本編-0035 戦果とエイリアン=ネットワーク
H31.1.20 …… 技能の説明に関する記載を追加
「……御方様、一体なんなんですか? この生物は」
「おぉ、おぉ、さすがは我が第一の配下だ、ル・ベリ【農務卿】よ。俺も同じ感想を持ったのだ! そう、この世界は未知と不思議と驚きというスパイスに満ちている、ということさ。それはまさに大航海時代を夢見たカロリング=ルネッサンスの爆発のごとく、ネーデルラントとイタリア半島では――」
「主殿、すまんが一体何を言っているのだ? どこぞの別大陸の話か?」
ええい、真面目な顔して突っ込んでくるんじゃない。
ほら、ル・ベリが唇噛んで眉間に青筋浮かべてるだろ。彼のイエスマンさをたまには見習うんだ!
ごほん。
ル・ベリの嘆息を軽く聞き流し、ソルファイドの空気の読めない突っ込みを黙殺。
そして、さっきからきゅぴきゅぴ言いながら俺の腰辺りにぐるぐるまとわりついてくる、小学生大の脳みそ……もとい【副脳蟲】にされるがままになっていた。
なんだこいつ、犬か。
今の俺は多分、生暖かい引きつった微笑みを浮かべている、表情筋のひくつき具合からそんな感じがする。
ええい、なんで上半身のピンク色の脳みそ部分が、そんなにぷるぷるしているんだッ……! 頼りない海藻みたいな触手のなり損ないみたいな4本の肢が、這うたびにぷるぷる震えているんだ!?
――気を取り直そう。
落ち着くためにステータスでも見てみよう、そうしよう。
【基本情報】
名称:副脳蟲
種族:エイリアン=ブレイン
位階:3〈技能点:残り8点〉
HP:45/45
MP:11/11
【コスト】
・生成魔素:540
・生成命素:360
【スキル】~詳細表示
新たなるエイリアン種である『エイリアン=ブレイン』の特徴だが――強化された【同調】系技能だな、やはり。
それから、面白い耐性もそこそこ兼ね備えているな。
【魔法抵抗】を二つ持ってるとか、重ねたら効果が相乗しそうだな? 【魔法盾】として活用できるかもしないが――うーむ。
いや、どう考えても戦闘には出せないだろ、だってぷるぷるしてるんだぜこいつの脳みそみたいな身体は! ……最低限、いろいろと工夫して、もう少し頑丈にさせないとダメだろうが、ネタビルドとしては案外ありかもしれん。
で、後は『秘蹟』とやらへの抵抗、か。
「秘蹟」または「神威」と呼ばれる、魔法とは別口の超常現象を引き起こす仕組みであるが――これは【魔界】よりも【人界】側でメインの現象であるようで、詳しい知識は迷宮核には無かった。将来的に地道に調べる他は無かろうかな。
まぁ、俺の目的からすればビルドは実質一択だ。
迷わず技能点8点を全て【同調対象増加】ルートにつぎ込む方向で点振りだ。無論、こいつに何より期待するのは、迷宮「管理」の補助であるからだ。
結果、【群体本能】がランク5、【精神同調:同系】がランク3となった。
それでは……あまり気が進まないが、躊躇していても仕方がない。
E.T.に遭遇した少年の心境で、腹括って【眷属心話】を発動するとしよう。
『聞こえるな? お前に名を与えよう、ブレイン。今日からお前は"ウーヌス"だ』
副脳蟲第1号改めウーヌスが、また「きゅぴっ!」と甲高い奇声をどこからか発しながら、ぷるぷる震え始めた――と、同時に。
「うぉ……ッ?」
俺の中に、膨大な量の「エイリアン語」とも言うべき雑多な信号や図形、点滅のようなイメージが【眷属心話】を通して送られてきたのである。送り主はどう見ても目の前の巨大這い寄り脳みそだが――それだけに留まらない。
逆方向の情報の動きも激しく生じていた。
「エイリアン語」が一方的に膨大な量が送りつけられてくるのと同時に、俺の頭の中からも、まるでミキサーにでもかけられるような感覚で、様々な"情報"が吸い取られるような感覚に少し目眩がしかける。
だが、なんとか耐えられたのは、同じ"感覚"を【抽出臓】で散々味わったせいだろう……ウーヌス、お前もか!
『きゅぴ! 創造主様! これなら、僕の言うことが分かる?』
――嗚呼、なるほどね。
俺が「エイリアン語」を学んだのと同様、お前もまた「俺の言葉」を理解したというわけか。
伊達に、俺の【脳みそ】から絞り出された因子が元になったわけじゃないな? 驚きはすれど、理解はできるし、まぁ納得できなくもない。
いろいろ言いたいことはあるんだが……これはこれでやりやすいんだろうから、好きにさせておこう。
『きゅぴ!』
……。
だから、どこから鳴き声だしてんだこいつ。
しかも今は心話での会話中だろうが。
……謎だ。謎すぎるから、気にしたら負けなのだろう。
「ル・ベリにソルファイド、まぁ見てろ。ちとファンシーな姿だが、こいつは、まさしく俺の迷宮の"起爆剤"になる」
「きゅぴぃ?」
だから、口も無いのに謎の怪音を脳みその身体のどこかから発するんじゃない。
削れるだろうが。
『――早速だが、ウーヌス。お前の仲間――エイリアン達と心話で繋がってみせてくれ。俺の代わりに、どれぐらいまで一度に管理できる?』
命ずるや、四本の貧弱な触手足の一つをぷるぷると挙げ、さらに、ぷるぷるきゅぴきゅぴしながらウーヌスが体を震わせ始める。なんだ、この……なんだこの、力が抜けるような"踊り"は。
ええい、突っ込まんぞ――だが、結果的に十数秒間無心に、ぷるると震えきゅぴぴと呻く脳みそを見つめる、俺と魔人と竜人と。
『えっと! みんなを見つけて繋いだよ! でも僕の今の力じゃ、同時に50から100体ぐらいが限界かもだきゅぴ』
なぜだ、なぜ頑ななまでにその鳴き声を入れようとするのか。
おのれ、これはもはや戦争だぞ……徹底的にスルーしてくれるわ!
――まぁ冗談だか現実逃避だかわからない一方的な神経戦は【並列思考】で脇に押しやっておいて。こんなことのための【並列思考】じゃない気がするんだが、俺の精神衛生の保全も重要だ。
気を取り直そう。
今のウーヌスの発言から、俺は"賭け"に勝ったことを確信した。
何がって?
すごいぞ。俺は今、引き続きウーヌスと【眷属心話】で繋がっているんだが――それを切ることなく、なんとアルファや地上に脱走した幼蟲や、『環状迷路』の拡張作業中の奴隷蟲に至るまでの、数十というエイリアン達とも同時に繋がっているのである。
それも、ウーヌスを通して、だ。
喩えるならば今までは1対1チャットしかできないLI◯Eだったのだ。
しかも起動するたびに電力の消耗が激しく、乱発もできない……便利だが非効率的、というジレンマがあった。
――ウーヌスの存在は、それも根本から変えてしまった。
迷宮領主にとっては「最も基礎的な」交信手段である【眷属心話】を――ウーヌスは1対複数チャットと化してしまった。
しかも電気代(MP)はウーヌス持ち、というサービスの良さ。
「お前、すごい脳みそだったんだな……」
そうなのだ。
それは事実として認めなければならない――【眷属心話】の唐突なるグレードアップによって、「第3世代」達との繋がりのせいで感じていた、例の"頭の重さ"が、まるで幻のように消え失せてしまったのだから。
『ウーヌス、ちょっとル・ベリとソルファイドにも……お前の力を見せてやれ』
「きゅぴ!」と今度は心話ではなく現実の方での鳴き声。
おそらく俺と同じ疑問を持ったであろうル・ベリだったが――すぐに、それ以上の驚きと戸惑いの表情に変わったようだ。
「どうだ? ル・ベリ。これが俺の眷属達の【言葉】だ」
「御方様は"化身"であらせられたか!?」
いや、大袈裟な……まぁ、なんのことはない。
軽く「エイリアン語」の世界を紹介してやっただけなんだがね?
ちと刺激が強かったか? だが、もちろん狙いはある。
ソルファイドは完全にオマケだが、ル・ベリは元【獣使い】の経験があるためか、割りと奴隷蟲と走狗蟲の扱いが上手なんだよな。
だから……ル・ベリが「エイリアン語」を多少なりとも理解できるようになれば、いや、ウーヌスと連携できれば、相乗効果はうなぎ登りだろうよ。
『50体以上か、思ったよりも多いな。OK、それじゃお前と同じ【副脳蟲】を、とりあえず5体作っとくか。進化完了次第、俺から名前を与えるから、生まれたら連絡してくれ』
『任せてだきゅぴ……生まれたばかりの僕が、早くも偉いさんになるんだね!』
『6体そろい次第、エイリアン全てをお前達の"ネットワーク"内に入れるんだ』
『きゅぴぃ? なんで?』
うん?
おや、俺の意図が伝わってないな――よもや、知性はあれど、知能や理解力まで「小学生」並みとか言わないだろうな……。
『おほん。ル・ベリとソルファイドも聞いておけ――どのエイリアンが、どこで何をしていようと、俺が望むタイミングでそいつに指令を送れる。お前達で、そんな通信連絡体制を作るんだ。そのために追加のブレインが必要なら、何体でも作って構わない』
『きゅぴい!』
ともあれ……これで、俺自身の【並列思考】と合わせて、いくつものことを同時多発的に処理できるようになったわけだ。
何よりも【心話】による指令可能距離の拡張と、俺自身にわかる「言語」で的確に情報を伝えてくれる【副脳蟲】達とのシナジーが素晴らしいのである。MPの限界という制約もほぼ気にせずにすむようになったしな。
さて――ん?
早速ウーヌスの『エイリアン式眷属心話ネットワーク』を通して、入江でヒュドラの監視役に徹させていた隠身蛇の1体から緊急の連絡があった。
これは……すごいな。
隠身蛇の言いたいことがみるみる"翻訳"されて、すっと伝わってくる。
今までの1対1チャットでは、一度『エイリアン語』を俺の頭の中で自分で翻訳しなきゃならなかったんだが――今は全部ウーヌスがやってくれるのである!
「ル・ベリ、ソルファイド。ヒュドラの方で動きがあった――島の"要塞化"のペースを早めないといけなさそうだ」
「御方様。一体何が起きたのでしょう?」
「喜べ、ル・ベリ。ちょっかいをかけてきたのは、『子爵』の方で確定だな」
隠身蛇の報せより。
ついに「流刑船」がその"正体"を現したようだ。
それは、どうやら樹木型の魔獣が組み合わさってできた「船」だったようで……いつも通り数十秒後にはヒュドラによって粉々にされたようだが。
すると、流れ着いてきた木材は「魔物の死体」だったってわけか。
【情報閲覧】には"死人に口なし"ルールがあったな、そう言えば。
嫌な感じだな。ろくに情報が得られないまま、謎の「実験」を固唾を飲んで見守らざるをえないわけだが――。
格上相手の戦いで、どうなるか。
敵は俺の情報をほとんど知らないだろう。
そして俺は、実際に戦ったことがあるというソルファイドから、わずかばかりの情報は得ている。
この、毛が生えたようなささやかなアドバンテージをどう活かすか、だ。
***
さて。
それじゃ次は、この十数日の戦果を改めておさらいするとしますか。
実際はちょくちょくランナーや【隠身蛇】でゴブリンを数匹単位でさらったり、屠ったりしているんだが、そういう細かいのは省いておく。
あぁ、あとあまり距離が離れすぎて眷属がゴブリンを殺した場合、それは俺の迷宮領主としての「経験」とは見なされても、【眷属経験点共有】の対象にはならないぽいことが判明している。
俺が迷宮だと「領域定義」した範囲内では無制限であるのだが――そうでない箇所については、おおよそ200~300メートル離れると、もうダメだった。
ふむ。
開発状況や防衛体制の整備状況の確認と、「第3世代」達の進化完了を待つ間、島全体を巡って測量と【領域定義】の限界を調べてみようかね?
<殺害数(迷宮防衛戦&9氏族陥落作戦)>
・ゴブリン戦士長……29体
・ゴブリン戦士……490体
・ゴブリン斥候……192体
・ゴブリン投槍士……73体
・ゴブリン吹き矢使い……25体
・ゴブリン投石士……37体
・ゴブィザード……15体
・ゴブシャーマン……1体
・ゴブリン(非戦闘系)……254体
<捕獲数>
・ゴブリン奴隷……321体(調教&選別済)
→ 幼体……208体
→ 雌……74体
→ 雄……39体
・ゴブィザード……3体
生き残った捕虜に関しては、全てル・ベリが丁寧な「選別&調教」を行った甲斐あってか、見事に職業が全匹『奴隷』になっていた。これも【奴隷監督】の効果であることは、以前紹介した通りである。
で、俺が最終的に得た経験点だが――駆除したゴブリンの数だけで言えば2氏族殲滅作戦の時の5倍近かったものの、位階は8上昇するにとどまった。まぁ、2氏族の時はボアファントも何体か屠って位階が12上昇だったわけだがな。
……ランクMAXの【経験点倍化】が乗って位階8上昇か。実際はもっと少なかった可能性があるのかもしれないと、有り難がるべきかな? 少なくとも、ゴブリンでは"稼ぎ"辛くなってきたということだろうか。
うーん、俺自身にも【眷属技能点付与】みたいな、追加的な技能が得られる手段は無いものか。
まぁ、上昇した分の技能点「24点」をどう振ったのか、述べておこう。
【基本情報】
名称:オーマ
種族:魔人族
職業:迷宮領主(融合型)
爵位:男爵
位階:25〈技能点:残り0点〉
HP:310/310
MP:410/410
【スキル】~詳細表示
まず、ビルド方針通り眷属強化系技能で優先していたのをランクMAXにした。
どれもランクMAXになった途端に、かなり効果が上昇したのが特筆すべきところだな。
【眷属技能点付与】では、位階8の時には「位階3ごとに技能点が追加で1点付与」だったものが「位階2に」となった。これは当然、遡及で適用されているので、つまりまた俺の可愛い眷属達に追加の点振りをする楽しみがあるということだな!
それから【眷属維持コスト削減】でもエイリアン達の維持魔素・維持命素が2/3カットだ。3倍エイリアンを所持できるようになった、と言っても過言ではない。地味だが、強力な効果だ……まぁ、普通にこれに振ってる迷宮領主は他にもいるんだろうがなぁ。
それから、眷属強化系はここらで一旦打ち止めにしておいて、【領域】系技能に振り始めた。
最果て島のゴブリン氏族達を屈服させただけでは、政治的には最果て島は俺の"勢力範囲"となるが、迷宮領主的にはまだ正式に【領域】と【定義】されたわけじゃあない――つまり魔素と命素を俺が利用できる状態にはなっていない。
ほれ。
次に、俺の迷宮を強化するために何が必要であるか、これで見えてくるな? まぁ迷宮領主としちゃ「定石」だろうが――島全体を、地上部も地下部も俺の「領域」と化する。
そして一気に迷宮経済を強化し、エイリアン軍団を拡張する。
そのためには、さっきも言ったように【領域定義】の限界範囲や、これを前提技能とする【領域拡張】の使用感を試す必要があるだろう。
すっぽり全部を「領域」に入れられればそれで良し。
もし限界があるならば――思考停止気味に放射状にするのは、ちともったいない。だが、技能説明を見れば「再定義」もできるようであるから、あえて"迷宮外"にするという選択肢も出て来るかもしれないな。
狭い領域で自己完結して引きこもるならそれでも良かろうが、魔界・人界の両方で将来的に支配地域を広げる心算ならば、どうしてもゲリマンダー的な領域設定が必要な局面が出てくるはずだ、と思う。
というわけで、ちょっくら地上部の整備状況の確認がてら、最果て島全体を踏破しつつ『領域を定義』してこようかね。




