本編-0129 ナーレフ騒乱介入戦~位階上昇処理(創造主編)
【盟約暦519年・跳び狐の月(4月)・第12の日】
【~転移180日目】
最終的に、俺は新代官ジェロームの「顧問」という立場に収まった。まぁ、隠れ蓑だな。
ルクの行動の思わぬ副産物が無ければ、自ら街の支配者になる道があったが……それはそれで、やはり"短期計画"故の茨の道であるという悩みどころもあった。その意味では、ハイドリィに取り入ってその使い走りとして振る舞いつつ、内部から蚕食する――という段取りだった"長期計画"のメリットも取り入れられた形だ。
煽動者だか詐欺師だか黒幕としてはナーレフ外にも徐々に認知されてしまうかもしれないが、ジェロームを有能な代官として演出し続けられる限りは、よもや真の素性までは辿られまいよ。このまま、時折ふらっと街に現れては地道な「鑑定」活動を行いつつ、『参事会』とやらに参加して代官に助言することもある胡散臭い人物で通していこうか。
煽るだけ煽ったナーレフの興奮は未だ覚めやらぬ。
だが、翌朝までには街を引き払い、韋駄天鹿の背に乗って【魔界】まで戻ったのが数日前のこと。
『森の兄弟団』改め『泉の街の自警団』を掌握したため、ハイドリィ統治時代に比べればずっと大胆にエイリアンを活用できる。それでもまぁ、夜闇に紛れさせたりといった隠蔽工作はまだまだ必須だが……神速には代えられない。駅伝のように数体のソニックディーアを乗り継げば、早くて半日で『泉』とナーレフを行き来できる仕組みも作り上げた。
つまり、この俺がナーレフでやっておくべきことは、ひとまず済んでいる。
「冒険者」の組織設立については、ジェローム新代官殿の手腕に期待だねぇ。諸勢力間の面倒臭い調整も全て押し付けちまえ。俺はその果実を収穫させてもらえればそれで良い……動くべき時に、用事がある相手の所には勝手に行かせてもらう。
なにせハイドリィ統治時代に比べてずっとエイリアンをばら撒くハードルが下がったのだ。宿主への侵食を抑える代わりに、感覚を強化して情報収集能力を高めた"新調整"バージョンの寄生小虫もガンガン投入しているところだ。
その分エイリアンネットワークへの負荷も増すんだがな。当然のことながら、パラサイトの大量運用を含め【人界】へのエイリアン増派は相応にコストがかかっている――のだが、それを緩和する工夫を一つ発見できたのである。
『ぎゅぶくぶくぶくぴぴぴ……このままじゃ僕のじまんの筋肉さんがぁ! ふやけてしまうぎゅびっぶくごぼ』
聞くがよい今の汚い発泡音を。
なに、我が「エイリアンネットワーク」の核たる副脳蟲を【異界の裂け目】から……その身体を半分こだけ【人界】側に露出させたのさ。
試行錯誤の結果、ウーヌスを"横向き"に沈めるのが迷宮経済的に一番効率が良いことがわかった。ちょうど右脳と左脳のつなぎ目の辺りで、それぞれが【魔界】と【人界】に露出している状況――ちなみに【人界】側の出口は現在、接収したルルの"泉"の底に貼り付けている。
別に、特に理由のないお仕置きがウーヌスを襲っているわけではない? うん。
大体「口」と呼べる器官が存在しないはずのぷるきゅぴボディが、一体全体いかなる原理に基づいて水泡を吐いているのやら、小一時間問い詰めるのももはや飽き飽きだしな。
『ウーヌスさん~、気合いです~! エラ呼吸を覚えましょう~こう、あごの付け根の辺りの筋肉をヒクヒクさせる感じです』
『きゅぴ! 人体の神秘さんの秘密は、やっぱり筋肉にあったんだきゅぴね!?』
ハハハこ奴らめ。
……我が副脳どもの能天気なるきゅぴきゅぴ会議に、ルルという新たな参加者が加われり。これまで以上に俺のスルー力が試される事態が来たわけで。まぁ、うん、その話は気が滅入りそうになるので、配下達の位階上昇やら技能状況の確認やらやっていこうじゃないか。
まずは、この俺自身から。
【基本情報】
名称:オーマ
種族:魔人族
年齢:25歳
性別:男性
職業:迷宮領主(融合型)
爵位:子爵
副職:槍戦士
位階:35〈技能点:残り0点〉 ← Up!!!
【異形】
・勁絡辮(第一) ← New!!!
結論から言えば【人界】においても"自動点振り"は行われた。
つまり【魔界】の創造神とその眷属神達の、少なくともこの権能に関しては、敵対する諸神達の在る領域においても干渉を受けていないのである。
――神々の仲違いによって【人界】と【魔界】が分裂し、そうした対立関係を背景に迷宮領主的能力が随分と難儀させられていることとは、えらい違いだな? つまり【経験点=スキル制】自体は、そうした分裂以前に導入された共通の"基幹システム"なんだろうが……それすなわち、「強大な存在の出現の阻止」が試みられているのは【人界】でも同じこととも言えよう。
あるいは神々の大戦以前、諸神を率いる【白亜の神】と【全き黒の神】の一派の対立は、この辺りに一因があったりするだろうか? まぁこのことについてはこれ以上は情報が足りないので一旦考察を打ち切ろうか。
さて。
話を俺自身の成長に戻せば、大きな変化は二つだ。
第一には、ついに【領域転移】技能を取得したことであり……ちょっと試しに発動してみよう。
心の中で技能の発動をイメージ。周囲の空間が捻れてそれに全身が巻き込まれるような、その歪んだ感触の隙間に魔素と命素が急速に流れ込むような感覚が身を包むやいなや――。
『創造主様が何もないところから生えてきたきゅぴ!?』
はい、今俺は【魔界】側の"裂け目"付近まで「転移」をした。
見るや、両界を股にかけた贅沢なる半身浴をしていたウーヌスだが、何やらバリウムを飲んだ後の攪拌のためのゴロゴロ運動の如き回転運動をしながら驚きの声を上げてきた。
こいつやっぱり全然溺れてる様子が無いじゃねーか! 何が"ぶくぶくごぼごぼ"だ、この通行阻害粗大物どもめ。
『きゅぴい? じゃなかった、ぎゅびごぼぉ! おぼれぶぅぎゅびぃ』
『解説するよ! 創造主様、チーフはルルムーさんから"えら"呼吸のやり方を教わってるんだよ!』
『ぶくぶく~』
『夏開き? これってあじの開きさんとどう違うの? モノ、教えて』
待てコラお前ら。確かルルの「性能評価」をやらせていたはずだったんだが、何か変な方向で意気投合してやがる……いかんいかん、ペースに乗せられてはいかん。どうせその話も後でしなきゃならないんだ。今相手をしているとドツボにハマりそうだ、落ち着け俺。
ごほん。
【領域転移】をする時の感覚は"銀の水面"を通る時の感覚に似ている。
ウーヌス達の証言では、転移の数秒前、俺が現れる位置に『銀色の霧』が発生。徐々に俺の輪郭が象られ、銀霧の雲散と共に生えてきた、という。
この"銀の霧"がキモだな。
追加の実験を行ったところ、どうも転移先に障害物なんかがあった時には、ご丁寧にそれを避けるような"最適"な位置どりに銀霧がもやりながら移動するのである。そして安心設計であるのが、転移先に十分な空間が存在しない場合には、いつもの迷宮のシステム音と共に、転移が失敗した旨が伝えられるのみであること――つまり"転移事故"はほぼ起きない。
そう考えると、モーズテスが遭った「エイリアンの中にいる」状態は、やはりイセンネッシャ家の転移魔法が【魔界】由来のもので、それが"他迷宮"である俺の迷宮において干渉の結果暴発したものであろう。
で、肝心の使用感。
距離に応じて魔素と命素の消費が増大するのは想定の範囲内として……。
この「領域転移」技術。中位の範囲攻撃魔法並みのMPを注ぎ込んでようやく、数十秒かけて目的地へとテレポートすることができるとかいう燃費の悪さなのである。当然、途中で魔力が足りなくなったり集中力が切れると失敗し、転移できずに疲労感だけが残る。
転移事故が起きにくいことが不幸中の幸いではあるか。
おまけに、技能名から予想はしていたんが、転移できるのもあくまで俺の迷宮の「領域」の内側だけであった。外から内へ、または内から外へという移動は不可能なのであった。
あくまでも迷宮の管理運営のサポート能力というわけである。
まぁ、確かに単純な移動時間削減という意味ではものすごく便利だが……期待していたほどの使い勝手の良さではないかなぁ。何せ俺には「エイリアンネットワーク」があるんだ。迷宮や眷属の全体管理という意味では、ある意味俺自身の移動能力は優先順位が低いしなぁ。
故に、この能力に期待したのは、もっと直接的な戦闘能力なんかである。例えば緊急回避とかな。
理想を言えば、これこそ【騙し絵】家の【空間】魔法のようなものが良かったな。
その点はむしろ【人界】の魔法体系の中で洗練された部分なのかもしれないなぁ。大魔道イセンネッシャが【○○使い】になり損ねた、というのは過小評価だったかもしれないが――ふふふ、実はその辺りは新たに解析完了した【空間】因子が結構な"掘り出し物"だったからな。後でその話もしよう。
ちなみに、今回のナーレフの騒乱への介入で【泉の貴婦人】の『泉』を新しく"領域"に組み込んでいるが――そこへも転移が可能にはなっている。相変わらずの消費コストの激増と引き換えにだがな。
まぁ迷宮が広がれば広がるほど、複雑になれば複雑になるほど、価値は上がるだろうが……今は1止めでもいいかな。迷宮経済にはあまり優しくないあたり、迷宮領主が強大な存在にならないようにするための「共通ルール」程度に抑えられている感もするなぁ、やはり。
それから、転移させることができるものも限られている。
小一時間ほど検証した限りでは、俺が俺の一部か付属物と"認識"する衣服なんかは大丈夫だったが、他の生物を同伴させることはできなかった。「付属物」も制約があって、発生した銀霧に収まるサイズのみで、はみ出てしまう分については元の位置に取り残されるか転移自体が失敗する結果に終わった。
一応、能力の説明を見る限りは、この辺りは技能レベルが上がればもっと便利になっていく様子だが――あまり劇的なものは期待できないかもしれないなぁ。
やはりしょっぱい。
そのくせ、敵の迷宮領主が使ってきたら結構厄介なんだろうなぁ、これ。追い詰めようとする時に逃げ回られたら厄介……いや、待てよ? そもそも大多数の【分離型】の迷宮領主からすれば、本体が逃げたところで迷宮核が陥落してしまえば負けじゃねーか。
うわ、その意味だと、むしろ俺のような【融合型】にとってはまだまだマシな使い勝手なんじゃないかな、これでも実は。
『きゅぴ。隠れんぼさんや鬼ごっこさんなら負け無しになれるんだきゅぴ』
おう、ちびっ子には大人気になれそうだな?
さて。
俺自身の成長の第二点目に話を移そう。
改めてさっきの技能テーブルを見てみてくれ。特に【種族技能】のところ。
うん。
――見ての通り【第一の異形】を獲得した。
いや、別に探究心に負けて当初のビルドの予定を変えたわけじゃないぞ。
これは不可抗力だ、うん。
迷宮核の知識によれば、おさらいするが元来【異形】とは、魔人が【魔界】の瘴気に適応しあるいは"外的魔素"を体内に取り入れるために与えられ、進化発達させた器官だ。
ル・ベリの【四肢触手】然り、ネフィ――このじゃじゃ馬への事情聴取の結果等は後回しだが、こいつの【一本角】然り、他にも【第三の目】だとか【翼】だとか、そういうミュータントじみた身体部位の増加なり異常発達という形態を取る。
だから、そもそも魔素を自活できる融合型の迷宮領主である俺にとっては必要性の少ない器官なわけで、それを獲得するような"経験"を積む機会は意識しなければほぼゼロのはず。だから"経験"による自動点振りなんて起きない――。
そういう先入観を勝手に抱いていたせいで、油断していたというのがあろうなぁ。
『きゅぴ! 僕も創造主様みたいなサラサラヘアーが欲しいきゅぴぃ!』
……先に形状の説明をするか。
此れなる異形の名は【勁絡辮】。
俺の後頭部から垂れ下がる、一房だけ異様に伸びた"辮髪"である。
適宜奴隷蟲達に髪の毛を長くなりすぎないようざんぎりに切りそろえさせていた俺であったが、ちょうど延髄の辺りに、馬の尾でもいきなり生えたかのような器官が異常発達したのであった。
そう。
髪の毛じゃない。
正確には「器官」だ。
確かに今、我が脳天気な副脳が「サラサラヘアー」などとのたまったような毛髪に包まれてはいるが、どちらかというとこの異形は、"触手"に近い筋肉の塊。つまり俺の意思に沿ってかなりうねうねと動かすことができる。
ほれ、ほれ、ほうれ。
『きゅぴい! 創造主様のポニーテールさんが象さんのお鼻さんみたいに――あっち向いてきゅぴっ! 負けたぁ!』
『ウーヌス、それトンボさんを捕まえる動きだよ?』
『催眠術~』
『あはは! しかも先っちょさんからなんかもしゃもしゃ出てきてるよ、ウーヌス……目回してら、あはは』
はい、ストップ。
今モノが指摘したところこそが我が【勁絡辮】の大事な特徴だ。単なる「触手系」の【異形】であったならば――ル・ベリのそれを考えればもっとシンプルな命名だったろうになぁ、俺の認識に沿った命名法則なんだし。
だが、この生える場所を間違えた猿のしっぽの如き「もしゃもしゃ」。
なんと触手型異形の先端部分からは剥き出しに露出した『神経の束』が、筆先のようにちょろちょろうねうねと顔を出していたのであった。
つまりこの髪の毛で覆われた親指ほどの太さの触手は、内側に数百数千もの『神経の糸』を包み覆う"管"なのであった。そんでこいつをだな、こう、ちょっと耳の後ろの辺りを力ませる感じで――。
『きゅぴい、これで眠っているル・ベリさんとソルファイドさんのお鼻さんをさわさわすると……きゅぴぐふふきゅきゅ』
といった具合だな。
触手の口の部分の筋肉を微妙に加減することで、先端から露出した神経糸をわさわさにょきにょき、ちょろちょろと出し入れしたり動かしたりすることも可能だ。喩えるなら、切れて中の銅線を剥き出しにしたコンセントがインド人の笛の音で生命を得て踊り狂っているような感じかな。
で、まぁこの神経糸つまり【勁絡】の部分がまたデリケートでなぁ。とりあえず、保護と洒落を兼ねて【辯】をさらに外側から布でぐるぐる巻きにしておいたが……話を戻そう。
俺が、この【異形】に技能点を自動点振りすることになってしまった"経験"。
それは、ハイドリィ軍と冬司の闘争に介入した時に敢行した、エイリアンネットワークへの極限までの同調による"操作量という力技"であったのだよ。
【魔眼】なんてもっと露骨だが――そもそもル・ベリの【異形】だって、まるで"拷問"の仕手と受け手という奴の半生の延長線上から浮かび上がってきた"用途"に便利なる部位として発達した、としか思えないな?
要するに「それ」を獲得する者自身の経験や世界認識の影響を受けるのだ。
【異形】や【魔眼】というのは。
わかりやすくファンタジックな典型例の知識のせいで、そこを誤解していた。
さて。
ならば、この俺の"辮髪"君はどういう用途であるや?
――別にLANケーブルに喩えたのは、あながち適当な考えでもないのだ。
能力説明のために【脳:司令室】へ転移で戻って、と。
部屋の奥には俺の玉座があるんだが、そこに座布団みたいな気楽さで張り付いている「エイリアン輿」。こいつに歩み寄りながら、俺はおもむろに【勁絡辮】をうねらせ――。
深呼吸を一つ。
まだ慣れない感覚だが、こればかりは試行を重ねなければ、恐れてばかりでは能力の本質も見えてこないからな。
「そぉい!」
【勁絡辮】をそのままエイリアン輿にぶっ刺した。
「うぐッッ……!?」
瞬間、まるで刺すような電流が後頭部から頭頂部を蹂躙してもんどり打つ俺。
――然も有りなん。
なにせ、今【勁絡辮】をぶっ刺したのは、エイリアン輿を構成するエイリアン達が、お互いの肉体を同期同調させるために、それぞれの「神経」を密接に絡み合わせている、まさにその接合箇所だったのだからな。
つまり、俺もまたエイリアン輿に接続した。
それで、どうなったかって?
脳みそ全体が強烈に痺れる激痛と、全身麻酔でもかけられコンマ遅れて空中に投げ出されるような浮遊感に襲われたのもまた"一瞬"のこと。
その先には、全く未知なる感覚が広がっていた。
喩えるなら、人間の精神のまま、突如タコか何か冒涜的な生物の肉体の中に投獄されたかのような。
若干のえぐ味と吐き気をもよおす悍ましさを伴った乖離的な浮遊感。
己の肉体を己の意思通りに動かせないという心細さを纏った無力感。
今俺は、まるでそれが俺自身の3本目4本目の"腕"であるかのように【触肢花】を、"肩"であるかのように【鶴翼花】を……といった具合に、エイリアン輿を構成する俺の眷属達を、自分自身の身体の一部のように感じて、身体感覚を完全に共有した状態になっているのであった。
「……か、はっ!」
即座に「エイリアンネットワーク」を起動して、なんとか肺を動かして呼吸を再開する。恐ろしいことだが、この"接続"状態では、俺はエイリアンネットワークによる同調能力を借りねば、自分自身の不随意運動ですら錯誤してしまう状態に陥ってしまうのである。
上に書いた「タコに入れられた人間」の喩えの通りというわけだ。当たり前だが、いきなりタコの身体に入れられた"人間"が、タコのやり方で呼吸なんかできるわけがないのである。
だが、それも1秒程度のこと。
すぐにウーヌス達が「エイリアンネットワーク」を通して、エイリアン輿とそれに接続された俺の身体制御を整理統合していくや――ふう、落ち着いた。幾分、マシな具合だ。
よし、それでは、ちょっと歩いてみようか。
"人間"側の身体は、接続時の電流ショックでエイリアン輿に倒れ込んでいる。
だがそれを"エイリアン輿"側の身体で受け止め支え、触手を動かしながら姿勢を整えさせてうまく座った体勢にさせ――【勁絡辮】を通してコンマ秒にも満たぬ電気信号が次々にエイリアン輿へ送られていく。
そのたびに脳みそが揺さぶられるような強烈な違和感のせいで吐きそうになるが――最初に比べたらいくらか和らいだか。
俺は「触手」をにょきっとエイリアン輿から6本ほど伸ばし、生まれたての子鹿のような頼りなさではあるが、いつの間にかウーヌスらが送ってきた【螺旋獣】アルファとデルタに見守られながら、ぐるぐるよたよたと司令室を闊歩してみせたのであった。
ご理解いただけたであろうか。
俺が得た【異形】は、単なる「後頭部から生えた便利な3本目の腕」ではない。
俺自身を他の生物に"接続"することで、身体機能を丸ごと"拡張"することができる神経端末、というのがその本質であった。
これが何を意味するか――なるほど、接続したのがこの「エイリアン輿」だけなら、まぁただの座り心地の良い悪趣味な自走神輿でしかないな。だが、例えばこいつに【属性砲撃花】なんかを"接続"したらどうなると思う?
……まぁ、見ての通り「エイリアンネットワーク」という"補助輪"が無ければ、まだ呼吸すらままならない状態なのが格好つかないがな。
ゆくゆくは通常のエイリアン種との"接続"だってできるかもしれない――"動かない動物型"エイリアンのファンガル種とですらこれだけしんどいんだから、負のフィードバックはこんなもんじゃない可能性も高いんだがな。
その意味では、今後ともまだまだリハビリが必要だな。
さて。
故にLANケーブルに喩えたわけである。
俺が【エイリアン使い】として俺の眷属達を極限まで「エイリアンネットワーク」を使って同調指令して神経をすり減らすほどの努力をした結果。
あの戦いが終わった頃には、恐るべきことに種族技能【第一の異形】は一気に技能レベル6にまで点振りされていた。だから、そこまでされたなら、もはや毒食らわば皿までの境地で位階上昇で得た技能点を突っ込んで【第一の異形】を開花させた、というわけである。
そうして得たるは、俺の眷属を"身体部位"として自在に付け外し操る能。
これこそが【異形:勁絡辮】によって啓かれた、俺の新たなる可能性だ。単純に「エイリアン輿」を"外部端末"として操ることで、俺自身の直接戦闘能力だって増すし、迷宮領主として重要な生存能力の向上にも寄与する。
いちいちアルファを呼ばずとも重いものを運んだり、触手を器用に動かして、人間の手足じゃ入れない地形を移動できるというのも地味に便利……なにせ、都合の良いことに俺は既に配下に「触手を動かす経験」を持った便利な魔人がいるのだからなぁ。
『というわけで、"エイリアン格闘術"の研究は任せたぞ、ル・ベリ』
『は! 何たる栄誉……この私の経験が、研鑽が、会得した能がそのまま更なる上位の異能を持つ御方様の血肉になるとは――!』
こりゃスイッチ入っちまったかもな。
ともあれ【触肢流】のエイリアン格闘術を猛烈に開拓していっているル・ベリである。奴の身体操作感覚が、エイリアンネットワークによって連携する【8本触手】の運動経験が、外付けの4本の【触肢花】からそのエイリアンネットワークを通してこの俺にフィードバックされるならば――実に効率的なリハビリだろうさ。
あと、そうだ。
【異形】としての余談を付け加えておくならば、本来の能たる外的魔素の吸入については、そもそも俺の心臓に融合した迷宮核が上位互換のようなものであるため、特に真新しい感覚などは無かったかな。強いて言うならば、魔素とMPの回復速度がほんのり上昇したという程度である。
以上、これが俺自身の大きな変化についての話。
では、次に配下達の位階上昇処理について確認していこう。




