カミングアウト…のんびりしよう
“岬春風”
この名前を聞いて俺が連想するのは、この8年間の辛い日々だった。
奴は引きこもり、インドアと言えとか言われたが、それを遙かに超えていた。もう部屋から出ないのだ。ほぼPCの前以外にはいない。会話など俺との会話以外してない。
俺は疑問に思った。飯はどうするのかと、すると奴はとんでもないことを言いやがった。
『ふむ、そんなものカロリー○イトで十分だろう。それかソイジョ○』
よく生きていたな。そして奴はそれらを一気に買い貯め、生活していたらしい。
俺は激怒した。それはメロスも吃驚なくらいに。そして仕事をする上で必要だとか言って、家の場所と合鍵を渡されたので、俺は奴に毎日、この8年間飯を作り続けた。なぜかって?俺の飯を食った感想が
『ふむむ!こんなうまいもの食ったことないぞ!おいっ、お前は天才か!』
だった。俺は泣いた。奴に引かれるほどに。だってお前、特に自炊もしなかった俺の
飯を食って感動したんだぞ!不憫で仕方なく、毎日作ることにした。そして自炊能力の向上を密かに決意した。
そこで仕事が一つ、そして俺は知らなかった。奴はまだこんなものではないと。
奴は書類関連を『ふむ、分からんからお前に任せる』と言い、何もしなかった。
書類処理に勤しむ俺。さらに
『ふむ、取引相手と会談か。人見知りだから無理。よろしく頼む』
…取引相手との会談を何とか終え、残りの書類をやる俺。
『ふむ、このソフトはどうするか…む?お前も考えろ。』
……意見を出しつつ書類をやる俺。終わったと気を抜いた時、さらなる地獄が。
『終わったか。ではゲームやるぞ!!!!』
「もう休ませてっ!俺のライフはm(ry」
休ませてもらえるはずもなく、これをほぼ毎日やり続けた。栄養ドリンクが親友になった。
そんなわけで俺は毎日激動の日々を過ごしたのだ。文字通り。
しかし彼女(奴って言い過ぎた)はプログラムに関しては言うことは無く、たまに俺がアドバイスを貰うくらいである。
そして彼女は…美人なのである。これが残念美人かと実感した俺は悪くない。
長い黒髪。やや吊り目で整った顔立ち。身長高い。ボンキュッボン。
ここで言いたいのは俺は別に胸がデカいのが好きなわけではない。でもな。あった方がいいでしょ!無いよりはさ!いや別におっぱい星人じゃないぜ。ホントだぜ。
閑話休題。
春風のことを残念美人と言わずしてなんというのだろう。
そして俺を手伝ってくれたらどれだけ楽だっただろう。てか俺よく一人でやってきたな。あれ?目から汗がががががががが。
そんな思考をしている間に俺は例の喫茶店に着いた。
喫茶店の扉を開けると、いつもの席に彼女がいた。
「ふむ、今回は私の方が早かったな。お前のおごりだ」
いや、先に来てもおごってもらったことないが。
「ああ、考え事しててな。遅れてすまん」
「ふむ、まぁいい。ところで、お前の所にも届いているよな。」
「ゲームか?それなら妹の分も貰ったよ。」
「ふむ、ならよし。今日はその話をするために呼んだ。」
やはりか。
「俺は忙しいから無理だぞ。」
彼女は、いつもと変わらず答えた
「ふむ、そんなのは知っている。だが最近は落ち着いてきたし少しは時間はあるだろう。」
「うっ!」
痛いところを突かれた。さっきから忙しいと連呼していたが今はそうでもないのだ。
8年もすれば落ち着く。最初は忙しかったが、年々落ち着いてきた。だいたい。
「誰のせいで、時間ねぇと思ってんだよ…」
「うぐっ」
痛いとこついてやった。
「落ち着いたっても仕事はある。最近やっと定休日を設定したとこだぞ。8年目にしてやっと土日休めるって…」
「うぐぐぐぐ」
ちら見してやると彼女はうなり始めた。面白い。
「大体俺は、ノンビリやるが妥協はしない派だ。時間的にお前から置いてかれるのも癪だ。」
そうなのだ。やる時間はある。土日なら1日中できる。だが、平日はそれほど出来ないのだ。それに。
「楽しくなって時間を忘れてしまうからな。仕事は蔑ろにはできない。仕事に手がつかなくなったら大変だ。お前は時間あるからやればいいが、仕事を適当にやるならやらせないぞ。」
これが心配なのだ。俺たちはゲーマーだ。廃人と言われていた人種なのだ。夢にまでみたVRMMO。ハマるに決まっている。仕事そっちのけでやるだろう。しかしそれでは駄目なのだ。今の俺たちには、多くの客がいる。その方々を差し置いてゲームをやるなど俺には出来ない。
「ふむ、お前の言い分は分かった」
彼女はその言葉を待っていたと言わんばかりに笑顔になった
「なら「今までと同じように働いてゲームをすればいいんだろう。」…そんなの無理だろ。」
またまた彼女から爆弾発言。そしてカミングアウト
「ふむ、私がキャッチした情報でな。ゲーム内での3日が現実での1時間になるのだ。そして現実の1日にできるゲームの時間は1時間。それ以上は強制ログアウトになるのだよ。」
「…は?」
いや、なんで知ってるし。
「ふむ、もちろんハッキングをして脅した。」
「胸を張って言うことじゃねえ!」
もうやだ春風さん…
「これなら他の人や私に置いてかれずお前も時間を気にすることなく出来るだろう!」
どうだ参ったかと言わんばかりのドヤ顔。
「はぁ。でもまあ確かにこれなら出来るな。しかしそこまで俺とやりたいか?」
そう聞くと彼女は顔を赤くしながら
「そっ、それはだな。その、やはりお前とは一緒にやりたいだろう…彼女なんだし。」
「「…」」
沈黙。いやっ、俺に石投げないで!。仕方ないだろうこれは。8年一緒に居て彼女にとって会話するのは俺だけで、自分の事が好きで、あんな美人な奴に言われたら断れないだろう。お互いのいいとこ悪いとこ知りつくしてるし…自然な流れだったと今は思っている。
「それなら言えよ。時間なんかいっぱい作ってやったのに。」
「いや、でも忙しいのだろ。私が悪いのは分かっている。だから…えっと、」
やべぇ。可愛い」
「っ!」
顔がもっと赤くなる彼女
「口に出てたか?」
「思いっきり出ていた!!!」
気を付けよう。
「分かった。俺もやるよ。」
「そーか!私はうれしいぞっ!」
そういって彼女は俺に抱き着いてきた。
こんな一日もいいなと思いながら、明日からの日々を思い浮かべる俺だった。ていうか
「春風、ここ喫茶店だぞ。」
彼女は風のような速さで離れた。残念。
上手くかけない。次こそゲームできるのだろうか。
そして主人公、リア充です。…ちっ