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なんでもない、と答えようとして、思い直した。陽の斗真が珍しくおとなしくて、なんとなく話ができそうな雰囲気なのだ。斗真と、玲子さんの状態とを比較するチャンスなのでは?
斗真の頭から新しいタオルをかけてあげても反応が薄かったから、できるだけ刺激しないように穏便に話をしようと思考を巡らせる。
何を聞いたらいいだろう? いざとなると浮かんでこない。陰の斗真にでさえ、陽の斗真のこととか、そういえばあまり尋ねたことがないことを思い出す。むしろ、話題にのぼらないようにと互いに気をつけていたフシもある。それを、陽の斗真に……だなんて、難しいかも。
向かい合っておきながら黙ってしまったあたしに、斗真は痺れを切らしたように、イライラッとした声をあげた。
「おまえは危機感が足りねーんだよ! 別の男の部屋に上がり込んでるし、オレの前でも無防備にしてるし」
ハッとして身を固くする。でも、今日の陽の斗真は動くのが億劫らしい。あたしを睨んだあと、舌打ちして、顔を背けただけだった。
「あの……」
ごめんなさい、と続けようとして、口をつぐむ。余計に怒らせそうな気がしたから。