張した面持ちのル・ベリを見ながら、俺はウーヌスらを通し【触肢花】達にル・ベリに「取り付く」よう指示を下した。
あぁ、アナコンダに襲われる子羊みたいだ。それか迫り来る巨大尺取り虫でも想像してくれ。瞬く間に【触肢花】達がル・ベリに取り付いてゆく。
「ふ、ぐううう、ぬぅ……!?」
痛みともおぞましさとも、得も言われぬ感覚に耐えているであろうル・ベリの背中で――彼の背中に細かな肉根を這わせ、文字通り根を張るように接合していく【触肢花】達。
いや、だって「改造」と言えばル・ベリだし、仕方ないよね。
斯くして、「八本触手」を操る、青い顔をしてぜぇぜぇ息を吐く【真・触手魔人】なル・ベリが爆誕した。やったぜ。
術後は良好。
ぶっちゃけ、単に合体させただけで――いや、むしろ寄生させただけとも言うが、ル・ベリ自身が「追加」された新しい4本の【触肢花】を自らの意思で動かせるわけではないのだがな。
まぁ、そこは【触肢花】側を種族技能【群体本能】に点振りすることで、連携能力を高めさせている。
それに副脳蟲達に"補助"させることも前提とするならば、なんとかなるだろ多分。
ル・ベリは倍の手数で戦うことができるというわけだ。
これほどわかりやすい「戦力増強」もないだろう。
これこそが、『性能評価室』でテストを繰り返す中で得た成果――というか発想の一つが「ファンガル種の装備アイテム化」というアイディアである。
今はまだ【触肢花】ぐらいしか"装備品"に使えそうなものは無いんだがな……いや、装備者が【城壁獣】なら、【属性砲撃花】ぐらいはいけるかもしれないな? 後で試そうか。
俺は【エイリアン使い】としての己の特性をまた一つ理解した、というわけだ。
「じゃ、ソルファイド。頼むわ」
「承知した、主殿」
今度はソルファイドがキヨミズダイブ。
……あのさぁ、階段がちゃんとあるんだから、それを使えよお前ら。
***
「俺がトカゲなら、お前は大ダコだな、魔人」
「おのれ、ちょこまかと!」
ル・ベリが悪態をつきつつ、【鞭術】のボーナスが乗った触手をソルファイドに向けて叩きつける。
こちらはル・ベリ自身の【触手】であり、彼自身の意思通り狙った通りの軌道を描く。特に感情を動かされた様子もなく淡々といなし、ソルファイドが地を蹴って後方へ飛び退く。
「逃がすかァッ!」
ル・ベリは【異形:四肢触手】の操作は既に己が物としており――追加された4本についても、副脳蟲らの補助によって、なんとか操ってのけていた。
ソルファイドに向けて叩きつけた一本をそのまま基点として地面に踏ん張らせ、ちょうど逆さ振り子のように大きく跳躍して一気に距離を詰め、手に持った鞭を大上段から振り下ろす。
空を破裂させるかのような裂帛の一撃だったが、これもまたソルファイドを捉えることができない。
前回――問答無用で蹴り飛ばされた一週間前に比べれば、手加減されているとはいえ攻勢を継続できていること自体が進歩ではある、とオーマは内心評していた。
半ゴブリンであった時代、ル・ベリは戦闘能力はからきしであり、まともな訓練を受けたことも無かった。だが、偉大なる御方様の期待を受けることとなった身。
「今日こそは貴様の化けの皮剥がしてくれるわ!」
思わず半ゴブリン時代の汚いイントネーションが出そうになる。
ル・ベリの目から見てソルファイドは未だ"侵入者"であり、所詮命乞いをして上手く取り入ったに過ぎないのではないか、と思うところがあった。
当のオーマから、竜人ソルファイドから稽古を受けろ、との命じられた時は複雑な気持ちになったし、叩きのめされているうちは非常に悔しい思いをしたものだ。
だが、持ち前の反骨心でみるみる体捌きを上達させ、両手の2本鞭と合わせた「6本の鞭」を駆使し、徐々に喰らいつくようになっていたのがつい昨日のこと。
この日はオーマ自らの実験――もとい指示によって「触手を倍増される」という栄誉を受けたこともあり、今度こそはソルファイドに土をつける気概で望んでいた。
ちなみに鞭はゴブリンが獲物を縛る時に使う縄代わりの丈夫な蔓から作った即席のものである。
少なくともゴブリンに激痛を与えるには申し分ない性能がある。
「10本鞭」を滅茶苦茶な軌道で振るい、しかしその実はソルファイドの手足の一本でも絡めとろうと計算づくに攻め立てる。
「ちッ」
舌打ちをしつつソルファイドは繰り出される「10本鞭」を掻い潜る。
木剣一本のみ使うことを許されている、あくまで「稽古」が主眼の組手であり、さらに砕かれた左腕も回復しきっていない状態。
ル・ベリの成長は目覚しく――手加減しているとはいえ、徐々に押される機会も増えてきている。万全の調子ならば、愛剣を使っていれば、等という言い訳を自らにしないのはソルファイドの美点ではあった。
目的は明快。
主と認めたオーマが同僚であるル・ベリという名の魔人へ稽古をつけろ、と指令を下したのだ。
ならば、与えられた条件下で愚直に任を果たす。
だが、ここまで悪態をつかれるとさすがに苛立ちが蓄積されもする。
主の深謀によって手加減されていることも気づいていないというならば、少し痛い目を見せてやらねばなるまい。
振り下ろされた触手の一つに木剣で痛烈な一撃を叩き入れるが……これは挑発だ。
ル・ベリが苦悶の表情に呻くが、すぐに引っ込められる触手の代わりに鞭が鋭く飛んでくる。
「どうした! さらに"手"が増えたのに、まだ俺を捕まえることができないか!?」
良い動きだと感心自体はしていた。
複数の触手で多方向から打ち据え、また時には波状の如く突いてくる。
ほとんど無茶苦茶な形で「倍増」された分の触手も、まぁなんとか戦術に組み込めてはいるのだろう。手数や立ち回りという点では先日死合ったヒュドラと同系統だが、体格が近い分、攻めの苛烈さはヒュドラ以上に感じる場面もある。
「今日こそは情けない声で啼かせてやる! 本気を出せないまま、地団駄を踏むんだなッッ!」
ル・ベリは元半ゴブリンらしく、手加減をしている相手を全力で打ち据えることを毛ほども卑怯とは考えていない。
挑発にあえて乗り、一度触手を全て後ろに引っ込める。
連日にわたる組手の中、ル・ベリは自らに与えられた特性をほぼ体得していた。
そして2本鞭と共に触手を繰り出しつつ――【因子:伸縮筋】によってバネのように四肢触手を跳ね伸ばす。同時に、同じく【因子:伸縮筋】によって構成された【触肢花】達をも跳ね伸ばす。
通常の魔人族の【異形:触手】ではまずあり得ない加速的な機動を描きながら、時間差で10本がソルファイドを襲う。
弛められた若枝の如く激しくしなる触手を、曲芸のように回転運動で避ける竜人。
だが、押し引きと力捌きが巧みに振るわれた触手が異様な角度で旋回し、ソルファイドの左腕を捉えた。
治りかけでまだ力が入りきらないことなどル・ベリにはお見通しであり、その弱点を突く機会を狙っていたのだ。
「捕まえたぞ! 覚悟しろ!」
ル・ベリがほくそ笑むが、ソルファイドもまたにやっと笑みを浮かべる。
腕を捉えられる刹那、彼もまた右手で他の触手を掴んでいた。
ソルファイド本体を狙わず回避運動を牽制するため放たれたものだが、強引な曲芸はこれをつかむためだった。
ル・ベリが他の触手で四肢を拘束しようとするよりも早く、ソルファイドは動いていた。反発しようとする触手の筋力をも利用して身体を強引に捻らせると共に、つかんだ触手とつかまれた触手を交差させ、その間に潜り込んだ。
ル・ベリはソルファイドの狙いを読みきれず、"弱点"であるはずの左腕を掴んでいるという「優位」を自ら離すという発想がすぐに出てこない。そしてソルファイドは左腕に力が入らない分、ル・ベリによって掴まれていることを逆に支点としたのである。
この縫うような回転運動において、ル・ベリの触手達が【因子:伸縮筋】によって伸縮性が増していたことが逆に仇となった。
ソルファイドは、以前ヒュドラに対してやろうとしていたことを、ル・ベリ相手に実行した形となった。
瞬く間に触手2本が結ばれてしまい、固結びの要領で更に一潜り。
ル・ベリは未知の激痛に苦悶の声を上げ、ソルファイドを離してしまった。
もはや触手は役に立たないどころか、逆にル・ベリの動きを完全に邪魔する重し兼障害物と化す。
そして、ブレイン達を経由したル・ベリと【触肢花】の連携の意外な弱点が露わになる。ル・ベリの痛みへの混乱が、あくまで中継ち過ぎない「エイリアンネットワーク」を通して、触肢花達にも伝わってしまったのだ。
さすがにこれを解除して触肢花だけでソルファイドと戦わせては、稽古と性能テストの目的が損なわれる――そう判断したオーマは、ソルファイドの拳骨がル・ベリの顎を打ち抜いて昏倒させるのを視認するや、模擬戦の終了を宣言した。
***
「お前は触手に頼りすぎだ。さっきやってみせたように、それは武器であると同時に弱点だ」
瞑想しつつソルファイドが淡々と告げる。
その瞑想の姿勢にオーマは座禅を連想するが、ソルファイドは天井へ見えない両目を向けていた。
「同時に、弱点に見えるものを餌とすれば、相手の油断を誘うことができる」
ソルファイドはそのことをヒュドラの衝撃的な戦術から着想していた。
首が絡まり互いに干渉することを嫌うだろうことを"弱点"と考えた結果、逆に自らの行動をヒュドラにとって予想しやすいものにしてしまっていたのだ。
ぐぬぬぬと呻きながら、ル・ベリが傷ついた触手を手当している。
触肢花達はすでに切り離しており、スレイブ達によって回収された後である。
迷宮産の眷属ではない身であり、命素や命石の効果は薄いため、半ゴブリン時代に培った野生の薬草の知識などを生かした手当である。
主オーマは既に次の視察先へ移動しており、ル・ベリも本来ならば随伴していたはずであった。
「……認めんぞ。貴様を信用してはいないからな」
威嚇するように低い声で呟くル・ベリ。
だがその実力は認める他は無かったし、改善点を的確に伝える姿勢から誠意を感じ取ることはできた。
それに――ちょうどよいので、聞いてみたいことがあった。
「貴様は、大陸から流されてきたのか?」
「そうだ。だが、なぜそれを?」
「俺の母は、大陸の出身だったという」
ほう、と呟いてソルファイドは瞑想を中断し、見えない両目をル・ベリに向けた。
「『子爵』に仕えていたメイドだったという……おい、"メイド"とはなんだ?」
「俺もよくは分からないが……何でも主の身辺の世話をすると同時に、暗殺者などからの警護を担う特殊な訓練を受けた兵士らしい。時には暗殺などの任を負うこともあるとか」
「なに? 雌……オンナが兵士だとは。非力な連中にそんなことが務まるのか? 俺の母がそうだとは思えなかったが……」
「さぁな。『伯爵』に聞いた話ではそうだったし、確かにヤツに仕えていたメイド達には油断の無い気配があったぞ? 竜人には、戦士となる者を選抜する儀式があるが――メイドとやらの選別には、それに近いものがあるのかもしれないな」
オーマがこの場にいれば、竜人ソルファイドがル・ベリをからかっているのかと思ったことだろう。
だが、ソルファイドは単に愚直で真面目なだけであった。
そして同時にあまり情報の裏を取らない性格であった。
結論から言えば、彼の「メイド観」は完全にテルミト伯が面白半分に吹き込んだものである。
「……ふん。貴様が『子爵』の手下だったら、すぐにでも縊り殺したものを」
ル・ベリの声に過去を偲ぶ気配と、独特の強がりを感じ取ったソルファイドは静かに問うた。
「『子爵』が憎いようだな?」
「……母の仇、と言うべきなのだろうな」
だが、母が『子爵』の奸計によってこの島へ流されなければ、ル・ベリはこの世に存在していない。
偉大なる御方様に仕えるという至福を得る、今の自分も無かったわけだ。
かといって母の苦しみの原因であることに変わりは無いわけだが。
「ちょうどよいじゃないか、俺は『伯爵』が憎い」
「それがどうしたというのだ?」
ソルファイドが彼にしては珍しく薄い笑いを浮かべた。
「どちらも主殿の敵で、お前の獲物は『子爵』、俺の獲物は『伯爵』だ。ここは一つ、競争というのはどうだ?」
ル・ベリが眉をひそめるが、半ゴブリン時代の名残である「嘲り」の性格から、ソルファイドの提案は面白いとは思った。
「ちょうど子爵の方がヒュドラに仕掛けているようだし、俺の勝ちに決まってるだろう。貴様はボアファントの糞処理係だな」
「相変わらず口汚い。それにまだ……分からんぞ? あの伯爵がただ見ているだけ、とも俺には思えん。まぁ俺が勝ったら、そうだな、一週間ほどその汚い口を閉じていてもらおうか」
オーマの配下たる魔人と竜人の鞘当ては続く。




