本編-0032 竜人のビルド考察&因子に関する考察
【28日目】
ソルファイドを【抽出臓】へ容赦なく放り込み、因子を絞り取る間のこと。
実験がてら【抽出臓】越しに改めて【因子の解析】をかけてみたんだが……非常に面白い、いや、厄介なモノを偶然発見してしまった。
【基本情報】
名称:目玉くん第364号
種族:盗視る瞳
職業:???
位階:???
【スキル】
???
ナンダコレハ。
いかんいかん、ついゴブリンみたいなしゃべり方をしてしまった。
とはいえ、どこから突っ込んだものか……とりあえずこいつは俺以外の迷宮領主の眷属かなにかで、間違いない。
俺の【情報閲覧:弱】で見ることができない情報がいくつかある――どう見ても格上の迷宮領主の眷属と見て間違いない。
まぁ、なんとか名前と種族から、多分スパイ用の盗撮カメラみたいなものだと推測できたんだが――ここまでセンス悪いと逆に清々しいネーミングだなぁ。
で、おそらくこの「目玉くん」を送り込んできたヤツと思われる、ソルファイドの前の雇用主は『テルミト』という名の【伯爵】で、目玉コレクターだという。権能は……【人体使い】、もうこいつがクロ確定でいいな。
なるほど、なるほど、そりゃ「364号」にもなるのかもしれないが……問題なのはこの「目玉くん」が見つかった場所だ。
こいつは、ほぼ癒着と言って良いほど、ソルファイドの眼球に寄生していたのだ。
目玉が目玉に寄生するとか自分でも何言ってるかよく分からないが、魔素と魔力の微弱な流れが感知されたので、とりあえずゴブリンに織らせた粗布に包んで、何も「盗視」できないようにさせておいた。
まぶたの裏側から文字通りソルファイドの片目に貼り付いていたこいつは、【情報閲覧】では発見できなかったのだ。
俺の【因子の解析】で、なぜか時間差でソルファイドから因子を二回得られたところから、判明した。
その事実をソルファイドに告げるや――実に思い切りの良いことに、自分で自分の目玉を抜き出しちゃったんだよ、この漢。
いくら【抽出臓】の中で吸われて吸われて暇してたからといって、いきなり【抽出臓】から腕を突き出してたった今えぐりだした目ん玉を地面に放り捨てないでいただきたい。
俺の【強靭なる精神】をこれ以上上昇させようという試みはやめるのだ!
……なんだよ、燃え尽き症候群は一時的なものだったのか?
【竜の憤怒】に感情全部焼き尽くされたんでないの? なんか、構ってやって損した気分になりつつも、俺は【盗視る瞳】を別の【抽出臓】に放り込んだわけだ。
テルミト伯とやらは眼球好きに加えて、盗撮趣味の特殊性癖野郎っと。
直接戦闘力が高い眷族が多そうには思えない……というのは驕りだな。
ソルファイドはあくまで使い捨ての傭兵として利用され、伯爵の中核戦力を見れたわけではない。
だが、目だけでなく耳や鼻でできた魔物を眷属としていたらしい。後は重量級の魔物として――五本指でカサカサ這いまわる象並のデカさの「片手」がいたとか。
俺が言えたことじゃないが、生理的にグロい眷属だなぁ、おい。
……まぁ、こんな手段で島を盗撮しようとしたのだ。
ヒュドラを打ち破れるほどの戦力は無いと見て良いだろう――今のうちはな。
ソルファイドの言によれば、元部下の子爵と全面的に抗争している現在、正攻法を取る余裕が無いとも言えるのは、俺にとっては朗報。
うん、やはりこういう情報が得られたという意味では――ソルファイドを生かして捕らえたのは、間違った判断ではなかったんじゃなかろうか。
次の一手は、島全体の迷宮化というところだな。
とりあえず今は、一応第二の配下となった男の紹介と行こうか。
【基本情報】
名称:ソルファイド=ギルクォース
種族:竜人(火竜統)
職業:牙の守護戦士
位階:28〈技能点:残り34点〉
HP:600/600
MP:275/275
すげぇな、称号4つとか。ただし俺は除く。
だが『盲目なる者』とか――明らかに今取得した称号だよね? 違う?
んーむ、両目が見えなくなっただけで取得されるとしたら楽だが、どうだろうね。
ゴブリンでの実験リストに入れておくかな。
――ざっと見てソルファイドは剣士ってところだ。
職業こそ上位にしてレアっぽい【牙の守護戦士】になっているが、その前は【竜人剣士】というものだったことが継承技能からうかがえる。
当人に聞くと、他に槌を扱う【角の守護戦士】と槍を扱う【尾の守護戦士】、弓を扱う【翼の守護戦士】がいて、ソルファイドの世代では「尾」以外の三守護戦士がそろっていたという。
なるほど【竜人】の種族技能にはそれぞれと対応するような、身体変化を促す技能が存在している。
これは俺やル・ベリが属す【魔人族】で言う【異形】に相当するようなものだが、どういう身体変化になるか選べるだけ、竜人の方が安定性がある感じだろうか。
あと種族技能で気になるのは、括弧書きになっている『◯竜統』かな。
これはちょうどそれぞれの竜人の祖先となった【竜】の属性に対応しているようで、ソルファイドの場合は彼の家名ともなっている【火竜ギルクォース】の系譜にある『竜人』というわけだ。
おそらく、何竜の系譜であるかによって、竜人のスキルテーブルは共通技能とそうでない竜統ごとの技能があるんだろう。
ちょうど、ル・ベリが【魔人】種族の『半異系統』になったのと同じような現象。
――あるいは、あれか。系統の違いによって、もしエイリアンみたいに違いが大きければ【系統技能】としてテーブルが独立するということもあるのかもしれんな。
まぁいいや。で、雑感だが高火力アタッカーではあるものの、タンク役には厳しいかな、というところ。
回避盾とするほど敏捷さが吹っ切れているわけでもないし、耐性はそこそこ備えているが、【竜人】であるとはいえ、飛び抜けた頑丈さがあるというわけでもない。
「剣士」として剣術を利用し、後述する【武技】を駆使する戦い方をするという意味では、重装備を着せて動きを鈍くさせるのも却下だ。
ただまぁ、素の身体能力は高いし、職業技能の方は守備寄りで攻守バランスが取れているように思われる。
単体で万軍を相手にできるような無双能力なんかは当然無いが、瞬間的な火力として突破役にする分には、現状俺の【戦線獣】を上回る。
あとは『火竜骨の剣』二振りを持たせてやって、【心眼】技能によって「盲目」のペナルティを軽減できるようになれば――万全の状態からの1対1では俺の【螺旋獣】も屠られる可能性があるかな? ……そんな顔するなデルタ、お前達の本領はあくまで『連携』にこそあるんだからな。
また、人であり竜でもある彼ら竜人は、尾や角や牙をも駆使して戦うため、武術の体系とか根本の発想が人間とは異なる部分がある。
それの剣術バージョンが【竜人剣術】なんだろうよ。
それと、特筆すべきは……やっぱり【竜】としての特徴を色濃く残す技能群だな。
ともあれ【竜の憤怒】は危険過ぎる。
俺がソルファイドのことを軽蔑しきれず、むしろ同情してしまっているのも、ある意味でこれのエグい副作用を知ってしまったからなわけで。
抑えるには、称号由来の固有技能である【竜血鎮め】を活用するしかない。
こいつがちゃんと「自分」を持つまでは極力技能点は俺が勝手に振らないようにするつもりだが――ここにだけは、8点分突っ込んでランクMAXにさせ、二度と【竜の憤怒】なんぞに頼らないようにさせなきゃならない。
それから【竜の息吹】だな。
「微」なんぞ書かれてはいるが、満身創痍な状態で軽い吐息程度に放たれたものだって、群がったランナーを吹飛ばし戦線獣を突き殺すキッカケになったのだ。
まぁ全力の一発を放つには【武技】と組み合わせないといけないらしく、しかも体力を消耗しすぎて気絶してしまうようだから、使うなら確実に回収できる状況での範囲火力ってところかな。
面制圧で言うなら俺の眷属には【噴酸ウジ】がいるから、派手さの割にソルファイド自身のブレスを強化する優先度は低いかもしれない。
ま、あくまで俺が点振りするなら、だが。
現状、注目している【後援神】がいるわけではない――ル・ベリとの対比という意味も兼ねて、少し「自然な点振り」がどうなるのかを、観察してみたいのだ。
……まぁ、ビルドの方向性について考えあぐねていて、少し保留にしておきたいというのもあるはあるのだが。
俺としたことが入れ込んだもんだな?
今はまぁこれで勘弁してやるってところか。
ところで【武技】という技術体系について。こいつは言うなれば物理版の"魔法"みたいなもんだ、というのが今の俺の理解だ。
試しに放たせてみたが、MPが消費されるのが観察された。
他方で、普通に剣を振ったり、飛んだり跳ねたりする分にはMPは減らない。うむ、未だに原理が解析できない"魔法"と並んで謎の現象だわこりゃ……まぁ、進展が無かったわけでもない。
だが、その話もまた後日にしておこう。
次は数日間かけて絞り出した【因子】の紹介だ。
まず、【因子:火属性適応】の解析が完了した。
属性系で初の「解析済」を入手することができたから、嬉しいと言えば嬉しい。
ソルファイド自身が火竜の末裔で、多分適性みたいなもんがすごく高かったんだろう、思ったよりもずっと早いペースで絞り取ることができた。
例の子供ゴブィザードだけだったら……あと十数日はかかっていたかもしれない点では、朗報である。
ちなみに【抽出臓】から出てきたソルファイドは、ややげっそりしていた。
中で何が起こっていたについては、考えないことにする。
ダブスタ上等、俺自らが【抽出臓】の感触を試してみるつもりなど無いのだ!
ん?
――いや、ちょっと待てよ?
待て、待て。
……案外、ありなの、か?
気づいてしまったのだ。
気づいてしまった以上、それは選択肢に上がってしまう。【強靭なる精神】が俺自身の生理的な不快感を抑制し、迷宮の発展のためにより「合理的」な考えを俎上に載せることを促してくる。
ほれ、そういえば、あるじゃないか。
現状、俺自身からしか搾り取れそうになく。
しかも解析して「進化」に使えば、俺の迷宮が飛躍的に発展する契機となりかねない、有用そうな【因子】が。
ふむ。
かくなる上は、俺自身の【強靭なる精神】にもう何点か振って……いや、実際に【抽出臓】に入ってみてから、どうしても耐えられなかったら点を振るでも良いかもしれない、か?
まぁいいや。
そうしなきゃならないほど、急がねばならないかどうかを、後で考えてみようか――今決断するか後で決断するかだけの違いになりそうな気もするが。
とりあえず目の前の話を済ませてしまおう。
一応「抽出臓行き」はソルファイドへの罰のつもりであったんだが、例の「目玉」の件で彼はさらに"自罰"してしまったわけだから、賞罰のバランスがちと偏ってしまい、実によくない。
実によくないな、全く。
だから、なんか考えておかないとなぁ。
因子について言えば、とりあえず「属性適応」系の因子は、確か【結晶花】とかの「胞化」先で使えたはずだから、後で試すつもりである。
無論、眷属達の進化での因子の組み合わせでもな。
その辺りは長くなるから、話すのはまた次の機会に。
それから、これは解析完了したわけではないが、新因子は1種手に入った。
あれだよ、盗撮者テルミト伯の【盗視る瞳】――こいつから得られたのが【探知】因子というもの。名前のまんまだが……何をどこまで「探知」できるのかが重要だろうな。
小さすぎて、抽出臓では効率よく絞り取れないことが判明したため、俺が【因子の解析】をした後にそこらを歩いていた一般通行走狗蟲のオヤツになったところで、解析率が1.5%。
……まぁ、このサイズのたかだか「目玉」から解析できる量なんて、こんなもんだろう。今後、本格的に解析しようと思うならテルミト伯から後70個ぐらいは「目玉」を狩らないといけないだろうがな。つまり、先の話だってことだ。
ところで、ここで因子に関してちょっと考察。
竜人から絞り取れた因子は実質1種類しかなかった――もし子ゴブィザードからの"絞り取り"が順調に進んでいたら、0種類だったとも言える。
これ、感覚的には結構意外なのだ。
爬虫類みたいな目。
その肌に生えた"鱗"。
竜の息吹のために、体内にあると思われる器官である「嚢」。
ほうれ、特徴的な部位だの器官だのが、いろいろあるだろう?
2つ3つ因子が絞り取れてもおかしくはない、気がする。
だが、よくよく考えてみると……俺の【エイリアン使い】という権能における"因子"が、どういう傾向を持った能力であるかが見えてきた。
ちと考えてほしい。
ソルファイドで言えば【鱗】因子は存在しうるのか? というところだ。
例えば、強靭な爪を持つ走狗蟲や戦線獣。
こいつらは因子【強筋】しか保持していない。だというのに、こいつらは当たり前のように「爪」を持っている――別に因子【剛爪】なんてのがあったわけでもないというのに、だ。
同じことは噴酸ウジの【強酸】にも、隠身蛇の【隠形】にも言える。体内で酸を生成する特殊な内臓を表す"因子"も無ければ、カメレオン的な体色変化を実現する皮膚内の色素操作能力を表す"因子"も、俺は得ているわけではないのである。
というか、だ。
【命素適応】とか【魔素適応】とか【火属性適応】とか【風属性適応】とか。
こいつらのどこが遺伝子だってんだ?
……思うに『因子』が『遺伝子』と翻訳されず、あくまで『因子』と表現されていることには、それなりの意味があるはずなのだ、迷宮核の翻訳パターンからして。
結論から言えば――まだそういう"傾向"だなぁって思うだけで確定したわけじゃあないが、ソルファイドの解析結果から俺の中じゃ確信しつつあるが――因子は『原因』それ自体ではない。
そうではなくて、何によって引き起こされたものであれ、それによって生み出される『現象それ自体』こそが『因子』の本質なんじゃなかろうか?
噴酸ウジが体内でどのような生理現象によって酸を作り出しているかだとか、どういう仕組でそれを"噴射"しているのか、なんぞは不問だ。同様に、隠身蛇がどんな身体的特徴を備えることによって無音性と擬態能力を編み出しているのか、なんぞも重要ではない。
どちらも"因子"としては単に【強酸】【隠形】の一言でまとめられている。
「これは、どう解釈すべきなんだろうな」
技能点や経験点などと同じく「世界のルール」系の話題であることが強く示唆されている。
だが、今得られる情報ではここまでが限界ということか。
少なくとも、竜人ソルファイドを"解析"してもろくな因子が得られなかったことを、今の俺が合理的に説明できるとしたら、こんなところだろうか?
――まぁ。
いくら考えたところで「とりあえず抽出臓に突っ込んでみる」のが、一番手っ取り早いんだろうが。
あまり、演繹的な一般解を出そうとするだけ無駄だろう。
因子が得られるか得られないか。
結局、それが全てなんだからな。得られた因子を活用する。因子が得られなければそれまで。
それでいいか、あまりこいつは考えすぎてもドツボにハマりそうだ……そうでなくとも、そもそも迷宮領主によって、この辺りの「眷属の生み出し方」は相当に千差万別らしいし。
まぁ、まだまだ考察しようと思えばネタは尽きないんだがな。
"因子"と言いながら、やはり読みが「遺伝子」であることとか。
結局「種族因子」は解析または分解できる類のものなのか、とか。
キリが無いから、今はもう良しとするが。
次に位階上昇した時に、このことに関する考察の必要性がもし高い状況だったら――また続きを考えるかもしれないし、考えないかもしれない。
閑話休題。




