本編-0022 戦後処理②~称号授与と新因子
【11日目】
今回の作戦で"名付き"達は俺の期待通りの活躍をしてくれた。
戦線獣ではアルファがレレー氏族長の大ゴブリンを討ち取ったし、ガンマとデルタがいなければ、闖入者である雄ボアファントは押さえきれなかったろう。
噴酸ウジのベータとイプシロンの存在は、数では劣る俺達がゴブリンどもを圧倒する決め手ともなった。
アルファはあの後一命を取り留め、デルタとガンマに支えられながら帰還。
現在、ゼロスキルながら【代謝活性】により怪我の回復に努めており、時折俺も【命素操作】でそれを補助している。
よくやったアルファ、と素直に感心するところだ。
主に忠実であることが本能である迷宮の眷属とはいえ――その不屈の闘志は、俺の誇りだよ。ここまでやってくれるとは――名付け自体は、単に"一番目"という量的把握的発想で思いつくままにつけたものでしかなかったんだが。
今のお前は、まさに我が迷宮エイリアン達の"第一の者"を名乗るのに相応しい。
『――「称号」条件の達成を確認――』
……は?
『――個体「アルファ」に下記「称号」を一つ授与可能――』
測ったかのようなタイミングで脳内に響くシステム音。
次の瞬間、読んでもいないのに【情報閲覧】が勝手に発動して、目の前にアルファのステータスが表示され――『称号』項目まで勝手にスクロール。そこから新たなウィンドウが浮かび上がった。
「へぇ……」
《称号リスト》
・第一の従僕
・不屈なる闘士
・創造主の盾
毎度毎度驚かせてくれるが――さて。
この現象は、どう解釈すれば良いかな?
現在、俺の知る「称号持ち」は俺自身とル・ベリ、そしてレレー氏族ゴブリンの長だったバズ・レレーだ。
だが、いずれも「自分で称号を選べた」なんて話は聞かない――というか"称号"という言葉自体が「号」を「称え」られるというものだから、他者から与えられることを前提とした概念なのだ。
正直なところ、俺はこれは「神々」による現世への有力な「干渉手段」だと考えている。称号に紐つけた怪しい能力を『固有技能』として与え、そこに"振り残し"を勝手に振りやがり、己の意図する方向へ運命を誘導しようとする。
何かが「できるようになる」ってのは、一見すると自由度が増しているようにも見えるが……「それ以外をする」動機が自然に減ってしまうことと表裏一体。
だが――アルファと俺の間に起きたこの現象は、それでは説明がつかない。
なぜ、いきなり「不屈なる闘士」を称号獲得させるとかしなかったのだろうか? よもや、俺に選ばせる余地を与えてくれるなんてなぁ?
俺が特別なのか。
あるいは、神々の誤算か。
はたまた、定命の者からすれば迂遠で難解なるも、やはり神々の意図する干渉手段の一形態か。
俺の直感は「神々の誤算」の可能性が一番高いと囁いているんだがな。
繰り返すが、真に干渉したいならば、俺に選ばせる選択肢を与えること自体が無駄に思えてならない。
アルファをそういう方向に誘導したいなら、俺の意思なんて無視して3つとも『称号』として与えてしまえば良いものを。
いや。
わざわざ選択肢を出してその中から一つ選ばせようというんだ。
むしろ、バグに見せかけた仕様か?
……そう考えると、案外『男爵』に昇格して新しく得たダンジョンマスターとしての新能力、かもしれないしそうでないかもしれない。
だが、由来がどうあれ、これで俺は配下・眷属に対して「技能点振り」「転職」「称号授与」を *自由* に行うことができるようになったってわけか。
他の迷宮領主と接触できなければ、これ以上の確認や検証は難しい。しかし同時に、万が一これらが「仕様」じゃなくて「俺が特異」であることの証左だった場合は、話がこじれる。いたずらに情報を晒して脅威認定、が最悪のケースかな。
悩み事が増えてしゃあねぇや。
考察すればするほど、謎が謎を読んでキリが無いねぇ。
しゃあなし、諦めも肝心だ。今は、深く考えるのは辞めだ。「くれる」というならば「貰う」までよ。
俺は「どれにしようかな、天の神様の言う通り」によって、3称号のうち『不屈なる闘士』を選び、そのまま考察を打ち切った。
【基本情報】
名称:戦線獣 (アルファ)
種族:エイリアン
位階:7〈技能点:残り0点〉
HP:200/200
MP:31/31
【スキル】~詳細表示
【称号】
『不屈なる闘士』
俺自身の【眷属技能点付与】と合わせて、位階上昇していたアルファは3点【HP強化】に振った。このまま【巨大化】ビルドに向かわせるつもりである。
因子枠的には、多分あと2回は進化できるだろうし、エイリアンって種族にとっては"進化"それ自体が『経験点』である嫌いがある。【因子枠増加Ⅰ】ランク1までは、あと位階が2上がれば良いわけだから――まぁなんとかなるだろう。
ちなみに『不屈なる闘士』によって追加された固有技能は、体力が減るほど身体異常系の各種耐性が増す【戦意不衰】と、痛みなどを原因とした精神系異常への抵抗力を補強する【忍耐強化】というものだ。
今のところアルファの戦闘力に困ってはいないし、むしろ『固有技能』としてゼロスキル分だけでも強化補正が乗るようになったことを考えると、振るのは点が余ってからでも良いだろう。アルファには俺の護衛として働いてもらうことを考えているから、継戦能力が上がるのは願ったりだ。
ところで、ベータからゼータらは位階上昇しなかった。
単純に殺した数で言えば、「第2世代」ということもあって、"名付き"達だけで全ゴブリン死傷者の20%近くを屠っているんだが……やはりRPG的な意味では無いように見えるな、『経験点』については。あるいは、迷宮の眷属は上昇しにくいか、だが。
やはり、さっきも言ったがエイリアンという種族にとっては「進化」それ自体が『エイリアンらしい経験』であり、位階上昇効果が大きいのかもしれない。
なので、全員当初のビルド方針通りに技能は振っておいた。
――個々の"名無し"ランナーまではいちいちレビューしないぞ?
数が多すぎるからな……まぁ、方針変更についてはちょっと考察しておくか。
とりあえず、個々の実力ではゴブリンを一対一で殺せる程度だが、「第2世代」に属する上位個体を今後もっと出していくことを考えると、その役割は斥候や奇襲・撹乱役に変わっていくだろう。
その意味では連携能力を重視するが……将来的に"名付き"を増やそうと思ったり、あるいは「第2世代」へ進化させた時の点振りの自由度を考えれば、進化の際に『系統技能』に振った点を回収できる仕組みを最大限利用するのもありだ。
よって半数は【群体本能】を伸ばし、もう半数は【爪撃】などのランナー自身の系統技能を伸ばすことにする。
――よし。
俺の眷属達の強化はこんなところにしておこう。
次は戦利品の整理だな。
2氏族の縄張りの支配とか、ル・ベリがまんまと手懐けたボアファントの子供5頭とか、捕らえたゴブリンの女子供の「選定」とか、やることが一気に増えたぜ。
◆戦利品
・ゴブリンの捕虜
→ 雌……31匹
→ 幼体……38匹
→ 雄……5匹
・ゴブリンの食料
→ ボアファントの干し肉……少々
→ 小魚の干物……そこそこ
→ 殺したての迷彩鹿……3頭
・ゴブリンの武器
→ 木槍……結構
→ 黒曜石の槍……多少
→ 金属製の槍……10本
・ゴブリンの道具
→ 蔦を編んだ縄みたいなもの……いくらか
→ 狩猟用の毒液……5瓶
→ ボアファントの牙製の装飾品……少し
→ なんかの繊維で編んだボロ布らしきもの……少し
→ 森で採れる薬草各種……微々
・ボアファントの死体5頭分(母ボアが1頭逃げた)
などなど。
めぼしい物をリスト化すると、こんな感じだろうか。
半知性種どもの技術レベルがうかがえるというものだが――狩猟採集生活が中心なのに、干し肉とか干物の作り方なんぞ知ってるのな。
まぁ、薄紫色の空に黒い太陽が燦々と照る魔界の気候である。百年だか二百年だか、現住生物として【最果ての島】の環境に適応したと考えるならば、何らかの工夫ができるようになることもある、か。
レレー氏族の主な武器であった「槍」については、原始人の磨製石器レベルだ。
そうするとやはり「黒曜石の穂先の槍」はともかく「金属製の槍」は、出どころが気になるというもの。
こいつは、俺のランナーを何体も突き殺してくれた氏族長愛用の槍なのだが――柄まで金属でできており、造りは非常に頑丈。
こいつだけ明らかに技術レベルの次元が違う。
錆びにところどころ覆われているが、黒に近い深い藍色の金属であり、少なくとも俺の知るどんな金属でもない――といっても"鉄"とか"銅"とか"金銀"じゃあないなぁ、程度の知識しかないんだがな。
柄の下の方には、掠れていてほとんど読めないが、何か銘のような文字が刻まれているように見えなくもない箇所。
そして、錆びかけの割には切れ味と貫通性能抜群のものであり、何よりアルファとの闘争に晒されて折れずにこうして一本残ったのだ……ひょっとしなくても、相当の業物である可能性は高い。
アルファが苦戦した原因の半分ぐらいはこの槍のせいだろうな、間違いなく。
やはり、ル・ベリの母がそうであったように『流刑地』である【最果ての島】だ。 ヒュドラに襲われた船からの漂着物か何かだろうかね?
よし。
ゴブリンどもには過ぎた品だ、この俺がありがたく使ってやることとしようか!
"槍"の話はここらでしまいにしておくか。それよりも、もっと直接的に【エイリアン使い】たる俺にとって重要な"戦利品"の話をしよう。
新たな因子を得ることに成功した、と言えば何が言いたいかわかるかね?
<新獲得因子>
・因子【猛毒】――剃刀草より
薬草だとか木の実だとかが、土を練った瓶のような容器に保管されていたが、その中に毒槍用の"毒液"が保存されていた。
漁夫られボアファントをゴブィザードの一行――氏族長バズ・レレーの長男ゲ・レレーが率いる狩猟隊だったらしい――が襲った時に使用していたものに違いない。
ル・ベリによれば『剃刀草』の毒汁であり、薬草や毒草が群生しているムウド氏族なんかで豊富に採れる植物とのこと。
ムウド氏族に【吹き矢戦士】が多かったのは、これが理由のようだ。
吹き針にも使用される、ゴブリン達の間ではメジャーな麻痺毒のようで、レレー氏族では主に狩猟で使われていたとのことである。
・因子【伸縮筋】――ボアファントより
母ボア3頭と雄ボア1頭の死体を得ることができたため、これでようやく解析完了となった。
ボアファントの長い鼻は見た目以上に伸縮性に富んでおり、さながら丸太を鞭のように叩きつける的な意味で、相当強烈な破壊力を持った身体部位だったわけだが……それと似たような機能を持ったエイリアンの獲得が期待されるところ。
・因子【隠形】
厳密には2氏族殲滅作戦の「戦利品」ってわけじゃあないが――ゴブリンの間引きがてら、ル・ベリがとうとう【最果ての島】の捕食者の一種である葉隠れ狼を手懐けることに成功したのである。
この枯れ葉色の痩身の狼は、移動する時に驚くほど無音であり気配を捉えるのが難しいのが特徴である。その上【最果ての島】の密集した木々の「樹冠の枝道」を主な縄張りとしており、文字通り頭上から奇襲をかけてくることで、天敵としてゴブリン達から恐れられる肉食獣である。
見た目は、本当にシャープを通り越して「拒食症」かと思うほど痩せていることから、ゴブリンの腕力なら正面から殴りつければ容易に撃退できるんじゃないかとも思うが――奇襲性能だけならば、完全にランナーを遥かに上回っている。
もしもだが、こいつらが俺やランナーを獲物と見なして初日から襲ってきていたら、かなり厄介なことになっていたかもしれないな。
幸い野生動物らしく彼我の実力差に敏感であったか、争えば互いに無事では済まないであろうランナー達を警戒していたようだが。
その"葉隠れ狼"達を、一体どうしたかって?
ははは、今は【因子】の話題だぜ?
そして、この【隠形】因子によって拓かれた新たな"進化先"がこちら。
【隠身蛇】 ◆因子:隠形 ◆進化元:走狗蟲
進化を保留させていたゼータと、彼の舎弟的金魚のフンになっていたあるランナーを新たに「エータ」と名付けて"名付き"入りさせ、この2体を進化させた。
見た目は――そうだな。
上半身がカマキリの蛇ってところだろうか。頭部は相変わらずの十文型口吻を備えており、あぁ、お前はエイリアンなんだねぇということを忘れさせてくれない。
多少瞳孔が黄色く爬虫類ぽくなったとしても、あのギシャアと十字亀裂状に四方向に開かれるインパクトは変わらんよ。
ナーガ体型だけあって胴長、身体を真っ直ぐに伸ばせば3メートル近くなる。
蛇みたいな下半身は、腹の部分をよく観察してみると細かな鉤状の鱗が生えそろい、またランナー時代の前足はしなやかに発達している。そして"爪"の部分は、時代劇なんかで忍者が城壁を超える時に投げる三叉フックによく似た形状の「鎌」みたいな鉤爪となっており――どんな崖だろうが、壁だろうが、張り付いて登攀する能力の高さがうかがえる。
しかも、因子元となった葉隠れ狼顔負けの"無音性"を有している。
ネックになりそうな長すぎる胴体も、とぐろを巻くなどして見た目以上には体積を"節約"でき、思った以上に狭いところへ忍び込むことも可能……まぁ「樹冠の枝道」での移動速度こそ葉隠れ狼には劣るだろうが、どんな場所にも派遣できるというのは、監視・偵察役として運用するにはかなりありがたい特性である。
早速、ゼータとエータの両名には、最果て島の残り9氏族のゴブリン達を調査しに行ってもらわねば。
「……ゼータ、お前、その隠れんぼ能力を同胞をおちょくんのに発揮すんなよ?」
隠密行動をするためだけに生まれてきたエイリアンである、とさえ言っても過言ではないが、よりによって進化元がNDK大好きなゼータではなぁ。
隠身蛇の素の戦闘力は、ランナーに匹敵するかどうか、程度でしかない。
両腕の鎌鉤爪は壁登り向きではあるが、ゴブリンの喉や頸動脈をかっ切るぐらいは造作もない鋭さを誇るため、奇襲や不意討ち有りならばかなり役に立つだろうが――戦線獣みたいな露骨な耐久脳筋を初撃で仕留められる可能性は低い。
次、デルタあたりキレさせたら、あの異常発達した両腕でひっ捕まえられて、胴体を力任せに上下に引き千切られて即死するんじゃないかな?
で、ステータスはこんな感じだ。
【基本情報】
名称:隠身蛇
種族:エイリアン
位階:6〈技能点:残り6点〉
(中略)
【コスト】
・生成魔素:210
・生成命素:280
・維持魔素:11
・維持命素:27
【スキル】
ビルドはどうしようかね。
役割的には、あまり戦闘的な技能に振っても仕方が無い。
移動速度については並みであることから、長期潜入の監視役としては優秀だが、機動的な斥候役としてはランナーの役割は残り続けるしなぁ。数を揃えてどうこうするよりも単独行動も想定して、持ち味を活かしてやるのがベターと考えると、素直に系統技能を取っていくのがベターか。
というわけで2体には技能点6点を【擬態強化】と【気配減衰】に3点ずつ振った。
お、単調だった体色の変化に深みと渋みが出てきたな。
陰影を制するものは和風家屋を制する的な感じで、実に侘び寂び渋みが感じられる、玄人好みの色合いだね!
……。
うん。
効果あるんかいな、これ。
【気配減衰】の方も、なんとなく影が薄くなったかな? 程度だが――これは俺が2体の主として、迷宮領主と眷属の繋がり的なものがあるせいであまり効果を感じないだけかもしれない。
おほん。
以上、今回の「作戦」を通して獲得できた因子は上記3種である……解析中の因子まで含めればもう1種あるんだが、完了まで時間がかかりそうなので、今回は置いておく。
ファンガルについてだが、新因子によって新たな"胞化先"は現れなかった。
純粋に因子が足りないのか、あるいは「第2世代」としては今回の3因子は対応外であったのか――だが、実は今回の因子とは関係無く、既に胞化させられているファンガルが2種類ほどあるのだ。【保存臓】と【抽出臓】という名前なのだが……いきなり全部を言っても頭に入らないだろう。
「動かない動物」とはいえ、迷宮経営の観点からは"施設"の性質が強いのがファンガル種である。だから、現在絶賛拡張&整備中の、俺の迷宮を紹介する時に、機能と合わせてこの2種については示していこうと思う。
さて、因子周りはこんなところかな。
それでは最後に残った"戦利品"――まぁ、"捕虜ゴブリン"どものことなんだが、その取り扱い方針について決めていこうか。
いろいろ考えている。
重労働力とか。
実験台とか。
経験点源とか。
だが、まぁ俺はなんだかんだで【魔人】にも【迷宮領主】にも成り立てで、常識に薄いところもあろう。劣等生物達をいかに効率良く活用するかについて、ここは"専門家"としっかり意見交換をしていこうではないか。
『御意デございマス、御方様』
しっかり「過去」と決別して、アヒルなどに煩わされぬ白鳥の心を確固たるものにしてくれたまえよ、ル・ベリ。
――その時こそ、お前が種族も職業も生まれ変わる時なのだから、な。




