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本編-0097 炎に囚われた炎

「そういうカラクリだったのか……!」


ルクが唸るように声を上げる。

こいつとの付き合いも長くなってきたからな。大抵のことは"知っている"こいつがこんな風に驚く対象が何なのか、俺もある程度分かるようになってきた。それは、リュグルソゥム家の秘技術である【止まり木】の知識(・・)に存在していないような、この世界の深奥に関する考察の一端が得られるようなものだ。


例えば俺がもたらす【魔界】の知識とか。

――あるいは、他の【魔導侯】家の秘技術の一端とか、かな?

今、俺は"探求者"面全開状態の仮面の青年に、ソルファイドがまさかのお持ち帰り(・・・・・)を決めてきた魔獣【焔眼馬(イェン=イェン)】の一頭を、魔法学的な意味で検分させていた。


一体何があって、今がどういう状況であるかを述べておこうと思う。

ソルファイドから緊急に近い【心話】で連絡が飛んできた。

まぁ、そのこと自体は彼の判断力の高さを思えば想定の範囲内ではあったものの、内容はいささか俺の当初の想像を越えていたわけだ。


1.焔眼馬に傭兵団が撃破された ← まぁそうだろうな

2.「森を背負い【土】魔法を使う」巨大亀の魔獣現る ← ほほう? 面白い

3.焔眼馬と共に大亀と戦い、撃破に成功した ← いや待て、何してんのお前

4.他の3頭が東へ走り去ったが、焔眼馬1頭に懐かれた ← ???!!!


あまりにも面白すぎる状況であるが――ひとまず焔眼馬の"実物"が、まさか生きた状態で手に入ったというのは、それだけで朗報も良いところ。ただ、まぁさすがに"討伐布告"の出された魔獣をペット(・・・)として関所街ナーレフの検問をくぐろうとするのは、いくらなんでも冒険が過ぎるだろう。ハイドリィの奴がどんな顔をするか見てやりたい気持ちは少しばかりあったが、そこはグッと我慢したわけである。


同じ頃、ちょうど「一仕事終えた」ルクととりあえず合流して、まだ活動中であったル・ベリとアシェイリはひとまず置いてきて、ここまで駆け、戦いの跡が生々しく残る森の一角で合流したのであった。


……だが、ソルファイドめ。

いくら、同じ火属性の存在である焔眼馬達と相性が良かったからといって、相当に暴れ回ったようだな?

辺り一帯焼け野原――とまでは行かないものの、それは冬の雪の湿気のおかげ。大規模な【土】魔法が発動して崩れた大地から、焼け焦げた木々の根っこが顕になっており、魔獣同士の戦いの激しさを物語っていた。

巨大亀の魔物の、破壊しつくされた遺骸の痛々しさよ。おそらくトドメとしてソルファイドに焼き(・・)断ち落とされた首が、古代国家のオブジェのように転がっている。そしてその背中にあったはずの"森"は、見事な木炭の山と化していた。


諸行無常を感じつつも、俺はルクの"解説"に意識を戻す。


「【封印】のギュルトーマ家の術式が、この馬に施されています。連中急いでいたのか、魔法陣が大分粗くて、解析しやすかったですよ――ほら、オーマ様、ちょっとここを見てください。この首の付根のところ」


焔眼馬の首の付け根辺りを指し示すルク。


……なるほどな。

馬と言うよりはサイを思わせるほど屈強な焔眼馬(イェン=イェン)であるが、そこに、それはそれは奇妙な"文様"が浮かび上がっていたのである。

見ようによっては図形にも、絵画にも、あるいは"魔法陣"にも見えるそれは、まるで今にも飛び立たんとする蝶々(・・)であった。蝶々の形をした文様が、焔眼馬の胸に焼きごてでも押し付けたかのような"痕"として存在していたのである。


「なんだ、これは?」


目で見るだけでなく、俺は迷宮領主(ダンジョンマスター)としての技能【魔素操作】を発動して、何度か"焼き印"の周囲を眺める。

するとそこに奇妙な魔素の流れが感じられ――。


蝶々の羽が、まるで生きた蝶々がそのまま焔眼馬の皮膚の下に埋め込まれたとでも言わんばかりに羽ばたいた(・・・・・)のであった。


「――生きているな、これは」


ソルファイドも俺と同じ感想を持ったようだ。

その通り、これが牛の耳につけるタグだとか刺青だとか、そういったオシャレなどでは断じてない。蝶々は単なる焼き印としてではなく……焔眼馬の身体に、別の"生きた何か"が「封印」されているかのように、その存在を弱々しく主張していたのであった。


「"これ"が付いていたのは、こいつだけだった。他の3頭を率いる小さな群れの長だったのだろうな、こいつは……だが、3頭は東の草原へ帰り、こいつだけが残ったのだ」


というのがソルファイドもとい焔眼馬の飼い主となった盲目竜人の証言。

で、極め付けはその【心眼】による診断結果だ。相手が燃える馬だろうがお構いなしとばかりに【心眼】で蝶々の焼き印を素手でなぞるソルファイドだったが――どうも、彼の()には焼き印が「生きた蝶々そのもの」に見えている様子であり、単にこの焔眼馬の首に止まっているだけだとずっと思っていたらしい。

むしろ、それが俺やルクには「単なる焼き印」のようにしか見えないということを伝えてやると、ソルファイドは珍しく驚いた表情をして眉間にしわを寄せ、何度もマジマジと"蝶々印"を見返す始末であったのだ。


うん、まぁ――【心眼】の弱点というか、意外な特性が発見できたというべきか、それはともかくとして、だ。


「これは、もうほぼ"確定"でいいだろ、いくらなんでも」


ソルファイドを『焔眼馬』観察に派遣した理由の一つ。

それは、迷宮領主(ダンジョンマスター)の疑いがかかっている【ワルセィレ森泉国】の神性である泉の貴婦人(ルル=ムーシュムー)の"能力"が、本当に「季節を移ろわせる」ものであるかどうかを確認する、ということだった。


で、だ。

思い出してくれ、ワルセィレに伝わる"季節移ろい"の伝承を。

泉の貴婦人の使いとして現れる、四季と四属性に対応した様々な鳥獣が存在するわけだが――そのうち【火】についてだけは、女店主ベネリーにも聞いたが、決まって"燃える蝶々"であったのだ。


「それに、だ。この状態(・・・・)を見れば、なんで住民によって証言する『鳥獣』の種類が違うかだって、そもそも説明できてしまう。単に"入り込んで"いただけなんじゃあないか? この蝶々がお馬さんの首にめり込んでいるみたいに、な」


だが、そうすると目の前の大亀の死体の中には、ひょっとしたら"のんびりモグラ"か何かが入っていてもおかしくは無いのかもしれないな。これだけの激しい戦いの中で生きているかどうかは微妙なところだが。


「合点が行った、理解したぞ、主殿。俺に"呼びかけ"たのは、焔眼馬(イェン=イェン)ではなく、確かにこっちの"蝶"の方だった」


「へぇ? そこ、もう少し詳しく頼む、我が【近衛隊長】」


ソルファイド曰く。

焔眼馬の悪夢的な"再生"劇と、さらに討伐隊を担った傭兵団を絶望に追い落とした『森を背負う巨亀』の出現の前後で、とても奇妙な気配を感じたのだという。


それは第六感に語りかけるような奇妙な"揺らぎ"のようなものであったが――ソルファイドという個人に語りかけるというよりは、何と言うべきか、彼の中の【火竜】としての能を受け継ぐ【火】そのものに呼びかけてくるような、そんなか細い気配であったらしい。

それを、ソルファイドは当初は、この、今やすっかり懐いて(・・・)しまった焔眼馬によるものかと思っていたらしいが……今の考察を踏まえれば、おそらく"燃える蝶々"が、己の【火】と【春】の"季節移ろい"の権能を発揮することのできる「宿り先」として、火竜の末裔たるソルファイドに目をつけたのだとも解釈できる。

なにせ、実際にこうして"燃えるお馬さん"の首元に宿ってしまっているわけだからな――それ自体は【封印】家の手によるものという要素もあるわけだが、それについては後述。


結果、ソルファイドと共闘するに至り、【土】と【秋】を司っていた可能性の高い『森背負い亀』をぶっ殺してしまった、と。


……っとと、焔眼馬への【情報閲覧】が成功したな?


【基本情報】

名称:未設定

種族:焔眼馬(イェン=イェン)

年齢:10歳

性別:雌

役割:騎獣(ソルファイド=ギルクォース) ← New!!!


なんとも、なんともまぁ。

ソルファイド君、君は意外にも"押しかけられ"体質な竜人だったわけだな?

古くはゴブリン島での"押しかけ信者"軍団に始まり。

アシェイリとかいう自己都合全開の"押しかけ弟子"を得た挙句、今度は"押しかけペット兼移動手段"をGetしてしまったわけだ。


"社会"を構成する存在である知性種においては「身分」と表示されている箇所が、単なる動物の範疇ではある焔眼馬において「役割」と翻訳されているが、Newの文字を見るだに、お持ち帰りに成功してしまったことは俺の迷宮核(ダンジョンコア)からもお墨付きの得られた事実であるようだった。

まぁ、だからおそらく『部下の部下』としての【情報閲覧】をこのお馬さんにできるようになったわけだが――本題はここから。


この魔獣、こんな【称号】を持っていやがったのだ。


・『泡粒の先触れ(春)』


ぱっと見、意味が頭の中にすっと入ってこない、象徴するところのよくわからない怪しい【称号】だ。だが、その意味のわからなさの原因になっている「泡粒の」という修飾部分を、ちょっと除外してみよう。

すると、この災厄もたらす魔馬は「先触れ(春)」なる称号を持つというわけで……『"燃える蝶々"=火と春を司る』という"季節移い"を表す一エピソードと結局は符合する。


まだ直接『泉の貴婦人』と出会って問答したわけではないが――これらを考えると、少なくとも、ワルセィレの伝承にある通りの能力を彼女は持っているのだろうよ。


「"燃える蝶々"とやらが実体を持たない魔法構成生物であるという前提がつきますが、おそらく【崩壊】属性で一旦ばらばらに分解したものを、改めて【均衡】と【肉体】属性の合わせ技で焔眼馬に"焼き"つけたという感じですね……この馬の性質から言って【火】属性も入ってるでしょうけれど。これは【封印】家にしては、比較的単純な術式ですね」


ルク曰く。

様々な能力を魔法的に封じ込めてしまうという秘技術を伝承する【封印】家は、『長女国』における"護り"の要たる有力魔導侯である。西方諸国に対する【懲罰戦争】を担う戦争屋達のうち、攻撃に極振りしたのが【魔剣】のフィーズケール家や【聖戦】のラムゥダーイン家であるならば、戦場と兵站においてその逆の領域を担う存在であるとのこと。

特に、魔法陣の扱いとその高度複雑さにおいては、【紋章】家が『量産化』と『汎用化』に特化していることと比べれば、遥かに上位互換的な存在であるとすら言うことができる。


王都に存在する『封印書庫』や、王城の地下にある特殊な『封印地下牢』など、彼らの技術によって絶対の秘密が保たれている『長女国』の枢要施設も多く存在しており、三大派閥の長たる魔導侯達であっても無視できない重要な立ち位置にいるのである。


――で、だ。

一応現在(・・)は【継戦派】ではあるものの、明確に【紋章】家の下風に立っているとも言い切れない"謀略の獣"の内の一頭が、今回の『炎の魔獣街道大暴れ事件』に一枚噛んでいたという事実が、何を意味しているのか?


「話を整理しようか。この燃える馬が、泉の貴婦人(ルル=ムーシュムー)の"使い"だってことを――代官のハイドリィは知っていなきゃおかしいと俺は考えている……奴が自他共に認める有能な統治者なら、単なる信仰以上の力を持った存在が亡国の民達に崇められている事実を、まさか押さえていないはずがないよなぁ?」


俺がちょいと【情報閲覧】して考察するだけでも、この程度の推察はできた。

ならば、自身もこの国の魔法貴族として、そして何より為政者としてナーレフの代官を務めるハイドリィが、『森の兄弟団』を含む旧ワルセィレ住民達に崇められる超常の存在を、迷信の具現として最初(ハナ)から切り捨てる愚を犯すだろうか? 魔法も、魔物も、神も奇跡も呪いも当たり前のように存在するこの世界(・・・・)だというのに。


ハイドリィは【封印】家が関与していることを、知っていた。

いいや、むしろハイドリィが持ちかけていたっておかしくはない。


「【封印】家が単独で策動するとは思えません。連中は、護りは優秀ですが直接の戦闘は苦手ですからね、【紋章】家を激怒させかねない、こんな大博打を、単独で打つわけがない――トカゲの尻尾ぐらいは用意してますよ」


「だろうさ。それは……例えばハイドリィのような野心家、ってところだろ?」


では、ハイドリィ側の思惑が何か、だ。


季節を移ろわせるという『泉の貴婦人』の力のうち、冬を終わらせる役割を持つはずの"燃える蝶々"を、おそらくは何らかのキッカケでハイドリィは捕らえることができたのだ。

だが、それの利用価値に気づいて――同属性の魔獣に"宿る"という特性を悪用して、よりにもよって、どこで手に入れたかは知らないが、森一つは軽く焼き払ってしまうことができる凶獣の体内に"封印"するよう【封印】家と取引したのだろう。


「それで、何のためにそんなことをするのだ?」


「可能性は二つある。どちらも、まぁ『この国の魔法バランス』に関わる話だ」


■可能性その1

一つは純粋に『長女国』の支配に対する泉の貴婦人の抵抗を粉砕するというもの。

この「長い冬」が、"晶脈"のネットワークを通した『長女国』独自の属性バランス均衡システムに対する"抵抗"であるとすれば――その力の源を破壊すれば良い。


例えば、ほれ、目の前に転がっている「森背負い亀」はさっきも述べた通り『秋の使い』とかそんな感じなんだろうよ。死体になってしまっているから【情報閲覧】できないのが残念だが、当たらずともそう遠くはあるまい。


「……焔眼馬となった"燃える蝶々"は、ただ己の役目を果たそうとしているだけに俺には見えた。だが、なるほど、少々力のありすぎる魔獣に宿ってしまったせいで――加減(・・)を間違えたというところか」


しみじみとソルファイドが語る。

おそらくは、彼だけが"燃える蝶々"から感じているという【火】に関する奇妙な共鳴のような「呼びかけ」を通して、そんな悲痛な感情が伝わってきているのかもしれない。


だが、これで少なくとも、泉の貴婦人は「秋」ないし【土】属性の権能を失った。いや、この"同士討ち"自体がハイドリィの狙いであったか偶然であるかはともかくとして、『炎の魔獣』への"討伐布告"の狙いは、そもそも焔眼馬ごと「春」ないし【火】属性の権能を失わせることであったと見ることもできるだろう。


"使い"が一度滅されればそれで終わりか、それとも泉の貴婦人によって再び生み出されるかはわからないが――迷宮領主(ダンジョンマスター)の仕組みやルールを考えれば、容易ではなかろう。そうすると……こんな回りくどいやり方で、わざわざ『泉の貴婦人』を弱らせる(・・・・)ことの、別の意味合いが見えてくる。


■可能性その2

ちょっと考えてみてほしいのだ。

ハイドリィのような野心家が、本当に、単に『晶脈』を脅かす力を持った存在を屈服させるなんて難事を、ただただ主家や『長女国』への溢れんばかりの忠誠心から無欲無償でやらかすだろうか?


「ルク。どうだ? 『泉の貴婦人』の、この"災害"に近い事象を引き起こす能力のことを知っていたなら――ハイドリィじゃあなくて、リスク抱えてでも【紋章】家が自ら捕らえにくるんじゃないか?」


この国の最高貴族たる【魔導侯】達の両面性。

"謀略の獣"であると同時に"魔導の探求者"でもあるのだ。

そんな彼らの「魔法学的観点」から言っても、泉の貴婦人(ルル=ムーシュムー)の手によるであろう、この「長き冬」という災害にも等しい現象は、晶脈ネットワークに対する割りと危険な抵抗能力を持っていることの証明なんじゃあなかろうかね? それだけでも大いに学術的興味を引くのだろうが――同時に、"謀略の獣"としては、"季節移ろい"の効果を見て何を企むだろうか。


「まぁ、この程度(・・・・)で国が傾くことは絶対に有りえませんが――魔導侯間のパワーバランスが変化する程度の要素には、なり得ます。自ら動くかどうかは五分五分ってところでしょうが、あながち筋の悪い推察ではないかと思いますよ」


良かろう、若干厳し目だが、その反応でも俺の考察にとっては十分だ。

考えてもみればいいさ。


あくまで話の中心はハイドリィ君だ。

彼が何を企んでいるかだ。


――野心家が。

先祖代々"汚れ仕事"役として仕えてきた主家から、その"汚れ仕事"役をこそ御免しようと画策している、若く有能な統治者が。

元魔導侯の係累の青年をして"この国の最高権力者達の間の勢力均衡バランス・オブ・パワーを崩す"とまで言わしめる存在を、本当に、ただただ、主家に献上するためだけに、なんとか弱体化させて御そうなどと考えるだろうか? そんなもったいない(・・・・・・)ことを、あの野心と有能さが着飾って歩くハイドリィが、本当にするとでも?


「ギュルトーマ家は今は【継戦派】ですが、実は【破約派】からの鞍替え組です。つまり、一度は【騙し絵】家の思想に共鳴した過去を持っているということ。仮にこれが【紋章】侯ジルモがハイドリィに指示をした"仕掛け"だとして……"取引相手"としては、いささか危険な人選と言わざるを得ませんね」


「つまり、あの代官の独断ということか?」


「十中七八は、そうじゃないかと」


斯くして、ハイドリィの真に目標とするところが読めた。

『森の兄弟団』を上手い具合に飼っている(・・・・・)のも、所詮は手段であり駒であり、切ることのできる札として確保しているに過ぎないのだ。連日の処刑劇も言わば世間や他家の工作員向けの茶番の可能性が濃厚だ。

奴は、マッチポンプ的に『森の兄弟団』をいい具合の"脅威"に育て上げてから、それを刈り取って自身の功績にして名声にする――とかいう生易しいことなんざ、考えちゃあいない。


その意味では、俺の当初の想定は全く間違っていたわけだ。

話自体はもっとシンプルである。


「『泉の貴婦人』を手中に収めて、主家を脅すつもりなんだろうよ。独立させ給え、さもなくば災害を起こしちゃうぞ、ってな感じで」


で、こう考えると『森の兄弟団』の存在意義について、また別の見方が生じる。

ほれ、移動を抑圧された旧ワルセィレ住民と異なり、彼らは今でも――泉の貴婦人(ルル=ムーシュムー)と"契り"を重ねることができるじゃないか。


「なるほど――むしろ"人質"というわけだな? 主殿」


「50点だ。逆も然りだぞ? 『森の兄弟団』を操るために『泉の貴婦人』を人質にするって手も打てるんだからな」


そしてこうなってくると、そもそもこの『炎の魔獣』事件の原因であった『森の兄弟団』による密輸団襲撃事件の裏もまたきな臭い。

襲撃の実働部隊や末端の団員達は、そんな裏事情など知らずに踊らされている可能性が出てきたわけで――むしろナーレフの"内"にいる、そうだな、ベネリーみたいな"幹部連絡員"達が怪しくなってくる。


彼女達は一体全体、誰と連絡(・・)し合っているんだろうな?


(はら)は決まったぞ。お前達、これから荷物をまとめて、一度【魔界】に帰る」


「計画を早めるわけですね。ル・ベリさんとアシェイリさんはどうしますか?」


「ル・ベリには【心話】で俺から連絡を送っておく。アシェイリは……とりあえず、これから迎えに行こうか」


頷くルクとソルファイドと焔眼馬。

……ん? ちょっと待て、おい馬。なんでお前までついてくる気マンマンなんだよ、というか俺の言葉わかったのかお前、馬の耳のクセして。


「ところで主殿。クレオン=ウールヴはどうすれば良い? 街に連れていけば騒ぎになるぐらいは、俺でも分かるぞ――我慢しろクレオン、お前は連れて行けん」


「……待て、その初耳な固有名詞はもしかして」


「名付けた。ル・ベリがやったのだ、俺がやってもおかしくはないだろう、主殿」


念のため俺は【情報閲覧】を焔眼馬に改めて何度かかけたが……なるほど、さっきまで「未設定」であった"名称"が――たった今ソルファイドが言ったクレヨンなんとかに"設定"されていたのであった。


あぁ、そう。愛馬認定しちゃったのね。

いや、確か焔眼馬(そいつ)は仇――の国の騎獣じゃなかったのか?

……とか言うのは無粋か。まぁ、良いや。


「とりあえず、俺の迷宮(ダンジョン)の入り口まで行かせておけ。副脳蟲(ブレイン)達にも後で連絡入れておくわ。そんで――俺達は街へ戻っても焔眼馬なんぞ知らぬ存ぜぬだ。例の逃げた傭兵団には、ルク、先に行ってちょっと『お話』をしておいてくれよ?」

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