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カーテンの隙間から外をのぞく。住宅街の中にぽっかりと、茶色い四角が見える。そこで斗真が働いている。白の軽トラと作業車が停まっていて、人が何人か行き来している。どれが斗真かなぁ、とぼんやり考えていると、着替えてさっぱりした宏志さんが、あたしのぶんの缶ジュースも持ってきてくれた。お礼を言うと、軽く頷いて、プルトップを開けた。
「で、あれからもう一人の、出てきた?」
「少なくともあたしの前では、ないです」
もう一人の、とは、陽の斗真のことだ。なぜ宏志さんが知っているかというと……。
「ごめんなぁ、おれが余計なことしたばっかりに」
「いっ、いいえ」
「とはいえ、いつまでもプラトニックでいるのは不自然だろう」
香りを得意としている宏志さん、生真面目な斗真に一服もった……というと聞こえが悪いけど、つい先日、ある匂いを嗅がせた。三人で一緒にお鍋をつついている最中だった。