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図書館をあとにして、あたしは途方に暮れていた。
一人暮らしならまだなんとかなっただろうに、あいにくあたしは親の庇護下にある一介の女子高生。しかも午後六時半の門限付き。すでに、まっすぐ帰ってくるようにと電話があった。
寒い季節でもないから適当にそのへんで寝ると斗真は言う。とはいえ、補導されるような年齢ではないけれど、こっちの世界のこと知らないんだもの。心配。
誰か斗真を泊めてくれる知り合いはいないかと、必死に思考を巡らせた。でも、中学から私学の女子校育ちなのもあって、親しい男友達なんていないから無理な話。
カバンを抱いてトボトボと歩きはじめたあたしに、斗真は黙ってついてくる。歩幅の関係ですぐに隣りに並ばれてしまう。
遮られた夕焼けは眩しくて綺麗で、見上げた彼の髪が真っ赤に見えた。頬骨が作る陰影に、つい息をこらしてしまう。
車の往来で騒がしい通りを、あたしたちは無言で歩いた。あたしも彼も、もともと口数が多いほうじゃない。静かなのは慣れっこのはずなのに、首のうしろが羽根帚でくすぐられてるみたい。
自宅まではあっというまで、ガレージを見ると父親の車があった。珍しく早いお帰りだ。こんな日に限って、と思わずふくれてしまう。
母親だけなら、せめて夕飯だけでも斗真を家にあげることができたかもしれないのに。ふだんあまり会うことのない父親相手に、斗真を紹介する方法なんてちっとも思い浮かばない。
「どうした。早く入りな」
にこ、と笑みを浮かべて、斗真があたしを促す。でも、ここでさっさとドアを開けたら、斗真はどこへ行っちゃうの?
「俺もいい年だから、なんとでもするって」
あたしの不安を見透かしたように、そんなに得意そうでもない笑顔を作って言う。泣きそうになるあたしの髪を撫で、背中を押す。
「また、明日」
「あ……明日っ、朝あたし、図書館に行くから」
「了解」
平気そうに、でもやっぱり寂しそうに笑った彼の手を、あたしはぎゅっと握った。これ以上は涙をこらえなくて、逃げるように家の中に入った。
すぐに、ドアにはめ込まれた磨りガラスの小窓から外を伺う。
斗真の影がしばらく佇んでいて、いなくなったとき、あたしはドアに頭をくっつけて泣いた。