唐突な、蘇る記憶
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僕は、親も家も無い。
僕は出来損ないなんだ。
僕は能力を持ってないから。3歳になっても能力を使えなかったから。
だから、お父さんとお母さんは育てる価値が分からなかったから、僕を捨てた。
だれも、僕と仲良くしてくれなかった。
誰にも会いたくなかった。
とても広い草原にたつ、一本の大きな木。あれが僕の家。
あそこには誰もこないから。
誰もこない、はずなのに。
「こんなところに寝てたら風邪ひくよ?」
「……うーん…?」
「うわああああ?!」
ある日、僕の家に女の子が訪れた。
「な、んで、ここに?」
「なんで? どこに行こうとワタシの勝手でしょ?
ね、どうして1人なの?」
「どうしてって、それは、親がいないから」
「捨てられたの?」
「そ、そうだよ。だって、僕は、能力を持ってないから」
「ふーん」
女の子は当たり前のように、僕の隣に座った。
「…なんで隣に座るの?」
「んー? なんとなく」
「…き、君だって、1人じゃないか」
「1人というか、遊んでるだけだよ」
この子には親がいるのか。
まあ、そうだよね。
「明日もここにいる?」
「え、う、うん、多分」
「じゃあ明日もくるね!」
ひょいと立ち上がると女の子はそう言った。
長い髪がなびいて頬に当たる。
「ワタシ、エルシア! キミの名前は?」
「名前? メ、メノ」
それから女の子─エルシアは毎日ここにきた。
日を重ねるにつれて、エルシアは自分のことを話してくれるようになった。
「神の子?」
「そう呼ばれてるんだ。そんな呼び方好きじゃないけど。ワタシの能力が凄いんだって」
「へえーいいなー。 僕だって能力があったらな」
「能力なんて良いものでもないよ。なにが出来るかで自分の生活のしやすさがきまっちゃうんだから」
「よく分からないや。今はまだ親のもとにいれるんだから考えなくていいんじゃないかな」
「親、か…。 ワタシ自分の暮らしてる森が嫌い。」
親とか家が嫌いなんて贅沢だと思った。無いと、こんなにも苦しいのに。
でも数日後嫌いな理由を知った。
「親って人、何人もいるんだ。毎日いろいろお世話してくれる。ご飯もくれる。掃除もしてくれる。でも、本当にそれが親といえるのか分からない。皆の目が、ワタシを人間として見てない気がする。ワタシは、ワタシを産んだ人を知らない」
その頃から、エルシアは普通の子供じゃない、と思うようになった。
「ねえどうしてワタシは生まれたのかな」
そんなことを言う回数が増えていった。
その度に僕は上手く答えられずに、変な空気になってしまう。
それでも僕はエルシアがいてくれるだけで安心した。
ひとりぼっちだった世界に輝きが溢れだした。
だから僕はエルシアを元気しさせたいと願った。
花を摘むぐらいしかできないから、毎日のように花冠を作って渡した。
エルシアは全部嬉しそうに受け取ってくれた。
「こんな日々がいつまでも続けばいいのにね」
「続かせればいいんだよ。毎日、エルシアがここにくればいい」
「そう、ね。そうすれば、続くね」
何故かその顔は泣きそうだった。
「あのね、ワタシ、まだメノに話してないことがある」
「なに?」
「明後日ワタシの誕生日なの」
「わ、え、そうなの?! もっと早く言ってくれれば」
「それでね、誕生日は大切な儀式があるの」
そのとき僕の直感が、儀式がただならぬ事と知らせていた。
「別に変なやつじゃないよ! ただ少し怖いから」
「その儀式に僕もいちゃだめ?」
「多分だめ。親がたくさんいるから」
エルシアはいつも通り笑っていた。
「明日…誕生日だね」
「うん。それでね、明日これないかも」
いつも通り話して、夕方になりエルシアが帰る時間になった。
ただ、なんとなく、このままエルシアを見送ったら二度とその姿をみれない気がして
僕はエルシアの腕をつかんだ。
「─?」
「ねえ今日ここに泊まってってよ」
「だ、だめだよちゃんと帰らなきゃ」
「でも! なんかずっと会えないきがして…!」
突然涙が溢れた。
予感、胸騒ぎを伝えたいのに、上手く言葉がでない。
するとエルシアは僕の手を握って、精一杯の笑顔でいった。
「そんなことないよ! ワタシはいなくならない」
「…ほんと? これからも、会える?」
「もちろんだよ! 明後日も、その次も、その先もずっと会えるよ!
じゃあ、また明後日ね」
エルシアは手を離し、笑顔で帰っていった。
次の次の日、僕は誕生日を祝おうと思って、いつもより手間暇かけた、豪華な花冠を作った。
でも、あれ以来エルシアがここに訪れることはなかった。
「儀式のせいだ。儀式が、親がエルシアをここに来れなくしたんだ。エルシアは家が嫌いだった。エルシアは傷ついてる。
僕が助けなきゃ。エルシアが待ってる」
木の後ろの森をずっと深くいったところに、集落があった。
元々盗みが得意だったから、人の目を盗んで歩くのは簡単だった。
集落の奥の、一際大きな建物。
「エル……シア……?」
気づかれた、と思ったときには既に遅く、僕は誰かに何か強大なエネルギーをぶつけられ、あっけなく気を失った。
暗くなる視界の中僕がみたのは、
複数の管や機械に繋がれ動かない、エルシアの姿だった。
『こんな小さな子供に侵入を許すとは、我らも落ちたものだな。
……こいつ、神の子と知り合いだったのか。
……………強くやりすぎたか、恐らく記憶もぶっとんでることだろう。まあ都合がいい。森の外のあの木に置いておくか』
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