本編-0017 「第2世代」のエイリアン達
【10日目】
さて。
なんだかんだ、あの後テンションが上がりすぎて、さすがに疲労のピークに達して俺は寝た。それはもう、ぐっすりと寝させてもらった。
【体内時計】が5時間ほどで、目覚まし機能を発揮して起こしてくれたが、それが無ければ惰眠を貪っていたかもしれない――いかんいかん、今日はル・ベリの努力の結晶たる一大イベントの日なのだからな。
出立予定時刻まではまだあるから、頭もすっきりしたところで、この6日間の成果を紹介しておくとしよう。
【進化臓】の成果も披露したいしな。
では、まずは眷属から。
増やしたぞ~、増やしたんだぞ~。
……あまりなるつもりの無かった『女王アリ』に完全になってしまったのは秘密だ。魔素・命素を練るのに夢中になりすぎて、モモを自分の手で取るのも億劫になって、奴隷蟲達に口元まで運ばせてかじらせてもらったことも秘密だ。
<現在エイリアン数>
・幼蟲……258体
・奴隷蟲……20体
・走狗蟲……37体
・戦線獣……3体 ← New!!!
・噴酸ウジ……2体 ← New!!!
新顔が2種類いるが、こいつらこそが【進化臓】によって新たに誕生した走狗蟲の上位個体である。
ラルヴァを「第0世代」、スレイブやランナーを「第1世代」とすれば、まさに「第2世代」とも言うべきエイリアン達である。
"名付き"達の進路としては、アルファとガンマ、デルタが【戦線獣】に。
ベータ、イプシロンは【噴酸ウジ】に。
ゼータは……とりあえず保留にしておいた。今後新しい因子が得られるかもしれないからな。
"進化"のやり方自体は、酷くあっさりとした簡単なものであった。
【進化臓】に触れると【産卵臓】の時と同じく「設定画面」が出てくるから、それを使って直感的にやりたい作業を選択するだけだ。この時、迷宮核さんによる"拡張端末"発言もきっちりいただいたことも補足しておく。
【設定】
・注入因子:<未設定>
・進化対象:<未設定>
手順はこんな感じだ。
1.まず【進化臓】のぶよんぶよよん肉袋部分に、活きの良い走狗蟲をぶち込みます。性格に応じて多少もがいたりしますが、迷宮領主権限で言うことを効かせましょう。
2.次に、【進化臓】の設定画面に触れながら技能【因子の注入】を発動しましょう。そうすると「注入因子」が選べるようになるため、目的の因子を選択しましょう。当然ですが、解析済みの因子しか選べません。
3.「進化対象」には自動的に入っている生物が表示されます。ちなみに"名付き"達は「走狗蟲(名称:イプシロン)」みたいな感じで、ちゃんと名前が表示されています。これで誤爆も防げますね!(一敗……すまぬ、ベータ)
4.MP消費は5と、非常にリーズナブルですね!
飽きたのでテンションを戻す。
MPは消費するものの、少なくとも最初の「設定」時点では、魔素と命素の消費は特に無しであった。
それに【因子の注入】は1基ごと、1回の「進化」ごとに注入し直す必要があるため、放置で増やしまくることはできない。「液体因子」を使う必要があるんだろうが――今はそこまで「質」を欲しているわけではないため"名付き"5体を進化させて一旦打ち止めだ。
変貌したベータとデルタが、取り残されたゼータにNDKをやり返していた気がするが、見なかったことにした。
以上が『進化』の流れである。
とりあえず、設定画面の表示例としては以下の感じである。
・注入因子:<【強酸】>
・進化対象:<【走狗蟲(名称:イプシロン)】>
・因子枠:<空き><空き><空き>
・推定進化時間:18時間
そう。
名前から想像がつくかもしれないが、ベータとイプシロンが進化した【噴酸ウジ】は【因子:強酸】の注入によって誕生したエイリアンである。
青酸モモを十分な数集め、生産していたランナー達に順次食わせていったことで【因子:強酸】の解析がやっと完了した後、進化用の因子候補として選択可能となったのだ。
そしてご丁寧に、昨日考察した通り、エイリアンについては因子枠が「空き3」で表示されている。
まぁ、今後さらに「第3世代」とかが視野に入ってきた時には――組み合わせ次第で、さらに様々な進化ができると見て良いだろう。
非常に楽しみであるが――早まって、最初に「第2世代」へ進化したアルファを試しにもう一度【進化臓】へ放り込んでみて、とりあえず【強筋】因子を選んでみたところ。
【螺旋獣】
とかいうおどろおどろしい名前の「第3世代」エイリアンへの進化が可能であることが判明したが……なんとまぁ、進化完了までの必要日数が十数日単位に跳ね上がった上に、必要な魔素・命素のコストもそれに応じて激増したのだった。
いかんな、これじゃあ。
"名付き"達は精鋭で、今日の作戦のために調整してきたわけで、投入できないと意味が無いので即中止してアルファを肉袋から引きずり出しておいた。
話を【噴酸ウジ】に戻すが、こいつはランナー時代から比べると、体格がかなり変化してしまったと言って良いだろう。
まず、主力武器であった爪と筋肉質な脚は退化してしまった。
替わりに胴体がずんぐりむっくり太くデカくなり、ゴロゴロと丸々太ったメタボ体型になってしまったのであった。
首と尾は申し訳程度に伸びており、また首の周りからは、骨入りの長大な襟巻きが生えている。肉食の昆虫を思わせる頭部や、十字に割れるエイリアンな口吻部はあまり変化していないが、骨格はカバのように巨大化し、襟巻きと合わせて威圧感は増していた。
ただまぁ、全体的にはずんぐり巨体な両生類を思わせる姿となり、筋肉質だったランナー時代からは明らかにたるんだような感じは否めないんだよなぁ。
襟巻のついた、エイリアン頭な牛ほどの大きさもある巨大両生類という感じ。
実際、直接的な戦闘能力で言えばランナーよりはやや劣るかもしれない。鈍重だから、機敏なランナーが繰り出す鋭い足爪を防げそうもないし。
だが、侮るなかれ。
特筆すべきはその攻撃手段だ。
【噴酸ウジ】て名前からなんとなくわかると思うが、こいつは結構エグいぞ。
なにせ、体内で生成した「強酸」を噴きつけることができるんだからな。
その勢いや、消防士が火消しに使うホースからの噴水に匹敵するほど強烈なもので、ゴブリン程度ならば水圧? だけで姿勢を崩されてしまうだろう。
そして周囲にでき上がった"酸溜まり"に倒れこむこととなり、たちまちに骨まで溶かされてしまうこととなる。適切な防具を持たない、特に生身の相手に対して、これほど致命的な攻撃手段も無いだろうよ――仮に防具を持っていたとしても、酸によって傷つけてしまうんだからな。
……あの森の果実から抽出した因子が、こんな化物を生み出すとはねぇ。
役割的には中距離の遠隔支援・後衛砲撃役といったところか。
前線をランナーと、後で解説する戦線獣とかいう筋肉の塊で支えているところに、後ろから放物線を描くように敵に向けて酸を浴びせかける、という運用が中心になるだろう。
本体の近接戦闘力は低く動きも鈍いので護衛は必須だが、戦術には幅が生まれる。
んで、何より、弓兵だとか銃兵と違って、扱う武器が「酸」という液体なのが便利だ。吹き付け方によっては広範囲にばら撒くような面制圧だって可能だからな。
しかもこの酸は時間が経つと蒸発する性質があり、後片付けも楽という夢の兵器。
なかなか強力な特性にも思えるが――この酸攻撃には欠点もあった。
【強酸】を生成して吐き出す能力は得つつも、どうやら肝心のウジ自身は、完全な酸耐性を得られていないようなのだ。
なんとも間抜けな話だが、酸を吐く時に、自分の口腔まで焼いてしまう。
幸い【代謝活性】なんかに表現されているように、エイリアン種の技能として自己再生能力を持つが、焼かれた口腔が回復するまで、噴酸ウジは再度の攻撃に移ることができない。
つまり、一度「噴酸」したら"次"までの間隔が長くなりがちなのだ。
計測したところ、個体差はあるが再生までは大体2分くらいかかった。
ただし、口腔が酷く焼けてしまっても構わないならば、一回の噴射分の酸を一度口の中に溜め「酸爆弾」として吐き出すこともできる。
この場合は回復までに6分ほどかかってしまうが、ちょうど大砲のように運用することができるだろうな。
ちなみに、酸の生成速度は遅い。
体内が溶かされないようにする中和体液の分泌に時間がかかっているのが原因だが、10分で1噴き分の酸が溜まるが、1体ごとに最大で5噴き分までしか溜められない。つまり2分ごとに10分かけて6噴きさせたら、後は10分ごとに1噴きとなるわけだ。
まぁ、これは欠点というよりは運用上の注意といったところだろうが。近世イギリスの熟練ロングボウ兵みたいに30秒に一射とかいう連発は期待できないな。
ではステータスを見てみよう。
【基本情報】
名称:噴酸ウジ(ベータ)
種族:エイリアン
位階:6〈技能点:残り4点〉
HP:105/105
MP:26/26
【コスト】
・生成魔素:200
・生成命素:180
・維持魔素:62
・維持命素:48
【スキル】
ランナー時代の【咬撃】やら【爪撃】やらが無くなり、系統技能としては【酸生成】が出てきている。
そして俺の裁量で振れる技能点が4点、位階は6と。
ってことは、計算すると――ほう。
どうやら。進化によって系統技能が変化する際、進化後に無くなる技能に振られていた技能点が、一旦回収されるようである。
これはいいな。少なくとも進化させることが前提ならば、無駄振りは無くなるわけだ。ベータやイプシロンの丸丸肥えた姿を見た時、ちょっとだけ心配してたんだよね……ランナーは最初から系統技能に3点も振られているわけだし。
それが回収された分+位階が1上昇した分で4点、というわけだ。
そして振れる点があるということは――その通り、お愉しみの時間というわけだ。
ふむ。
うむむ。
よし、噴酸ウジのスキル振りで、パッと思いつく限りは3つかな。
その1。
【脚力強化】や【筋力倍化】などの身体能力、特に移動能力を重点的に強化して、遠距離アタッカーとしての汎用性を増すビルド。
野戦向きであるが、無理させてる感はかなりあるし、起伏の激しいこの島の地形では特にそれは顕著だろうな。少なくとも今回の作戦については、これは不採用。
その2。
【代謝活性】や【腐食耐性】系の技能に振って、自分の酸で焼けるダメージからの再生を早め、攻撃間隔を短くして固定砲台化するビルド。系統技能の【酸強化】も有りで、こいつは拠点防衛向き。
……攻める作戦なんだから、微妙ではある。まぁ、上手いこと待ち伏せポイントまで行ければ良いかもだが、ちと保留。
その3。
【精神同調】系にガン振りして、より効率的に酸をばら撒けるようにするビルド。
これは大穴である。もっと数を揃えるとか、逆に精鋭中の精鋭の噴酸ウジをスナイパー的に運用しようと思ったら選ぶ価値もあるだろうが、そこまで技能点に余裕があるわけではないから、同じく不採用。
といった具合。
悩んだ末、俺はベータとイプシロンの【脚力強化:微】と【酸生成】をランク参まで上げた。つまり、その1ビルドとその2ビルドのハイブリッドである。
まぁ、"名付き"たる6体は、今後進化を繰り返して戦力の中核にしていくつもりでいる。
つまりいずれ「第3世代」になることは既定路線なわけで、多少短絡的に点振りしても、進化後に取り返せるだろう。だから『系統技能』だけに振れるように、このビルドにしたという意味も強い。
……さて、噴酸ウジはこれで一段落だな。
次は【戦線獣】だ。
ゴブリンから解析した因子【強筋】によって、走狗蟲を進化させたのが、この名前からして脳筋感丸出しのエイリアンである。
"名付き"のうちアルファ、ガンマ、デルタを進化させたわけだが――戦線獣は実にランナーをふた回りはデカくさせた筋肉の塊である。
俺と同じぐらいの身長があるが――筋肉による筋肉のための横幅がシャレにならないからな。質量で言えば俺の3倍はあってもおかしくねぇぞ、こいつ。
威圧感がやべぇ。
筋肉の壁が目の前にあるかのようだぞ。
ランナーがディノニクスじみた機敏さを備えているとしたら、ブレイブビーストはその筋力の発達を、AGIではなくATKに全振りしたかのような、わかりやすい筋肉の塊なのである。
進化1回でここまで変貌するってのもなぁ。
いや、確かによくよく観察してみれば、しっかりとランナーの面影が残ってるんだけどさぁ――ギシャァな感じに十文字に割れるエイリアン的口吻とかさ。
だが、そんなことよりも、やはりブレイブビーストの狂ってるところは、その腕の太さと大きさだろう。
ランナー時代は前足が小さく、むしろ速く駆けるために後ろ足の方が発達していて、そこから繰り出される足爪の一撃が脅威であった。
――ブレイブビーストの筋肉思想はそこから一転している。
まず、前足は肥大発達した筋肉の丸太とも言うべき異常な太さと強靭さを誇っており、後ろ足がメインだったランナーと完全に逆転しているのである。
というか見た目は完全にエイリアンゴリラである。
「両腕」としか言えないレベルに異常発達した前足が身体の半分ぐらい占めており、上半身と下半身があまりにもアンバランスになったためか、単純な"ぶん殴り"ではランナーなど木の葉のように吹き飛ばすだろう。
ただ、当然ながらパワーと引き換えにランナー時代の機敏な運動性は減じられているわけだが。
異常に太い両腕で体を支えながら、のっしのっしとナックルウォーキングで迫ってくる威容は、それだけで心の弱い人間をちびらせるほどの恐怖をもたらすだろう。
「おっそろしい姿になったなぁ、お前ら」
まだ、メタボな噴酸ウジ達のが愛嬌がある気もする。
しかし、同じ「機動力を犠牲にした」進化であるにも関わらず、この差はなんだろうねぇ。熊とだってタイマンで殴り合えるんじゃないかな。2、3体で囲めば一方的に殴り殺すことだってできそうだ。
戦闘時にはその両腕をぶん回すだけで、ゴブリンなんぞ一撃で頭蓋骨粉砕だわ。
オマケに。
ただでさえ筋肉の塊丸太な危険な両腕であるのに、そこからサイの角のようなぶっとい「爪」が発達しているのである。
こいつと正面から相対するには、重武装の上に頑丈さを追求した盾は必須だろう。
まさに「戦線」を支える主力の歩兵役と言える。
ステータスはこんな感じだ。
【基本情報】
名称:戦線獣(アルファ)
種族:エイリアン
位階:6〈技能点:残り3点〉
HP:105/105
MP:26/26
【コスト】
・生成魔素:160
・生成命素:220
・維持魔素:9
・維持命素:100
【スキル】
清々しいほどのパワー系だわ。
噴酸ウジに比べて、コストとしては命素の方が多いってところか。まぁこんだけ筋肉の塊なんじゃなぁ、タンパク質がたくさん必要って意味なのかな? いや、命素=タンパク質って決まったわけじゃないが、イメージ的に。
そうだな、ビルドとしては、素直に身体能力を強化していくのが鉄板だろう。
攻撃技能を伸ばすのも瞬発力的な意味では良さそうだが――系統技能の【平衡強化】は気になるね。ある程度、バランスの悪さが補えるのかもしれない。
というのも上半身と下半身がアンバランスすぎるせいもあってナックルウォーキングなんぞしてるんだろうから、どうしても攻撃のために両腕を振り回す際に、意外なほど転ばされやすいという弱点が判明したんだよね。模擬戦を何度かアルファ達にさせたところ。
だから、ゴブリン程度であっても複数で連携してかかられたら、後れをとる可能性はゼロにはできないというわけだ。
んむ。
そうだな、他のビルドの可能性としては――威圧感を活かして【おぞましき咆哮】を取っても十分効果はあるだろうな。あるいは、HP強化からの【巨大化】によって"肉盾"として活躍できるようにしても良い。
この巨大な筋肉の両腕を、攻めではなく守りとして活用するならば、バランスの悪さはあまり気にしなくても良くなるだろうしな、姿勢的に。
うーん……良し。
少し悩んだ末、3点分は【HP強化】に振ることにした。
系統技能じゃあないから「第3世代」に進化後に回収されない可能性もあるが、この筋肉ゴリラ型エイリアンから進化するエイリアン達だ、どうせ近接戦闘武闘派なカチコミ野郎どもに決まってる。
【HP強化】からの【巨大化】とは親和性が低くはないはずだから、それで良しとしよう。その点では、搦め手系の噴酸ウジとは違う考え方でビルドを組んでいくつもりである。
果たして――アルファ達3体のHPをステータスから確認すると、30%増加していて137になっていた。
白人の強豪超重量系のアメフト選手に囲まれた痩身青年みたいな気分になりながら、しかし、噴酸ウジのベータらと見比べつつ、俺は悦に浸る。
――だってさぁ。
これが、これからも、さらに強く逞しく多様に進化していくんだろう?
◯◯モンとか△△モンとかあるが、どうしてこう「進化」ってヤツは男心を刺激するのだろうかねぇ。
良いじゃないか、【エイリアン使い】。
この世の様々な生物を「解析」して、因子を収集して、それらを組み合わせて新たな種を系統分化させていく。
楽しみだね。
今後とも、非常にワクワクするね。
ん……作戦の開始まで、まだ時間があるな。
よし、ならばファンガル種の「第2世代」も1セット紹介しよう。
***
【魔素結晶花】と【命素結晶花】。
周囲の魔素・命素を少しずつ吸収しながら、それぞれ『魔石』と『命石』という戦略資源を生み出すファンガル種である。
見た目は、そうだな。エイリアン的肉塊であることは他のファンガル種と共通しているとして――こいつには、たくさんの実(当然肉塊)が生っている。
まるでブドウのように、メロン大の蠕動する肉塊が20個ほど、もぢゃっと房状にまとまっていて、まるで悪魔の庭園にでも植えられてそうな冒涜的な果樹である。
ちょっと、集合体恐怖症の人間にはショック死してしまう光景かもしれんね。
で、その悪夢の肉果実の1個1個からは、さながら「千切れた肉の間から突き出した骨」を思わせるような、鋭利なれど美しく輝く【魔石】や【命石】が生えているのである。
青の結晶たる【魔石】と、白の結晶たる【命石】。
もちろんただ単に生えているだけではなく――周囲の魔素と命素を吸収しながら、【結晶花】は少しずつ【魔石】【命石】を成長させていくのである。
そのペースは、大体丸一日ほど放置することで「採集」可能な大きさ……人差し指ぐらいの大きさである"最小サイズ"にまで育つ。
それが肉果実の一つ一つから生えているのだから、つまり【結晶花】1輪あたり、1日で最小サイズが20個"収穫"できるというわけである。
この【魔石】と【命石】。
何が素晴らしいかというと、だな?
迷宮経済の基礎である「魔素」「命素」の代替リソースになるんだよ。
しかも完全な上位互換として。
以前、魔素と命素の補給を「蛇口」で喩えたのを覚えているだろうか。
あの喩えにならえば、【結晶花】は言わば"制限の無い"蛇口なのだ。
どれだけ他の魔素命素消費者が増えようが、お構いなしに、常に同じペースで魔石と命石を生み出し続けることができるのだ。
これは、俺の「迷宮経済」を根本から変えてしまうぞ。
"魔素・命素経済"から"魔石・命石経済"への転換がどのようなものになるかだが――端的には、エイリアン達に魔石と命石を食わせたり、適当に身体に突き刺したりしておけば、生命維持のための魔素・命素消費を代替させることができる。
例えば最小サイズの命石ならば、お弁当代わりに5個も持たせておけば、走狗蟲1体の1日分の維持命素を賄えるのである。
魔素・命素経済の弊害は、蛇口を一斉にひねる者が多すぎる――一度に供給できる量が絞られてしまう、つまりフローに限界があるということだった。
だが、魔石・命石経済においてはそんなものに左右されない。ざっくり計算したところ交換レートは「1:7」というところだが……ちょっと数字は適当だが、違いを簡単に説明してみよう。
ある場所で1日に700命素供給される場合、維持命素が32である走狗蟲は、命素経済では約21体しか養えない。それ以上の数にすると「蛇口」が絞られて、全てのランナーに命素が行き渡らなくなってしまうからな。
だが、これが命石経済である場合は、極論ランナーが何百匹いようが、【結晶花】自身の命石生成ペースは変わらない。1日に20個の最小サイズ命石つまり140命素を安定して生み出すため――【命素結晶花】を5輪も並べておけば、ほれ、それだけで命素経済の時と同じ数のランナーを養えるようになる。
……無論、【結晶花】を増やせば増やすだけ、単純な掛け算で、1日ごとに手に入る命石は一次関数的に増加するのだ。
ただ、まぁだからといって【結晶花】を無限に植えることはできない、という「制約」もちゃんと存在する。
【結晶花】自身も当然「維持命素」と「維持魔素」があって――自分自身の"維持"に、魔石・命石を使うことができないのだ。
これがそのまま、【結晶花】を作ることのできる限界になる。
さっきの例で言うと、もし今の俺の迷宮の「全領域」合わせた1日のフローが「魔素700命素700」だとしたら――【魔素結晶花】の維持コストは1日あたり「魔素70命素45」であるから、合計で10輪までしか作れないことになる。
実際には【命素結晶花】も必要で、こっちは1日あたり「魔素45命素70」だから、細かい計算をすっ飛ばすと、それぞれの結晶花を6輪ずつ設置したところでフロー限界を迎える。
それ以上無理に設置すると、蛇口が絞られ、全ての結晶花が機能不全を起こす。
だが、6輪ずつの【魔素結晶花】と【命素結晶花】とが運用できることを考えると、1日あたり「魔石120命石120」が生産されている。
つまり「魔素700命素700」が魔石を経由して「魔石840命石840」に化けたってわけだ。
ん? なに?
たったの1.2倍、長々計算した割にはしょっぱいんじゃね、だって?
あっははは。
今の計算は、あくまで「最小サイズ」で換算した場合に過ぎない。
実験したところ、まだ「最大サイズ」がどれぐらいの大きさになるまでは分からないが……少なくとも2日間成長させた「小サイズ」の魔石・命石の交換レートは「1:17」にまで改善されていた。2日かけてるってとこに注意な、1日換算だとレートは「1:8.5」になる。
で、この場合はさっきの「1日あたり魔素700命素700」の迷宮を仮定すると――巡り巡って「1日あたり魔素1,020命素1,020」相当の魔石と命石に化けるってわけだ。
ダメ押しで『系統技能』にゃ【増大:魔石サイズ】とか【増大:命石サイズ】とか【増大:房数】とかいうのまであるから、後は言わなくてもわかるな?
……まーぁ、実際には肉果実のサイズによって魔石・命石の成長具合に微妙にばらつきがあったり、エイリアン達にも微妙に維持コストの個体差があって、厳密に計算通りともいかないんだがな。
それに、今の説明ではわかりやすくするために「迷宮全体を1個の領域」にひっくるめて「1日あたりの魔素命素がいくら」って考え方をしたが、現実には『裂け目』との距離だったり、いろんな要因に応じて「魔素・命素」のフローがかなりまちまちだったりするから、そこまで上手く行くわけじゃあないが。
そこら辺の細かい検証や調整も含めて。
現在、奴隷蟲達には【結晶花】を集中的に運用するための迷宮施設『結晶畑』の建造を優先させているところである。
まぁ、これについて語りだすと話が長くなってしまうから、またいずれ俺の『迷宮拡張・防衛計画』とセットで解説することとしようかね。
――ル・ベリからの合図を知らせる、小鳥や小動物どもの報せだ。
いよいよ、ゴブリン2氏族殲滅作戦の開始ってわけだ。




