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宏志さんは、くっつけばいいじゃんと軽々しく言ってくれるけれど、そう簡単にできることじゃない。 もちろん以前よりは、自然に手を繋いだり、肩を寄せ合ったり、できるようにはなった。
でも、そこまで。実のところ……キス、だってできてない。恥ずかしいのは当然ある。だからって……期待、しないわけではない。
あたしがまだ高校生だから、斗真は遠慮しているのかな、と思わないではない。一緒にいる時間は増えているわりに、あんまり進展がないような気がする。学校の友達は、それこそキスなんてあたりまえな雰囲気で付き合っているんだけどな……。
「どうした。変な気分にでもなったか?」
宏志さんがうちわで風を送ってきた。意識が現実に戻ってくる。頭を振って、もやもやした考えを追い払う。
「んー。なあ、一花? ぶっちゃけ、斗真とどうなの。おれの部屋に出入りしてるの、あいつも知ってるんだろ? とやかく言われないのか」
突然、神妙な顔で訊かれて、あたしはすぐには返答できなかった。