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それから身支度をして家を出るまで、我ながら素早かった。両親はまだ布団の中で、いってらっしゃいの一言も待たずに外へ駆け出していた。
斗真、戻ってきたなら、留守録でも入れてくれたらいいのに……!
一度の遅刻ぐらいなら学校から親へ連絡はいかないだろうと踏んで、あたしは彼のアパートへ向かった。思ったよりも早くつく。それなりに距離もあるのに、不思議なことに息のひとつも切れていない。
寝ている住民もいるはずだから、できるだけそっと階段を上がる。いざチャイムを押すだけ、というときになって、ようやく、胸がドキドキしはじめた。深呼吸をするも、なかなか鼓動は落ち着かない。耳のすぐそばに心臓があるかのよう。
「う……っ、く」
息苦しい。胸を押さえて、たまらずしゃがみこむ。
がんばって走ったから? こんなに、体から力が抜けていく……
斗真、と口を動かしたところで、目の前が真っ暗になった。