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「えっ……?」
聞き返そうとしたあたしを、斗真は苦々しい顔で睨む。
「おまえにどうこう言ったところでどうにもならないな。帰れよ」
つかまれていた手を、ぐいっと玄関のほうへ向けられた。あたしがよろけると、斗真はそのまま手を離す。
「方法がありゃさっさと消えてやるよ。おまえの斗真が早く帰ってくるといいな」
そう言い放った彼の表情は、そむけられていてよくわからなかった。けれど、耳から下の……顎にかけての線がぶれるように震えていた。
あたしがここにとどまっていては、陽の斗真が辛いんだ。気づいたあたしは、さよならも言えずにドアノブに手をかけ、外へ出た。
そう、外へ出たーーつもりだった。
「きゃ……!」
コンクリートを踏むはずの足が滑り、生温かい風が吹きつけてきた。背筋を、どろりとした嫌な予感が這う。
何か、そこに意思がはたらいているかのようで……ぞっとした。だって、名前を呼ばれた気すらしたのだ。
抗おうとして、無力さを知る。
まるで見えない巨大な手に体を握りつぶされるようにして、あたしはまた例の、歪んだ空間に引きずりこまれたのだった。