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「……、なんか、出てきた?」
宏志さんがボソッとあたしに訊いた。目の前の斗真は斗真に変わりないけれど、目付きだとか、姿勢だとか、声のトーンが違うから、事情を知らないなりにも感じるものがあったんだろう。二重人格のように見えるのかもしれない。あたしが無言で頷くと、宏志さんはあたしをかばうように一歩前へ進み出た。
「酔いが醒めたわ。こういうわけで、あいつ酒を飲まないのか」
「さあて? ま、なんかタイミングがあるみたいだがな」
「仲悪そうだな」
「仲良くなる必要ねえしな」
二人ともヘラッとした様子で会話しているけど、不穏な空気は肌がビリビリするほど充満していた。あたしは、前回どうしたら斗真が元に戻ったかを、必死に思いだそうとした。でも、焦ってしまってちっとも思考がまとまらなかった。
「おまえ、自分の意志で引っ込めるか? ああ、おまえの名前は?」
「オレこそが斗真だって言いたいとこだがな。どっちも斗真だ。そのへんはもう認めるぜ」