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「気ぃ遣わして悪いな。けど、送ってくって。夜道を一人で帰らしたなんて、斗真に顔向けできねぇし」
それに、と続けて、
「女と一緒にいるぶんにゃ、あいつも寛大だからよ」
どこか遠くを見ながら、宏志さんは呟いた。何か思案しているそぶりで、
「……オレにできることあったら、頼ってくれよ」
あたしの頭に、手をぽんと置いた。
そういうわけで、宏志さんは彼なりのやり方、パフュームの催眠や鎮静効果をもって、斗真の「入れ替わり」をコントロールしようとしてくれている。成果のほうは、まだ……だし、実際、どうにかなる問題でもないかもしれない。でも、親身になって考えてくれているのが嬉しい。
だから、あちらの世界のことを話すべきか、悩んでいる。世間話のようにしゃべっていいことじゃない気もする。どうにかしようとしてくれている宏志さんに黙っておくのは、彼の好意を徒労で終わらしてしまうかもしれない。