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「責任は、そりゃあ誰か何処かにあるかもしれないけれど、一花がどうこうする問題ではないよ。ね」
ヒロさんは微笑み、あたしに最後のお茶を淹れてくれた。熱いハーブティーを一緒にたしなみながら、彼女は伏し目がちに、こんなことを話してくれた。
「一年前の私だったら、今あなたとこうして落ち着いてお話していられなかったと思う。玲がいなくなってから、考えたの。いろんなことを、いっぱい……私と玲とのこと。似たような世界が二つあること。政府のこと。私が、どうするのかということ。どうしたいのかということ。何ができるのかということ。ここに道ができているのがわかったのだから、もし、こっちでやばくなったら陰の世界へ行くのも一つの手かもね。って、それはもう一人の私に迷惑かもね? ……あなたに会って、あなたとお茶して、私、あなたの力になりたいと思ったの。きっともう一人の私も、あなたのことが好きね」
ーーヒロさんが見送ってくれたせいだろうか。道に身を投じるときに、少しも不安がなかったのは。
陰の世界に降り立つと同時に、背中で道が閉じたのがわかった。