本編-0021 戦後処理①~眷属強化と情報戦
最果て島制圧事業の第一段階は成功裏に終わった。
これは、俺の【魔界】側での覇業の小さな一歩となるだろうな。
ゴブリン2氏族の残党狩りについても、大した問題は起きず、順調に遂行された。
連中の脚力じゃ走狗蟲には敵わないからな。雄の戦士は全員狩り、雌や幼体は全て捕らえて、奴隷蟲の【凝固液】で両手両足を固めて運搬中だ。
あぁ、老人達は「経験」の塊だからな。ゴブリン如きの一生でどんな経験を積むのか知りはしないが、全員俺と眷属達やル・ベリの養分になってもらった。
というわけで、データで示しながら戦後処理に移ろうかね。
このついでにル・ベリに【眷属心話】を使いながら、読み書きや会計の基礎なんかも教育して置かなければ――おや、本当に基礎的な教養は、死んだ母に教わっていたようだな?
相当優秀な母親だったと見える。
……大陸の『子爵』に仕えていた魔人の女性、ねぇ。
まぁいいや。
まずは俺の迷宮の兵力から。
◆残存兵力
・戦線獣……3体
・噴酸ウジ……2体
・走狗蟲……25体 ← Down!!!
・奴隷蟲……15体
最終的な被害はランナーが5体か。合掌。
とりあえず、死因は大ゴブリンの円形陣の反撃で3体、ボアファントとの戦いで1体、突撃時の不運な事故で1体ってところだ。
……少なくとも円形陣に対しては、もう少し被害は減らせただろうな。
情報収集が足りなかった、というのが反省点か。島の支配を遅らせたくなかったが、別に明確な期限があるわけではなかったしなぁ。
レレー氏族長が「称号」持ちということの影響も大きかったと思うが、他氏族ではどうだろうか?
あの手の"英雄"が、そうゴロゴロいるとは思えないが――島全体では、ひょっとしたらまだ1匹か2匹かは潜んでいるかもしれない。
劣等生物とはいえ油断することとは別だ。今回ランナーの被害が3体でまだ済んでいるのは、レレー氏族長がその力を守勢に使用したためとも言える。
連中が"劣等"なのは「能力」についてではなくて、その存在それ自体に過ぎないのだから、思わぬ反撃を食らわないようにしなければなぁ……。
ラルヴァが腐るほどいるから、補充しつつ戦力拡充もすぐにできることを考えると、全く痛くも痒くも無いんだがね。
だが、慢心を持つことはそれ自体が病ではあるから、ちと意識はしておこう。
◆殺害数
・ゴブリン戦士長……1体
・ゴブリン戦士……95体
・ゴブリン斥候……38体
・ゴブリン吹き矢使い……14体
・ボアファント(雌・成体)……3頭
・ボアファント(雄・成体)……1頭
うむ。
単純な数で言えば2氏族で250体はいたわけだが、6割近くをエイリアンで殺戮できたわけだ。
まぁ正面からぶつかっていたら、今回の戦力では苦戦は必至だったろうな。ムウド氏族にも「吹き矢使い」のような思わぬ遠距離戦力があったわけで。
今回勝てたのは事前準備の効果は大きかったが、運にも助けられた。運が悪ければ、もっと被害も大きくなっていただろうからな。やはり"次"に向けて、情報収集はきっちりやっていこうかね。
勝って兜の緒を締めよ。
どこかの風林火陰山雷も、7割勝ちでは勝ちすぎて油断するとか言っていたしな。
んで。
お愉しみだ。
俺は一体全体、どれだけ位階上昇したかなぁ?
――このためにこそ【経験点倍化】をランクMAXにして、倍プッシュを重ねたのだ。それで、迷宮領主らしく"敵対者を殺し"まくったわけだが……どうなる!?
「情報閲覧:対象俺」
【基本情報】
名称:オーマ
種族:魔人族
職業:迷宮領主(融合型)
爵位:男爵 ← RankUp!!!
位階:17〈技能点:残り36点〉 ← Up!!!
ううむ。
ゴブリン約150匹に、ボアファント4体で12の位階上昇だったか。
振れる技能点も合計36点となった。
……欲を言えば、作戦中に技能点を素早く【眷属経験点共有】に振って、エイリアン達がゴブリンを「殺す」ことで得る『経験』の"俺への流れ込み倍率"を、さらに強化しておきたかったんだが。
まぁ、最適なタイミングを見極めるために集中し続けなければならなかったから、それはさすがに望み過ぎというところか。
過ぎたことは気にしないように、な。
ビルド方針は既に決まっているから、この莫大な技能点を楽しく振らせてもらうとしよう――そして、技能点振った後のスキルテーブルは以下の通り。
ポイントは3つ。
まずル・ベリのゴブリン因子置き換え実験用に【因子の希釈】を取った。
戦後処理が終わったらル・ベリを【進化臓】に突っ込まないとなぁ……いや、先にやらせる「仕事」がまだ溜まってるから、もっと後になるかもしれないな。
次に【情報閲覧】系統の技能を一気に上げた。
【情報】は力なり、だ。
特に――まだ踏ん切りはついていないが、称号『超越精神体』による思考系の固有技能とのシナジーを期待することもできるからな。
で、獲得した【情報隠蔽】と【情報操作】についてだが。
簡単に言えば前者が"自分用"で後者が"眷属・配下用"の、【情報閲覧】を含む「解析」系の能力持ちへの抵抗手段であるとのことだ。
……そして概要説明を見ていると、【情報戦】という、【魔界】の迷宮領主の間での抗争の一形態が存在することが垣間見えてくる。
うわぁ。面倒くせぇ、
【情報閲覧】以外にも、それの劣化版か亜種みたいな技能が存在するのかよ。
……だが、まぁ冷静に考えれば、それに対する抵抗手段を持つ迷宮領主の方が世間的にはよっぽど面倒な連中なんだろうよ。
まぁ、前に考察したように「俺みたいに"数値化された情報"で把握できる奴」は、ほとんど存在しないだろうが――何らかの切り口で悟られることは想定できるわけで、対抗手段があること自体は有り難いかな。
別に【魔界】の【情報戦】だけに活用できるでもなし。振っておけば【人界】に将来的に食指を伸ばす時にも、思わぬ能力を持った強者への"保険"ぐらいの役には立つかもしれない。
ランクMAX候補にしても良いが……今すぐに、というのは微妙なところ。
まだ、急ぐ必要は無いかな。
最果て島から外へ行くにせよ、外から来るにせよ、例の巨大海獣ヒュドラがどうにかなることが大前提。
そして「どうにかする」のが俺であれ、他の何者であれ、島の統一事業が始まったばかりである以上は、今後まだまだ位階上昇の機会はあるしな。
今はとりあえず【情報隠蔽】ランク1と【情報操作】ランク3にしておく。
効果や使い勝手は、実際に"情報戦"をやってみないと未知数なところがあるし、出たとこ勝負にはなりそうだなぁ――悩ましいね。
もっと潤沢に技能点があれば、深く考えずに二つともランクMAXにしてしまうんだがねぇ。
ただまぁ、過信はできないことははっきりしているかな。
どうせ、どれも「:弱」なのだから。
例えば上位の『爵位』を持つ迷宮領主なんかで【情報閲覧:強】みたいなのを持つ敵が出てきた場合、あっさり突破されかねん。
だが『爵位』と言えば――いつの間にか『准男爵』から『男爵』に昇格していた。
……技能が新しく追加されるとか、何か変化を感じるようなことは皆無だが。
あれか、ゴブリン2氏族の領域を制圧したから、なりたて迷宮領主は卒業したっていう、ただそれだけの意味か?
まぁ、いいや。話を戻そう。
"情報"の死守に拘りすぎて本末転倒になることこそ避けるべきだ。
【情報戦】が軽視できないとしても、迷宮抗争の本質は、あくまでも【眷属戦】にあるわけで――他に【領域戦】て概念もあるんだが、今は置いておこう。
要するに、情報抜かれてようが、相性と実力、量または質の暴力で圧倒していれば、ゴリ押しで潰すというのも戦術としては取りうる手段だってことだ。あくまでも、迷宮としての総合力を上げて、最後に勝つならばそれで良いんだし。
うーん。
まぁ、これについては今悩んでも、すぐになんとかなるものでもない。
一旦置いておくか。
それより、ランクMAXまで伸ばした【情報閲覧】について、この技能の挙動パターンをちょっとおさらいしておこう。
1.自分自身
ステータスも技能テーブルも、技能概要なんかも全部見れる。
さらにいろいろ特殊な「項目」が追加されたが――例えば「状態異常」とかだが、条件を満たしていない場合に「無し」が並ぶのも見た目が悪いから、これは該当無しの場合は非表示にするように設定しておこう。
あぁ、あと職業の詳細とか、種族の詳細とか、俺が見たいと思っていたところが軒並み見れるようになった。ありがたいね、実にありがたい。
2.俺の眷属や配下達
ランクMAXになった影響か、ほぼ俺自身と同じように見ることが可能。
技能テーブルに干渉して「点振り」もできるようになったし――。
聞いて驚け。
「技能」だけでなく「職業」にも干渉できるようになったぞ。
詳しくはまた後で「ル・ベリ改造大実験」が終わってから本格的に試してみるが――ステ画面の「職業」を選択した時に、複数の「職業候補」が表示されるようになったのである。で、点振りと同じ容量で、その中から好きなものを選んで"転職"させられるようになった、という塩梅だ。
まだ軽く確認しただけで、ル・ベリにはいろいろ戦後処理のために外で活動させてもいるから、落ち着くまではお預けだがな。
――ただし、俺自身の職業「迷宮領主」は変更できなかった。他の「職業候補」の表示すらされなかった。
そりゃそうか。これは職業というよりは実質的な「第2種族」みたいなものなんだし、神が関わってる【魔界】のシステム的な部分に関わっている存在だからなぁ。
何か抜け道があったりしないものかなぁ……まぁいいや。
3.その他の生物
結論から言えば、ステータスの表示こそ完全なものとなったが、技能テーブルは見れなかった。当然「技能概要」も「職業概要」も「種族概要」もだ。
ただまぁ、簡易表示による技能……つまり"振り済み"技能はステ表示の一部として一応は見れるわけだから、無駄ではないだろう。求めていたベストな結果はないが――【情報閲覧:弱】ではこれが限界ってところか。
残念だな。
これが、俺の配下でも眷属でもない他者に対して「概要説明」能力こそ適用できたなら、かなりいろいろ、相当"捗った"んだがなぁ。
だって、そうだろう? 今後、他者と交流する時に、そいつの「基本情報」についてあらかじめ予備知識有りで臨むことができるんだからな。占い師だとか、メンタリストだとか、詐欺師だとかいった連中の常套手段の上位互換ってみたいなもんだが――まぁ、無い物ねだりはしてもしょうがない。
それこそ『爵位』の更なる上昇だとかで、今後何らかの条件を満たして【情報閲覧:弱】から「:弱」が取れることを祈るばかりだな、これについては。
ひとまず、これはこれでベターな結果ではあるとしておこうか。
さて。
俺自身の技能習得のポイント3点目は【眷属強化】系統の技能を本格的に取り始めたことだ。【眷属経験点共有】については、さっきも少しボヤいた通り。
――なに。今回の2氏族殲滅でランク5まで振れたんだ。
ほれ、ゴブリンはあと9氏族もいるだろう? ……というわけだ。とりあえず次の5点はここに振って、先にランクMAXにして倍々プッシュだな。
【眷属経験点共有】みたいな既に技能の概要が推測できていたものがある一方、実際の効果が概要説明から予想されたものよりも遥かに優秀であることが判明した技能もある。
それこそが【眷属技能点付与】だ。
たとえば技能点の追加付与対象となる"眷属"には、ル・ベリのような"配下"も含まれていた。そして配下・眷属達が「位階上昇時に一定割合で追加技能点」と言う話だったが――これは「未来」の位階上昇に対してのみではない。
なんと、「過去」の位階上昇も対象なのである。
例えば現在の俺の【眷属技能点付与】ランク8では、位階3ごとに技能点が追加で1点付与されるわけだが――ちょうどいいからル・ベリで説明しよう。
ゴブリン2氏族殲滅作戦前の彼の位階は17で、振り残しはまだ12点あった。
そして作戦後の位階は19だから、位階1ごとに3技能点だから振れるのは18点で、【眷属技能点付与】の条件は「位階3ごとに1点」だから、それ以上の追加技能点は無し――とはならない。
実際には「24点」であった。
はて、この6点の差はどこから来たのだろうね?
こういうことだ。
【眷属技能点付与】は俺が取得して以降の配下のレベルアップに適用されるんじゃあなくて、位階1まで遡って再計算していたのだ。
ル・ベリで言えば現在「位階19」だから19÷3=6.333....となる。「+6点」の出どころは、まさにこれであったわけだ。
スキルテーブルの変化を確認したいから、点振りの前にゴブリン成分を取り除くことが相変わらず優先ではあるが、その時は愉しく楽しく振ってやるとしよう。
んで、眷属強化系でもう一つ。
【眷属心話】をランク1まで取得した。
こいつはゼロスキルでは効果が発揮されないタイプだったため、実際に取得するまで考察は後回しにしていた。
そして、その効果は単純明快。技能概要によれば、
『「心話」により、迷宮領主が眷属達と交信するための最も基本的な手段』
とのことである。
傍点の部分を考えなければ、ごく普通に便利な機能だ。
『――御方様』
『おう、ル・ベリか。どうした?』
『ムウド氏族とレレー氏族の女子供ドモの"振り分ケ"が完了しマした』
『OKだ、"基準"に満たない連中は間引いちまえ。ベータ達も送っておくから、適当に食わせておけよ?』
『仰せノままニ』
おう。
この場にル・ベリがいないのに、どうやって会話したかって?
ちょうどよかったから実演してみせたのだ。
これが【眷属心話】の効果である。
ランクが低いせいか、デキの悪い無線みたいなザーザー音が混じるのが若干煩わしいが――ごくわずかなMP消費と引き換えに、眷属か配下1体との間に限定的なテレパシー機能を与える、という超便利機能である。
だが、まぁこんだけ便利なら、他の迷宮領主達も当然使ってるだろうなぁ。
これは――下手したら【魔界】では軍事思想については近現代並みに進歩している可能性があるなぁ。どこかの転移系隻眼本能寺さんじゃないが「そんなことより伝令が要らねぇ!」「散兵ばかりになっちまう!」という状況であってもおかしくない、かもしれない。
……それもそれで問題なんだが。
なんなんですかねぇ、迷宮核さん。
この技能説明の「最も基本的な」とかいう表現部分は。
そうか、そうか――迷宮領主の権能だかに応じて【眷属心話】以外の、何か独自の、配下との交信手段がもっとたくさん存在している、とでも言いたいのかな?
【情報閲覧】系統もそうだったが、迷宮抗争の一形態である【情報戦】は、俺が思うよりもずっと高度なかもしれんね。
その点、俺の【エイリアン使い】が今後何か【情報戦】に有利な権能を発揮するかどうかは、まだまだ未知数だが。とはいえ、おそらく上位の爵位持ち連中は「そういう戦い」にも当然長けているんだろうなぁ。
ん? そう言えば「死体」には【情報閲覧】が効かなかったな。
あぁ……そうか、ティンと来た。その理由というか効果がわかった。
要は、情報を抜かせないため、なんだろうな。
つまり「自決」もまた、敵対者に"情報"を渡さない有力な選択肢となり得る、と。
さすが迷宮領主達が血で血を洗う【魔界】戦国時代――このルール、当然眷属だけじゃなくて、ごく普通の一般生活魔界民にも適用されているだろうし、な。
(そして、逆に「自決」させないだとか「死なせない」だとか、死んでも利用できるとかそういう能力もあるのかもしれないな。俺の『因子解析』みたいに)
まぁ【眷属心話】に話を戻そう。
一見すると超便利なテレパス能力だが――ちと困ったクセが判明した。
俺の眷属達と【心話】しようとすると、俺からの送信はともかく、受信されてくるのは……「言葉」とか「文字」なんかじゃなかった。
そうだなぁ、どう言ったものかな。
雑多なイメージのような、図形のような、電気信号みたいな光のきらめきみたいな、意味不明な波形の羅列だったり。まるで音楽再生アプリケーションで表示されるCGオブジェクトみたいな、五感が混ぜこぜになったような「感覚」が、言葉や文字の替わりに受信されてしまうのである。
そして厄介なことに、そのあやふやな「情報」には、迷宮核さんの「翻訳」が適用されない生データとして伝わってきてしまう。
俺的には「なんだこれは、どうすればいいのだ?」状態だが、一応は同種族なル・ベリとは特に問題なく心話できている。
エイリアン達と限定であんな現象が起きたことを考えると……多分だが"エイリアン"という生物は、「何か」が全く根本から違っている、という可能性も大きいのかもしれない。考えてみればそりゃそうかって感じだが。
まぁ、なに。
アルファ達エイリアンは確かにちゃあんと俺と"心話"してくれているとも。
ただし『エイリアン語』でだがな!
ってな具合であるが……これは、どうなんだろうな。
――いや、どうやら最も基本的な交信手段であるらしい【眷属心話】だ。
例えばそうだな、"盗聴"する手段を持った者がいるとしたら、『エイリアン語』の存在はそういう連中に対して、意外と【情報戦】的な意味での防御力が高いのかもしれない。
一応、俺自身に関しては、多少面倒だが自前で「翻訳」すれば良いだけだしな。
また作業がてら、"名付き"や走狗蟲どもを使って、【眷属心話】を起動しながらいろんな物を見せたり、考えさせたりした時に、テレパスされてくる「信号」とか「波形」とか「イメージ」とかを一つ一つ記録していけば良かろうよ。
別に流暢な会話ができるようにするのが目的ではなし。
最低限、動植物だとか重要なモノの名前と、あと数字と方角の概念さえ「自力翻訳」できるようになれば、まーぁ使いこなせるようにはなるだろうか? ……やらねばならないことが増えてきた。
――こうなると【高速思考】とか【並列思考】だとかに振りたくなってくるんだが、さて。




