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その発言に、あたしの中で何かがプツンと音を立てて切れた。
どう表現していいのかわからない、でも、込み上げてくるものを陽の斗真にぶつけるのは避けたかった。少し前のあたしなら、全部ぶつけて、散々に罵ってやれたかもしれないのに。
彼を、擁護したいのだろうか。まさか! 辛かったんだねと、慰めたいのだろうか?
自分の気持ちをはかりかねて、隣の斗真がいなくなったのにも気づかないくらい、あたしは動揺していたらしい。背後すれすれを車が通りかかったところでようやく、我に返ったのだった。
ぽつんと立ち尽くして、無人となった家を見上げた。由真ちゃん家族がここで過ごした日数はごく短く、なんの余韻もなさそうな具合で、丸裸の窓が夕陽を反射している。……
とぼとぼと帰途についたあたしの頭上を、コウモリが一匹、慌ただしく飛んでいった。