表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/27

7

今回短いです。

「ところでアリス、記憶が無い、というのは本当ですかな?」

 帽子屋が俺の方を伺いつつ尋ねてくる。なんで知ってるんだ?

「あら、そうなの?」

 興味津々、といった様子で俺を覗き込む三月ウサギを無視して、俺は重々しく頷いた。

「……あんた、ほんとに何でも知ってるんだな」

「はは、耳が早いだけですよ」

 苦笑する帽子屋は、テーブルからビスケットを一つ取ってかじった。

「うーむ、やはりこのビスケットは美味。……そうそう、アリスが記憶を失くしている原因はわかりませんがね、解決するなら知者猫ちしゃねこを探すのが一番だと思いますよ」

「チシャネコ?」

「ええ、『知者』です。神の次に物を知る者。この世界の成り立ちさえ知っていると、噂する者もいるくらいです。アリスについても、何か知ってるかもしれません」

「へええ……」

「恐ろしく気まぐれだけどな」

 ぼそり、と呟いた桂馬は不機嫌そうだった。

「知ってるのか?」

「ああ、一度会って、思い切りからかわれて馬鹿にされたことがあった……」

 どうやらその「知者猫」とやらはあまり良い性格では無いようだ。残念ながら。

「それとも、なんなら白の者に捕まるのも一つの手かもしれませんよ?」

「おい!」

 慌てた様子の桂馬の声を無視して、帽子屋は淡々と続ける。

「白の女王は物知りなお方だし、情報もここより集まるでしょう。それに、アリスを捕まえたからと言って、アリスを傷つけるようなことは多分もう無いでしょうし」

「一回刺されたけど」

「白ウサギに捕まったのが不運でしたな。ウサギというのは皆狂っているのです。『月狂い(ルナティック)』ですから」

「……そうか、なるほど」

「おい、アリス?」

 不安そうな声を出す桂馬。

俺はしばらく考えてから、首を横に振った。

「その案はやめとくよ。俺はやっぱり自分で動いて答えを見つけたいから」

「アリス!」

 白の城の奴らは俺を捕まえたいらしい。俺を保護するつもりなのかもしれないが、捕まったらたぶん今のように自由に動くことは出来なくなるだろう。それは困る。

「そうですね。それなら知者猫を探すことをお勧めしますよ」

「ああ、ありがとう」

 これからすべきこと。まず俺の記憶を取り戻したい。そして、何故この世界に来ることになったのか、どうすれば俺のいるべき世界に戻れるのか、それを知りたい。そのためにすべきことは、まず少しでも情報を集めることだ。

「知者猫ってのはどこにいるか知ってるか?」

 尋ねると、帽子屋は首を横に振った。

「申し訳ないが、それは分からない。あの猫はどこからともなく現れて、なんでも知っている癖にまともに物を教えてはくれないのだ」

「おいおい、それじゃだめだろう!」

 希望の光が急にしぼんで行く。

「いえいえ、でも、彼に会うことはアリスのためになるはずですよ。それは保証いたしましょう」

「……はあ」

 とりあえず、当面の目標は決まったらしい。その物知りな猫とやらを探すことだ。どうせそいつも頭から猫耳を生やした人間なのだろう。

「はー……なんか、道のりは遠いな」

 思わずため息をつきつつクッキーをかじると、三月ウサギがニコニコと微笑んだ。

「人生は謎に満ちてる方が楽しいのよアリス?」

「名言頂きましたー……」


 そろそろお暇しようと席を立つと、桂馬が懐から金貨を取り出した。

「お茶と情報代だ」

 帽子屋は、しかしそれを受け取らなかった。

「そんな物は受け取れませんよ。生のアリスをしっかり見られた訳ですから。……代わりに、白の者にアリスの情報を流すのは許してくださいね」

「えええっ」

 驚く俺に、しかし桂馬は苦い顔をしたまま頷いた。

「それが帽子屋のスタンスだからな」

「ご理解いただきありがとう」

 今度は、帽子屋と三月ウサギがそろってぺこりと頭を下げた。

「また来てね!」

 無邪気に言う三月ウサギに、俺は苦笑いしか浮かばないのだった。



 お茶会から抜け出すと、どっと疲れている自分がいた。なかなか厄介な二人組みだった。特に三月ウサギの方は。桂馬はそんな俺を見て苦笑した。

「……あいつらは中立主義と名乗ってるが、ただの日和見主義だ。色んなことを教えてくれるが、逆にこっちの情報も他の誰かに流される」

「それって……」

「しかし、あいつらの情報源は馬鹿にならんぞ? 今回だって白の奴らがもう動きだしてることが知れたし、知者猫がアリスについて何か知ってるかもって分かったろう」

「……結構あやふやじゃないか? 何を知ってるのかも分かんないし」

「でも、帽子屋がお前にとって損は無いと『保証』したんだ。それは信頼できる」

 どうやら桂馬は彼らの情報力については全面的に信頼しているらしい。……それなら、俺も信じてみるしかない、か。

「分かったよ。とりあえず、その知者猫とやらを探そうか」

「おう! そうと決まれば……」

 勢い良くこぶしを振り上げた桂馬は、そのまま固まった。

「……どうする?」

「とりあえず、一旦城に戻るか?」

「おう!」

 俺の提案に、桂馬は笑顔で乗ったのだった。

久しぶりに更新出来ました!……が、またしばらく更新出来ないと思います(汗

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ