本編-0014 経験点と技能の詳細
なぁぁぁぁんてこった。
……まったく、想定外もいいところの技能を取ってしまった。
【欲望の解放】て。
まぁ魔人にとっては自己強化系の技能の前提だから、けして悪い選択でもないんだが……俺の予定するビルドでは、さして優先順位は高くないんだよなぁ。
ううむ。
まさかこんな形で【技能】に関する世界ルールが正しいことを、俺自らが再証明してしまうとは。てぇか、うかつに感情を昂らせるのもダメなのかよ。それすらも「キッカケ」扱いされてしまうのか、そうですか。
嗚呼、神は我を見捨てたか。
――ん?
神?
……あぁ、そうか。そうですかい。
そういえば、その可能性もあったか。
ちょっとばかし迷宮核から【魔界】の歴史をおさらい。
神々の大戦があり、人と魔族の大戦があり、今はそれぞれ人界と魔界に分かれて数百年の歴史を刻んできた。
このうち【人界】と【魔界】の二つをつなぐ小さな通り道である「裂け目」と、それを守る迷宮領主達がいて、彼らは【魔王】によって統治される魔人達で――その祖は、かつて敗れた【黒き神】に付き従って魔界落ちした人間の一派で。
ついでに魔王は【黒き神】の神託を授かる、最高神官的立場も有していて。
ここまで言えば、もうわかるか?
随分と干渉的な神々じゃあないか――となれば、"振り残し"の技能点を勝手に振ってしまう「法則」の一つが見えてくる。
ほれ、魔人の種族技能に、とてもとても犯人くさい技能系統があるじゃないか。
【後援神】とかいう系統の技能が、な。
まさに「神」と呼ばれる連中が、定命の者達に干渉する有力な手段の一つなのかもしれないな、これは……見捨ててなかったよ、むしろガン見されてる可能性が出てきたよ。
まぁ【諸神】にせよ、【全き黒と静寂の神】の眷属神達にせよ、それぞれ人界とも魔界とも異なる【天界】と仮定された異次元にお隠れになっているという話だから――この説をすぐに確かめることはできないんだが。
だが、ふうむ。
神ってやつは、随分と間接的で面倒な干渉手段を取っているんだな?
そして、随分と複雑に、周到に執念じみたやり方で、この世界で「傑出した個人」が出現しないように調整してる臭いな?
『技能点』だけじゃない。
『経験点』だってそうさ。
老ボアファントが漁夫られボアファント――ル・ベリが手懐けるのに成功した"若いメス"よりも、俺に多くの経験点を与えてくれた理由は、簡単なことだ。
老ボアが文字通り多くの人生……ボア生経験を持っていたから、だ。
どうもこの世界では、位階上昇のための経験点を獲得する方法は、俺の最初の予想と少し異なっていたらしい。
あまりにも「ゲーム的」なステータス画面が出てくるもんだから、俺も自然と、それが「敵を倒して謎エネルギーを吸収してレベルアップ!」だという先入観を持ってしまっていた。
迷宮領主としての技能に【眷属経験点共有】なんてのがあるせいで、先入観に拍車がかけられたしな。
だが、違ったのだ。
結論から言えば、この世界では単純に他者の命を奪ってその"経験"を己のものにする、とかいうレベルアップシステムは採用されていない。ゴブリン氏族の中では非戦闘員であったル・ベリが位階17であったことも、その節を裏付けている。
「経験点」とは"職業"に応じた行動を取ることによって、ゆっくりと溜まっていく類なのである。
地頭が良いのか、かなり記憶力の良い(執念もあるだろうが)ル・ベリに、「技が冴えた」と感じたタイミングを可能な限り思い出してもらった。すると、それが大体年に1~2回のペースであることが判明したわけだが――さて。
ル・ベリは数え年17歳であり、位階も17だ。
これは、偶然かね?
本人の自己申告によればだが、ル・ベリは生まれた時から"獣調教師"であり、さらには魔界の眷属神が一柱【調教と嘲笑の女王】の注目を受けていた、らしい。
ならば、ろくに戦闘経験があったわけでもないル・ベリが年相応の位階に成長している理由は、その職業"経験"を地道に積み重ねてきたことに求めるしかなかろう。
つまり、たとえば戦士だったら「戦うこと」それ自体が「経験」となるし、あるいは職人であれば「物を作る」ことが「経験」になる。
為政者であれば「統治すること」だったり、あるいはル・ベリのような"獣調教師"なら、「動植物を操ること」によって徐々に位階が上昇していく、というわけだ。
しかもこの法則は、おそらくだが"職業"を持たぬ魔物や獣の類にも同じことで――なんのことはない、老ボアファントはそういう意味で「ボアファントとして」経験豊富なボア生を送ってきたわけである。
繰り返すが、魔物だとか他の生ける存在を殺したことで『経験点』が得られる、というわけではない。
で、だ。
同じ法則は、実はこの"俺"自身にも当てはまっているのだよ。
さて、俺の職業はなんだったろうか。
そう、迷宮領主だったな。
迷宮領主にとって「経験」を得る行為・行動とは、その"職業"としての在り方とは、一体何だろうな?
それは、勢力を拡張するために眷属を引き連れて偵察に出かけること。
または、眷属を操って『経験』豊富な、つまり『位階』の高い"敵"を殺すこと。
あるいは――「新たな配下を得る」ということ。
これは実に迷宮領主らしい行動だとは思わないか?
これらが組み合わさったことが、位階が一気に3も上がった原因だろう。
そして職業技能【眷属経験点共有】で言う【経験点】とは、この"敵を殺す"ことによって俺の眷属達が得るべき『経験』であり、それを俺にも流れ込むようにするものに過ぎないのだ。
――ゼロスキルですらこれだけの効果だったわけだから、ランクMAXまで伸ばしたら、どうなるだろうね?
そして、おそらくだがこの時に俺が得られる『経験』は、殺した相手の『位階』つまり『経験』の多寡によって補正がかかる……とかそんな感じだろう。これが、ボアファントの個体によって得られた経験点が変化した理由だと思われる。
まぁ、表面的にはRPG的「経験値システム」と同じように見えるかもしれんが。
ただ、仮にそうだったとしても、そうした「経験を奪う」みたいな能力が迷宮領主に限定されている蓋然性は高い。
そりゃそうだろ。
もし、誰もが殺した相手の『経験』を奪えるってルールだったなら、殺せば殺すほど、奪えば奪うほど、個人が突出した力を持ちやすい世界になる。
しかし、数多の【迷宮領主】が絶賛戦国時代中の【魔界】においてさえ、そのような"傑出した力を持つ個人"の出現はほとんど見受けられない――迷宮核の知識に記録された"魔界史"を信じるならばだが、な。
あくまで【眷属戦】による集団戦闘が、迷宮抗争の基本形態なのである。
ほら。
個人の力が強くなりすぎないように、"無双系"の英雄の誕生を防ぐように様々な仕組みが張り巡らされている、ように見えるんじゃないか?
……とまぁ、身の程知らずながらも「この世界の設計思想」にまで考察を飛躍させてみたが、どうだろうか。仮に俺に"注目"している魔界眷属神がいたとしたら、あまりに鋭い考察に度肝を抜かれてたりしているがいいさ。
あるいは、見当ハズレの考察を冷笑しているがいいさ。
今は、のん気に観察しているがいい。
まぁ、俺は神々とどう関わるかについては、今のところ知的関心以上の興味は薄い、というのが正直なところだ。もっと積極的に干渉してきていたならば、また話は変わるが、そういうわけでもなし。
技能点が勝手に振られてしまうというのは面倒ではあるが、あらかじめビルドを決めておいて、位階上昇したら無心で即振りすれば、対処できないこともない。
そんなことよりも、俺はもっと俗世での栄達に関心があるのだ――今は。
無論、無関心に放置しておくつもりも無い。
何せ、俺がこの世界に「転移」してしまった原因の有力候補でもあるんだからな……神々という連中は。
まぁ、そういうわけで、思わぬ邪魔が入ったが"お愉しみ"に戻ることとしよう。
***
何に置いてもまずは【情報閲覧:弱】だ。
とりあえず、スキルテーブル画面から点振りしつつ、慎重に使用感や画面の変化を確認する。
1点――。
2点――。
3点――んおお? なんと! 百聞は一見に如かず、ちょっと見てくれ。
赤い数値が表示されるようになった。
これは【前提技能レベル】ってやつだ。『固有技能』の方では、最初からMAXだった【体内時計】から「5→」の数値が【精密計測】に向かって伸びていたから、ほぼ確定だろう。
いいね、いいね。
やはり思った通り、技能点が上がれば【情報閲覧】の機能は拡張されているのだ。
よし、次だ。
4点――お!
【情報閲覧:弱】
魔界の神に言祝がれた迷宮領主達に与えられた、世界の理に接続するための権能……の劣化版。
己自身か、または迷宮の眷属か、あるいは生ある存在の能力等について見抜くことができるようになるが、同じ迷宮領主同士の間では力が拮抗し合うため、不安定なものとなる。
この技能に熟練する者は、己自身、次に眷属、その次に生ある存在、さらに次に他の迷宮の眷属について、その能力を見抜く力を増していく。
来たな……。
スキルのある程度概要がわかる説明が見れるようになった。
概要説明に書いてあることを信じるならば、少なくとも俺の予想は当たっており、ル・ベリのスキルテーブルは見ることができるようになるはず――ビンゴ!
「よし! 喜べ、ル・ベリ。お前の力を引き出してやることができそうだぞ!」
実際に「点振り」してやるのはもう少し後にするが。
なに、今は俺自身のことが先だよ先。
まぁ、この分なら【情報閲覧】のランクが更に上がっていけば、見ることのできる情報はもっと増えそうだ。
それこそ【技能】の詳細だけでなくて【種族】だとか【職業】だとかの詳細も――そして、今は名前が表示されているだけに過ぎない、俺の眷属エイリアン達の「進化先」や「胞化先」の詳しい説明が見れるようになるかもしれない。
うーむ、それはそれで魅力的だが――。
俺は【情報閲覧:弱】へ振るのを、ここで一旦打ち止めることにした。
何故かというと、元々の目的であった「眷属のスキルテーブル表示」がランク肆で、既に達成されてしまったからである。
そしてとりあえず近くにいた走狗蟲イプシロンで試してみたところ……あっさりと点を振ることが、できるようになったのが確認できた。
俺のビルドはあくまで眷属達を強化することを軸にしている。
そりゃあ、【情報閲覧】によって相手の種族とか職業の詳細だかをすぐ知れるのは、潜入工作とかでは便利かもしれないが――少なくとも、今この瞬間に最優先することではない。
というわけで、ここは【経験点倍化】を上昇させておくかな。
【経験点倍化】を上限ランクの伍まで一気に点振りし、残った1点は【精密計測】に振ってランク弐にしておいた。
ふふふ……近いうちに大量の『経験点』が得られる当てがあるのさ。
老ボアファントの献上など、その意味では彼にとっては俺に対する挨拶代わりに過ぎない。だから、ここで【経験点】を倍プッシュしておくというわけだ。
そうして、俺のスキルテーブルはこうなった。
うん。
称号【超越精神体】によって追加された謎の技能群は見なかったことにしよう。
いやさ、確かに"超然とした心"を持ちたいとは宣言したけど、これはちょっと、斜め上の展開なんだが――あれか、『称号』システムもまた神々の干渉手段の一つってか? だが、これはどちらかというと『個を強化』する方向な気がするんだが……わからん。
ともかく見なかったことにしよう。
人間は辞めさせられたが、魔人を辞めるつもりは、まだないんだよ。
さて、俺自身の点振りも終わったが……せっかく『概要説明』を見始めたわけだし、ちょっと、前から特に気になっていた、いくつかの技能の正体をここらで見極めておこうかね。
***
まず1つ目は【液体因子の生成】。
こいつは"因子"を「液体状」にした物質を産み出す技能だ。
それだけならなんのこっちゃと思うかもしれないが――なんとこの液体因子、奴隷蟲の胞化先であるファンガルの1種である【進化臓】を"自動稼働"させる際に消費する材料のようなものとのこと。
そして2つ目に【因子の注入】。
こいつは【進化臓】へ、俺自身が魔素と命素を媒介に直接"因子情報"を登録するための技能であるとのこと。
――この二つの情報を組み合わせて。
俺が疑問に思っていた"走狗蟲から先の進化"の謎が、かなり正確に解明することができた。
すなわち「エイリアン進化」のための手順は、こうだ。
1.【進化臓】へ走狗蟲をぶち込む。
2.掛け合わせたい"因子"を【因子の注入】によって【進化臓】に登録する。
3.後はスポア化したエイリアンの進化完了を寝て待つ。
というわけである。
この時、あらかじめ注入する「因子」を液体状の物質にして【進化臓】にストックさせておいて、いちいち指示を出さなくても"因子注入"を自動化できるようにするのが『液体因子』の役割である。
ただしこいつは消耗品であり、定期的に補充が必要になってしまう。
また、魔素・命素の消費的には【因子の注入】よりもコスパは良いようだが、逆に進化にかかる時間が増加してしまうようで、取るつもりなら最初からランクMAXとかで行くつもりでなければ、恩恵は薄そうにも読み取れた。
迷宮の規模が小さいうちは、そもそも直接【因子の注入】をすれば良いし、大きくなってきたら……そうだな、俺がひたすら【液体因子の生成】をやって奴隷蟲達に運ばせるってか?
なんか、ひたすら卵を産んで働き蟻に世話される女王蟻じみてて、嫌だな。
――【産卵臓】みたいな"拡張端末"的なファンガルが今後現れたら、使い勝手が一気に変わる気もするから、そちらに期待しておくかな。
現状は……ふんぬっ!
とりあえずランクゼロでも、どんな技能も最低限の効果で発動はできるということを利用して、今試しに【強筋】因子を"液体生成"してみた。
命素と魔素の青白の淡い光がそのまま、半透明のスライム状の物体として俺の掌の上から垂れ落ちている。
んーむ。
魔素と命素の消費はともかく、ちょっとMP消費がデカいなこれは。
ひとつかみの液体因子を生み出すだけでMP消費10というのは、ちと考える。
まぁ、通常の【因子の注入】と組み合わせながら、ちょっと効率をどうするか検討しておくかな、そのうち。
さて、話を重要技能の概要説明に戻そう。
3つ目は【因子の希釈】だ。
こいつは、俺の眷属が今有している【因子】を「希釈」――薄めることができる。
例えば、ランナーを因子【強筋】あたりで別種に進化させた後に、また「ランナーに近い状態」に戻すことができる技能だ。使用時は【進化臓】の"登録"効果を応用する。
ポイントは、あくまで"薄める"だけで除去はできないというところ。
"薄め"た後は、それを『他の因子で置き換える』ということができるようだが――エイリアンに対しては「進化したて」の個体にしか効果が無いようで、位階上昇したり、それで得た技能点を振ってしまったエイリアンには効かないらしい。おまけに、進化したことによる位階の上昇も戻ってしまうため、無限レベルUP策としても使えない。
うわ、使い辛ッ! とその時は思ったさ。
というか、その制約が無かったとしても、正直使い所がよく分からなかった。
なにせ、俺の迷宮の性質的には「質より量」だ。"進化したて"のエイリアンでは、注入する因子を間違えた時にキャンセルするぐらいしか思いつかない。
第一、新しく別の個体を進化させてやれば良いじゃないか。
それともあれか、替えの効かない個体に対して使う技能――ん?
待てよ……?
"エイリアン"以外なら、どうなるんだこれ。
ほら、つい最近俺には「エイリアン以外」の配下ができたじゃあないか。
汚らわしきゴブリンの血を引く、哀れな【半魔人】が。
そこまで思い至ると、どうにも実験心がうずき始めてきた。
そうだ、そうだ。
いつまでも醜い"ゴブリン"の姿じゃ可哀想じゃあないか。
ル・ベリは使えそうな配下だし、最初の配下ということで長い付き合いになるだろうから、俺としてもしてやれることはしてやりたいものだ。
例えば――彼の身体を蝕むおぞましき『ゴブリン因子』を置き換えてやるとかは、どうだ?
これだ。この技能の存在意義は、こういうことに違いない。
となると、ル・ベリの13点を振ってやるのは、一旦我慢するべきだろうな。
さっきちら見したが【悪罵の衝動】とか【鯨飲馬食】とか、いかにも劣等生物らしい意地汚さ生き汚さの塊のような技能が見えて、目が腐りそうな気分になった。
それでも職業技能の方で振ってやってなんとか我慢するつもりだったが――"半ゴブリン"要素を、【因子の希釈】によって完全に抜き取ってやることができたら、ル・ベリは一体「何」になるのだろうかね?
そしてこの時、彼のスキルテーブルは、どうなってしまうのかね?
これは良い。
配下への慈愛と人体実け……もとい技能検証を同時に満たせる上に、ル・ベリの能力と忠誠心の強化まで見込める一石四鳥の奇手である。
どうせ拠点に戻って【進化臓】の検証をする際に【因子の注入】は使うことになるのだから、【因子の希釈】をランク壱にするまでに必要な技能点3点分ぐらい、安い投資である。
思わぬダークホースだったが、点振りの優先順位を少し上げておくとしよう。
4つ目は【因子適応】。
これは……ちょっと、まだ抵抗がある。
本格的に運用しようと思ったら、俺自身が"人間を辞める"ことを覚悟しなければならない――とだけ今は言っておこう。
使わないで済むに越したことは、無いよなぁ。はぁ。
5つ目は【眷属維持コスト削減】。
軽く計算していたんだが、魔素・命素の消費量削減率は位階ごとに5%だった。
ランクが最大の拾になる頃には50%減というわけだ。保有できる戦力が2倍になるとも見れるし、外へ連れ出せる時間が2倍になるとも見れる。
6つ目は【眷属技能点付与】。
位階ごとに、俺の眷属達に「位階上昇時、一定の割合で追加の技能点が1点与えられる」とかいう、素敵極まる効果だ。この「眷属」てのがポイントで――概要説明を見る限り、おそらくル・ベリも含まれる可能性が高い。
いいね、これは【眷属強化】系統技能の中でも優先順位を上げておこう。
ランクMAXにすべき技能としても意識しておくか。良いね、実に良い。
さて。
それでは、お待ちかね。
眷属のスキルテーブルが見れるようになったわけだから――【エイリアン】と【半ゴブリン/半魔人】のビルド考察もこの際やってしまうか。




