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本編-0037 昇爵とファンガル種

10/1 …… とあるお酒の描写を修正・補強

さて、次はエイリアン=ファンガル種の新顔達だ。


挿絵(By みてみん)


まずは【産卵臓】の胞化「第3世代」から。


<エイリアン=ファンガル種>

【揺籃臓】 ◆因子:無し ◆進化元:産卵臓


こいつは簡単に言えば"ゆりかご"的存在である。

魔石と命石を消費する代わりに、中に入れたラルヴァ=エッグを【産卵臓】よりもずっと効率よく孵化させることができるのである。

見た目は……そうだな、三本の野太い触手が絡まりあった「槽」を備えたファンガル種ってところか。

中身が謎の緑色の液体に満たされた、ゴムみたいな有機的な「槽」があり、その周囲で数本の丸太ほどもの太さのある触手がうねうね蠢いている。


この「槽」の中にドボンとラルヴァ=エッグを浸からせ、後は触手の側へ魔石・命石を絶えず補給しておけば――"成長"に必要な分量を自分で勝手に補給してくれるという寸法だ。


『きゅ……地味だね?』


『現状、幼蟲(ラルヴァ)の生産は産卵臓を乱れ配置することで補ってるからなぁ……だが考えろ脳みそ、それは平時だからって見方もできる』


例えば戦時――それも十分な休戦期間(インターバル)の無い長期戦や消耗戦では、どうか?

産卵臓による生産加速はあくまでも資源を過投入することによって得られるオーバークロックじみた作用であって、長期戦には向いていない。

生産する側から戦死し、補充しなければならない状況下で、こいつの有る無しは長く見れば大きな差になろうよ。


しかも、だ。

エイリアン種に先駆けて、「第4世代」の名称が判明しているときた。


その名も【培養臓】。

正統進化的な能力を持つっぽい名前だが、さて。ラルヴァから先の成長を促すといっても既に【進化臓】があるしなぁ……。


試すのはまだ先だな。

胞化に2ヶ月必要とか出てるし。

うーん……指数関数的に変態に必要な期間が増大してるなぁ。「第2世代」から「第3世代」へは、ファンガル種はまだエイリアン基本種と比べてマシ――ということは、エイリアン基本種の「第4世代」はどうなることやら。


【属性砲撃花】 ◆因子:各属性適応 ◆進化元:魔素結晶花

念願の、本格的な"魔法"を扱うエイリアンである……ベータのことは忘れたまえ。

ついに俺の迷宮にも、本格的に魔法の力が手に入ったわけだ。俺自身の魔法習得は未だに試行錯誤中ではあるが――エイリアン式眷属心話ネットワーク略してエイリアンネットワークを通して指示を出して魔法発動させれば、ほとんどタイムラグ無しに、実質俺が魔法を使ってるのと同じことである。

持ち運びができないから魔法のステッキというわけには行かないがな……なんだ、副脳蟲(ブレイン)ども、何か言いたいのか?


……ごほん。

ちなみに【属性砲撃花】てのは総称だ。現在俺が解析済みの魔法因子は火と風の2種であり、それぞれが【火属性砲撃花】と【風属性砲撃花】である。分かりやすくて実に良い……他の魔法属性も同じであろうことが予期されるのもGOOD。


ちなみに【属性砲撃花】の姿形だが、胞化前はブドウメロンみたいにたくさんの"(ふさ)"に分かれていた結晶の苗床が一つに集約されている。

ちょうど肉でできた玉ねぎとでも言えばいいのだろうか……肉でできた葉のような分厚い皮が、何枚も折り重なっている。

あるいは巨人の心臓にでも見えるのが砲撃花達に共通する特徴だ。ひとまず【風】と【火】で同じだったんだから、他の属性も同じだろ。


で、魔法を発動する時は肉皮の葉が、みちゃあと音を立てながら蓮の開花のようにべろんとめくれ――中からボーリング球大の結晶体が現れる。

胞化前の"結晶"生成の機能が、エイリアン進化的な意味では引き継がれているってのは、この間の「因子」に関する考察の通りだな。


で、属性ごとの相違点として、結晶体の色が違うことが挙げられる。火属性砲撃花の時は赤色で、風属性砲撃花の時は緑色といった具合だ。

……ちょーっと肉々しい触手に絡みつかれている「結晶体」だが、鉱石や結晶のような無機物というよりは、人間で言うと、瞳の中にある「ガラス体」みたいな、そんな生物的な生々しさを備えているかな。


さて。

この結晶体こそが、魔法発動の媒体となるのである。


ただ、まぁできることとしては『その属性の魔法の塊を生み出してぶっ放す』ぐらいなんだがな。【魔法の矢】や【魔法弾】【魔法球】を生み出すと言えばわかりやすいだろうか?

うーん、便利は便利だが、自力で動けない本当の意味の固定砲台だな、これは……拠点防衛としては心強いだろうが、いちいちスレイブを連れてきてのんきに胞化させるわけにはいかない場合も多いし。


――待てよ?


あぁ、そうか。

そう(・・)いう発想もありなのか。


『きゅ……創造主様が悪い顔してる!』


『してるねぇ~邪魔しちゃダメだよチーフ~』


【属性障壁花】 ◆因子:各属性適応 ◆進化元:命素結晶花

砲撃花の方と同様の結晶体が中心にあるが、見た目と造形は大分違う。

そうだな、砲撃花の方が「肉タマネギ」だとすれば……障壁花は「肉チューリップ」といったところか。

隠されているのではなく、最初から結晶体が露出している。絡みあった三本の触手が茎みたいになって結晶体を花か実みたいに大切に支えている。

んで、6枚ほどの肉でできた葉みたいなものが茎の根元から生え、上へある程度伸びたところで垂れ下がっている、という見た目である。


その性能は、範囲内の対応する属性魔法効果を、かき消すか減殺するというもの。

【火属性障壁花】にはベータの炎を、【風属性障壁花】には【風属性砲撃花】をそれぞれぶつけてみると、結晶体がそれぞれの属性色で光り、次の瞬間には、魔力の波動が障壁花の周囲一体に展開。そしてその範囲に入り込んだ、対応する属性への"対抗魔法"が発動したのであった。


無論、限界はある。

技能に点振りをしていない状態ならば、範囲は結晶体を中心に半径10メートル円形というところか。

対抗魔法も無制限ではなく、障壁花自身のMPを消費する。それとMPが十分にあったとしても、一撃の威力があまりに高いものは貫通されるかもしれないな……あと、ソルファイドの【竜の息吹】も試してみたが、これは防げず。

魔法的な力が原因で生み出された効力が限定であって、自然現象とか、元々あるものに対しては無力というわけか。だから、自然による火災などには無力である。


ふうむ。

技能の点振り次第では今後化けるかもしれないが、効果が魔法限定とはクセが強い。その分、ハマる相手には徹底的にハマりそうだが……配置や運用には慎重にならなければな。


『でもでも、ベータさん問題は解決できるきゅぴ?』


そうだな、それはある。

あまり移動を制限するというのも"名付き"の趣旨からすると本末転倒。

結晶体が仄かに明るいこともあるし、インテリアとして配置はしてみるかね。


【肉塊花】 ◆因子:硬殻 ◆進化元:奴隷蟲(スレイブ)

スレイブに【硬殻】の因子を与えたところ――その名の通りの巨大な肉壁が誕生した。いや、比喩でも何でもなくて本当にザ・グレートミートウォールなのだ。

図体も非常にでかく、3~4メートル立方の巨大肉壁……某文明育成戦略PCゲームの第四弾で「偉大な肉壁が誕生しました」とかアナウンスされそうなぐらい、肉肉壁壁しているんだわ。


……よくゲリラ豪雨とかで川が決壊したりする時に水を防ぐ、土嚢の壁があるだろ? あれをそのまま「一個の巨大な肉塊」に置き換えたものだと思ってもらってくれて構わない。

だが、デカさと耐久力は、どこぞの労働力を大切にし何でも言って構わないらしい人格者的肉塊並みであり、試しに戦線獣(ブレイブビースト)にボクシングさせたところ、貫通するのに20分はかかった。

通路をとりあえず塞ぐ間に合わせの障害物としては、十分過ぎる性能ではあろう。


だが、これでも「動かない動物型」としてきちんと生きているようで。

時折肉々しく蠢き、千切れたり引き裂かれたり貫通された箇所の"肉"が、みちみちと再生していくのであった。


『そうか……中に隠せるのか?』


なんとこの肉塊。

他のエイリアンを取り込んで、中で生命維持しておく機能を有しているのである。回復や再生の補助はできないが、どういう原理か酸素や水分と魔素・命素の通気性(・・・)に優れており――何かに使えないか、アイディア力が問われるところであろう。


【触肢花】 ◆因子:伸縮筋 ◆進化元:肉塊花

上で紹介した肉塊花に、さらに因子を投入して胞化した「第3世代」ファンガル種の一つである。

その名の通りこいつは巨大な一本の「触手」でできている。ちょうど、丸太のようにぶっといタコ足が地面から生えたような見た目で、紫色の象鼻の如くウネウネとくねっている。

一方で、ファンガル種達に共通の特徴である、地面や壁に向かって這い伸びている"肉根"は比較的小さいため、「植え替え」がかなり容易――。


『きゅぴぃ!? 今、触肢花さん動いたきゅぴ! コワイ!』


……その通り。

こいつ、ファンガル種のくせに自力(・・)で肉根を地面から引き出し、必要があれば触手丸ごと一本な本体で、尺取り虫の如く這って移動して俺の元まで馳せ参ずることができるのである。

んで、また適当な位置を決めたら、ずぶぶと肉根を伸ばしてそこに居直る。


いや、便利なんだけどな。

役割も働きも非常にシンプルではある――その太い触手でもって侵入者を打ち据える、貫く、締め上げる。見た目通りに力持ちであるため、丸太や岩などの質量兵器を振り回させたりぶん投げさせることもでき、シュールな見た目の割には汎用性が高いときた。


奴隷蟲(スレイブ)ちゃん達が運べない重いものも持ち上げられるきゅぴ! 戦いさんも工事さんもできるなんて、まさにブンブン両道てやつだね!』


そうなのだ。

その特性は土木工事にも向いており、言わば生けるクレーン車兼はしご車の役割も果たすことができる。

まぁ、本分がファンガル種なので移動速度が遅いのが難点だが、ファンガル種でありながらも移動までできる、と考えればむしろ有難いぐらいだろう。


早速、数を増やして『土木工事分隊』のスレイブ達に混ぜておくこととする。


【酩酊花】 ◆因子:酒精 ◆進化元:肉塊花

肉塊花の胞化は、萎みつつ『スポア』状態となり、その後、蕾が開花するように花開いて新たな肢体が露わになる――という手順である。

それは触肢花も、この酩酊花も変わらない。

ただ、まぁエイリアン故に形態は全然異なっており、酩酊花の見た目は、ラフレシアに切り株みたいな下半身が生えたような姿である。あるいは腰掛けるのにちょうど良さそうな切り株の上に、ラフレシア的肉塊をどちゃりと乗せたようなものか。


ラフレシアの花弁から、じわりと緑色(・・)の透き通った液体が染み出し、ちょうど"器"になった部分にポタポタと溜まっていく。色はうっすら緑がかっており、それがエイリアンの「体液」を元にしたものだということが、嫌でもうかがえる。

……そして、漂う仄かな芳香は、かつて前いた異世界の『火の国』南方で火山噴火を鑑賞しながら飲んだ、強い芋焼酎を思わせるものだった。


『わくわく!』×6


あ?


『どきゅぴどきゅぴ、わくわく! 創造主様のあられもない酔っ払い姿をさつえいするんだよ!』


いや待て、その擬音語はおかしい。つうか無理矢理だろお前、絶対わざとだろ、なぁ?


「きゅぴぃ?」×6


こ い つ ら。

思わず脳みその酒蒸しを6人前作ってやろうという衝動に駆られたが、思いとどまった。これも【強靭なる精神】の恩恵か……。


そんな緑がかったエイリアン酒なんてねぇ。私は遠慮しておきます……と言いたいところだが。

まぁ、予想外の香りに、この世界には無い"懐かしさ"を感じたのも事実だ。だから試しに指ですくって舐めてみると――思った通り。一口だけでも舌が焼けるように強い。強靭なる魔人の肉体であってもほんのりと酔いが回ってくるような感覚である――久しいな、この感覚。

だが、ふむ。アルコール度数がかなり大きいな……そして味がやっぱり芋焼酎。


『きゅぴ。創造主様、変身とか変態しない? わきゅぴわきゅぴ』


「いや、何期待してんのお前ら。俺の眷属から生み出された酒なんだから、俺の体に悪いはずがないだろ……無いよな?」


こうなれば人体実験するしかあるまい。

ということで、ル・ベリとソルファイドを呼びつけて飲ませてみたところ。

面白いことに、それぞれ味に対する感想が異なっていた。


「奇妙だな、そして懐かしい。里の『火肺酒』のような味がするが、主殿、なんだこれは?」


とはソルファイドの言。

そして渋るル・ベリだったが、ソルファイドによって達人の体捌きで首根っこを押さえつけられ、直接ラフレシアに頭を突っ込んで飲ませられた一言がこちら。


「まずい、"酒"というのはなんてまずいものなんだ……! まるで『麝香草』を煎じ詰めた、ゴブリンどもの儀式粥でも飲まされたかのようだ!」


両者に聞き取るに『火肺酒』も『麝香草の煎汁』も、かなり強烈な酩酊効果を催すものだということ。つまり、飲む者によって味が変わっている(・・・・・・・・)、それも一様に「強い」酒に感じられるように……という特徴が判明したのであった。

などと考察していると、ウーヌスの様子が急におかしくなった。


『きゅ……きゅッ……? きゅきゅぴぴぴっきゅぴ! 頭が痛くて全身がやけただれるぅううう!』


『大変だ、チーフが酔っ払った!?』


『僕に隠れて、おいしいものの独り占めは許せん……きゅおおおおっぴぴぴっきゅきゅ!?』


『あははは! やっぱりイェーデンも同じようになっちゃったね』


『わーい、モノの言った通りだね~』


『モノ……こうなるの分かってたよね?』


『あはは! これが五臓六腑に染み渡るってやつだね!』


いやいやいや。

お前らのどこに胃袋や十二指腸が詰まってるんだよ……脳みそしかないのに、どうやって酔っ払えるんだお前ら。あれか、世に「幻肢痛」やら「想像妊娠」やらがあるとは聞くが、まさか脳内麻薬か何かのちからで「幻酔」と「想像酩酊」に陥っているとでも言うのか――疲れるから、もう深く考えるのはよそう。

好奇心に負け、きゅぴきゅぴと"酒盛り"を始めた脳みそ達なんぞ放っとくに限る。


……で。

何の役に立つんだろうな、この「エイリアン酒」。


   ***


さて。

"酒盛り"も一段落したところで、魔界の社会体制と統治制度において、重要な位置を占めているであろう『爵位』について、考察を挟んでおく。

俺は最初『准男爵(バロネット)』で――『男爵(バロン)』を経て、現在は『上級男爵(アークバロン)』となった。


キッカケは、最果て島の大部分を「領域」に組み込んだことか。

……まさか、物理的な意味での"支配領域"が『爵位』の上昇条件とは予想外だったが――迷宮領主(ダンジョンマスター)のルールを考えれば、納得はできるかな。


前にも述べたが、【領域定義】は、その土地か空間から"にじみ出る"命素や魔素に対する優先権の主張みたいなものだ。

そして迷宮領主が支配する迷宮の経済は、その命素と魔素の収支に拠って立っていると言っても過言ではない――"施設"を建てようにも"兵隊"を生み出そうにも、この二つのリソースは必須なのだから。


それに……迷宮領主(ダンジョンマスター)同士の迷宮抗争(ダンジョンバトル)には、3つのステージがあることが、抽出臓の中で迷宮核(ダンジョンコア)の知識と戯れている中で分かった。


まず、迷宮抗争の華とも言える、互いの眷属同士を戦わせる【眷属戦】。

次に、互いの技能等も含め様々な手段と対抗策が入り乱れる【情報戦】。

そして、拠点攻略のために『領域』の『支配圏』を奪い合う【領域戦】である。


迷宮経済を破壊されることは、それだけで眷属の軍団を維持できなくさせられるほどに致命的な脅威であり、【領域戦】という視点を欠くことは絶対にできないだろう。

そう考えたからこそ、測量がてら最果て島を全体を『定義』したわけなのだが――それが爵位の上昇に繋がった、と。


どうも、『爵位』を与える存在が魔王ではない(・・・・・・)ことは確実だな、こりゃ。

まぁ、十中八九迷宮領主と迷宮核という仕組みを作った存在だろう。


全き黒と静寂の神(ザルヴァ=ルーファ)】。

かつて神々が争った折、【諸神(イ=セーナ)】と相討ちになった後に、新たに【魔界】という名の異次元を創造して、自らを信奉する神や人間達の一派を率いて撤退。

その後、さらに別次元で深い眠りについているとされるが――迷宮(ダンジョン)システムによって、明確に【魔界】のルールに関わっている存在であるが故に、魔人族はおろか、魔界に生きるあらゆる生命にとっての絶対者たる存在である。


さて。

ここらで思い出したいのが【技能点】に関する世界ルールだ。

オフィリーゼの如き眷属神達でさえ、そういう干渉手段を持っているのだ。

それ以上の手段を――例えば『爵位』を与えるとか――【黒き神ザルヴァ=ルーファ】が持っていたって、特に驚くほどのことでもないだろう。


だが、そうすると【魔王】って結局なんだろうね? という疑問が生じる。


『きゅ……おー様でしょ? 僕達にとっての創造主様みたいな!』


『甘いな、脳みそぷるぷるエイリアンのウーヌスよ――少し"歴史"の講義をしてやろう』


かつて、俺が人間だった時の、魔法なんて存在しない世界の歴史。

そこでは『(king)』とは、爵位や封土を与えた者に対して、そいつがある一定の地域を支配する「正しさ」を保証する存在であった。難しい言葉で言えば『正統性』を与える『権威』という役割を担っているわけだ。

だが、そんな"王"自身の権威の『正統性』は、何によって保証されているかわかるだろうか?


『きゅきゅ、かみさま?』


外れでござい。

「この世界」の話じゃなくて「前の世界」では、少なくとも神という存在は証明されてはいない。


『王』が『王』たる所以は、逆説的というか上の話とニワトリタマゴなんだが、そうした数多くの貴族達にとって『権利の擁護者』であるという機能を持つことそれ自体なのだ。

その意味では、王と貴族という関係は極めて双方向的なものであって――貴族を気分だけで取り潰すというのは、自分で自分の『正しさ』を掘り崩す愚行。たちまち、他のより『正しい』有力者に取って代わられる隙となってしまう。

斯くの如く、中世から近世のヨーロッパにおける"フューダリズム(封建制度)"は、アジア諸地域のそれとは違って、かなり面白い展開を見せたわけだが……これ以上は趣旨が逸れていくか。


――とまぁ、そんな俺自身の知識(・・)をベースに迷宮核(ダンジョンコア)が【魔界】の『爵位』を翻訳しているとしたら?


【魔王】のみに与えられた権能は、魔界の神から「異界の裂け目」と「迷宮核」の誕生等に関する神託を受け取れること。

なるほど、権威は非常に高そうだし、野心ある者にとっても純粋に軍事的な意味でも重要な情報源だ――が、ここで一つの問題が生じる。


【魔王】が神託を受け取って、いち早く新しい迷宮へ部下を派遣して勢力を伸ばそうとも、その部下が必要以上の勢力拡大を画策することを、止めたり縛ったりする『正統性』が無いのである。なにせ、それは神が直接司る権能であるが故に。

【大戦】前の覇王的な魔王ならともかく――権勢が地に堕ち、迷宮領主達は好き勝手やってる戦国時代な現状だ。魔王のみが受け取れる"神託"すらも、所詮は大小諸侯達の"権力ゲーム"の一要素に堕しているのだろう。


この意味において、【魔王】から見た『迷宮領主(ダンジョンマスター)』は、中世ヨーロッパ史で喩えれば一種の『聖界諸侯』じみたものである。世俗の権力(パワー)が及ばない――『迷宮領主』達にその地位と力を保証している"権威"は魔王ではなく【黒き神】なのだからな。


……かく言う魔王自体も【黒き神】にその地位を認められたに過ぎないしなぁ。

じゃあもう【黒き神】が迷宮領主(ダンジョンマスター)達に直接指示を下せば良いじゃないか、などと思わないでもない。

しかし【魔王】に従うように魔人貴族達を導いている、といった様子さえ無し。


俺が、たかだか(・・・・)領域の広さという"機械的な"条件によって昇爵したのだ。【黒き神】に特別な思惑が無いのならば――【魔界】の混沌に酷く無関心であり、放置しているようにすら見える。

少なくとも、【魔界】の混乱をどうにかしようという意思が感じられない気がするのは、気のせいだろうか? 傷ついて眠っており、干渉する力が無いというだけならば、まだ理解できなくもないが――【魔王】には丁寧に神託をしている可能性がある。テルミト伯か、リッケル子爵が、信託を受けた【魔王】の手先でないとどうして言えるだろうか。


だとすると、わからない。

神の"思惑"というものが、さっぱりわからない。

わからないからこその"神"だろうが――。


「【黒き神】とやらは、何が目的なんだろうなぁ」


迷宮領主(ダンジョンマスター)の『役割』が、ひょっとしたら一般的に知られているものよりも遥かに複雑で奇妙で深淵に両足突っ込んだようななものなんじゃないか……という一週間前の"気付き"に通じる薄ら寒さ(・・・・)を感じる。


……まぁ、今はこれ以上考えても行き詰まるだけか。

考察を魔界の貴族どもに戻そう。


【三大公】に【七公爵】。

【五上級侯】に【十五侯爵】。

単純に爵位の高貴さだけならば、これら30名の上級貴族が存在する。


だが、【黒き神】が機械的な基準で昇爵させているだけであるならば、爵位の高さは迷宮領主(ダンジョンマスター)としての潜在的な勢力の強さを表しはしても、【魔界】における"政治的"な存在感や影響力と、必ずしも直結するわけではないだろう。

こうした上位者達と対立している場合、彼らに敵する力を持った『伯爵』や『上級伯』なんかを手駒として育て、支援しようという戦略を【魔王】が取ることは、十分に考えられる……そういや盗撮野郎(テルミト)は腐っても『伯爵』だから――うわぁ、それなりに権力も実力もあるってことか。


それに、下剋上、裏切り、騙し討ち、掌返しと何でもござれな戦国時代だ。

上級貴族達だってお互いに争ったりしているだろうし、混沌と先が見えないね――こりゃあ【人界】に再び組織的に攻め込むなんてことが、500年もの間、行われなかったのも頷ける。


単純に『迷宮領主』が数百人はいることを考えると、それと同じ数(・・・)だけ"裂け目"があるわけで――ああ、すると、統一が妨げられたままでいるのは【人界】側にとっては都合が良いのか。


……利益を受ける存在が物事の黒幕だ、というのも一つの考え方ではあるが、さすがにこれはどうだろうな、【人界】側の情報が足りないから何とも言えないか。


しゃあ無し、この件は一旦ここまでだ。


もう少し実利的なことも検討しておこう。

現状、【上級男爵(アークバロン)】となったことで何か変化は感じないが――仮にも、魔界の"防衛"の要として生み出されたのが迷宮領主(ダンジョンマスター)だ。本当に単に呼び名が変わっただけ、とは思えないんだよね、【男爵】になったことで"称号授与"の権能が与えられた、って可能性もあることを考えると。


今後また昇爵できた時に、なにか新たな特典や恩恵が与えられないか、ちょっと注視しておくようにしようかね。

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