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三人でお店を出て、しばらくは斗真に変わりはなかった。街灯の乏しい夜道を歩きながら、主に宏志さんの話を聞いていた。でも、電話の相手についてはうまくごまかされた。とりあえず女の人ではなかったらしいことだけわかった。
思えば、斗真は完全に無口だった。相槌も打っていなかった。人のいい彼にしてはとても珍しいことだったのに、そのときあたしは何も気づかなかったのだ。
宏志さんがアパートでなく別の場所へ向かうということで、小さな交差点で別れることになった。信号も、車も、人もない、交差点というより四辻といったほうがしっくりくる。点滅する蛍光灯があたしたちを斑に照らす。
「そいじゃあ、お二人さん」
宏志さんが片手をひょいと上げて、こちらに背を向けた。そして、何を思ったのか急に引き返してきて、
「一花、おやすみ」
と、ハグをして、耳元で囁いた。