表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたつの世界  作者: あくた咲希
陰と陽
7/132

 早く寝たものだから、夜が明ける前に目が覚めた。母親はすでに貸し農園に出かけたあとらしかった。

 父親が起きてこないうちにお弁当を作ろうと炊飯器をしかけてから、今日着る服を選ぶ。部屋着に近い普段着か、思いっきりよそいき用しかなくて泣きそうになる。センスに自信がないので、悩んだ挙句に結局、制服を着ていくことにした。親には学校で自習するとでも置き手紙しておけばいい。

 タッパーにおむすびと玉子焼き、野菜炒めとがんもどきを詰め込んでショルダーバッグに入れる。もっとお肉っぽいものを入れたかったけれど、わが家には質素な食材しかなくて、色合いも地味で残念だった。

 台所の片付けをしているうちに時計の針が六時をまわり、父親が起きてきた。休日はいつも朝寝坊なはずなのに。音を立てすぎたかと反省していると、

「どこか出かけるのか……?」

 寝癖がついたまま、父親が尋ねてきた。久しぶりに聞いた声がかすれているのは、起きたばかりだからだろうか?

「自習室に行こうと思って。あ、お弁当の残り物だけど、お皿に置いてるから、食べて」

 あたしは泡のついた食器をすすぎながら答えた。つい、早口になってしまう。

 父親は、そうか、と玉子焼きつまんだ。

「母さんのより味がしっかりしてるな」

 褒めてくれているのか、よくわからない無感動な声。

「まぁ、あまり無理をしないように、早く帰ってきなさい」

 言い残して、シャワーを浴びにいってしまった。仕事一辺倒な人だと思っていたのに、娘を心配することもできるんだ……。嘘をついたことが少し悔やまれた。一応、置き手紙を残して家を出る。

 まだ早い時間の空気は冷たく、通りにはまだ車も人もまばらだった。まず図書館に行ってみたけれど門が閉まっていた。見回してみても、まだ斗真の姿はない。

 由真ちゃんの携帯がそのまま使えたのだから、私も斗真と番号交換をしておくんだった。探しにいこうにも、彼が行きそうなところなんて見当がつかないし。

 図書館前のバス停のベンチに座り、気を紛らわすために英単語帳をひらいた。スペルを眺めているだけで頭に入ってくるわけじゃない、でも、ほかに何をしていたらいいかわからないのだ。

 バスが何回もやってきて、あたしに乗車伺いをしていった。

 だからあたしは、道路のほうにしか注意が向いていなくて、うしろから肩を叩かれたときは思わず声が出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ