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いま、優しいからって、過去の悪行が許されるはずない。許したくもないはずなのに、あたしの好きな斗真の体温に包まれていると、油断しそう。
泣いては、だめだ。
陽の斗真に、そんなところを見せてはだめだ。
胸に、深く深く杭がめり込んでくるような錯覚。そこがズキン、ズキンと痛むたび、涙があふれてきそうになる。
ーー突き放してしまえ。腕に、少しだけ力を込めさえすればいい。
そうすればもう二度と、陽の斗真はあたしに、近づくことは、きっとないーーそれはとても清々することのはずなのに、どうしても腕を動かせなかった。