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同じ名の人間がそれぞれ住んでいて、同じ言葉を話している(使っている文字は違うけど)のに、似て非なるとはこういうことか……と思わずうなりそうになっていると、ヒロさんが唇の前で人差し指を立てた。
「とりあえず、あなたは陰へ戻りましょう。あなたのことや、ここのマンションに道ができていることは絶対に秘密にするから。政府にバレたら、私たち、住むところ失ってしまうもの」
「ここ以外にいくあてがある人は、もしかしたら……」
「道を見つけたと密告するかも、って? さあ、いるかもしれないし、いたとしても、我が身可愛さに密告なんてしないわよ。道を見つけたというだけで罪に問われるもの。道だと認識したということは、そこを出入りした人間と接触したということ。こっそり引っ越してく人はいるかも……ね、でも不自然に人がいなくなっていったら、政府に感づかれるでしょう」
まるで時限爆弾みたいだ。すでに、導火線に火はついてしまっている。
「ごめんなさい……」
「なぜ、一花が謝るの」
「あたしが、あちらの世界からきたせいで。ヒロさんにも迷惑かけてしまう」
こみ上げてくる涙をこらえようとしたら、鼻の奥がヒリヒリした。