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それでも、宏志さんはちゃんと受け入れたんだ。そしてきっと、玲子さんがもどってくるのを信じている。
「それで、香りの催眠効果で人格をコントロールできないか……って、研究してたんですね」
「研究なんて高尚なもんでもないがな。もともとは玲子の趣味でさ。もちろん、人格コントロールとかじゃなくてリラックスだとか安眠だとか、そんくらいのだが……いずれ仕事にしたいって言ってたんだ。けど、あの玲のほうはまったく興味なくてよ。どころか、香りのたぐいが許せねぇみたいでよ……」
深いため息。この様子だと、ろくに試せていないのだろう。
「ごめんなあ、おまえたちを実験台にしちまって」
「そんな。いくらでも……!」
あたしは大げさなぐらい首をふった。いつも明るくって、頼れる兄貴という感じの宏志さんが、肩を落としているから……あたしまで俯いてしまったら、前に進めない気がした。
両足を踏ん張って、両手は握りこぶしにしてお腹にあてた。すっと息を吸うと、じわじわ熱を帯びてくる。
「どんどん試しましょう! 斗真にもわけを話して協力してもらいましょう。あたしたちで効果があるってことがわかったら、玲さんが嫌がろうがなんだろうが無理やりにでも!」
「ふっ……、だな」
宏志さんはちょっぴり噴き出して、
「ありがとな。一花に励ましてもらっちまった」
あたしの頭をくしゃくしゃっと撫でた。