本編-0098 貧者を欺く仮面と男達の逡巡
――時は、ルクが主オーマと合流する半日ほど前に遡る。
【ワルセィレ森泉国】が征服されて滅びた後。
移動制限を課された旧住民達によって、親を失った子供達や戦傷でまともに働くことのできなくなった者達の面倒を見る共同住居として建てられたのが『救貧院』の始まりであった。
元は単に"共同住居"としか呼ばれていなかったが、旧ワルセィレが関所街ナーレフとして繁栄し始めるにあたり、外からやってきた商人や旅人といった者達に『救貧院』と嘲られたのが、いつしか住民の間でも正式な呼称に変化していった。
「貧を救う」という目的は事実であったし、それが『泉の貴婦人』の元で共和的な生き方をしていた住民達にとっては、嘲られる理由のよく理解できない当たり前のものからである。
他方、嘲る側の『長女国』の"魔法の才"の有無に踊らされる者達にとっては、家族ですらない他者の命を過度に尊ぶことは理解できない。その意味では、この『救貧院』という呼称には文化や意識のズレが表れているとも言えよう。
だが、その"貧を救う"理念にこそ、つけ込む者達があった。
『幽玄教団』あるいは通称たる『人さらい教団』の方がよく知られているが、【騙し絵】家が都合の悪い者や敵対者を拉致誘拐するための実働部隊達は――『長女国』における貧者の中の貧者でもあったからである。
才無し、技無し。
財無し、土地無し、身分も無し。
あるのは己の肉体だけであり、それこそが彼らにとって唯一の"武器"である。
彼らは、指導役たる「導師」「送り師」という幹部階級も含めて、一様に魔法の才を持たない一般平民から成っている。しかし、何も無いところから集団で出現してきて、都合の悪い者や敵対者を『転移魔法』によって何処かへ「さらう」のである。
故に"人さらい"教団。
そのからくりは、教団員達の体の一部に刻み込まれた"魔法陣"の存在にある――ということを、ルク自身はリュグルソゥム家が受け継いできた『止まり木』の知識から知っている。
「導師」には信者達の転移先の"目印"となる魔法陣が、体の一部ではなく全身に刻まれており、まず標的の近くへは彼らが派遣される。
「送り師」には信者達の身体に刻まれた転移の魔法陣を起動する力を持った魔法陣が両手に刻まれており、目的地にたどり着いた「導師」と呼応して、集めた信者達を一斉に転移させるのである。
ただし、この"手口"は【魔導侯】達の間ではよく知られたものである。
それだけ『人さらい教団』が派手に活動してきたということもあるが、そもそも【騙し絵】家の『転移』魔法自体、イセンネッシャ家の成立当初から危険視されていた。故に"対策"という意味では、【紋章】家と【封印】家が共同開発した『転移妨害の魔法陣』が存在しており、王都や各侯都の主要施設などに刻印されていることも多い。
――しかし、魔導侯達の走狗として働く中下級貴族達であったり、農民商人職人工作員といった一般の平民達の「安穏」については、さほど興味を持つ"謀略の獣"達ではなかった。
世間において『人さらい教団』という存在は、どこに隠れていようと問答無用で命知らずな誘拐者達を送り込んでくる恐怖の組織でしかない。神隠しのようにさらわれてしまい、身代金を要求されればまだマシな方であろう。
命安き信者達の死をも恐れぬ狂信的な「拉致術」の存在からか、【魔導侯】達の息がかかった者達が相争う『長女国』の"夜"の領域において、『人さらい教団』は意外なほど武闘派の組織として認識されているのであった。
そしてナーレフの『救貧院』に話を戻せば、移動制限をされた旧ワルセィレ住民にとって、せめて旧き善き日々の生き方を偲ぶ場として、つまりコミュニティとしての機能を増しつつあったタイミングで……その繋がりを断つ謀略として、ロンドール家が主家と【騙し絵】家との協定に基づいて"受け入れた"貧者達こそが、幽玄教団の信者達であったのだ。
彼らは『長女国』においてすら弾圧され、忌避される貧者として救貧院へ受け入れられ、そしてハイドリィの『鼠捕り隊』による兄弟団狩りに前後して、旧ワルセィレ住民達が身を隠している間に救貧院を乗っ取ったのである。
――その『救貧院』の中を、まるで館の主のように闊歩するルク。
彼の姿に気づいた教団員達が、次々に両手を固く結んで両膝をつき、頭を垂れるという『幽玄教団』独特の祈りの姿勢で尊意を示している。
一言二言偉そうな言葉をかけて、元の『救貧院』修繕の作業に戻らせるルク……何せ、これから『救貧院』に新しい住民を迎えなければならないのだから。
ある程度『人さらい教団』の事情を知る者がその光景を見れば、おそらくこの仮面の青年こそが、悪名高き「導師」か「送り師」であると誤解するだろう。
だが、それこそが、主オーマに命じられてからわずか3日足らずで『救貧院』を"落とす"ことに成功した所以でもあった。
(まぁ、集団で何かに対して"狂信的"な連中の方が、個人を相手にするよりも遥かに『催眠』しやすいのは確かなんだけどな)
教団の信者に堕ちた者達は、この国において「魔法の才」が無かったのは当然として、同じスタートラインに立つはずの他の平民達との競争においても落伍した者達である。それは"食い詰め者"達の最後の博打たる「迷宮挑戦」すら行う気概と勇気が無かった、ということでもある。
だからこそ、その悲運を『英雄王の教えのせいだ』とする『幽玄教団』の古代信仰復興的な"教義"に取り込まれ、洗脳されてそのことばかり考えるようになり――彼らにとって『導師』という者は、単なる"転移先を定める"以上の存在。
すなわち「人生を教え導く者」である。
それを騙り、思い込ませるために、ルクは【昂ぶりの共鳴】を始めとした複数の【精神】魔法を組み合わせたのだ。信者達の信仰心と『導師』への尊崇の念を暴走させ、かつ歪め、さらには相互に伝播し合わせた結果、"集団催眠"が成功していたというわけである。
この「調略」に費やしたのは合計で3日間ほどだが、その大半が【昂ぶりの共鳴】の起点となりうる数名の教団員を調べ上げ、捕らえ、幻術にかけて意のままに動くように催眠するための時間――なにせ、元々ルク自身【騙し絵】家に繋がる情報を得るために、ナーレフを訪れて『人さらい教団』を感知した時点から、適当な教団員に対する"催眠"そのものは行っており……その合計時間が3日間という意味である。
幹部が常駐していない単なる監視のためだけの支部であったことから、それで一旦は捨て置いたが、主オーマからの新たな"任務"をわずか1日足らずで達成できる程度には、"準備"自体は整っていたわけである。
『救貧院』そのものは、ルクが踏み込んでから、ものの四半刻も経たずに"陥落"したのであった。
ちなみに、リュグルソゥム家では過去に、この"集団催眠"を利用して平民や貧民を"煽動"することで、他家や『長女国』自体を転覆することができるか、という議論が真面目に行われたこともあるらしい。
無論、"才無き"者達を、その判断力を失わせる方向で暴発させる類の「反乱」なんぞは、数百数千人集めようとも破壊的な大魔法を数発放っただけで薙ぎ払われてしまうだろう。仮に何万単位の反乱軍を組織できたとしても、「魔法兵」が数百名もいれば一方的な殺戮を受けるだけに終わる。
それに、仮にそんなことができると他の魔導侯家に露見した場合、そもそも【騙し絵】家の『転移魔法』と同じく、【封印】のギュルトーマ家が技術開発し【紋章】のディエスト家が"量産化"するであろう「妨害の魔法陣」によって無力化されるのが目に見えていた。
そうした『過去の知識』があるが故に、ルクはこの"集団催眠"の技をさほど評価はしていなかったのである。
――しかし、そうしたリュグルソゥム家にとっての"通説"的考えを、全く異なる観点からのアプローチによって否定しようというのが、現在の主たるオーマだ。
ルクは今、主オーマの"他者の素性を見抜く"能力と、彼がそれを十分に悪用して関所街ナーレフでやらかそうとしている【構想】の行く末について、あれこれと考えているのであった。
(年齢、性別、職業に身分を見抜くのは序の口……まぁ、それだけでも十分に"ヤバい"けども)
それだけならば、まだ、似たようなことは魔法でも可能だ。
【聖戦】のラムゥダーイン家の秘技術にして、複合属性と思われる【生命】魔法を筆頭に、肉体的特徴に対する探知や調査の"技"が無いわけではない。あるいは、身分や素性を看破することについては、ルクらかつての【御霊】のリュグルソゥム家の【精神】魔法でも同じ結果を得ることはできよう。
……まぁ、相手を見ただけで、人はおろか動植物まで看破してしまう"制限の無さ"も問題だが――それだって、詳細は未だヴェールに包まれているが、第1位魔導侯たる【四元素】のサウラディ家が持つと噂される『予言』の能力と対比できるものであろう。
だから、主オーマの能力がそれだけであったならば、まだルクにとっての「常識」の範囲内に収まっていた。
事実、オーマの技は工作員のような真の素性を隠すことに長けた者達に対しては、表面の素性のみを言い当てるに留まる。それに比べれば、竜人ソルファイドの『眼力』の方がよほど卓越している場面もあった。
その様子を観察していたルクの考えるところ――どうにも、主オーマ自身のその能力は、自分自身の経験や判断によって本質を見抜くというよりは、まるで見られた相手の顔や体の上に『情報』が文字となって浮かび上がってくるのを読んでいるだけ、といった趣き。その意味では、知識を記録する精神世界たる『止まり木』に似ているのである。
無論、そうして得た情報を"俺は最初から知っているぞ"という態度で活かすことのできる頭の回転と口八丁はまた別物だろうが。
(だが、"技能"だとか"称号"だとか、"職業候補"なんてのは無茶苦茶だろ、いくらなんでも)
げに恐ろしきは、主オーマの嘯きが真実ならば――程度の差はあれど、他の迷宮領主達が等しく同種の能力を持つという。
(マジで、本当に、こんな連中を相手に英雄王は勝ったというのか?)
迷宮領主としての階級で言えば、主オーマ自身は子爵――『長女国』で言えば【測量士爵】クラスでしかないのも、戦慄を覚える事実である。
(だが、迷宮領主同士では、その能力は相手との実力差に応じて通じにくいことも多い、だったか――ならば、【人界】にも同種の"対抗手段"があるのかもしれないな)
無論、誰にでも共有される技でも技術でもないだろうが。
(可能性があるとしたら……やはり【四元素】家の『予言』かな)
ただし、一集団か二集団程度に【情報閲覧】を防がれたところで、主オーマの掌上では異形の軍勢が踊っており、それだけで決定的な抵抗にはならないだろうが。
それに、この『人の才能や可能性と成長性』を知る力の真の恐ろしさは――人を、社会を、この世界の秩序のあり方を根底から覆しかねないところにあった。アシェイリやラシェットの耳元で主オーマが何を"囁いた"か、その結果を見れば瞭然だ。
リュグルソゥム家でも他家に対する重要な秘匿事項として伝えてきていた『魔法戦士』の【付呪】魔法への適性についても、まるで本に書かれているのを今読んだと言わんばかりの正確さで言い当てたのだ。
もしこの"耳元への囁き"が、もっと大規模に、世間一般の民衆達に対して行われるようになったら――暴動が起きるとか反乱軍が暴発するだとか、そんな生易しい事態では済まない"何か"が起きるだろう。
それは、『止まり木』で過去に祖先達が議論してきたものを遥かに超える視点からの、漠然とした"危機感"を惹起する。
正しき『長女国』の元魔導侯家係累として、ルクは未だに"才無き平民"に対する見下しの意識を捨てきれていない。しかし、主オーマがその【構想】を、この【情報閲覧】という名の力によって本気で推し進めた時に、何が起こるかを想像できぬほど愚かではなかった。
("革命"と言っていたな、オーマ様は……『運命が革まる』とは、不思議だが不穏な言葉か。まぁ、俺はそれを見て悩まずにいられそうだから、良いだろうけれど)
よもや『短命の呪い』を受けたことに感謝できる、数少ない事柄がここで一つ増えようとは。自嘲であり、自嘲ではないため息を吐いたルクである。
***
それから2時間ほどして、合流したルクと魔人ル・ベリは、互いの任務の現況を伝え合っていた。
「相変わらず仕事が速いな、ルク」
「そちらこそ、首尾よく行ったのかな……えっと、予定より随分と多くないか? というか、なんであの少年がいるんだよ」
「渡りに船、というものだ。あの小僧、"出立"の前に『俺も手伝う』などと言い出してな。まぁ、害にはならんだろう」
"本来の役目"を取り戻した『救貧院』の2階事務室で打ち合わせつつ、窓の外から広場の方に目を向けるルクとル・ベリ。
見下ろす先の『救貧院』備え付けの小さな広場では――十数名の"奴隷"の子供達と、彼らを買ったシーシェ。それからオマケでラシェット少年と、彼自身と友人達の弟妹で構成された「おチビ」達が勢揃いしていた。
事前に指示を下しておいたからではあるが、彼らに対してすっかりと協力的な……むしろ気持ち悪いぐらい好意的な態度で『救貧院』の案内をしたり、世話を焼いている『人さらい教団』の信者達。
オーマがこの場にいれば「入園式と入学式が同時に来たみたいだなぁ」などとコメントしたことだろう。
寂れ、怪しい教義を信じる連中の"支部"と化して元の旧ワルセィレ住民ですら寄り付かなくなっていた一角が、にわかに騒々しくなりつつあった。
「それで、算段はついたのか?」
「協力者を得た。ディンドリーとかいう『奴隷連』の会計係――本人は『王国総支部』から派遣されてきたと言っていたな。この男、心の中に"虎"を飼っているぞ」
「なるほど。オーマ様は『奴隷競り』会場で一騒動あるかとも期待していたようだけれど、そうならなくて良かったってところかな?」
「俺としてはどちらでも良かったがな。だが、ルク、お前の言うとおり御方様にとって物事が円滑に進むにはどうすれば良いか考えて――ディンドリーの奴の『提案』に乗ってやったわけだ」
「目ざといな、その男。でも、おそらく事が"失敗"したら、その足で代官邸に駆け込むだろうね……まぁ、でもル・ベリさんが"交渉"してくれた結果が、あの子供達というわけか」
「そうだ。あれが、あの女シーシェが"母の強き目"をしている理由なのだろうよ」
「奴隷競り」に派遣されたル・ベリと『人さらい教団』の調略に派遣されたルク。
傍目には二人の任務の間の接点はさほど存在しないとも思われたが――シーシェという一本の"線"によって繋がったため、こうして合流することとなった。
キッカケは、ディンドリーとの"取引"を終えて奴隷の子供達を受け取った後に、ル・ベリがシーシェに問うた素朴な疑問である。その買った十数人もの子供達を、どこで養うのか? と。
そうしたら、ル・ベリの前で彼女はこう言ったのだ。自身が世話になったことのあるベネリーという酒場の女店主がいて、以前……と言っても何年も前だが、『救貧院』という施設の存在を聞いていたとのこと。
当然、ルクの任務を知っていたル・ベリは、そのことを訝って『救貧院』が『人さらい教団』に占領されているという"実態"を彼女に伝えたところ――シーシェは呆然となり、ただ狼狽するのみであった。他に頼れる者がいないのか、という問に対しては、意外にも酒場の女店主ベネリーの名を挙げたが、まさか御方様の拠点をみなし児のたまり場にするわけにもいかないだろう。
呆れるル・ベリであったが、いざとなれば【魔界】に連れて行ってグウィースの遊び相手にでもしてやれば良いか、と彼にしては珍しく軽い考えの元、【眷属心話】で御方様に事情を話してからルクと渡りをつけたのであった。
そして、都合良く『救貧院』を陥落させたルクと話し合って……せっかくの施設を活用せぬのももったいない、という話になり今に至るというわけである。
「俺は正直、ル・ベリさん、貴方が"人間の女性"にそこまで興味を持っていることが驚きだよ」
「否定はしないが、偶然だろう。ルク、お前やミシェールは家族が大切だったという。俺も同じだ、俺にとっては……幼き頃の俺にとっては、それだけ我が母リーデロットの存在が大きかったのだ」
「だから、その心を知るために、似ているように見えるところのある彼女を放ってはおけない、と」
「……所詮は"別人"であると言いたいのか?」
御方様を絶対の価値基準に行動しよう、一度はそう誓ったが――母の仇たるリッケル子爵を"母の骸"を以って裁いた。それは、そうするよう『自ら考える』ことを半ば強制された結果であったが……そのために、ル・ベリの中において萌芽するものがあったのだ。それがこの行動の原点であることは、本人にとっても疑いようのないことであった。
ル・ベリの答えに対し、ルクは仮面をなぞりながら、肩をすくめてみせる。
「"学び"はどんな形であれ価値がある。知りたかったことか、知りたくなかったことかは、あんまり関係ないから、別段ル・ベリさんの行動に意見も無いさ。目を背けるよりは、目を向けて後悔する方がマシ……そう思うだけだな、俺の立場からすれば」
「そうか。そうだったな」
続く言葉を一度飲み込み、ル・ベリはルクの心情を慮る。
――数十年は生きるはずの「人間」でありながら、その身を蝕む超常の"呪詛"によって、残りわずか数年しか生きられない運命を。
その御方様にも匹敵するような思慮深さと、世のあらゆる知に向けられた関心に比してしまえば、あまりにも短すぎる"余命"。
生き死には生命の常であり、それが見知った"人間"であろうがどうというものではないが――その「後悔しないような」生き方がまだ良い、とする姿勢はル・ベリの心に酷く印象づけられていたのである。
「それで、ルク……そろそろだぞ。知っているだろうが」
「目を向けて後悔する方がマシ。思ってたよりは、そこに意外な喜びだってあるかもしれない。わかってるさ、忘れるわけがない――そろそろ、俺は、俺なんかが"父"になってしまう。本当に良いのかな……」
それはお前の妻ミシェールが身ごもった瞬間からである気がするぞ?
……などと生物学的視点からの冷静な突っ込みを思わず口に出すほど、ル・ベリは無粋な男ではない。それよりは、彼はルクの中に未だ渦巻く"迷い"を見て取っていた。
(親に消極的に反抗し悪ぶっていた、と自分では言う――なるほど、それは家族に甘えていたことの裏返しというわけだ。その自分が、"護られていた"側であった自分が"護る"側になることへの戸惑い、ということか)
一足先にグウィースを抱えたことで、ル・ベリも同じような心境を味わった。だが、動物的にも社会的にも正しく「親」にならんとしているルクの葛藤は……さらに大きく深いものなのだろう。
いずれにせよ、御方様に従って【魔界】を出て、【人界】の関所街ナーレフへの"浸透"を始めてから、それなりの日時が経過しようとしていた。
「オーマ様も相変わらず人が悪い。このタイミングで【魔界】に帰る、だなんて……狙ってやってるんだ」
「御方様の慈悲を素直に受け取れない、その性格は変わらないな、ルク」
「それは放っておいてくれよ」
この後、オーマからの【心話】によって呼び出されたルクは、関所街ナーレフには【騙し絵】家や【歪夢】家だけでなく、【封印】家の食指が伸びていることを知ることとなったわけである。
他方、ル・ベリはシーシェからの謝意を素直に受け取らずに、ディンドリーとの"取引"に基づく『計画』の詳細を詰めるべく、さっさとその場を後にした。
斯くして『救貧院』には、シーシェとラシェットと子供達と、『導師ルク』の指示によって甲斐甲斐しく仕える『人さらい教団』ナーレフ支部の信者達が残された。




