7
早く寝たものだから、夜が明ける前に目が覚めた。母親はすでに貸し農園に出かけたあとらしかった。
父親が起きてこないうちにお弁当を作ろうと炊飯器をしかけてから、今日着る服を選ぶ。部屋着に近い普段着か、思いっきりよそいき用しかなくて泣きそうになる。センスに自信がないので、悩んだ挙句に結局、制服を着ていくことにした。親には学校で自習するとでも置き手紙しておけばいい。
タッパーにおむすびと玉子焼き、野菜炒めとがんもどきを詰め込んでショルダーバッグに入れる。もっとお肉っぽいものを入れたかったけれど、わが家には質素な食材しかなくて、色合いも地味で残念だった。
台所の片付けをしているうちに時計の針が六時をまわり、父親が起きてきた。休日はいつも朝寝坊なはずなのに。音を立てすぎたかと反省していると、
「どこか出かけるのか……?」
寝癖がついたまま、父親が尋ねてきた。久しぶりに聞いた声がかすれているのは、起きたばかりだからだろうか?
「自習室に行こうと思って。あ、お弁当の残り物だけど、お皿に置いてるから、食べて」
あたしは泡のついた食器をすすぎながら答えた。つい、早口になってしまう。
父親は、そうか、と玉子焼きつまんだ。
「母さんのより味がしっかりしてるな」
褒めてくれているのか、よくわからない無感動な声。
「まぁ、あまり無理をしないように、早く帰ってきなさい」
言い残して、シャワーを浴びにいってしまった。仕事一辺倒な人だと思っていたのに、娘を心配することもできるんだ……。嘘をついたことが少し悔やまれた。一応、置き手紙を残して家を出る。
まだ早い時間の空気は冷たく、通りにはまだ車も人もまばらだった。まず図書館に行ってみたけれど門が閉まっていた。見回してみても、まだ斗真の姿はない。
由真ちゃんの携帯がそのまま使えたのだから、私も斗真と番号交換をしておくんだった。探しにいこうにも、彼が行きそうなところなんて見当がつかないし。
図書館前のバス停のベンチに座り、気を紛らわすために英単語帳をひらいた。スペルを眺めているだけで頭に入ってくるわけじゃない、でも、ほかに何をしていたらいいかわからないのだ。
バスが何回もやってきて、あたしに乗車伺いをしていった。
だからあたしは、道路のほうにしか注意が向いていなくて、うしろから肩を叩かれたときは思わず声が出た。