奇妙な、知らせる感覚
『わぁ…すごい…綺麗な能力だね』
『…そういわれたの初めて』
『え? とっても素敵なのに、能力のことはよく分からないけど僕はこれ好きだよ』
『……ありがとう! ワタシそういわれてとっても嬉しい!』
『みんな、利用価値しかみてなかったから』
「─っ!」
ふかふかの布団からメノは飛び起きた。
それと同時にキュイッと鳴き声が響く。
やがて布団の間からフィルが顔を出した。
「なんだ…おまえか」
ジッとメノを見つめるフィル。手を伸ばし頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めた。
フィルと戯れても気分はもやもやしたままだった。恐らくそれは先ほどの夢のせいだろう。
夢の中自分と会話していた誰か。覚める寸前にほんの少し顔が映ったのを思い出す。
知らない少女の顔だった。
「……いや、違う。何だろうこの感覚」
夢に出てきたのならば、
「僕はあの子を知っている…?
っネルティ!」
そこでメノは、ネルティが寝ているはずの隣の布団が空っぽなのに気づいたのだった。
ネルティは家を持っていなかった。メノは記憶を失っているためもちろん家を知らない。
二人はどこで夜を明かしたというと、セトリア村で訪れた場所、酒場二階であった。
この酒場は実はテーグの経営しているところであり、たまにネルティは無償で泊めてもらっていた。
メノはネルティを探して階下に降りた。そこに、端っこのテーブルで朝から酒を楽しんでいるテーグがいた。
「テーグさん!」
「ん?」
「ネルティを見ませんでしたか?!」
焦りながら聞くメノに、テーグはほろ酔いのまま答えた。
「ネルティ? あぁ、あいつは今朝フォズ街に行ったぜ」
「フォズ街?」
「あいつの故郷だ。フォズ街は街だからな、転送者がいる」
「転送者?」
「ほんとに何も知らないんだな…転送の能力持った奴が配置されてるんだよ。人が多い場所はそれだけ訪れる人も多い。一定人数以上定住者がいるところは“街”に指定して転送者置いてんだ。電話かけりゃ飛ばしてくれる」
「なるほど…」
ネルティはもうしばらくこちらへ帰ってこないだろう。
夢の少女について聞こうとしていたメノは少し肩を落としたが、すぐにテーグも情報屋と気づく。
「テーグさん、えっと聞きたいことがあるんですけど…」
「情報がほしいのか? 金かかるぜ」
「そんな…と、友達料金で」
「なんだそりゃ」
テーグは鼻で笑いながら少し考えあとでネルティに請求するか、と納得した。
「で? 何が知りたいんだ?」
「あ、僕が記憶が無いっていうのは知ってますよね。それで、夢に出てくる女の子がいたんですけど、その子のことが分かれば自分の事も分かるんじゃないかなって…」
「また個人情報か。まあ聞くだけ聞いてやるよ特徴は?」
「腰ぐらいまでの長髪で、青白い髪で、目は緑で、全体的にゆったりした服着てて」
「んーそんなやつは知らないなー他に特徴な無いのか?」
「他に、ええっと………あ、頭にネックレスつけてました!」
「─?!」
テーグが反応を示した。
「でも頭だからネックレスじゃないか、ヘッドレス? うーん」
「…おい、それって真ん中に宝石ついてなかったか?」
「宝石……あ! 確かについてました! 確か、青緑?」
「やっぱりな…」
「知ってるんですか!!」
「まあどちらかというと、そいつの集団を知っている。というか結構有名だぞ」
「集団?」
はぁ、とため息をつくと厄介そうに頭をかき話し始めた。
神の子って知らねえよな。
普通親から子へ能力を受け継ぐ確率は五分五分だ。両親のどちらかの能力かその掛け合わせか、または全く関係ないやつか。
神の子は必ず子に能力を受け継ぐらしい。しかも特定の超強力なのだ。なんでも、“火・水・風・草・光・空間・時間を操ることができる”能力だと。
要はそれを欲しがる集団がいるってことよ。欲しがるつっても能力は他人に分けることなんかできないんだが…その集団はできるらしい。神の子が10歳になったとき、“儀式”を行い能力を分けさせる。
…そうだな、昨日言ったやつだ。具体的になにやるのか知らんが、儀式を行うとその集団のやつらは確かに神の子の能力を持つんだ。
だがずっとというわけじゃあない。精々一年だな。それでも強力な能力をもつ奴が増えるわけだから、儀式を行ってから一年間は奴らの住む森に近づくなと俺達情報屋が注意喚起してやるんだ。ネルティもそれをしに飛んだわけよ。
それで、その神の子は儀式がスムーズに行えるように生まれたときから特殊な石を身につけるという。さっきの青緑の石だ。
「分かったか?」
「ああ…はい…つまりどういうことですか?」
「ああくそ! つまりお前の夢に出てくる女の子とやらはその神の子だっつってんだよ!」
「ええ?!」
「かかかかかかかか神の子と友達だったの?!!??!?」
驚き過ぎてフィルを撫でる手が早くなるネルティ。
「おい、そいつ苦しそうだぞ」
「あ! ごめん!! 許してえええ」
「さらに締め付けてどうする…」
故郷から帰ったネルティに、メノは先ほどの会話の内容を説明した。神の子をよく知らないメノだったが、ネルティの驚きようにそれほど凄い人なのだと知る。
「神の子って子と友達だったのかなあ……」
「でも夢では楽しそうに話してたんでしょ?」
「うーん、そうなんだけど」
「それって過去の記憶なんじゃない? まだ記憶戻らないの?」
「う~~~~~~~~~~~ん」
頭を抱え目をつぶり一生懸命思いだそうとする。
もう少しですべて分かるところまできているのだが、あと一押し足りていない。
「今回の神の子の名前テーグ分かる?」
「聞いたことあるな。なんだったか…」
「テーグも思いだせないの?!」
「ちょっと待ってくれ。今思いだす。
……………………………」
「……………………………」
「………………思いだした! 確かエルシアだ」
「エルシア!」
そのとき、メノの脳内に全てが飛び込んできた。
それは失われていた記憶。少女のこと。
自分がなぜ記憶を失っていたか。
「メノ!」
「お、おい!」
その勢いに耐えきれず、メノの意識は途切れた。