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本編-0090 関所街の昼と夜~仕上げ編③

盗賊団『三本の口裂き短剣』は、元々は三人のごろつきから始まった組織である。それぞれが短剣使いでもあった三人は、襲った相手の喉や口を裂いて喋れなくさせてから、甚振るのが趣味であったため、いつしかこの名前が定着していた。だが、他の組織との吸収合併が繰り返される中で、最初の三人もまた立場が凋落していくことになる。

つまり、ブランドばかりは残ったものの、実質的にはさらに大きな密輸組織の一部隊のような扱いを受けるようになり、また実態もそうしたものだった。

最終的には傭兵くずれのならず者バイルによって、三人は一人また一人と殺されていき、彼らの"三本の短剣"はバイルの戦利品となった。腰に一本、袖の中に一本、履いたブーツのかかとに一本仕込まれており、バイル自身の"奥の手"として愛用されている。


「なんてこった、『西の欠け月』の連中が襲ってきやがった!」


「んな馬鹿なことがあるか、ここらは完全に俺達のシマだろ? 連中は戦争でもおっ始める気かよ!」


部下達の動揺から、かろうじてバイルは貧民街(スラム)の西を担当する同業者(・・・)が襲撃してきたことを悟る。だが、それがどうしてだとか、何故であるだとか、考える暇は無かった。

――そして全く同じことが、当の『三本短剣』を襲撃した『西の欠け月』構成員達にも言えた。彼らにとっても、取引を襲撃して【魔石】を根こそぎ奪い取る手筈が……まさか襲撃したのが同じ上位組織の傘下である『三本短剣』だというのは、予想外のことであった。それは彼らが得た情報(・・・・)と違っていた。


然れど、勢いは急には止まらない。

夜闇の中で情報が混乱し、錯綜し、本来は"同じ組織"の傘下組織であるはずの『三本短剣』と『西の欠け月』が衝突して、血が舞い、怒号と混乱が一気に伝播する。この時、バイルと『西の欠け月』の首領が、それぞれ事態を収拾しようと大声を張り上げようとしたが――それは叶わなかった。


直前で、凄まじい業火が目の前に広がったからである。


「な……?」


瞬く間に焼き尽くされる夜気。

両盗賊団が入り乱れて同士討ちする戦場ど真ん中に向けて放たれた【魔法の球:火】には――僅かばかりの仕掛け(・・・)が入っていた。この混乱を利用したオーマとルクの共同詠唱によって威力が増していたのに加え、火竜の先祖返りであるソルファイドの『息吹』が混ざっていたのである。

通常の【火】属性に"竜火"の力が加わった火炎は、まるで油を継ぎ足されたかの如く粘り強い(・・・・)

正面にいた数名が燃え上がって暴れ回る。『耐火』の付呪効果を持つ高価な魔法装備を持つ者も1名いたが、お構いなしに燃え上がるのを見て混乱が加速する。


悪漢バイルは悪運強く軽傷で済んでいたが――。


「ははは! 顎ががら空きだぞ?」


「がはッ!?」


突っ込んできたオーマの、腰を据えた金属槍の直突きによって喉を穿たれた。

大柄な巨体も、元傭兵としての熟練の経験も生かすことができず、血泡を噴きながらバイルは崩れ落ちる。その様子を意にも介さず、オーマが続け様に【火】と【風】の攻撃魔法を放ってから、さらに槍を突き込んで『西の欠け月』団員を一人負傷させる。


そして、彼の周囲では息吹(ブレス)の反動から回復したソルファイドが双剣を構えて斬り込んだ。煌々と赤熱した双剣の2本の紅い軌跡が夜の裏通りを舞い、次々にならず者達の心臓を突き、喉を切り裂いて首を落とし、手に持った武器ごと手首を切り落として、あるいは当身で昏倒させていく。

また、最初の【魔法の玉:火】による一撃以外は後衛に徹していたルクは、【精神】魔法による混乱の伝播を助長することに徹していた。最後にル・ベリとアシェイリは、それぞれの"機動力"を存分に発揮し、廃屋の屋上を伝って「上」を取り、逃亡しようとする者達を狙い撃ちにしていた。


――バイル達を襲った"不幸"の種を明かせば、ルクが【魔石】を売り捌く際の立ち回りにある。

最終的には『三本短剣』を通してその上位の"密輸組織"に売り払ったにせよ、その過程で、彼らの「ライバル」達にも情報を流していたのである。それに加え、オーマが、最終的に『木陰の白馬亭』にたどり着くまでに、他の酒場でも羽振りの良さをアピールしていた。


ここまでお膳立てが整っていれば、『三本短剣』とは別にオーマを襲撃しようと目をつけていた「他の盗賊団」に、【精神】魔法の大家リュグルソゥム家の生き残りたるルクが"誘導"を仕掛けるのは容易い。『西の欠け月』は誘導された挙句、同じ上位組織の傘下仲間であるはずの『三本短剣』に手柄を奪われまいと、血迷った攻撃を仕掛けてしまったのであった。


斯くして、ナーレフ内に拠点を構え、官憲の目を逃れ街道等で商人や旅人達を襲う盗賊集団が2集団、不幸な遭遇を果たすこととなった。


   ***


『盗賊団』と言えば聞こえは凶悪だが、少なくとも「こいつら」は、十数人程度の強盗・追い剥ぎの類で、その本質は闇ギルドの下っ端としても使ってもらえないような犯罪者集団だ。欲望が渦巻く街であり、賭場や盛り場がそこそこ用意され、なおかつゴロツキ予備軍達が集まるナーレフのこと。

そうした「手っ取り早い」金稼ぎに身をやつす"くずれ"どもが一定数いることよ。

ただし、ハイドリィの統治方針では『森の兄弟団』狩りと、そのシンパたる住民達の弾圧に重点が置かれている。従って、こうした暴力的な連中は、住民抑圧の間接的な手段としても放置されているのが実情といったところか。


とはいえ、こうした連中もまた後ろ盾としては「大手」との関係が無いわけが無いケースが多く、事実上その手足として働いている場合がある。バイルの『三本短剣』や『西の欠け月』がそうであったように、な。こいつらはどちらも、ナーレフの闇での物流に一枚噛んでいる密輸組織『老い馬叩き』の傘下組織である。


だが、俺がラシェット少年と関わりを持ったのが運の尽きといったところか。

どうせ、あの酒場の決闘の後に報復行動に出ることはわかっていたのだから――せっかく育てた"宣伝塔"を保護する意味も込めて、次の一手を打つための生贄にさせてもらったというところである。


戦況は既に掃討戦の様相を呈している。

ルクが周囲の廃屋に事前に仕掛けた、各種魔法属性のブービートラップで負傷させられ、逃げることのできた者は皆無だ。アシェイリの"血の臭い"への敏感さによって、隠れてやり過ごすというのも難しい。

長い期間ずっと渇血状態にあったアシェイリは、この血飛沫の舞う狂乱の中で、自らの【狂戦士】としての衝動を抑えるのにそれなりにギリギリな状態になっている様子だ。

だが、まずは敵を殲滅してからでなければ、な。


それにしても、あっけない。

かつてルクとミシェールを追いかけて攻め込んできた、本職の工作員連中と比べると、やはり"才無き"一般人にして、弱者を主に脅し甚振る経験しか積んでいないような「ならず者」どもは、この程度ということか。

数では圧倒的に勝っていたが、その不利を殺すための初見殺しと、罠と、状況操作である。


溶けた鉄のような赤い双剣。

血飛沫どころか血の暴風のような巨大斧。

そして魔物の類としか思えない触手の乱舞。


それに比べれば……ほんの少し『魔法戦士』的な立ち回りをする俺は、ずっと個性が少ないな?

だから、不幸にも野犬の如き盗賊の2集団の衝突に巻き込まれてしまった、哀れな"ネズミ"達を不意討ちで負傷させていくのも、俺には容易いことだ。

驚くよなぁ、そりゃ驚くだろうな。この数日間ずっと俺達を監視していたハイドリィのネズミ達さんよ。よもや、遠目に"肉"をかじる隙を伺って隠れていたはずの自分達が襲いかかられるとは、夢にも思ってなかったようだろうなぁ。


「御方様、ひっ捕らえて来ました」


ル・ベリが頭上から飛び降りてそう告げるや、どさりと"ネズミ"の生き残りが触手の拘束から解き放たれる。俺を見てガクガク震え、口をパクつかせるしかできないのは、恐怖からかそれとも酸欠からか。

……アンモニア臭いねぇ。漏らしてんのか、是非も無し。こいつはルクの"桃割り"行きだな。

そうだ、これも目的の一つだ。代官ハイドリィの秘密警察部隊である『鼠捕り隊』の実態をここで吐かせてしまおう。


さて、さて。

話を、哀れなネズミから、喰いあった挙句漁夫られた"野犬"の方に戻そう。

『三本短剣』も、それに襲いかからせた別組織も、所詮はより上位の組織の"手足"にすぎないわけであったが……「手足として動く」って良い慣用句だよな?

――なにせ、手足を潰されたら(・・・・・)想像を絶する激痛だろうし、一般人なら仕事や日常生活にとんでもない支障が出ることは確定的なのだから、な。

あぁ。だがまぁ、現に今「想像を絶する激痛」に襲われているのは、そんな「手足」達自身なわけだが。


「ぎょおおおおあああああ!!??」


「ああああああ! 腕が、腕がッッッ!!」


汚い悲鳴が路地裏に鳴り響くが、街にとって大切な商人(金づる)でも住民(農奴)でもない犯罪者(虫けら)達を、官憲が助けに来てくれるはずも無し。

強盗団×2で総勢50~60名近い連中の制圧などは、造作も無いことだった。

……まぁ、俺達で全てを相手にしたわけではなく、メインは互いを遭遇させての潰し合わせであり、圧倒的にこちらが有利な状況を作ったから、当然の成り行きではあるがな。


制圧からさらに四半刻。

"生き残り"達に、廃屋の一つに死体を運ばせる作業は完了している。

明日の朝には――貧民街(スラム)の一角が焼け落ちて、原因が盗賊団同士の抗争であると街には知れ渡るだろう。

そのついでにハイドリィの"ネズミ"達も巻き添えという形で始末してしまったわけだが、十中八九俺達がやったとハイドリィには疑われるかな。まぁ、いいや。権力者の注目というのは、それだけで力になる……時にはその実態以上に、な。


――別に下等生物(ゴブリン)に対するような侮蔑心が「人間」に対しても湧いてくるということは無い。

ただ、俺の庇護下・勢力下に無く、敵対的な行動を取ってきた連中(誘導はしたけどな)に対して示す慈悲など無し。有効活用できる"資源"としてしか、受け止めちゃいないがな。

あぁ、彼ら一人一人にも人生があったんだなぁ、クソみたいな境遇に落ちる偶然か必然かがあったんだなぁ、という感傷は無いわけではないが、「ご愁傷様」の一言で終わりだ。誰か(バイル)を不幸にして誰か(ラシェット)の不幸を拭えたのならば、それぞれ相応の『報い』と『対価』を受け取っただけのことだよ。


「他愛が無いですね。ドブネズミにも劣る虫けら達は、いつも威勢だけは良いんですがね」


劣等生物(ゴブリン)の戦士達でさえ、もう少し歯ごたえがあるぞ? おい、竜人。こいつらが特別に弱かったのか?」


こう述べるのは、「裏」担当の情報収集班として数日間連携し、ある程度わだかまりが解けて意気投合した様子のルク&ル・ベリ。

現在は、ル・ベリが"鞭"で生き残り達を適度に肉体的に痛めつけたところで――彼らを一人一人に、ルクが"桃割り"による無力化を作業的にこなしている最中。


怪我をした者だろうが、気絶していて"恐怖"から逃れられていたはずの者だろうが、関係ない。

生き残った十数人に対して、平等にその精神を*破壊*していき、使いやすく(・・・・・)加工していく。騒がれたり、自由意志を残して逃走を企まれても困るからね、これは必要な施術だよ。


「強者は避け、確実に勝てる弱者を襲う経験しか無かったのだろう。その認識を惑わせるとは、つくづく【魔法】とは恐ろしい技だな」


「こんなもの。"種"を学んでいれば、いくらでも対策できる。まぁ、気概も才能も無い虫けら達には、過ぎた技だけれどね」


「危険を察知する本能を狂わせた、というところか、ルク。だが、竜人よ、これは侮るべきではないぞ? お前だって数を頼みに群れられて取り押さえられれば、御方様に挑んだ時の二の舞いよ。その"弱者"しか襲わない未熟者達が相手だったとしてもな」


「そうだな。だからこそ、恐ろしく思う」


ルクの作業を手伝ったり、あるいは観察しながら、配下同士がやり取りを重ねる。

その様子を横目に、俺は『長女国』の統治の仕組みについて考えていた。


まず、前提として――魔法を学び自らの「内なる魔素」の扱い方を自得した者は、自ずと"魔法抵抗力"が上昇するようである。この効果を期待して、ル・ベリには『点振り』されない範囲で、魔素の扱い方なんかを俺やルクで教えているんだが、それはまた別の話。


これを『長女国』全体に適用したら、どうなるのかということだ。

【魔導侯】を頂点とした魔法貴族達は「血統」によって魔法の才が受け継がれる可能性が高い。


「【紋章】侯の長子ジェロームは、例外(・・)の出来損ないらしいですがね」


……などとルクが毒を吐いているが、となれば逆もまた然りだ。

つまり、平民にだって突然変異的に"才有る者"が生まれうるのだ――いや、そこまで行かずとも、魔法の技術について「学ぶ」機会さえ与えられれば、一応は実用に耐えうるレベルで魔法を扱えるようになる者まで広げれば、潜在的な"才有るかもしれない者"の数は存外多いという。

となれば、そうした「学び」なり「技術」の秘密が平民達に必要以上に広まることは、端的に脅威の種になり得るのだろう。

と思っていると、ちょうど同じようなことをル・ベリが質問したところだった。


「ところで【魔法】を扱える者は限られているのか?」


「それは……いや、どうせ『元』がつく【魔導侯】家の係累か。真実としては、先天的に魔導の才を持つことが判明した子供は、出身地を統御する【魔導侯】家の預かりになるんだ」


「そうやって"育てて"いる、と。なんだ、吸血鬼(私達)とやってること、そう変わらないんじゃない?」


「――国母ミューゼの恩寵も、過ぎればそれ自体が災害になる、ということだ」


要は"囲い込み"がなされているのである。

この国が魔法使いによって建国され、魔法使いによって維持され、魔法使いによって支配されている以上、それは単なる便利な技能にとどまらない。政治的な力に通じるものであるが故に、支配者側からすれば管理されなければならないもの――というのが一つの理由。


だが、それ以上に重大なものとしては、やはりかつての【大戦】の"傷跡"の存在が挙げられるかな。

【魔界】の、システムの異なる魔素なんかが流れ込んできたことによって、災害の多発する不毛な大地を、魔法属性バランスを調律することによって肥沃な大地に変えたのが『長女国』の"興り"だ。


その意味では、【魔導侯】達が"謀略の獣"なんぞに堕ちる以前ほど「災害対策」は死活問題。純粋に、調律するための要員だったり手足だったり――「人柱」としても、広く王国全土から『魔法の才』を持つ子供達を集めることは国家事業となっていた。そして『晶脈』が発達した後も、その管理維持の要員として魔法使いの需要は変わらなかったし、むしろ国土の拡張によって【魔導侯】が増えるにつれ、先天的な魔法使いを"回収"する仕組みはより洗練・効率化されていった。


――やがて【魔導侯】達が"謀略の獣"に堕ちるに際して、これはそのまま、彼らが私兵として抱える精強なる「魔法兵」部隊の供給源に変質してしまったわけだが。


だから、未だに"才無き者"達が、後天的に魔法や"内なる魔素"の扱い方を学ぶ機会は、狭く狭く絞られているのである。最低限の「魔力テスト」に合格しなければ、魔法貴族達に管理されたあらゆる"魔法系職業"の門を叩くことすらできず、社会の落伍者となっていくのである。

……それでも時折り現れる"我流"の天才が、時折り下級貴族に取り立てられるのが精々か。

それだけ、しっかりと管理されているとも言える。


ルクが「恩寵」が「災い」にと表現したが、【魔法】それ自体もその土地の属性バランスを乱すものではあるのだ。だから"乱れ"に"乱れ"をぶつけるような作業を【魔導侯】達が統括しているわけだが、そうすると、魔法という技術を「そのために」使わないような勝手な"我流"連中があまり増えすぎてしまうと、『晶脈』ネットワークにかかる負荷も激増してしまうのだろう。

だから増えすぎないように管理するわけだが――。


――いや、ちょっと待て。

そうか、これは『自転車操業』状態なんじゃないのか?


国が富む。

人が増える、つまり"才有るかもしれない者"が増える。

管理しきれない部分がどうしても発生し、国内の属性バランスが乱れる。

だから「魔法兵」として抱え込み、【懲罰戦争】として西方諸国を攻める。

征服地が『晶脈』に組み込まれ、均されることで一時的に災害が収まるが――ここで、再び最初にループが戻るというわけだ。


だが、そうすると。

ルクの言う"麗しき"この国で、ここまで大貴族同士の激しい暗闘が繰り広げられるようになっているのは、ひょっとしたら、権力闘争とはまた別のメカニズムにも影響されてのことなのかもしれない。

言わば、ある種の【調節機能】とでも言うべきか――リュグルソゥム家が滅ぼされたことの、少なくとも【魔導侯】達側の思惑として、何か"荒療治"を考えているんじゃあるまいな?


……この気づきは、今は保留だな。

そうでなくとも、【魔導侯】達に関する情報をルクがかき集めてくるだろう。それらを吟味してからでも、遅くはない。


――もしこの国に人為的な"戦乱"がもたらされようとしているならば、俺の【構想】も、ゴールに至る過程を臨機応変に切り替えていかなければならなくなるだろうからな。

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