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ようやく更新できました……完結まで目処がぜんぜんつきません(涙
「……アリス。お前が前にここに来たとき、お前は今よりも少し若かった。桂馬の腰くらいしか身長がなかった。そして、母親とはぐれたと言って泣いていた。我々はそんなお前とひと時一緒に過ごした。そのひと時はとても楽しかった」
まったく記憶にないことだ。しかし、だからこそ俺は口を挟まず耳を傾けた。
「しかし、気がつけばお前は居なくなっていた。そのときの我々の落胆をお前は知るまい。だが、お前は少し大きくなって帰ってきた。喜ばしいことだ。だから、皆浮き足立っている。……それは、我々だけでなく、白の城の連中たちも同じことなのだ」
「……しろのしろ?」
俺は初めて口を挟んだ。
「そう、白の城だ。谷渋に城を構える女王とその臣下たち。お前を刺したというウサギの耳の子供は、きっと『白うさぎ』だろう。白の女王に言われてお前を追っているのだ」
「俺を狙ってる? ……俺を殺すつもりか?」
怯えながら言うと、将軍は首を振った。
「いや、白の連中もお前を好いている。だからお前を傷つけるつもりなどないはずだ」
「思いっきり刺されましたが……」
「あの『白うさぎ』は気が狂っているからな」
気が狂っている。それはとても嫌な響きだ。俺は黙って腹をさすった。
「きっと白の連中はお前を捕まえて、色々話をしたかったのだろう。我々にアリスを横取りされて、今はさぞ悔しかろうて」
はっはっは、と笑う将軍が、まるで人からおもちゃを取り上げたガキ大将のように見えるのは気のせいだろうか。しかしようやく場がほぐれて、内心ほっとする。
「さてお前たち、我は今からアリスと二人で話がしたい」
「はい」
将軍の言葉に、金と銀、桂馬はきちんと礼をして部屋から出て行った。二人きりになると、将軍は先ほどの笑いを顔から引っ込める。
「アリス、お前にとってこの世界はたぶん異常なのだろう」
「……ええ」
いつまで経ってもぬぐえない違和感。夢じゃないか、という疑いは未だに晴れない。
「だが、我々にとってはこれが『普通』なのだ」
――と、いうことは?
「俺は、この世界の住人じゃないんでしょうね」
「……お前がどうやって、どうしてここに来たのかは定かじゃないが、きっと意味があるはずだ。それを考えるのだ」
「……どうすれば戻れるでしょう」
「それは、この世界を歩き回ってみることだな」
つまり、将軍にも分からないということか。結局、俺がどうしてここにやってきたのか、どうすれば元の世界に戻れるのかも分からないままだ。結局八方塞り。
……しかし、だったらなぜ二人きりにされたのだろう。今の話だけなら金や桂馬が一緒でも別に問題ないはずだ。そう思って顔を上げると、将軍は思いつめたような顔をしていた。
「将軍?」
「なんだ、アリス」
「話はそれだけじゃ無いでしょう?」
俺の言葉に、将軍はため息をついた。
「……アリスよ。私はお前にまだ言っていないことがある」
言うか言うまいか、迷ったように黙り込む将軍に、俺は少し嫌な予感がした。
「アリス。お前はこの世界で一生過ごすつもりはないか?」
そんな提案は想定外で、俺は思わず笑ってしまった。
「まさか。俺は早く帰りたいですよ」
「そうか。お前の気持ちは分かった。でもな……」
それを快く思わない者たちが居ると、将軍は悲しげにそう告げた。
「本当は我も悲しいのだ、アリス。我らは皆アリスを愛していて、そして手放したくはないのだ」
――なぜ? 疑問符しか湧いてこない。
「我々はしかし、お前のために全力を尽くそう。お前を強くするために力を貸そう。しかし、白の城の連中は皆お前を捕まえに来るだろう。永遠に城にお前を閉じ込めるかも知れぬ」
「……なんで」
「それが連中が良いことだと思っているからだ」
俺はその言葉に対して、何か返事を返すことが出来なかった。なんと言っていいか分からないからだ。黙ったまま立ち尽くしている俺に、将軍はいたわしげな視線を投げた後、金と銀を呼んだ。
「後のことは我に任せよ。この世界から帰還する道のりを、この世界を巡ることで見つけ出すのだ、アリス」
将軍の言葉は、俺の耳にとんでもなく難しいことのように響いた。