本編-0130 ナーレフ騒乱介入戦~位階上昇処理(旧配下編)
【報いを揺籃する異星窟】の一室。
我が【内務卿】にして拷問官ル・ベリの"仕事部屋"から聞こえてくるのは、いつもの騒音ではない。
獣の呻きとも悪鬼の嘆きとも取れる叫喚を上げていたのは、ナーレフ軍の生き残り達である――「桃割り」をする前に絶望で心が壊れてしまうと上手くいかないからな? 適度に痛めつけ、正気を失わないようにさせるのもまた、必要に駆られた下ごしらえというわけだ。
「人間とゴブリンの違いは、なんだろうな? ル・ベリ」
「ふうむ……ひとたび苦痛を与えて、慣らして、崩して、"こう"なってしまえば、生物としては似たような反応をするものですがな、御方様」
「苦痛ねぇ。生きることそれ自体を"そう"だと考えて、そこから抜け出す術を探求した賢人なんてのもいたらしい。ははは、実際に古い肉体から抜け出した経験のあるお前だ、そこのところどう思う?」
「……心の有り様は、自分でもわかるほど変わりましたな。醜きゴブリンであった頃は、私にとっては生きることは"苦痛"そのもの――だったのですがな。今思えば、あの焼け付くようなあがきの中には"喜び"もまた、確かにありましたな」
「そんなお前だからこそ、人間の統治というものを任せてみたいと思うのさ、我が【内務卿】よ。まぁ、よくよく人間とゴブリンとの違いと共通点という奴を観察しておいてくれ――そこに俺が解き明かしたい謎の一つのヒントがあるからな」
「身に余るほどの光栄でございます」
魔人は【魔界】落ちした元人間種族。
同様にゴブリンもまた元人間であった――あるいはそれを元に作られたのではないか? というのが今俺が抱いている仮説だ。だが【人界】でもそうだったが、ゴブリンへのそれと異なり「人間」という種族への尋問・拷問行為は、俺にとってもル・ベリにとっても特に心が躍るものでもなかった。
なるほど、【魔人】が人間を"似姿"と呼ぶ時、そこには侮蔑的なニュアンスが混じる時も多いらしいが……ゴブリンに対する、あの五臓六腑から染み出すような種族的憎悪とは、雲泥の差というか、ベクトルだか次元だかが違っているというか。
「オルゼンシア語」を話す人間達の一派が"魔界落ち"した際に、何かが、この3種族の間にあった可能性が高いのは、以前も考察した通りだな。
まぁ、だからといって、ハイドリィに付き従ったこの哀れな捕虜達の運命を変えてやるメリットがあるわけでもなし。まだ、俺の迷宮の存在を詳細に察知されるわけにはいかないという事情もあるのでな。
必要だからやるし活用するし、効率的に効果を最大化しようとするだけのこと。
そして、俺が何かを望めば、それに応えようと義務感を募らせるのがル・ベリという配下である。
では本題。
そんなル・ベリ君の位階上昇から見てみようか。
【基本情報】
名称:ル・ベリ
種族:魔人(半異系統)
年齢:17歳
性別:男性
職業:奴隷監督
身分:内務卿(【報いを揺藍する異星窟】) ← Change!!!
位階:29〈獲得技能点:11点〉 ← Up!!!
【異形】
・四肢触手(第一)
・弔辞の魔眼(蕾) ← Change!!!
【状態】
・装備中(触肢花)
後援神関係の技能が多少伸びている他は、【油断無き監視】といった観察眼系の技能が自力取得・点振りされているのが目立つところか。
【擬装術】により【人界】でそれなりの期間【異形】の存在がバレることなく隠し続けられていることも、間接的な意味では本人の注意力と観察力の強化・経験となっているのかもしれない。あとゴブリンへの"殺戮衝動"が順調にまた1上がっているのはもう突っ込まないとして。
【魔眼】を"蕾"段階にまで進めることができた。
【弔いの魔眼】は"蕾"となった途端に【弔辞の魔眼】へと其の名を変える。
と同時に、魔眼としての新たな能力を獲得。"芽"の時には『知的生物の遺骸』を媒介に、その死の際の苦痛を与えるという異能であったが――。
"蕾"として新たに得たるは『過去に同種族生物を殺した記憶がある』時に、その死に際の苦痛をそいつ自身に追体験させる、という異能。
例えば人間が動物を屠殺したり魔物を討伐しても、その苦痛を与えることはできない。だが、逆にそいつに"同族殺し"の経験と記憶があるならば――人間やゴブリンに限らず、たとえそれが知性を持たない動物相手であっても効果を及ぼせる。
これはこれで、意外な汎用性があるかもしれないな? ライオンのように同族殺しの習性がある魔獣に対する"調教手段"とか、な。
だが【魔眼】の能力進化が予想とちと違ったか。
能力が強化されるのではなく、派生能力が発現した、というのが正確なところだ。完全な上位互換とはならないというのが【魔眼】システムの妙なのかもしれない。
でまぁ、その使い勝手を試す意味もあったわけである。捕虜達をル・ベリにまかせていたのはな。
中でもどこかの元ナーレフ代官の反応は素晴らしい見世物だったなぁ。奴め、それなりに己の優秀さを誇っていたようだが? 相応に"記憶力"も優秀でな。
それはそれは、様々な"苦痛"のバリエーションを示してくれたもんだよ。
勉強になったとル・ベリが言っていたが、苦痛を与える者は苦痛を与えられもする、そうだろう? 覚悟の上のことだろうよ、ハイドリィ君。
あぁ、無論、捕虜を全て潰してしまうなどという勿体無いことはしないぞ。
カッパーの如き【融化種】達の生成実験も進めている所なんだが……まぁ、この話はまた後回しだな。
さて。
位階上昇の確認は配下順番的に次はソルファイド。
と言いたいところだが、ちょっと込み入った話があってな。
先にグウィースの方をチェックするとしよう。
【領域転移】によって【人界】側、泉の周辺部に"転移"っと……おいおい、十数分かかったがな。
やっぱ緊急回避には使えんわ、この技能。まぁいい、気を取り直そう。
【魔界】に戻ってから数日ぶりの『泉』周辺の樹林の様子確認と洒落込もうか。
『長女国』における"天災"とは斯くなるや、と言わんばかりの荒廃が広がっていた『泉』の周辺部。つい数日前までは激しい闘いの傷跡の残る剥き出し凍土の大地であったものが――。
春の気配と相まって、グウィースによる"復興"は急速に進んでいた。
さすがに元の木々生い茂る樹林にまで再生させる、というのは至難か。だが、春司による最後の"季節移ろい"の効果が早速現れていることに加え、魔人樹の種族技能【花咲かせ】の力により、種々の雑草や若木の芽・花々の類が芽吹き、繁茂し、剥き出しの大地を新緑に覆いつつあったのだ。
緑化事業を開始して数日の成果としては破格と言ってもいいかもしれない。
「グウィース! みんな芽吹け、みんな元気!」
元気な声を響かせるグウィースが、颯爽と木々の間を駆けていく。
――『痺れ大まだら蜘蛛』に騎乗して。
うん。
『痺れ大まだら蜘蛛』の頭部に植物下半身の根を這わせ絡みつかせ、わしづかみにして締め上げるかのような乱暴なる"乗りこなし"の実に無邪気なこと。しかも大まだら蜘蛛が心なしか吸われて衰弱してるような……干からびつつあるように見えるが、新手の寄生植物だか冬虫夏草だかのようで先が思いやられるんだが。
まぁいいや、重要なのは任せた仕事の仕事ぶりの方だよ、うん。
【領域転移】でグウィースの駆け回る先々にストーキングしつつ、その行動を注意深く観察していると、決して気まま心の向くままにはしゃぎ回っているわけではないことがわかった。
グウィースの寄る先々で、戦いの余波で崩れた倒木などが、急速に朽ち果てて行く様が観察されたのである……おそらく【腐れ根の隠者】の力によるものだろうな。
死んだ植物が腐葉土の如く急速に崩れてゆきて、それらが、また新しく菌糸類だかキノコだかコケだかが生い茂る苗床と化していく……倒木の類だけでなく、なんかゴブリンの輪郭をした苗床が目に入った気がするが気の所為だろう。その辺りはル・ベリとグウィースの兄弟に任せようとも、うん。
――それが原因かは知らんが、どうも【魔界】由来の胞子類・植物類が、この【人界】の森でちらほら散見されるんだが、まぁ見方を変えれば、ある意味グウィースに与えた任務は順調だということだな。
では、ステータスの方を確認していくとしよう。
【基本情報】
名称:グウィース・ベリ
種族:魔人樹
年齢:0歳
性別:雌雄同株
職業:軽騎手 ← New!!!
身分:農務卿(【報いを揺藍する異星窟】) ← Up!!!
位階:8(獲得技能点:14点) ← Up!!!
【称号】
『新種の始祖』『森のヌシ』
リッケルの転生の試みにより新種として生まれたこの魔人樹幼児。
まぁ"幼児"と言いつつ、言葉足らずさが必ずしも精神的な未成熟さを示すわけではないようで。"植物"的には「生き方」を決めるに足る程度の成熟度合いには至ったのか、グウィースが己がアイデンティティとして選んだのは【軽騎手】であった。
【巫覡】も気にはなるんだが……今後また転職させる機会などもあるだろう。
【軽騎手】の技能テーブルだが、ざっと見る限りはその名に違わず、騎乗生物とのある種の"共同作業"を強化するような技能が多い。
ただ、あくまでも"軽"騎兵としての意味合いが強いようだがな。攻撃的な技能は意外なほど少なく、どちらかというと偵察や撹乱といった補助的な行動や、騎獣の消耗を抑制したり未踏の地まで駆けることを前提としたような継戦能力の強化が中心的である印象。
その中でも面白いのは【相克緩和】という技能で、騎獣から受ける悪影響を軽減できるというものだ。無論、技能ツリーの後ろの方である上に、そも下位職業であるためそこまで劇的な効果は期待できないかもしれない。
だが一助としてならば、どうか?
例えばクレオンに乗せてみることを考えよう。奴に限界まで火力を抑えさせ、グウィース自身もまた事前に十分な水浴びをさせ、それでも足りなければ【火】耐性の魔法をかけた上で【火属性障壁花】を周囲に配置して――その上のダメ押しで、この技能に振るとなればどうだ?
案外【相性戦】で意外なほどの"天敵キラー"になったりする、かもしれない。
まぁ、それも含めて今後の成長に期待するところ大というものだな。
グウィースの"任務"についても、もう少し俺の狙いを話しておこう。
【魔界】と【人界】の森を繋げてみろ、と命じたその心は、今や両界に領域を広げるに至った【報いを揺籃する異星窟】の迷宮としての一体性を更に確保していくことにある。故に、両界の法則の違いがどの程度、それぞれの"森"のあり方に影響を与えているかなんかも調べさせるのだ。
なるほどグウィースは【魔界】出身生物であるが、称号『森のヌシ』の獲得と【腐れ根の隠者イリテ=エリリテ】の後援が合わさり、俺の「領域」に組み込まれた【人界】の森をも期待以上に管理してくれている。
であるならば――例えば両者を交流交配させるなど、より積極的な統合も荒唐無稽ではあるまい?
例えば【魔界】生物である葉隠れ狼。
"長き冬"と相性が悪く、ナーレフ騒乱への介入では、当初の期待ほどは活躍できなかったな。まぁそれはそれで使い所というわけだが――それを"進化"や"変異"させられるかもしれない、と言えばどうだろうか?
森の森である所以は、様々な生物種の住処となり揺り籠となることだ。
それを贅沢にも混ぜようというのだ。何が起きるか、とても楽しみだとは思わないか? 進化変異の類を愉しむことができるのは、何も俺の特有完結した能力である【エイリアン使い】のみに限られる権能でもあるまいよ。
――斯くして其処此処に、従前と全く異なる新たなる"多様性"が誕生する。
それが、そのまま俺の迷宮へと至る"裂け目"を覆ってしまえば、存在を中和する隠れ蓑としても働く。
いいや、それだけではない。
気の長い話をするならば、そこから新たな"因子"が収穫できる可能性だってあるのだ。【異星窟】のための『因子ファーム』ができあがる、とでも言おうか。
『森のヌシ』の固有技能を見てみれば、そこも含めた"生態系"の管理者としての位置づけであることは明白だ。何となれば、今後の新たな能力獲得次第では……"進化"と"変異"のサイクルを早めることすらできよう? 現にこの俺という事例があるのだから、な。
***
さて、それではソルファイド及びその押しかけ愛馬の話に移ろうか。
【領域転移】で『口腔:性能評価室(闘技場)』の俺用観覧席に赴けば――あぁ、やってるやってる。
ただ今、我が配下最高戦力の竜人ソルファイドが、アシェイリとユールの吸血鬼二人組に稽古をつけている最中であった。
ほう、げぇ、ふむ。
……うわぁ。
吸血鬼の頑丈さを理解して乱暴に扱って良いと判断したな、ソルファイドの奴め。
双剣の双閃によって、容赦なくアシェイリの右腕とユール君の首を切り飛ばしおったわ。
だが吸血鬼達も然る者。切り飛ばされた部位から血の刃やらを突き出しつつ反撃と撹乱を狙う。
が――ソルファイドが軽く火竜剣を振るって火気を飛ばすや。
その炎閃の中から灼髪赤眼の魔馬【焔眼馬】が突進体制で出現。焼然と吸血鬼達に突っ込み燃やしながら轢き飛ばしていったのであった。
竜人め、鬼教官具合に磨きがかかっていやがるな?
まだ"しごき"は続きそうな様子だが――ソルファイドが今披露した手品の正体について、そろそろ述べておこうか。
【基本情報】
名称:ソルファイド=ギルクォース
種族:竜人(火竜統)
年齢:35歳
性別:男性
職業:牙の守護戦士
身分:近衛隊長(【報いを揺藍する異星窟】)
位階:34〈技能点:7点〉 ← Up!!!
【状態】
・盲目(永続)
・被憑依(火霊の先触れ) ← NEW!!!
強敵デウマリッドとの死闘の際に、戦士としては相当の"経験"を積んだのか、【魔法耐性】だとか全体的な戦闘能力が底上げされる形でガンガン点振りされて成長している。極めて順当な位階上昇だが――それだけでは、今の「スタ○ド」攻撃の如き、何もない空間からのクレオンの出現を説明できないな?
さぁさ、目玉をかっぽじって【状態】の項目を見てくれ。
見るからに怪しいのがあるだろう?
……結論から言えば、ソルファイドは愛馬クレオンを吸収してしまったのである、炎的な意味で。
そもナーレフ騒乱への介入戦で、旧ワルセィレ領域の属性バランスを整調していた『季節移ろい』というルールは、春夏秋の3司によって解消された。
それは暴走した冬司を自分達もろとも大自然に還元することで消滅させ、捕らわれた【泉の貴婦人】を解放せん、というケリの付け方だったわけだが――。
クレオンだけ【封印】のギュルトーマ家の特殊封印術、ハイドリィの名付けるところの【ワルセィレの奏で詩】から開放されていない状態で、それを実行してしまったことが予想外の展開をもたらした。
力を失いつつも完全に消え去ることもできず、中途半端な状態のまま、死にかけの【焔眼馬】の肉体に閉じ込められてしまったのである。それで、ちょうどその時デウマリッドを撃退して意識を失っていたソルファイドに、夢うつつの中で助けを求めたのだという。
"季節移ろい"というシステムのうち「春」と【火】属性に関わる権能の残り香。
「季節を鎮圧」するとも謳われた【竜】の力のうち「火竜」の末裔としての力。
そこにギュルトーマ家の【封印】の施術が、焔眼馬自身の魔獣としての強烈な生存本能によって捻じ曲げられ、混じりあった結果――。
ソルファイドの【状態】に、「火霊の先触れ」とかいう、俺としては非常に警戒せざるを得ない要素がいつの間にか現れていたのであった。
……ただ、ソルファイド当人にしてみれば結構な能力強化になった様子でなぁ。
【火】属性が、魔法のみならず火竜としての力までも強化されているのは序の口。
なんとあのクレヨン馬、ただソルファイドの"火"に宿っただけではなく、その意思に応じ、あるいはクレオン自身の意思で、自在に【竜火】の中から出現したりまた炎に戻ったりできるようになってしまったのである。
もう少し具体的に言おう。
およそソルファイドが放つあらゆる「火」の中から、あの燃え盛る馬の形の災厄が出現して突進してくるのだ。今みたいな剣から飛ばした火気や、あるいは竜人としての【息吹】から、な。
しかも、その時の「火力」がそのまま出現時の突撃エネルギーとなるようで。
クレオン自身も、血肉と炎を行き来できる元々の災厄獣としての能力が徹底されており――アシェイリの力任せの反撃で胴を貫かれた直後、爆ぜた血肉がまとわりつくような炎に変化。
逆に吸血鬼達の"血の武器"を焼かんとする場面も何度もあった。
ははは、押しかけられ体質もここまで来ると筋金入りだなぁ。
実にこれは、いわゆるスタ○ドって奴だなぁ。
『きゅ。雪どけさん?』
……それはデタント。
『高級品さん!』
それはブランド。
『危険なアクションさんをお仕事にしている人?』
だから、それはスタントマン。
『もふもふカリカリの食パンさんの間に、あぶった鶏肉さんとぷりぷりの目玉焼きさんを』
それはテリたまチキンサンド……ってええい!
副脳蟲ネットワーク全体で同調して俺を乗せて来るんじゃない! 世にも恐ろしき拷問の一つである「ゴムぱっちん」の刑に処するイメージを叩きつけ、痛覚もないのにきゃっきゃと悶え逃げ散る幼児精神脳髄達を思考空間から締め出す。
ソルファイドに話を戻そう。
新たな攻撃手段兼高速移動手段を手に入れただけではない。
"憑依"された影響だろうが、焔眼馬の「炎を血肉に替える」という能をも会得していることが【継承技能】からわかるな? 観察する限りでは、一度クレオンを出現させ、そのクレオンがソルファイドの傷跡を焼くという一手間を経なければ発動できないようだが……。
単純な話、ただでさえ頑丈な竜人の生存能力が格段に強化されたとも言えよう。
本人談、ヒュドラの首ならば単身で2つまでは抑えられる気がする、とのこと。
『"車裂き"という手法を試したい、貴様の馬を貸せ、竜人』
『赤あたま、ずるい! 僕も乗せて!』
……ふむ。
他所の街に行く時はサーカス団という表の身分を騙るのも有りかな? まぁいい。
以上がソルファイドの能力強化部分にだけ着目した現在状況。
で、だ。懸念部分の考察だ、ちょいと"押しかけ憑依"の張本人たるクレヨン馬のステータスを見てみようか。
【基本情報】
名称:クレオン=ウールヴ
種族:火霊の先触れ(【焔眼馬】)
年齢:77歳
性別:精霊体
役割:騎獣(ソルファイド=ギルクォース)
【状態】
・憑依(ソルファイド=ギルクォース)
性別のところの【精霊体】なんて表記が露骨であるが……続けて技能テーブルを開こうとしたところで、ちょっとした事件。
なんといつものように技能テーブルを開くことができず、俺の知る言語に翻訳すらされない、奇怪な機械音の如き「エラー」が迷宮核からシステム音として吐き出されたのであった。
こんなのは初めてのケースである。
以前クレオンを【情報閲覧】した時は問題も無かったんだが――どう考えてもこの「憑依」だとか「精霊体」だとかが悪さをしているようにしか見えないよな?
それに確か「精霊の泡粒に興味はあるか?」だったかな。
改めて【四元素】家の"愛し子"がアシェイリを通して俺に届けてきたメッセージを反芻する。
最古の魔導侯サウラディ家は"精霊"と呼ばれる不可視の存在に力と知識を借りている……と噂されており、家号たる【四元素】とは、すなわち【水】【火】【土】【風】属性の魔法への高い適性を持つことを示したものであるらしいが。
さて。
そういえばだが、過去に「副職業」候補に【四元素術士】なんてのがあった。確かそいつの技能テーブルで、それぞれの属性強化ツリーの最上位技能に『交感法』なんて技能があったよなぁ?
最初にあれを考察した時は、単に【人界】における魔法属性バランスとの関係でしか捉えていなかったんだが――なるほど、交感と来たか……もしや【四元素術士】とは【人界】じゃサウラディ家に独占された職業だったりはしないよな?
【四元素】のサウラディ家。
【四元素術士】と「火水地風」の魔法属性。
【泉の貴婦人】による"ワルセィレ式"の魔素バランス調整領域。
「春夏秋冬」に「火風土水(氷)」を対応させた"季節移ろい"というルール。
この符号は偶然であろうか?
これはオルゼンシア語ではない。それが俺の世界認識に適合するように最適化され、解釈され、意訳された結果として「四元素」という言葉を当てられている。
――ということを踏まえると『性別:精霊体』だとか『火霊の先触れ』だとかいう翻訳を、俺は一体全体どういう風に解釈すれば良いのだろうな?
与えられた材料を純心に拾って行くならば、次は俺に接触したがっている【精霊の愛し子】殿の手の内に飛び込むところかもしれないが――その前に、もう一人の"精霊"絡みの当事者であるルルに事情を聴取するのが先、というわけであった。
……まぁ、その辺りの情報収集も兼ねて、ウーヌス達には彼女に対する『性能評価』をさせていたわけだが、結果が「ぶきゅぴぶきゅぴ」だよまったく。後で、もう一度、あの一本角の魔人ネフェフィトへの再聴取と合わせて、この話を整理しに行かねばならないのが面倒くさいところである。
リッケル以来の他の迷宮からの来訪者である以上は(強引に連行してきたんだが)、様々な意味での慎重な対応が求められよう。うん、決して起き抜けに俺をぶん殴ってくれたことへの仕返しを考えているのではない。
今度はどういう角度で、あの一本角から高濃度の魔素を流し込んでやろうだとか――。
『オーマ様、ご思索の最中、失礼します』
――この波長は、ダリドか。
『不寝番ご苦労、というところか? お前の父親は、ちゃんと議論できる状態だよな?』
くつくつと口の端を歪めるイメージを送りつけてやる。
ダリドはルクを思わせるような困った表情を浮かべ、しかしルクのような卑屈さが皮肉屋に変わったような意味での"擦れ"は無く。
『一応、母上も手加減はしてくれたみたいですけど。でも、父上……ご当主様は這ってでも来ると言っています』
おそらくミシェールかルク当人から吸血鬼の二人に連絡が行ったか。
ソルファイドが追撃のしごきを収め、アシェイリとユールがよろよろと支えあうように立ち上がった。
ふむ、そっちの準備が整ったのならば、先に、リュグルソゥム一族と吸血鬼達の位階上昇確認を行い――彼らの因縁に一つの区切りと整理をつけつつ、情報の整理と今後方針の検討に移るとしようか。




