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本編-0086 関所街の昼と夜~「表」編②

旧市街地、すなわち貧民窟(スラム)にほど近く、新市街地の"大市"に通ずるいくつかの通りに接続する箇所に、宿屋や飯屋・酒場などが集まる区画の一つがある。

この付近は、旅人向けの小綺麗な宿屋や盛り場とは異なり――カタギもそうでない者も入り混じり、危険や喧騒の絶えない地域でもある。情報や「商品」、あるいは少々危険な"仕事"を求める客が多く訪れるため、注意深い旅人や諍い慣れしたタフな商人や傭兵でなければここを歩くのは難しいだろう。


店主達にしても、厄介ごとを抱えていない客の方が珍しい中で切り盛りする必要がある。元傭兵だとかいったような、端的に強面で体格まで厳つい者がほとんどであり、あるいは店の用心棒としてそのような者を抱えていてりもする。

あるいは……裏で代官邸や様々な非合法組織の間で情報を切り売りしながら、狡猾に後ろ盾を何枚も用意しつつ、日々の糧を得ているのである。それが出来なければ、店が潰されるのみ。

彼らは亡国の住民としては、比較的生き繋ぐのに成功した部類だろう。


こうした、やや暴力の気配が香る酒場街に『白馬の木陰』亭はあった。


宿屋を兼ねている以外は、さほど珍しい酒場でもない――妙齢の女店主が切り盛りしていること以外は。


女店主の名はベネリー。

母親の如き慈愛を示す、柔和な表情が印象的な女性である。およそ、この界隈には似つかわしくない"弱者"にも見えてしまうが、腕の立つ用心棒を雇っているわけでもない。

……しかし、ナーレフに長く住む者達や、情報を求める者達にとっては、ここはよく知られた「優良」な場所の一つであった。


実際に客層は広い。

ならず者から少しでも目端の利く度胸のある旅人や、商人団、果ては関所街の守備兵、代官邸の不良役人までもが訪れる。

……豚肉の煮込みという家庭的な味が好まれているというのもあるが、活気とは表裏一体の殺伐さを孕んだ日々の中で、束の間の癒やしと暖かさを求めるような者達が多く訪れる。そんな彼らにとっては、裏表がなく気丈で肝っ玉があり、誰でも平等に励ます女店主ベネリーの存在がとても大きいのである。


その意味では、用心棒などは必要ない。店を訪れる荒くれ者達の誰もが、ベネリーの顔を立てるために諍いを控えるし、また場を乱す者は一致団結して排除するのだから。

それもまた、ある種の人徳というならば、旧ワルセィレの民の中でも多くの尊敬を集める"庶民"の一人こそが、彼女だろう。他と比べるとけして広いわけでもない、こじんまりとした店内であるが、昼でも夜でも客足が絶えないのが『木陰の白馬亭』であった。


そして、材木工のエボートと浮浪児ジャニアンが処刑された翌日の夜。

この日も常連の何名かがカウンターを囲み、ベネリーを交えて、そのことを含めた世間話に興じていた。


――そう、これは『世間話』である。


「女将さん、昨日は……大変だったな。まさかエボートの奴と、ジャニアンまでがあんなことになっちまうなんて」


「クソ生意気なガキだったが、あぁなっちゃあ救えねぇよ。妹が流行り病にかかって、まとまった大金が必要だったらしいじゃないか」


「……悲しいけれど、助けてあげられるほど、私達も余裕があったわけじゃないからねぇ」


「エボートの阿呆が悪い。面倒見を気取るんなら、あんなことに付き合わせるべきじゃなかったな! 『兄弟団』の手先になんてなぁ」


「救貧院が機能してりゃあな。今も"人さらい"どもが占拠したまま――ああいう連中こそ、狩り出してもらいたいんだがね!」


「生憎だろうよ。『猫』どもは敬虔なる貧者には目もくれずってな……しばらくは"中"で大張り切りじゃないか?」


「――また、少し街道周辺が騒ぎそうだなぁ? 次はどの商隊が貧乏クジ引くか賭けようぜ」


「おいおい、マドベリー。お前そんな話して……酔ってんな? いつもの血眼な"嫁"はどうしたよ、どこで撒いてきたんだ?」


「がはは! タルボ婆のところの道の先に、こないだ潜りの男娼館が出てきたろ? 今頃、そこで麗しい漢どもの間を縫って、俺の行方を探してらぁ」


「『猫』どもが残飯漁りに精を出すのは良いんだが、女将さん、この店までゴミ箱ひっくり返されたら臭くて敵わないぜ」


「そうだねぇ……『猫』達は、今は『蛇』を追うのに手を取られてるみたいだからねぇ」


「あぁ。昨日やって来た5人の『蛇』ね――何をこそこそ探ってるやら。3人はラシェットの坊主を探してたみたいだが?」


「蛇だろ、5本て数えろよバカが……わざわざ『三本短剣』の連中と揉め事起こそうって気がしれないね。よそ者だからか? 残りの2本は行方知れずだってのも気味が悪い」


「でもさ、『猫』の連中だって見失うような賢い『蛇』さんなんだ……『猫』よけに、ちょっとうちで飼うなんてどうだい? あんた達」


「――女将さん。そいつは冒険が過ぎないかい?」


「俺も反対だぁな。ここにいる愉快なクソ野郎どもより臭い連中が増えたら、いくらあんたでも収拾つかねぇや!」


「はは、冗談だよ! まぁ、でも客として偶然来るってこともあるんじゃないかい? その時に拒む私じゃないさ」


「気は進まないね。"蛇の囁き"ほど怖いもんはない……ラシェットの問題を解決してやれる奴がいないってのが、俺は悲しいね」


「全くだ。『三本短剣』の連中がまかり間違って『蛇』に負けちまうとして……そのまま丸呑みにされなきゃ良いんだがな、あの坊主」


「それはそうと――この寒さ(・・)はいつまで続くんだろうなぁ? そろそろ"季節移り"があってもおかしくないはずだが」


「マドベリー、お前はまた……俺達を巻き添えにしようってんなら、今から『猫』のクソにしてやってもいいんだぞ?」


「はいはい! 飲み過ぎだよ、このゴロツキ男ども。こいつを飲んで気でも落ち着けな! ……本当に久しぶりに、みんな揃ったんだからね!」


そう言って女店主ベネリーが、店で最も強い暖めた地酒を氷も入れずに男達に振る舞う。険悪になりかけた空気は、皆のマドンナの前での「飲み比べ」に発展し、やがて彼らの"世間話"も単なる酒場の飲兵衛の与太話の類に塗り潰されていくのであった。


――これこそが、旧ワルセィレの様々な(・・・)者達から強く慕われる女店主ベネリーである。

彼女と常連達の会話内容とは特に関係なく、この数日後、オーマ一行はちょうど良い"拠点(たむろ場所)"として『木陰の白馬亭』に目をつけることとなる。


   ***


「どうしたラシェット少年、そんなんじゃあお前をどこの誰にだって売り飛ばす(・・・・・)ことはできないなぁ……おチビどもを抱えて共倒れするか?」


「ッ! くそおおおおおおお!!」


声を荒げてラシェット少年が立ち上がり、拳を振りかぶって立ち向かってくる。相変わらずガッツはある。都合、もう3回は投げ飛ばした気がするが、本人の生命力というべきか頑丈さというべきか、大したものである。

だが、見え見えの軌道は改善されていない――やはり短期間で技術的なところまで一気に鍛え上げるのは、ソルファイドを以ってしてもなかなかの難事と言わざるをえないか。


半身でかわして腕を取り、勢いを受け流すようにして吹き飛ばす。


「お!」


だが、ラシェット少年も俺の対応を予期していたようで、受け流されること前提の体勢に変わっていた。俺の予想を上回る速さで踵を返し、今度こそは一撃を入れようと返す刀の如く、振り向きざまに強引な裏拳を放ってくる。


……努力せる少年には本当に申し訳ないが――そいつは俺の【高速思考(ずる)】を超える速度じゃあない。ラシェットが腕を痛めかねないかなり無茶な動きをしたのに対し、俺は軽く体をひねるだけでそれを押さえ、下半身がお留守になったところに足払いをかけて引き倒した。


「休むな、ラシェット……主殿。"魔法"を」


おお、おお、我らが「師匠」殿は怖いねぇ。

俺は全身から魔素を練り上げて、それを掌ほどの火の玉の形にする。大した魔力もこもっていない虚仮(こけ)威しだが、魔法の才能の無い者達――つまり魔素の流れへの理解に基づく本能的な魔法防御力の弱い一般人には、当たれば火傷する程度には脅威となる。

火の玉をボールか何かのように投げつけ――ラシェットがもがきながらも体を捻り、転がるように間一髪で避けてかわすのを見て、ソルファイドが一旦組み手の中断を指示した。


その上で、冷静かつ的確なコメントを入れてくる。


「無茶をしてでも、というのはここぞという時に取っておけ。お前には守るものがあるんだろう? 態勢を立て直して呼吸を整えるのも必要だ――焦るのはわかるが、落ち着きを取り戻せ……そうでなければ今のように、トドメの追撃を受ける」


「おだ……お愉悦さんが」


「待て待てアシェイリちゃん。俺は決して愉しんでなどいないぞ?」


「――助言の邪魔しないでください。お愉悦さんが本気を出していたら、火傷どころか大火傷になっていた。"人間"の回復力でそれは厳しい……それに、魔法じゃなくても倒れた相手を燃やす手段なんて他にもある」


うーむ。

まぁ、俺が精神攻撃してわざと焦らせてるのもわかってる上での助言なんだろうがな――これは教育的指導と、俺自身の動きを兼ねた組み手なのだ。現に、ラシェットに言葉でコメントする一方、『エイリアンネットワーク』を通して俺に対してもいろいろとダメ出しをしてきていた。

はいはい、厳しいことで……だが、まぁ俺の現在の短期計画では――こうした"体捌き"の技術はすぐに(・・・)必要になるだろうからな。怪我の可能性を減らす意味でも、ラシェット少年に基礎を叩き込むついでにやっておいて損は無い。


「ありが……とう、ございます。師匠、アシェイリさん、オーマさん」


……ふむ。

肩を大きく上下させつつも、ラシェット少年の瞳の中の闘志は衰えていないようである。

それからアシェイリが、付け加えでもう少し細かいアドバイスを述べていく……その過程で、ラシェットが回復するのも待たずに強引に引き倒したり、吸血鬼の怪力でもって振り回したりしている気がするが、それはご愛嬌というところか。


――いや、待て。ひょっとしてアシェイリが得物にバトルアックス使ってる理由って「頑丈さ」重視だからじゃないよな?

うむ、まぁなんだ、それだけの"覚悟"を見せてくれたんだから、俺も配下含めて応えなければ"魔人"の名折れというものだ。そういうことにしておこう。


なに、別に慈善事業というわけでもない。

何やら「おチビ」達のうち、死したジャニアン少年の妹が病にかかっており、それでまとまった金が必要であったことがうかがえたが――その治療代を俺が肩代わりして、代わりにラシェット少年は俺に負債を負ったということである。返済できなければ、この街にいるらしい『奴隷商人』達に売り飛ばす手筈だ。

……人間至上の『長女国』における"亜人奴隷"でも無し、それが単なる「借金奴隷」であるならば、国の法の保護下にあるものであり、普通は無茶な扱いはされないだろう。だが、ナーレフから外に出る機会に恵まれないのであれば――迷宮が開放されていく世情、より"危険"な目に遭う可能性も否定できまいよ。


……そして俺が、わざわざこんな薄汚いガキをソルファイド(最高戦力)使ってまで鍛えてやっているのは、ちゃんとした理由がある。


――なに、仇を討たせてやろうというのさ。

そして、それが俺の"占い"によるものだと、盛大に吹聴する「広告塔」になってもらう。


【高速思考】と【並列思考】を元に短時間ででっち上げた「効率的な訓練」法(監修:ソルファイド、技術的助言:ルク、演算:ぷるきゅぴ達)を元に、基礎的な体捌きを仕込んでいる間、俺はルクと【眷属心話】で情報を交換しつつ……"バイル"という男について調べ上げていた。

中堅の盗賊団である『三本の口裂き短剣』を率いる典型的なならず者であり、この界隈でもかなり無茶(・・)をしているらしい。性格は尊大にして残忍、誇大妄想気味な男であるが、元傭兵くずれなだけあって戦場などでの場数は踏んでおり、旅人や商隊への襲撃でそこそこの悪名を馳せている。政治的な交渉力もある追い剥ぎ団のリーダーと異なり、この街の暴力的な意味での"暗さ"を凝縮して煎じ詰めたような、ハゲ男であった。


ちょうどよいじゃないか。

ブチのめしても誰の恨みも買いそうにないいい感じのクソ野郎である。しかし、その乱暴さを恐れてなかなか手を出そうという者がいない、というのも都合が良い――頑張れラシェット、オッズが傾けば傾くほど、仕掛ける俺の「儲け」も大きいというものだ。


喧嘩と言えば酒場。酒場の肴は喧嘩、てなもんよ。

既に"会場"候補も、何箇所か見繕ったところだからな――拠点候補とは別に、だ。


ラシェット少年の鍛錬に話を戻そう。

……現実的には、予想が少し外れる形で、当初の想定以上に時間をかけざるを得なかった、というのはある。


少年、俺の「配下」になったわけではないんだよね。

だから『職業』を俺が勝手に選択することも、ましてや点振りをしてやることもできなかったのだ。

そして、アシェイリのビルド考察を後回しにしていた関係で後から気付いたんだが――彼女もラシェットと同じ(・・)だったのだ。


つまり、ステータスは見れるしスキルテーブルなんかも見れるが、点振りはできない状態。一応はラシェットよりも俺に心服はしているはずなんだが……考えられる可能性は二つか。


一つは、ソルファイドの弟子という間接的な配下――すなわち"直臣"ではなく"陪臣"になった影響だ。直接的に俺の配下として迷宮核(ダンジョンコア)に"認識"されたわけではないため、【情報閲覧】にせよ、及ぶ効果が一般通行生物よりは深まってるものの眷属達ほどではない、というパターン。

ただし、アシェイリに関しては師匠のソルファイドと同じく俺に対しては敬語を使うなど、心服度合いは低くはないはずだから、この可能性だけ追求するのはちと微妙。仮に彼女に"囁いた"のが【魔界】であったならば、と考えて出てきたのがもう一つの可能性である。


……つまり【人界】での迷宮領主(ダンジョンマスター)能力の使用制限の影響なんじゃないかという、シンプルな理解だ。【人界】の"人間"という同じ条件でならば、ルク&ミシェールの時との違いを考えれば、この辺りが最も妥当であるところだろうか。

試すには、アシェイリを一度【魔界】に連れ帰ってみて、改めて配下となるかを確認をする必要はあるだろうが。


だが、これとて一つ目の可能性が完全否定されたわけではなくて、おそらく両者混じり合ってるんじゃないかとは思われる。

そりゃそうだろ。もし"陪臣"でいいのなら、俺の知らないところでソルファイドが「弟子」を増やしたり、ル・ベリが「奴隷」を増やしてみろ。収拾がつかない――「ゴブリン奴隷」どもまで俺の"配下"扱いされたのでは、ゾッとしないからな。


さて。

話をラシェットに戻すが、そういうわけで彼の職業は未だに『未設定』のままである。もし俺の手によって設定可能であったならば、一も二も無く【重装戦士】にしてやっていたんだがな。

だが、だからこそ「検証」できる事柄もある。


おさらいしよう。

ラシェット少年には現在4つの『職業候補』がある。

これらはそのまま、彼が今までの人生で――どのような"経験"をしてきたか対応しているとも言える。まぁ、街を行く他の少年少女も含めた【情報閲覧】でのデータ収集結果によれば、これは【人界】の"知性種"全般に通じる法則である可能性もあるわけだが。


んで、だ。

これはつまり、今後ラシェット少年に追加で【重装戦士】の%が上昇するような『経験』を重ねさせれば――%を上昇させられるかもしれない、と考えたわけだ。それで、『スキルテーブル』を先にちら見してから【重装戦士】の職業技能に対応したメニューの"稽古"をつけているのである。


そしてそれに加えて――俺が"耳元で囁く"効果を検証することにしている。

どういうことかというと、ラシェット少年が、自分自身の「生き方」として『戦士』を意識するような言葉をたくさん投げかけて刷り込みを重ねているのだ。その前段として、ブチのめしつつ「総括」的な意味で、とりあえず最大%であった今までの【盗賊】的な生き方を徹底的に否定して、そういう風に考えるのを排除するようにした。


結果は劇的なものであったとも。

若くて頭が柔軟だからなのかもしれないが、『職業候補』のうち、みるみる【盗賊】の%が減って、4候補の%総計は100%になるように変動しているようだから、相対的にも【重装戦士】の割合が上昇。現在23%ほどにまでなっていた。


すなわち「この世界のルール」上、個人がどのような能力を身につけるかは……『己をどのように認識しているか』に大きく左右されている、とも言える。


――迷宮領主(ダンジョンマスター)の【○○使い】として表現される特性が、そいつが『世界をどのように認識しているか』に大きく左右されている、ということ随分似ている(・・・・)な?

……まぁ、まだまだ『神々』とやらが関わっていること濃厚な「世界の法則」については、想像と考察を重ねることしかできないんだがな。


ただ『職業進化』や"転職"の可否タイミングについてもまた、その者の「自己認識」が大いに関わっている可能性が見えてきたと言える。

ル・ベリなんかが非常に良い例だろうな。

半ゴブリンから正真正銘の【魔人】になり、一度職業が"未設定"に戻ったこともそうだが――現在の職業である【奴隷監督】としての技能では、例えば相手の職業を『奴隷』に変えてしまうものも存在していることも示唆に富むだろう?


つまり、ある程度この生き方が煮詰まって(・・・・・)きただとか。

何か人生観が一歩深まるような『経験』をして、一皮剥けそうだとか。

己の在り方を根本から崩されるアイデンティティ危機に見舞われるとか。


そういう、良い意味でも悪い意味でも自分で自分が"生まれ変わったのだ"と確信できる、してしまうようなタイミングを迎えた者達こそが――大人であろうとも、一時的な『職業未設定』になってしまうことが考察される。そしてこれは、道行く人々に辻【情報閲覧】をかける中で、おそらく正しいんじゃないかという傾向が見られたのであった。


無論、若者のように職業候補が「%」表示されていない、という違いはある。

それに、一度生き方について迷ったり、何か悟りを得たような気になっ(・・・・)たからといって、それで本当の意味で一皮むけることができるものは少数だ。大概の場合は「元の職業」に再び戻ってしまう――やはり数十年間分の"慣れた生き方"というのは、そうそう変わるものではないからな。


……だが、そいつの「隠された才能」を言い当てたい俺にとっては、別にそれでも十分なのである。


選択可能ないくつかの『職業』を眺めるだけで――そいつが「己」や「世界」をどう認識して生きてきたのか、どんな「生き方」に適性が高くて、あるいは何が得意であるかを言い当ててやることなどは、容易い。己の望む"在り方"と、現在の「やむを得ず」選んでいる職業とが乖離していればいるほど……それを言い当てられたり、気付かされたりした時に受け取るインパクトは大きいだろう。


本質は「人生相談」と同じこと。

聞きたいことを言ってやり、本人が内心で望んでいた願望を言葉で表現して、無意識下にあったものを自ら意識させてやる。それをする上で、俺は人よりも少しだけ情報を得る(ズルをする)能力に長けていた――ただ、それだけだ。

だが、俺が"占い師"としてまずは名を高めるために便利ではあるか。


ふむ。

だが、ここまで考察が進むと……いささか「占い師オーマ」じゃチープかな?


そうだな。

――例えば『人物鑑定士』なんてのは、どうだろうか。

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