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突然のことだったし、お酒の入った男の人の匂いにもびっくりしたしで、あたしは棒立ちになっていた。宏志さんは、ハグ以上のことはしてこなかったけれど、なんだか瞬間的に寝てしまったのかなと思うぐらい身動きしなくて、時が止まったように感じた。
あたしからは、宏志さんのライオンヘアのせいで斗真が見えなかった。だから、
「あぁたりぃ、なんかするんだったらしろよ。なんなら参加しようか」
そんな、あたしが好きな斗真とは違う声が聞こえてきたとき、さっと血の気が引いた。当然この状況を呑み込めない宏志さんは、あたしの肩に腕を回したまま、顔だけ彼に向けて、軽く眉毛をしかめた。
「宏志さんっ、ちょっと、離してください」
陽の斗真が出てきたんだ。焦ったあたしは、しゃがみこむようにして宏志さんのハグから逃れた。でも、斗真に駆け寄ることもできないので、結局は宏志さんの背中に隠れた。