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体をコンクリートに打ちつけ、痛みに呻きがもれる。感覚はある。なのに、視界が奪われている。目を閉じているのではないと思うのに。
斗真、いるなら出てきて。
あたし、ここにいるよーー!
「……一花?」
耳に飛び込んできたのは、宏志さんの声。
「どうした」
慌てたように駆け寄ってきて、あたしを抱き起こす。頬を叩かれている。でも、声も出せないし、宏志さんの顔も見えない。
やがて、お腹の奥のほうから体の外へ、ぐぐっとせり出すような存在を感じた。それはぐんぐん大きくなり、あたしと、宏志さんを呑み込もうとする。
いけない……!
止めようとするけど、止め方がわからない。耳鳴りがする中で必死に抗おうとするけれど、無力だった。
それは、あたしが生みだしたもの。
空間の歪み。陰陽を結ぶ扉。
はっきり確信する頃には、宏志さんを巻き込んで陽の世界へ降り立っていた。
「ここは……?」
怪訝な顔の宏志さんを見上げ、あたしは泣きそうだった。
戻ってきた視力が見たのはーー眼前に広がる光景はーー肺に入り込もうとする、嫌な焦げ臭さは……
「い……やああああぁ!!」
真新しい廃墟の町は、きっと、ヒロさんがいた町ーー。