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ちらりと隣りの斗真を見上げると、こちらを向いた彼の顔が、気まずそうに歪んだ。それもそのはず、女子トイレの出入口に、馴染みの司書さんがやってきたからだった。
「あなたたち……」
半ば呆れた、怒った声。
「いくら気分が悪くなるからって、彼女のトイレにつきそうなんて過保護すぎ。ほかの利用者さんにも迷惑よ」
あたしたちはただひたすらに謝って、逃げるように図書館を後にした。
*
平穏な日々がつづいた。斗真は、仕事先の親方に口利きをしてもらってアパートを借り、あたしも時々そこへ遊びに行くようになった。二階建ての、少し年季の入った1LDK。職場の人も何人か住んでいて、あたしぐらいの男の子もいたし、ずっと年上の、おじいさんみたいな人もいた。仲間内で何かをするというわけではないけれど、誰かがアパートの前のちょっとした広場で日向ぼっこだったり、タバコを吸っていたりすると、いつのまにか人数が集まっているという、なんとはなしに雰囲気のよいところだった。