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仕事を終えてアパートに戻ってきた斗真はさすがに疲れた様子で、普段ならまず汗を流すところを、あたしが差し入れたスポーツ飲料を片手に壁際で座り込んだ。物言わず、ペットボトルの中身をあおる。そばにしゃがんだあたしに視線を向けたけど、すぐにフイとそらす。
……表情が固い。もしかして、入れ替わってる?
思わず身構えたあたしに、斗真は口の端で笑った。
「いつもいつも発情してるわけじゃねーよ」
この声の調子は、やはり陽の斗真だ。疲れ切った様子で、立てた片方の膝にもたれるようにして背中を丸めて、
「働くのたりぃー。途中で押し付けていきやがって」
ひとり言か、それともあたしに聞かせるようにか、ブツブツと文句を言っている。
「頭痛ぇし面倒くせえし、引っ込みてえのに」
「……思うようには、入れかわれないの?」
尋ねながら、あたしは彼の後頭部の髪が、少しだけ束になるようにして固まっているのに気がついた。
「ケガしてる」
「あー、まあ大したことないんだが恐らくこいつのせいで……って触るな痛い」
「消毒しないと」
「……優しいことだな。いとしの斗真くんの身体だもんな」
「そんなの、どちらでもっ……」
陽の斗真があまりにも不貞腐れたふうにぼやくものだから、あたしは思わず声を荒げそうになった。言葉を飲み込んで、タオルハンカチに水を含ませに洗面所へ立つ。