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前編

《ボディソープ〜》番外編です。これだけでも読めるようにはしておりますが、《ボディソープ〜》を読んだほうが詳しい背景が分かるかもです。エロも絡みもない話ですが、楽しんでいただければ幸いです。

彼女との出会いは40歳のとき。

自ら立ち上げた事務所〈オフィス〉、

『アルシド・レイベル』

が、ようやく軌道に乗り始めた頃。


大手医薬品メーカー、『アリスコーポレーション』

の警護班が、一週間後に式典を控えていたとき。


警護班には

『英雄〈ヒーロー〉』

という称号がある。


文武に長け、いかなるときも冷静で、周囲をひっぱっていけるような人物。

社内の警護において、遠征先において、より多くの標的を捕らえ、鎮圧できた人物。

危険を顧みずに、ときには自分の命を賭けて誰かを助けようとする人物。

様々な人から称賛され、一目置かれるような人物。仲間からの信頼を得、尊敬され、愛され、誰もが憧れるような、そんな人物。


一週間後の式典は、ある人物にその『英雄』の称号を与えるものだった。

アリスコーポレーション、警護班、3人目の『英雄』誕生だった。


アリス創設23年。

警護班が設立されて20年。

その中で、まだたったの3人目である。



彼女の第一印象は、

『デカい』

の一言だった。


「そこの青年!

大変申し訳ないが、警護班の班長室にはどう行けばいいのかな?

アリスの建物―『ペンタゴン』だっけ?

とても広いから分からなくて…。

あ、僕は決して怪しいものじゃないよ。

一週間後の式典でカメラマンを務めさせてもらうことになった、

『アルシド・レイベル』

というものです。

どうぞよろしく!」


ペンタゴンの中心、吹き抜けの植物園から各門へ続く五本の廊下。

更に各班や部屋に向けて細かく広がり、別れていくわけであるが。

この植物園から各門へ続く廊下を、門の色にちなんで


『黄色の路〈イエローストリート〉』

『白色の路〈ホワイトストリート〉』

『黒色の路〈ブラックストリート〉』

『青色の路〈ブルーストリート〉』

『赤色の路〈レッドストリート〉』


と読んでいる。



僕は『黒色の路』を、少々途方にくれながら歩いていた。

早い話、迷子になっていたのだ。

これだけだだっ広い建物、あちこちに案内表示はあるものの、すぐに自分の現在位置すら見失う。


加えて、アリスのスタッフは、社員、パート、派遣など。

総勢二千人近くにもなる。

そのスタッフが、書類を運んだりコピーへ走ったり。

荷物の搬入があったり、他の班への届けものがあったり。

かなり幅広く造られているアリスの廊下だが。

そんなスタッフ達で常に混雑している。

警護班によるペンタゴン内のメンテナンスも、警備を兼ねて、毎日行なわれている。


僕はその警護班と思われる青年に声をかけた。

彼が設置されている防犯カメラを見ながら、無線で誰かと話していたからだ。

渋目の深緑の上下に、土色のインナーという格好からも、彼がデスクワークとは無縁の班であることが伺える。


僕より若干背は低いが、それでも180センチはあるだろう。

真っすぐに伸びた背筋や程よく付いた四肢の筋肉のせいもあり、実際よりも大きく見える。

更にインナーと上着の間に着ている防弾チョッキというか。

ポケットがやたら付いているベストのせいで、胸板がずっと厚く、たくましく見える。

褐色の肌はブロンズ像のように美しく、しっとりと艶を帯びている。

腰までもありそうな漆黒の髪をオールバックのポニーテールにし、後ろに長く垂らしている。


その姿は天使か。

ギリシャ神話の神か…。


などと思わず見惚れてしまうほどの、美貌。


『ピュー♪』

と、僕は無意識のうちに感嘆の口笛を吹いていた。


青年はしばらく僕の顔を見ていたが、


「…アルフレッド班長なら遠征で式典の前日まで戻らないぞ?

だから班長室まで行くだけ無駄だと思うが?

ちなみに副班長ならもうすぐ訓練の時間だから、第七訓練場にいると思うぞ?

案内しようか?

私も訓練に出ないといけないし」


そう云うと、にっこり微笑み、さっさと歩きだした。

その微笑みもまた、一枚の絵画のように美しく、僕の心深く刻まれた。



第七訓練場は屋外だった。

それもペンタゴンの屋根しか見えないような、そんな緑に囲まれた林の中にあった。

鬱蒼と茂る木々。

いろんな方向から《ギャーギャー》と獣だか鳥だかの鳴き声が聞こえてくる。


「ジャングルかっ!」


と思わず裏平手の突っ込みを入れそうになる。


アリスはペンタゴンのまわりを林で囲まれた造りになっているが。

この場所はなんというか。

林を通り越して『森』と云ったほうがいいような気がした。


『訓練場』とは名ばかりの場所。

更衣室兼シャワールームの建物は奇麗に整備されている。

が、そこから一歩踏み出せば、もうジャングルの中なのである。

ペンタゴンから、僅か五分程度歩いただけの場所であるにもかかわらず、だ。

道という道はなく、あるのは獣道よりもできの悪い、『道』とはおおよそ呼べぬものばかり。


そんな、訓練場とは到底思えない場所に、隊員達はそれぞれ陣取り、好き放題していた。

有るものはアイポットで音楽を楽しみ、あるものは自主トレに励む。

数少ない女性隊員を口説くもの。

靴やベルトに忍ばせたナイフの手入れをするもの。

銃の手入れに剣の手入れ。

組み手の練習に励むもの。


〈なんだか無法地帯にいるみたいだ〉


警護班の様子を眺めながら僕は思った。

別に品がないというわけではない。

血気盛んな猛者揃いの班とはいえ、世界をまたにかける超大手の警護隊員達。

目が合えば会釈もするしにこやかに微笑む。

何人かの隊員達は、更衣室に小さいながら客間があるからと勧めてくれた。


「…副班長はもう少し準備にかかると思うし。

それにあの人、少々忘れっぽいところがあるんですよね。

客間で休まれてたほうが、もしかしたらあなたのためにはいいかも…」


銀髪の、背高くかなり体格のいい一人の隊員が、僕に云いにきた。

見上げる。

一応185センチはある僕よりもまだ高い。

2メートルか、なくてもそれ近くか。


〈しかも凄い漢前だし〉


銀髪の好青年を見上げたまま、そう思った。

同性である僕が見ても、素直にそう思えるほど、その青年はかっこよかった。

背中程まである銀髪を緩い三つ編みにし、後ろに垂らしている。

長い睫毛に縁取られた、深い海のようなアクアマリンの瞳。

睫毛も見事かつ綺麗な銀色である。

ほのかに香る、フレグランス。

この香りは…ムスク?

形のよい唇が、優しげに笑みをたたえている。


〈かっこいいうえに艶気もムンムンか。

女に不自由することはないな。

被写体としても申し分ないし、今度うちのモデルやってもらえないかな?

こーゆー美形見ると、ほんと、カメラマンの血が騒ぐなあ〉


などと、青年を見ながら考えていると、


「せっふぃ〜♪

組み手しようぜ!

組み手〜♪♪」


何やら気の抜けた、軽い口調でいかにも軽そうな男が近づいてきた。


これまた長身の男。

銀髪の青年よりも若干低いが、やはり僕は見上げなくてはいけなかった。

左頬から顎にかけて、少々目立つ傷がある。

最近付いたものか。

塞がる途中の、生傷の印象を受ける。

長めの黒い髪は、全体的に逆立たせているものの、後ろ髪は一つに束ねるという変わった形。

短く少ない後ろ髪は、まるで尻尾のように見えて仕方ない。

濃い蒼い瞳。

ぱっと見は黒に見える、宇宙を思わせるプルシアンブルー。

銀髪の青年と比べると艶気は足りないが、笑ったときの口元だとか目元だとかには、なかなかそそられるものがある。


〈はー、こっちも相当漢前だあ。

いいなあ。

二人でモデルやってくれないかなあ。

タダとは云わないし…〉


黒髪の青年を見ながら、再び僕はそう思った。


と、僕の顔を見た黒髪の青年が、途端大きな声を上げた。


「あー!

あんた『アルシド・レイベル』だろ?!

『女神〈ディーバ〉』

を撮ったカメラマン!

こんなとこで何してるんすか?

警護班の撮影っすか?!

だったら俺、喜んで被写体になるっすよ!♪♪」


にっこり笑って軽くポーズをとる。


「知ってるのか?

佳人」


黒髪の青年に銀髪の青年が尋ねた。


「《知ってるのか?》

ってセラフィエル。

あんたも一緒だったろ?

この間行ったフォトグラフ展!

いろんなカメラマンのフォト展だったけど、一枚かなりでかいパネルがあったじゃん!

ちょっと暗いステージで女の人が歌ってたヤツ!」


「ああ…―」


と、短く応えて、セラフィエルと呼ばれた青年は頷いた。


佳人と呼ばれた青年は、ビシッと僕に敬礼してみせると、


「改めて初めまして!

警護班所属2年目、伊織佳人〈いおりかいと〉です!

貴殿の写真、『女神〈ディーバ〉』を拝見し、いたく感動した者です。

隣は同期のセラフィエル・晃・ピアース。

以後、お見知り置きを!」


と、笑みを浮かべた。

心底嬉しそうな、満面の笑みである。

その笑みに、僕のカメラマン魂はますます刺激されたのだった。

名刺を取り出し、二人に渡す。


「こちらこそ、お見知り置き願います!

一週間後の式典でカメラマンを務めさせていただくことになった、アルシド・レイベルです!

いい画が撮れるよう、全力であたらせていただきますよ!

それとは別に、お二人には是非!

モデルをしていただけないかと思ってるんですが、いかがですか?

まだまだしがないスタジオなんですが、気が向いたら連絡ください!

すぐに駆け付けますよ!

先程、僕をここへ案内してくれた方にもモデルをしていただけないかと思ってるんですが…。

どこへ行かれたんでしょうかねえ?

姿が見えませんが…」


気が付くと、ブロンズの美貌の君は姿が見えなくなっていた。

ここまで案内してもらったのに、お礼も云えないままである。

何度も隊員達を見回しているのだが…。

その姿はどこにも見当たらなかった。


〈自分も訓練があるって、云ってたんだけどなあ〉


再度姿が見えないことを確認し、僕は軽く溜息を吐いた。

そんな僕に、再び佳人が声をかけた。


「…どんなヤツだったっすか?」


「そうですねぇ。

とっても綺麗な顔の青年でしたよ。

ブロンズの肌がやけに艶っぽい子でね。

漆黒の髪をオールバックのポニーテールにしてて。

その髪がまた!

さらさらつやつやで綺麗だったな!

男性にしておくのが惜しいくらいの美貌でしたね!

まあ、カメラマンからすれば、ああいった

『女性と見紛うくらいの美貌』

ってのも、おおいに有りなんですけどね!」


青年の姿を思い出し、少々興奮気味に僕は云った。

今思い出しても、やはりあの青年は綺麗だと、改めて思った。


そんな僕を余所に、二人は顔を見合わせ、


「あー…」


と、セラフィエルは困ったように、長い指で自らの顎を撫で。


「あの人なら多分ー…」


と、佳人も困り果てたように自らの頭を掻いた。

歯切れ悪く、はっきりしない二人の態度。


と、その時…。


「集合っ!!」


威勢のよい声が響き、無法地帯さながらの雰囲気だった警護班に、一瞬で緊張感が漂った。

まるで、ピンと張った糸のよう。

隊員達の表情が、途端凛々しく、鋭くなる。

『ソルジャー〈戦士〉』

と呼ぶに相応しい表情。


そして、そんな隊員達が集まる先に立つ、副班長と思われる人物の姿に、僕は目を見開いた。

思わず叫び声を挙げそうになった。

そこに立っていたのは、先程、僕をこの第七訓練場に案内してくれたあの青年。

その姿に、僕は更に絶叫を挙げる寸前までなった。


彼がその背に差していたのは、大剣、ぞくに

『クレイモア』

と呼ばれる、人の身長ほどもありそうな巨大な剣。

それを繰る人物の話は、アリスのスタッフに留まることなく、一般的に知れ渡っていた。


警護班班長と副班長。

一般的に、

『二大守護闘神』

と呼ばれている。

左腕に仕込まれた、愛銃

《パールバディ》を繰る、『破壊神シヴァ』

の異名を持つ、班長

『アルフレッド・エメリッヒ』。

そして、大剣、《クレイモア》を繰る、

『戦女ワルキューレ』

の異名を持つ、副班長

『魚住真春〈うおずみまはる〉』。

警護班初の、女性副班長である。


そう、僕が《綺麗な顔の青年》と思っていた人物は、実は女性で。

しかも『副班長』という、とんでもない人物だったのである。


彼女、魚住真春と出会って約15分。

彼女に対する印象は、


「…あれで女かよ…」


というものであった…。

BLを期待した方、本当にごめんなさい!今回はノーマルです。エロも絡みもありませんが、かっこいい女性像目指して書いていきたいと思います。少しでも気に入っていただければ本当に幸いです。

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